中央アフリカの大河
ザイール共和国の「目ざめよ!」通信員
それは,青々と茂った熱帯の密林の間を,ほとんど物音ひとつ立てずにくねりながら動いています。褐色の波打つ表面は,ぎらぎら輝くアフリカの太陽の光を反射しています。これは密林のへびではありません。アフリカ大陸で2番目,世界で6番目に長い大河です。
これはコンゴ川として多くの人に知られている大河ですが,一昨年,ザイール共和国はこの川をザイール川と命名しました。これはさらさら流れる小川などではなく,幅約6.5㌔のその河口から毎秒3,500㍑を超す水を海に注いでいます。水量の点では,ザイール川はブラジルのアマゾン川に次ぐものです。
上流へ旅をする
この自然の驚異に親しむため,わたしといっしょに川をさかのぼってみるのはいかがですか。5,000㌔近くさかのぼれば,19世紀の有名な探検家,リビングストン博士やスタンリー氏を魅了した景色が見られるでしょう。この川は確かに探検家の楽園です。
出発する前に,まず河口付近の水流の強さを見てください。大西洋の青い海の中に容赦なく押し入るその流れは,デルタ地帯さえほとんど残さず,大陸だなをえぐって深さ約1,200㍍の谷を作っています。その褐色の水は160㌔沖の海上でも認められます。
旅行の最初の行程では,河口から約130㌔の内陸にある港市マタジに着きます。ここで,わたしたちは陸に上がらなければなりません。というのは,クリスタル山脈という自然の障壁が水路をさえぎっているからです。さか巻く水は,30を超える一連の大きな滝を次々と流れ落ちます。これらの滝はひとまとめにリビングストン滝と呼ばれます。首都キンシャサからマタジまでのわずか320㌔そこそこの間に,川の高さは約250㍍も低くなります。現在では,この自然のエネルギーの一部が水力発電所のタービンを回すのに利用されています。100年ほど前まではこの川の源流についてほとんど知られていませんでしたが,その原因もまたこれらの滝にありました。今日では,その2地点は鉄道で結ばれていて,乗客や荷物は次の船まで汽車で運ばれます。
第一の滝のすぐ上流に,政治の中心地であるキンシャサの町があります。低い砂っぽい台地の上に広がる非常に近代的な都市です。この広い川の向う岸にはコンゴ共和国の,繁華な首都,プラザビルがあります。この川は数百㌔にわたりコンゴ共和国とザイール共和国の国境となっています。
リバー・ボートの旅
旅行の第2行程は,喫水の浅いリバー・ボート(河川用の船)の旅なので,早めに船着場に行きます。船にはありとあらゆるものが積み込まれています。というのは,それらの船は船客(1等から3等まである)だけでなく,あらゆる種類の品物や乗物も運ぶからです。運貨船も船の側面もしくは前後につながれて,遠くの目的地まで押されるか引かれるかして運ばれます。燃料油や製品などの多数の輸入品が長い距離を上流に運ばれ,帰りの船は,ゴム,木材,コーヒー,やしの実,その他の農産物を満載して川を下ります。
船の索を解くと,わたしたちはゆるやかな流れにさからいながら,一路目的地に向かって動き始めます。船は,川の中のジャングルにおおわれた何千という小島の間をぬって進みます。それらの小島や油断のならない川の流れは,十分の経験を積んだ船長や乗組員の航海技術を必要とします。この川の,貨物船航行可能範囲はおよそ2,720㌔の長さにわたりますが,支流を含めるとその水域は1万3,000㌔近くになるとみられています。ところどころで川幅は15㌔から25㌔ほどに広がります。
汚染されていない土地
道々の光景はなんとすばらしいのでしょう! わたしたちはしだいに,文明と呼ばれるものから離れて行くのを感じます。ムバンダカやキサンガニなどの河畔の都市とジャングルを切り開いた大きな2,3の町だけが,その国に20世紀が訪れていることを思い起こさせるにすぎません。風景は,時の経過にも耐えて,ほとんどそこなわれずに残っています。
「ムボテ!」「ジャンボ!」 これは,船が途中の港に寄る時に原住民がかわす日常のあいさつです。村のそばを通るたびに,一群の裸の子どもたちが川岸に走り出て,まぶしいほどの白い歯をのぞかせて笑い,興奮して叫び声を上げます。そのうしろには,数軒の泥の家やヤシの葉の屋根の家が見え,それぞれの家に,きちんと手入れの行き届いた,トウモロコシ,カサバ,パイナップル,バナナなどの畑があります。
あそこに,老人が小さなカヌーの中に立っているのが見えますか。おそらく,今晩のごちそうがいちばんよく取れる場所はどこかな,と考えているのでしょう。また頭上で,鮮やかな赤い尾をした灰色のオウムが2羽,しわがれ声で互いに呼びかわしながら,急降下を行なっています。船が川の湾曲部を回ると,ワニが獲物を求めて音もなく岸から水にすべり込みます。
幸いにも,きょうは,カバの群れが泥水の中で楽しそうにごろごろしているのが見えます。遠くに一匹,目と耳だけを潜望鏡のように水面に出して泳いでいます。平然と泳ぎ回っているその様子を見ていると,エホバがカバについて,ヨブに『たとえ河荒くなるとも驚かず』と語ったことばを思い出します。―ヨブ 40:23。
赤道直下のこの大河の流域には,種々さまざまの動物や鳥が生息しています。上流に行くにしたがって樹木や下ばえはますます密になり,川岸の密林の下陰をのぞいて見ると,昼間の明るい太陽の光でさえ薄暗さを帯びています。
川の商人
しかし,前方に見えるものは何でしょうか。ザイールに住む200以上の部族のひとつロケレス族の丸木舟つまりカヌーの集団のようです。ロケレス族の人びとは,何百年にもわたってカヌーの中か川岸に建てた小屋の中で暮してきました。彼らは商人で,川の旅行者にいろいろな種類の品物を売りながら川をゆききするのです。中には,商売をしやすくするために,スピードの速いリバー・ボートの舷側に自分たちの小舟をうまくしばりつける人もいます。船のそばにいるあの丸木舟をちょっと見てごらんなさい。長いまっすぐな丸太を実際に何時間もかかって彫って作ったくり舟であることがわかるでしょう。たいていの舟は櫂でこぎますが,今では,大型の舟には船外モーターが取り付けられ,時には40人から50人のひとを乗せて,魚雷のように褐色の水を切るようにして進むものもあります。まさに「川のバス」です。大きな橋のほとんどない土地では,カヌーに乗ることは多くの人にとって毎日の生活の一部です。
なりとどろくスタンリー滝
スタンリー滝の少し下流にあるキサンガニに着くと,わたしたちはリバー・ボートで1,600㌔以上旅をしたことになります。しかし,川の中間点はまだ先です。わたしたちの乗って来た船は,荷物を積み換えたあと,ここから引き返します。というのは,スタンリー滝と呼ばれる7つの滝が行く手をはばんでいるからです。かなり上流のこの場所でさえ,北アメリカのナイアガラ瀑布の流量の数倍に匹敵する,毎秒1,700万㍑の水が雷鳴のような響きをたてて岩盤の断層をすべり落ちています。
しかし,ちょっと来てください。これはぜひお見せしたい光景です。滝のそばには,独特の方法で魚を捕えるワゲニアス族が住んでいます。彼らは急流をものともせずに,岩の割れ目に棒を組んださくを立て,それに,木とつるで作った,口部の直径が1.8㍍ほどの円すい形のかごを幾つか取り付けます。そして1日に2回わなを点検し,かごの中にはいって,流れが速いためにそこから出られなくなった魚を集めます。彼らは少しも恐れずに渦巻く流れにカヌーをこぎ出し,わきかえる水のまっただ中に飛び込みます。獲物を集める時には,コクタンのように黒い彼らの筋肉が躍動します。
水源へ向かって進む
スタンリー滝をあとにして,わたしたちはさらに上流へ向かいます。このあたりでは,ほとんど真南の方角に旅をすることになります。大きな湾曲刀のように,川の流れは最初北東へ,その後赤道を横切って東へ向かい,それから南へ曲がります。
この川は赤道の両側で違った時期に雨期を迎えるので,他の多くの大河に見られるように極端に水位が高くなったり,低くなったりすることはありません。水位の高低の割合いは,アメリカのミシシッピ川の20倍,ナイル川の48倍に比べてわずか3倍です。(これは水位と水量が季節によってほとんど変動しないことを示している。)
スタンリー滝を越えた地域では,この川はルアラバ川として知られています。ザイールの奥地に延びているこの川は,ルブンバシ(以前のエリザペトビル)の付近にまで達しています。しかし,もっと遠くの水源はザンビアの北東部に発しています。
中央アフリカの大河! それは巨大なコンゴ川,また今では,日用必需品をその川に大きく依存している国の名前にちなんでつけられたザイール川として知られている川です。確かにそれは,つきることのない驚異であり,知性を備えた創造者の知恵と強力な力を物語るもののひとつです。