生命保険に関する予備知識
昨年,アメリカ人は,総額,1,170億ドル(42兆1,200億円)を,新たに生命保険保障金として加え,アメリカにおける生命保険の有効保障金額は合計1兆3,000億ドル(468兆円)に達した。1940年当時のその総額は,1,000億ドル(36兆円)を少し上まわった程度であるから,それはなんと昨年の増額分にも及ばなかったことになる。
生命保険に加入する家族は,年々増加の一途をたどっている。15年前,生命保険証券を所有していた家族の平均保険金額は,8,700ドル(313万2,000円)であった。ところが現在では一家族につき,なんと平均1万9,900ドル(716万4,000円)と,急激な上昇を示している。
多くの家族の予算の中で,生命保険は明らかに重要な位置を占めている。それにもかかわらず,一般保険契約者の生命保険に関する知識が,他の主要な出費のいずれに関するよりも貧弱である,という場合が少なくない。その理由は,保険証券の用語に聞き慣れないものが多いからである。
しかし,そうした用語を理解していようがいまいが,大ぜいの人が生命保険に引き続き加入している。事実,アメリカだけでも,生命保険の外交員は,現在40万人を数える。人々は彼らの勧誘を通して生命保険に加入する。人生には何が起きるともかぎらないし,保険が家族に提供する保護を必要としているからである。次の例のように,契約後まもなく生命保険の益にあずかれる,というような事態が時として生ずる。
ある晩の8時30分,一組の新婚夫婦が,1万ドル(360万円)の定期補足条項付き,3,000ドル(108万円)の家族保険に加入した。(“補足条項”によると,被保険者は定期保険を,終身保障といっしょにすることができる。)ふたりは,最初の保険料として15ドル19セント(約5,470円)支払った。翌日,夫は,自分の働いている石切り場に出かけたが,事故で死んだ。ただの一度だけではあったが,保険料が支払われていたので,契約どおりの保険が直ちに適用されることになった。
こうして,その未亡人は一度に6,000ドル(216万円)の金額を受け取ることとなった。これは,基本額面の2倍の支払いであったが,夫の死が事故によるという事態のためにそうなったのである。それに加えて,彼女は,一定の期間に1万ドル(360万円)を受け取ることになろう。結局,わずか15ドルと数セントを支払っただけで,ひとりの未亡人と,まだ生まれていない子どもに1万6,000ドル(576万円)のお金が備えられることになったのである。
この例は,基本的な真理を説明してくれる。生命保険は,人を死から守るという保証を与えることはできない。が,契約者の死亡が原因で生ずる経済的な損失から,多少なりともその扶養家族を保護することができ,また,それが生命保険の主目的なのである。
しかし,生命保険の第二義的な役割を買っている人も多い。つまり,働けなくなったり,定年になったりした場合に現金を受け取るための貯蓄をふやす一助としているのである。
生命保険およびそのさまざまな種類の契約に関して,いろいろ異なった意見がある以上,保険に加入して,その保障にあずかりたい人はどうすべきだろうか。保険は,当人の必要と事情,そして将来の見通しに応じて契約すべきものである。
基本的に言って,生命保険には2種類しかない。一定期間に限られる“定期”保険と,被保険者の一生涯有効な“終身”保険とであり,後者は,“普通”生命保険とも呼ばれる。まず,保険料の最も低額な保険から考えることにしよう。
定期生命保険
その名の示すとおり,定期生命保険は,一定期間の保障を与えるもので,自動車や家屋に対する保険と似ている。契約期間は,5年か10年が普通である。その期限が終わった後に被保険者が死亡した場合,家族は保険金を受け取ることができない。定期生命保険の目的は,将来に備えて現金価値を築くことではなく,保険のためだけの純粋な保険と言える。それは,定額の保険料で最大の保障を与えるものである。たとえば,35歳の男性が,額面2万5,000ドル(900万円)の終身生命保険に加入したいなら,毎年約415ドル(14万9,400円)の保険料を支払わねばならない。ところが,額面金2万5,000ドルで,5年間の定期保険の場合,年間保険料は約125ドル(4万5,000円)となる。
“更新条項付き”定期保険は,本人の健康状態とは無関係に,定期保険を更新する権利を保証するものである。ただし,更新するたびに,その保険料は高くなる。とは言え,被保険者の年齢が25歳から45歳の場合,更新条項付き定期保険料金の上昇率は,比較的緩慢である。しかし,65歳以上の人が定期保険に加入することは,通常不可能である。
一生という全期間から考えると,定期保険は終身保険よりも高くつく。なぜなら,終身保険は現金価値を築き,それは返還されるものだからである。しかし,期間が短い場合には,定期保険のほうが低額の料金で保障にあずかれる。
定期契約はたいてい,次の二つの基本的な種類のいずれかに属する。つまり,保険金の給付が“均等”方式か,“逓減”方式かによる。両者はどんな点で異なっているのであろうか。
1万ドル(360万円)の10年間“均等”定期契約は,その10年の全期間にわたって1万ドルの保障を与える。ところが,1万ドルの10年間“逓減”定期契約の場合,1万ドルの保障が得られるのは最初の年だけであり,翌年から保険金は漸減し,ついに10年目の最後に消滅する。逓減契約のほうが,均等契約より安い。保険会社の危険率が減少するからである。
“転換条項付き定期”契約は,当人の健康状態にかかわりなく,その契約を終身契約に換える権利を保証する。終身保険との差額が支払われねばならないことは言うまでもない。この根拠にのっとって,一般にどんな定期契約でも,定期補足条項でも転換しうる。ただし,その特典は,契約書に明示された期日,あるいはそれ以前に行使しないと無効になる。定期保険の保持者が保険に加入できなくなった場合,この転換の特典は非常に重要である。期限を知りたいなら,定期契約証券あるいは補足条項を確かめればよい。
では,高額の終身保険について調べてみよう。
終身生命保険
普通,終身保険は,5年間の定期保険の3倍の保険料を要する。しかし,更新条項付き定期保険の保険料が,更新のたびに上がるのに反し,終身保険の保険料は一定である。終身保険契約の年間平均保険料は,加入者の全生がいを保険の対象として算出される。その期間は普通,統計上の目的から100年に定められている。
保険会社がすすめているのは,一般に普通,あるいは終身保険であるから,多くの外交員は定期保険をあまりすすめないかもしれない。また,外交員が保険料金に基づいて受け取る手数料は,定期保険のほうが普通保険より小額である。
人々が終身保険に加入するのは,終身有効な保険金を得,かつ,将来に備えて貯金をするためである。終身保険の保険料の一部は,現金価値を築く目的に使用される。さらに,保険会社は,契約にしたがって積み立てられる現金に対する利息を支払う。何かの理由で,被保険者にお金が必要になった場合,持っている終身保険証券を提出して,それまでに積み立てられたお金を受け取ることができ,しかも保険契約を解約する必要は必ずしもない。その保険を保持する方法もある。つまり,その貸付けに相当する金額を受け取り,保険料とともに利息を支払ってゆくのである。
たいていの定期保険契約と違い,終身保険は,保険料不払いのため失効になっても,その保障の効力を失わない。ニューヨーク市のある未亡人は,最近,次のような経験をして驚いた。
その婦人の夫は,自動車事故で死亡したが,事故の少し前に,彼の6,000ドル(216万円)の終身保険は失効になっていた。ところが,「延長定契保険」という条項によって,死亡した夫は保障されていたのである。そうした保険契約において放棄されたお金は,喪失されたものとはみなされず,そのお金が存続するかぎり,契約の額面高に相当する定契保険契約が自動的に行なわれるよう,法律によって定められている。その未亡人の場合,保険会社が彼女に手渡した小切手には,6,000ドルの金額が記入されていた。
覚えておきたい重要な点は,家族保険で失効した場合,延長定契保険の特典にあずかれるのは,主要被保険者である夫に限られるということである。家庭保険について,さらに詳しく調べてみよう。
各種の保険契約
家庭保険契約というのは,一つの契約の下に,父・母・子どもが保障されるものである。保険料は,父親の年齢に基づいて算定される。生まれてくる子どもは,余分の金額を支払うことなく,自動的に同じ契約に入れられる。父親が死ぬと,払い込み済みの保険が,未亡人と子どもたちに付くことになる。契約によって異なるが,子どもたちは18歳,21歳,25歳のいずれかになった時,当人の健康状態にかかわりなく,その契約を終身保険に転換することができる。代表的な家庭保険の与える保障は,父親に対して5,000ドル(180万円),母親と子どもたち各人に対して1,000ドル(36万円)ずつである。
収入の最高期に,保険料金を全額払い込む余裕のある人は,しばしば“有限払い込み”生命保険を選ぶ。10年払い・20年払い・30年払いの生命保険などというのは,指定年限内に保険金が全額支払われることを意味しており,その場合の保険料は,終身保険の場合よりはるかに高額である。なぜなら,その人は,保険金を一生かかって払っているわけではないからである。積み立てられる保険料の価値は,終身保険の場合より,速く増大する。
短期間に,さらに多額の保険料金を積み立てたいと望む人は,“養老”保険と呼ばれる高額の保険に加入する。養老保険は,終身保険と同様,保障と貯蓄を組み合わせたものであるが,養老保険は,保障よりも貯蓄にはっきり重点を置いている。
養老保険は,満期になった時,契約の額面高に相当する現金を被保険者に支払うことを保障する。その期限は18年,あるいは20年,または当人が65歳に達するまで,というようになっているが,満期になると,保障は消滅し,被保険者は金額を一度に,あるいは分割で受け取る。保険契約者が,20年有限払い込み生命保険と,高額の養老保険とを混同することは珍しくない。
もし,ある人が20歳の時,2,000ドル(72万円)の養老保険に,期間20年,毎月の掛け金9ドル38セント(約3,380円)という契約で加入したとすると,その保険は20年後には,2,660ドル(95万7,600円)の価値があり,保険はそこで切れる。やはり20歳の時に加入された,2,000ドルの20年有限払い込み生命保険は,毎月の掛け金が5ドル60セント(約2,020円)で,20年後には約1,360ドル(48万9,600円)の価値を持つ。その時点で,その金額を受け取ることができるし,または,額面2,000ドルの保険を保持することもできる。その場合,20年以後の保険料は収める必要がない。
保険が実際に養老保険であるなら,その旨,契約書に記載されているはずである。しかも,掛け金は他の契約の場合よりも多額である。
保険費の節減
保険契約の保障範囲をせばめることなく,保険費を節減したいとは,だれしもの願いである。しかし,それは可能だろうか。可能などころか,時には絶対にそうすべきである,と良心的な外交員は言う。
彼らが一般の人々に提案する方法は次のようなものである。かなりの現金価値が蓄積されるまで,すなわち,六,七年終身保険を保持する。それから,その保険を失効にさせる。積み立てた金額は引き出さない。そうすると,延長定期保険の規定が生きてくる。つまり,終身保険契約証券の表に明示されている指定期間じゅう,当人に対する保障は有効である。夫の死亡に際し,失効になっていた,彼の契約から6,000ドルの保険金を受け取った,ニューヨークの未亡人のケースを思い出すとよい。
保険契約が7年以上経過したものであれば,延長定期契約は長年有効である。たとえば,全快の見込みのない病気にかかった場合などに,この提案を実行に移せば,積み立てた保険料を医療費の支払いに当てることができる。しかし,保険費を節減する方法はほかにもある。
契約に危険率の等級が付されている場合がある。たとえば,過去1年かそこら,自分の体重が標準的なものであるにもかかわらず,超過重量分の高率保険金を払わされているなら,その危険率を除外してもらうことができる。他の身体的状態や不利な条件が是正された時にも同様,ためしてみる価値がある。
保険費を節減するもう一つの方法は,“割引払い込み済み契約”の利用である。契約書の現金価値表を見れば,現在どれだけの金額の払い込み済み契約を利用できるかがわかるはずである。それはもちろん,契約書の額面どおりの価値を持たず,それゆえに,“割引”払い込み済みと呼ばれる。
生命保険の加入を考えているなら,まず,自分が万一死んだ時に,家族がどれだけの社会保障を受けられるかを概算することである。その額は,数千ドルもの保険金に相当するかもしれず,そうなら,低額の団体保険を選ぶことができる。雇用者か労働組合に相談するとよい。たとえば,郵政関係の従業員・教師・看護婦・弁護士・電気技師などは,低額で,保障内容の充実した団体保険に加入できる。
アメリカのニューヨーク・コネチカット・マサチューセツ諸州に住む人たちにとっての良策は,貯蓄銀行生命保険を利用することであろう。認可を受けた保険業者に対するサービス料を払わないでもよいから,費用は安くなる。
自分の望む生命保険に加入したら,31日の猶予期間に保険料金を収める良い習慣をつけるべきである。もし,保険料金の納入がおくれて,契約が失効になってしまうと,保険会社は,失効時から3年以内に要請があれば,契約を再発効させる義務を負う。ただし,その場合,当人の健康状態が良好である時にかぎる。
契約の失効から生じる別の不利な点は,再発効のたびに,契約の発効日が,異議申し立てのための2年間の初めにさかのぼることである。契約が2年経過すると,異議の申し立ては受けつけない。ところが,その2年の期限が満期になる前に,訴えが提起され,重大な手落ちが少しでも明らかにされると,その契約は無効となる。以上のような理由から,契約の失効を避けることはたいせつである。
生命保険は,貯金・株券・証券などと同様,重要な資産とみなされるべきである。それは,死のもたらす経済的な苦痛を幾分なりとも和らげ,有益な用を果たすことができる。