寒い気候にあった服装
ウサギ,ワシ,象 ― 海,空,陸の動物の代表は,衣服を着る必要がない。彼らのからだには,それぞれの環境の自然力から彼らを守る適当なおおいが備わっている。彼らにとって衣服の必要がないとは,よいことだ。自分ではそれを準備できないのだから。
しかしわたしたち人間はちがう。わたしたちの偉大な創造者は,わたしたちが,いろんな目的のために,また種々様々な生活状況にあうように衣服をデザインし作る能力をもつよう,わたしたちを造られた。たしかにわたしたちには,いくつかの理由で衣服が必要である。
一番暑い気候のときでさえ,品位を保つため ― しゅう恥心をなだめるために,衣服は必要である。これは,人間の最初の両親アダムとエバが,善悪を知る木から禁断の実を取って食べて以来変わらない。(創世 3:7)衣服が果たすもう一つの目的は容姿をひきたてることによって自信を与えることである。
しかし,地球の多くの場所の人々が,ちょうど今衣服を必要としているおもな理由は,寒さから,身体を保護するためである。彼らにとって大きな問題は,どのようにして,寒い気候にあった服装をするかということだ。
どんな下着
からだに一番近い衣類からはじめよう。たとえ必要を感じなくても,冬には,夏よりも暖かい下着を着るほうが合理的である。なぜかというと,心臓は,冬になると,からだの保温のためにいっそう激しく働かねばならないが,暖かい衣服を着ると,心臓はその余分の働きをしなくてすむからである。もっともスチームで暖房されたへやや事務所で一日中仕事をするのであれば,朝から晩まで戸外ですごす郵便集配人が着るような下着は着なくてもよい。しかし,寒い戸外に出て行かねばならない場合は,どんな下着を着るべきだろうか。部厚い下着を着るだけでは,最善の解決策にはならぬかもしれぬ。
たとえば,純毛の非常に厚い下着を1枚着るよりは,綿と毛の軽いものを2枚着るほうがよい。なぜだろうか。衣服のあいだに空気が含まれるからだ。よどんだ空気は,あまり熱を伝えない。そこが,「防寒用下着」とよばれているものの長所である。これはその層の内部に空気を閉じ込めるワッフルニットになっている。
この原理を応用したもうひとつの型の下着は,「ブリンジュ・メッシュ」のそれである。ただしこれは,材質の層の間ではなく,肌の近くに空気を閉じ込める。どのようにしてそうするのだろうか。それが魚網のような模様になっているからである。メッシュに似ている。
非常に寒い気候のためには,キルティングの下着があるが,これは少しかさばる。
上着はどうか
冬の服装をするときに,上着についておぼえておかねばならないことのひとつは,濃い色の服のほうが,淡い色の服よりも暖かいということである。濃い色は太陽の熱を吸収し,白や淡い色はそれをはね返す。夏には,淡い色を着て涼しくしていればいいが,冬には濃い色を着て暖かくする。
もし,乾燥した,静かな寒さなら,フランネル,チェビオット羊毛織物,ツィードなど,柔らかい仕上げの布の服は大いにすすめられる。けれども,みぞれや,雪や,強い風から身を守る段になると,ウーステッドとかシャークスキンのように堅い仕上げの物のほうがよい。風が通らないばかりか,湿った雪が服につくことが少ない。
厚いもの1枚よりも,薄いもの2枚のほうがよいという原理は,上着にも当てはまる。必ずしも2枚別々のものでなくとも,裏のついたものでもよい。トップ・コートのなかには,裏を取りはずしできるものがあるが,着ごこちがよく,便利で,暖かく,経済的でもあって理想的である。裏は寒さの度合いによって,ひとえにしてもよいし,キルティングにしてもよい。また薄いセーターか毛糸のチョッキを1枚余分に着こんでも暖かいだろう。このためには,カシミヤのセーター ― もし経済が許せば ― が暖かいのとかさばらない点でトップ。さもなければ,薄い,または中くらいの厚さの毛のセーターで間に合う。
寒い気候に合った服装をすることには,コートやジャケットのえりやカフスに心を配ることも含まれる。こういうところは,暖かい空気が逃げないように,きちんと合っていることが大切。くびのまわりにショールやスカーフを巻くのも慎重なやりかたである。しかし,服がぴったりしすぎていると,目的は達成されないということを忘れないことだ。
頭と手と足
寒い天気に帽子をかぶろうとしない人は多いが,これはまちがいである。寒さのために血が頭から引かない。頭が露出していると,たくさんの血が冷えるのだ。毛糸のくつ下のような型のキャップもいいし,耳をかくすようにできているキャップもいい。スマートで,一般向きで,非常に実際的なのは,ロシア風の,毛皮または模造の毛皮の帽子である。寒さが厳しいときには,ショールや,目と鼻を出す穴のある顔マスクなどで,口と鼻をおおうのが賢明。
手はどうだろうか。裏のついていない手袋はかっこうはいいかもしれないが,寒い天気には手袋をはめていない場合よりもかえって冷える。手の保温には,ウールの裏でも,毛皮や模造毛皮の裏でも,裏付きの手袋が一番である。しかしこの場合も,十分に大きいものを買うこと。ぴったりしすぎると,手の血液の循環が妨げられて,裏付きの手袋をはめていながら,手は冷いことになる。ミトンはもちろん一番暖かい。希望ならば,親指だけでなく,人さし指も別になったミトンを求めることができるかもしれない。手袋やミトンの場合,十分に暖かくて,しかも物事をするのに手が使えるということがたいせつな問題となる。
また足の保温という非常に大切な問題がある。足は,心臓から一番遠いので一番冷えやすい。この場合も1足の厚いソックスやストッキングよりも,2足の薄いソックスやストッキングをはくほうが暖かいということに注意する。そして2枚はくときには,最初の,つまり肌につけるペアを綿に,そしてつぎの,つまり外側のペアを毛にする。しかし,もし部厚いソックスをはいて,またはソックスを重ねてはいたために,足がひどくしめつけられるようであれば,ぐあいがわるいことを知っていなければならない。必要なら,くつ下を重ねばきする冬用に,少しばかり大きいサイズのくつを買う。そうすればくつは比較的長くもつ。
地面に雪がたくさんあれば,足をぬらさないように気をつける。所によってはゴムぐつやオーバーシューズが使われる。そういう天気にはくくつが特別につくられているところもある。くつを保護するには,いつもよくみがいておくことである。くつずみを,防水になるくらいにいく重にも塗っておくのもよいだろう。そしてほんとうにぬれたら,紙を丸めてつめ,徐々にかわかす。熱の近くには置かないようにする。
保温も行きすぎないことが肝心である。これは母親が幼い子どもに関して注意を要する点である。涼しいくらいにしているほうがよいことを専門家は認めている。熱すぎるのは寒すぎるのと同じほどの害をおよぼし得る。少し熱くなったと思ったら,上着をゆるめるか,または脱ぐ。この点,戸外の温度を知るためにラジオやテレビの天気予報を聞くのはよい習慣である。そうすれば,温度に合った服装ができる。
前述のことから見て,寒い天候に合った服装をするということは,おもに,自分や他の人の経験にもとづいてよい判断を働かす問題であることが明らかである。
他の要素
からだ自体は,震えることと,同化作用の速度を上げることとによって,寒い天候の挑戦に応ずるために,そのなし得ることを行なう。からだは,さらに多くのアドレナリンを血液中に注ぐことによってこれを行なう。興味深いことに,女は,寒さにさらされたとき,男よりも同化活動が増大し,熱の失いかたも10%少ない。
いうまでもなく,栄養の良好なからだのほうが栄養不良のからだよりも寒さに耐えやすい。だから,健全な栄養のある食物を選び,ビタミンとミネラルを十分とるようにする。もうひとつ考慮すべき点は,運動がからだを暖かくするのに役立つということである。活動すればするほど,暖かい衣服が急いで必要なことはなくなる。寒い気候のときにからだを暖かくするには元気よく歩くことだが,度がすぎてもいけない。
また,寒い気候のときに暖かくしていようと思えば,たばこを吸わないことである。たった2本のたばこを吸っただけで,ひふの温度は2.5度から3.6度下がる。そしてそれを吸ったあと,正常な体温にもどるまでに15分かかる。
さらに,厳しい気候の中にいるときに,からだを暖めるにはアルコール飲料を飲まないことだ。「ファーマコロジカル・ベイシス・オブ・セラピュティックス」(1970年)は次のように述べている。「寒い気候の中で『からだを暖める』ためにアルコール飲料を飲むことは明らかに不合理であり,体温の維持が不可欠な場合は危険かもしれない。極地探険の経験を積んだ人々は,この誘惑の危険をよく知っている」。アルコールは,血液を急激に表面に送るが,結果としては体温は下がるからである。
どんな服装をし,何をからだに取り入れるか,また肉体の運動,これらはみなたしかに,気候の寒いときの保温の努力の成功不成功に関係をもっている。