「これが道である……これを歩め」
だれしも何らかの問題を持っているものです。個人的な問題もあれば,家庭内の問題もあり,法律に関係する問題もあります。わたしたちの生活がどんなにやっかいなものになってしまったとしても,エホバ神は,「わたしたちの間で事を正そう」と呼び掛けておられます。エホバは,「これが道である。あなた方はこれを歩め」と言って,わたしたちを助けてくださいます。神は「豊かに許してくださる」と約束しており,わたしたちは次の言葉に励まされます。「強くあれ。恐れてはならない。……神ご自身が来て,あなた方を救ってくださる……彼らは歓喜と歓びを得,悲嘆と溜め息は必ず逃げ去るのである」。―イザヤ 1:18; 30:21; 55:7; 35:4,10。
エホバ神に自分の命を献げ,日本で行なわれた年に1度の地域大会でバプテスマを受けてここ数か月間にエホバの証人になった人の中には,かつて深刻な問題を抱えていて,エホバの助けに深く感謝している人々がいます。
現在,山梨県に住んでいる34歳の男の人は次のように語っています。「1980年5月29日に自分の経営していた会社が倒産してしまいました。その当時,私は家に全く帰らず,今日は東京,明日は大阪と,遊び歩いていました。そういった生活を送っていたころ,1981年2月に,10年間の結婚生活が破たんをきたし,妻と離婚して,9歳と7歳になる二人の娘とも別れ,本当に一人だけになってしまいました。今思うとそれも当然のことでした。10年間というものは,妻や子供たちのことをほとんど顧みなかったからです。
「大阪のホテルでのことだったと思いますが,荷物を整理していた時に『聖書』と『あなたの家族生活を幸福なものにする』という2冊の本を見付けました。本を読むことは好きでした。それらの本は,離婚の二,三か月ほど前にエホバの証人と聖書研究を始めていた妻からの贈り物でした。何の気なしに読み始めましたが,読んでいくうちに自分の今までの生活態度,考え方,家族に対する見方,妻を扱う仕方などどれ一つを取っても聖書に書かれていることと相反していたことに気付きました。無神論者で,宗教的な事柄には全く関心のなかった私は,自己中心的で,闘争心の強い人間でした。『家族生活』の本を読み終えた時に,本当に深く考えさせられて,聖書についてさらに知りたいと願うようになりました。
「自分がそれまで送ってきた生活に終止符を打つため,私は東京から山梨に移ることにしました。本格的に勉強してみたいと思ったので,別れた妻に連絡を取り,だれかに私のところを訪問してもらうようお願いしました。それは1981年5月のことでした。徐々に真理が心に入り,エホバの証人の一人として歩みたいという願いを抱くようになりました。
「たばこの悪習慣を克服した時,エホバのご援助と豊かな聖霊の祝福があったことを本当に確信できました。私は人一倍たばこ好きで,1日に少なくとも60本,時には80本ものたばこを吸い,いつも強いたばこを必要としていました。たばこがない時には灰ざらの吸いがらにまで手を出すほどでした。1981年8月ごろから1本ずつたばこを減らしてゆく計画を立てました。その年の12月に,完全にたばこをやめることができました」。
この人は調布市でバプテスマを受け,「献身している妻と二人の娘と一緒になることになった今,真に幸福な家庭を築き上げていきたいと思います」と語りました。
自分のしたいことをなんでもすると決意した十代の娘をあなたならどのように扱いますか。今では23歳になっているその女性の経験は次のようなものです。
この女性は大学を中退し,家を出て,毎晩朝方まで酒を飲み,放とうの生活を送っていました。そして,現在夫となっている人と同棲するようになりました。
その間にこの人の母親が聖書を学ぶようになり,娘にも勉強するよう何回となく勧めていました。ある日のこと,母親は「あなたの若い時代 ― それから最善のものを得る」という本を娘に持たせ,「もう何を言ってもむだなようですから99%あなたの好きなようにやりなさい。ただしあとの1%はどうか私の言うことを聞いて真理を学ぶように」と言いました。こうして母親は娘の注意を聖書に向けさせました。
娘は妊娠した後,真剣に研究するようになりました。そしてまず正式に入籍し,次に1日40本から50本吸っていたたばこをやめようとしました。少しずつやめるようにしましたが,なかなかやめられず,出産寸前になってやっとやめることができました。子供は予定日より早く生まれ,放縦な生活の後だっただけに多くの人は正常な子供が生まれて来るかどうか心配していましたが,そうした心配をよそに子供は五体満足で生まれて来ました。この若い母親は今では清い生活を送っており,他の人々が聖書研究から益を受けるよう助けています。この女性の夫も今では研究をしており,進歩しています。また,父親も自分の娘のこうした変化を見て,聖書を研究するようになりました。
エホバの道を学びながらその中を歩くことをためらう人もいますが,積極的な行動を取るときに最良の結果がもたらされます。大分市の若い主婦はそのことを経験しました。
この主婦は四日間の大会に出席したいと思いましたが,その間夫が一人になってしまうことが気懸かりで,幾らか不安を感じていました。家族がそろって出席できればどんなにかよいだろうと思っていました。
ところが,大会のわずか十日前になってから,これまでこの主婦のクリスチャンの活動に反対していなかったご主人が突然,「一つの家に二つの宗教はいらない」と言い出しました。そして,やめなければ別れる,と迫られました。ご主人は,この主婦が集会へ行けないようにしました。奉仕をやめるようにとも言って,妻の出版物を処分してしまいました。
この主婦は集会に行けるよう祈ってはいましたが,出席する勇気がありませんでした。会衆の友人たちがこの人のところを尋ね,大会に行けば必ず最良の結果が得られると話しました。そしてとうとう,大会の前日,この主婦は置き手紙をして,大会へ出掛けました。ご主人は,妻を家に連れ戻そうと考えて大会の開かれている都市に出掛けて行きました。しかし,人が多くて見付けることができませんでした。そこでご主人は会衆の姉妹たちと共に座り,その新世界訳聖書を借りて,聖句を開き,プログラムに耳を傾けました。大会二日目に,この夫婦は会場に入るところでばったりと出会いました。ご主人は妻を連れ戻すのではなく,大会期間中ずっととどまって,プログラムを聴いてゆく,と言いました。文書のカウンターのところでは,妻や子供たちに,「必要な本が何かあるのではないか」とまで尋ねました。
この主婦は自分がバプテスマを受けるのを夫が見ていてくれたことを非常に喜び,こう言いました。「このように勇気をもって大会に出席したおかげで,大会二日目から家族一緒にプログラムを楽しむことができました。この経験から,決断することによって最良の結果が得られることを確信しました」。
同様に,エホバが「豊かに許してくださる」ことを理解しなかったために,少しの間エホバの道をしっかりと歩くことができなかった一女性の経験が大阪から寄せられています。
「研究を続け,伝道に参加するようになっても,霊的に弱かった私は大きな罪を犯してしまいました。それは母親として死ぬまで良心の痛む罪,つまり堕胎でした。
「研究司会者はとても心を痛め,神が命をどのように見ておられるかを一生懸命伝えようとしました。しかし,この親切な助言は私の心に入らず,数か月後には同じ罪を繰り返していました。私にはそれを告白する勇気がありませんでした。告白すれば,研究は打ち切られ,自分が真理から遠く離れてゆくような気がしたのです」。
翌年,次々に問題が起きました。実の両親の突然の死は特に大きなショックをもたらしました。そして,真理が暗やみに覆われてしまったように思いました。この人は自分の犯した罪を許してくださるよう,また真理のうちにとどまらせてくださるようエホバに懇願しました。
それから,この人の一番弱いところを突く別の試練がもたらされました。再び妊娠したのです。二人目の子供は心臓が悪く,とても弱かったので,この人の夫は子供を欲しがりませんでした。しかし,この女性は夫に「エホバ神との約束を守りたい。真理から離れたくないのです」と話しました。妊娠中に困難な時期を過ごした後,この人は元気な女の子を出産しました。
それから,良心の痛みに耐えかねて,かつて犯した罪を告白しました。主宰監督はすぐにやって来て,エホバの証人の立場を親切に説明しました。クリスチャンの守るべき原則,エホバが命を重視しておられること,そして真の悔い改めにはどんなことが関係しているかなどが話し合われました。
この女性は経験を通して努力することの大切さを学んだ,と述べています。その結果はどのようなものでしたか。幼い娘でさえ,自分の母親が今では笑うようになったことに気付きました。この女性はエホバ神に喜んで仕えています。そのエホバは,「私のような罪深い者に心の平安を与えてくださったのです」とこの女性は述べています。こうしてこの人は正しい良心を抱いてバプテスマを受けました。
中には法律上の問題を抱えている人もいました。横浜に住む一人の男の人は多額のお金を持っていて,お金のない人を軽べつしていました。この人は金融業をしており,金もうけに自分の全精力を傾けていました。ですから,毎晩午前3時か4時まで家に帰らず,時には外泊することもありました。この人の奥さんが聖書を研究し,常々,「もう終わりが来ますから勉強してください」と懇願していました。この人は妻をたたいたりけ飛ばしたりしましたが,やがてその怒りがエスカレートして別の所に家を買って引っ越しました。ところが引っ越したその日にエホバの証人がやって来ました。
この人の会社は倒産し,大きな借金を抱え,その時には生活をしてゆくのも困難で,離婚して子供たちを自分の実家に引き取ってもらおうと真剣に考えました。会衆の長老たちが訪問しましたが,この人は耳を傾けようとせず,長老たちを追い返してしまいました。それから,自分たちの新しい家を売ることにしたと妻に告げると,奥さんは何も言わずに,だまって荷物をまとめ始めました。奥さんが反対すると思っていたのに,「聖書を勉強してみませんか」と奥さんから言われて,この人は拍子抜けしてしまいました。この時は聖書を学ぶことに同意し,自分の人格を正し始めました。研究するようになった後,この人はかつて犯した法律違反のかどで逮捕されました。刑事にすべてを正直に話したところ,思いがけなく四日後に保釈になりました。この人は進歩を続け,今年の横浜大会でバプテスマを受けました。この人は,妻と子供たちに深い感謝の気持ちを抱いていると述べています。自分がありとあらゆる手を使って集会に行かせないようにしたのに子供たちは集会に対して非常な熱意を示し,妻はずっと平静を保ち,穏やかな中にも決意を保って宣べ伝える業を続けたからです。また,巧みに導き,温かい交わりをもうけてくれた兄弟たちに,そして言うまでもなく,人の気持ちや問題を整理するのに必要な助けを備えてくださったエホバに感謝しています。
一人の年配の婦人はエホバに献身するのに年齢は妨げにならないことを実証しました。この婦人は和歌山に住んでおり,明治32年(1899年)に生まれ,エホバについて学びたかったため最近になって読み書きを学びました。このおばあさんは今年の夏の大会でバプテスマを受けました。
こうした経験の中で際立っているのは,エホバが祈りやご自分の地上の代表者たちを通して助けをお与えになるその方法です。ここに挙げたのは,日本の各地で行なわれた「王国の真理」地域大会でバプテスマを受けた2,894人の中の幾つかの例に過ぎません。この人たちはエホバの道を歩むことを学んで喜んでおり,わたしたちはこれらの新しい兄弟姉妹を心から歓迎したいと思います。