惑星の運行法則 ― それを作ったのはだれか
太陽系について調べたことのある人は,その構成に目を見張ったに違いありません。九つの惑星が太陽の周りを旋回し,回転する様は,宝石をはめ込んだ,精密な時計を思わせます。太陽系に見られる驚くべき秩序と規則性に感動して,自分の生涯の大半を惑星の動きを調べるために献げた人もいます。16世紀から17世紀にかけて生存した,ヨハネス・ケプラーという名の,ドイツの天文学者はその一人です。興味深いことに,ケプラーが惑星の運動を調べるようになった動機は,創造者,すなわち熟達した製作者への確固とした信念にありました。そして,研究を重ねれば重ねるほど,その信仰は強くなってゆきました。ニュートンが万有引力の法則を発見する糸口となったケプラーの発見は,創造者,およびそのみ言葉,聖書に対するわたしたちの確信を強めてくれます。
ヨハネス・ケプラーは,1571年に,ドイツの小さな町,バイルで生まれました。貧しい家に生まれ,病弱な体質であったにもかかわらず,ケプラーはヨーロッパでも一流の大学である,チュービンゲン大学を卒業できました。ケプラーは当初,プロテスタントの僧職に就こうとしていましたが,数学および天文学の分野でのその才能は,ケプラーをして異なった道へと進ましめました。
ケプラーは1594年,オーストリアのグラーツ市で数学教授になりましたが,カトリック教会の宗教指導者たちの圧力によって,わずか六年後には同市を去らねばならなくなりました。ケプラーとその妻は,それからプラハへ移り,そこで著名なデンマーク人の天文学者,ティコ・ブラーエと親交を結びました。ケプラーがプラハに来てから一年ほどしてブラーエが死んだので,ヨハネス・ケプラーはその後継者として皇帝ルドルフ二世の帝国数学官に任命され,次いで皇帝マティアスにも仕えました。在職中,ケプラーは,実際には創造者の造った,惑星の動きを支配する三つの原理を発見しました。その結果,それらの原理は,「ケプラーの法則」として知られるようになりました。
ケプラーの法則
それまで幾世紀もの間,天文学者たちは,惑星の軌道は何らかの形の円運動と関係していると考えていました。しかし,その考えは実際の観測では真実であることが裏付けられず,科学者たちはその間の不一致を説明するために,極めて複雑な図表や方程式の使用を余儀なくされていました。ケプラーは幾年にも及ぶ計算の末,主に火星に関して,その軌道は円ではなく,楕円と呼ばれる幾何学的な図形を描くという結論に達しました。楕円とは何か,とお尋ねになられるかもしれません。では,楕円を描いてごらんになりませんか。
お望みなら,次の道具を用意してください。画びょう二個,鉛筆一本,ボール紙一枚,長さ46㌢ほどの糸。まず,糸の両端を結び合わせ,輪を作ります。(第一図をご覧ください。)次に,図に示されているように,ボール紙に画びょうを差し込み,輪になった糸をそれら二つの画びょうに引っ掛けます。それから鉛筆を輪の中に入れ,糸をぴんと張らせて,画びょうの周りを一回転する軌跡を描きます。こうして描かれた図形が楕円です。二つの画びょうは,数学者が楕円の焦点と呼ぶものとなります。
この二つの点が離れていればそれだけ,楕円は平たくなってゆきます。しかし,二つの焦点が近づけば,楕円は円形に近くなります。実際のところ,円は,二つの焦点が同じ箇所,すなわち円の中心にある楕円にすぎないのです。
大抵の惑星は円に近い軌道を運行しており,地球の軌道はほぼ完全な円形を成しています。しかし,かなり離心的な,すなわちより平らで丸味の少なくなった,楕円軌道を持つ惑星もわずかながらあります。主な惑星の中では冥王星と水星が最も離心的な軌道上を移動しますが,有名なハレー彗星のような彗星の中には,極めて離心的な軌道上を移動するものもあります。
ケプラーは,「火星の軌道の研究から,すべての惑星は楕円形の進路を取ると推定していました。さらに,どんな場合でも,太陽が惑星の軌道の焦点の一つになっているとの結論を出しました。これらの結論は,それ以来真実であることが証明されてきており,惑星の運動に関するケプラーの第一法則として知られるようになった法則を成しています。
実に驚くべき法則ではありませんか! この法則は,惑星が奇妙で,不規則,かつ任意の型に従って動いているのではないことを示しています。むしろ,その進路は滑らかな数学的曲線を描いているのです。この法則は,極めて理知的な立法者が存在しているとの結論を示唆するのではありませんか。
惑星に関するケプラーの第一法則から,惑星はある時期に他の時期よりも太陽に近づくことが容易に理解できるでしょう。事実,地球はその近日点では太陽から1億4,645万㌔離れているのに対して,その遠日点では1億5,127万8,000㌔余り離れています。離心率の高い軌道を持つハレー彗星は,近日点では太陽から9,012万3,000㌔離れていますが,太陽から一番離れたときには51億4,990万㌔隔てられています。
古代ギリシャの時代から,すべての惑星の動きは一定であると考えられていました。言い換えれば,惑星の運行速度はその軌道上のどの点でも同じだと考えていたのです。しかし,この点に関しても,観測された事実は別の結果を示し,科学者たちはその相違を説明するのに非常な困難を覚えていました。ヨハネス・ケプラーは,ティコ・ブラーエの残した膨大な量の観測結果をくまなく調べた末,別のすばらしい発見をしました。惑星の動きは一定ではなく,太陽により近い所ではより速く,より遠い所ではより遅く移動するのです。さらに,ケプラーは非常に興味深い法則が真実となっていることを示しました。どの惑星の場合でも,その惑星と太陽を結ぶ線分は,等しい時間に等しい面積をおおうように動くという法則です。この法則は,次のような例で示したほうが,幾らか理解しやすいでしょう。ある惑星がT1という点からT2という点まで移動するのに一か月かかったとします。また,T3からT4まで移動するのにやはり一か月かかったとします。すると,ケプラーの第二法則によれば,斜線で示される二つの部分の面積は等しくなるのです。(第二図をご覧ください。)この点から,惑星が太陽に近づいてゆくと,同じ面積を生み出すためにより速く移動することが分かります。
したがって,惑星の運行速度は,予知できない,混乱した,唐突な動きなどではないことが分かります。ある時にはより速く,他の時にはより遅く移動しますが,速度の変化は滑らかで安定しており,数学的な法則にのっとったものです。各惑星は優雅な動きで各々の軌道を行き来しています。この美しい造りは実に驚嘆すべきものです。確かに,わたしたちはその設計者に対しても感嘆の意を表わさねばなりません。
ケプラーは,惑星に関するその最初の二つの運行法則によって,惑星の軌道の形とその運行速度を導き出していました。しかし,もう一つの難しい問題に対する答えはまだ出ていませんでした。それは,惑星の太陽からの距離とその惑星が太陽の周りを一周し終えるのにかかる時間との間にはどんな関係があるか,という問題です。ケプラーは,太陽に近い方の惑星が遠い方の惑星よりも速い速度で運行することを知っていました。10年近くに及ぶ労苦の末,ケプラーはその関係を示す方程式を発見しました。これはケプラーの第三法則として知られています。この法則によると,どの二つの惑星を取っても,それらの公転周期の二乗は,太陽からの平均距離の三乗に比例します。
この関係の実例を木星の場合に見ることができます。太陽から木星までの距離は,太陽から地球までの距離のほぼ5.2倍です。それに対応して,木星が太陽の周りを一度回る(下記の表ではこのことを“周期”と呼びます)には,約11.8地球年かかります。それが木星の一年ということになります。木星の場合にこの第三法則を当てはめて,その法則の正しさを確かめてみましょう。
ある数を二乗するというのは,その数にその数をかけることです。ある数を三乗するというのは,二乗した積に元の数をもう一度かけることです。では,木星の例に戻ると,どんなことが分かりますか。その周期(太陽の周りを回る,木星の軌道の周期は11.8地球年です)を二乗すると,11.8×11.8で,その答えはほぼ140になります。さて,太陽からの距離を三乗すると,5.2×5.2×5.2で,その答えもほぼ140に等しくなります。どの惑星の場合にも,この関係は成り立ちます。ここに掲げた表にある残りの惑星について同じような計算をしてみれば,ご自分でそのことを容易に確かめることができるでしょう。
ケプラーはその第三法則を“調和の法則”と呼びました。ケプラーは,この法則が,太陽系の中で創造者の表わされた調和を明らかにしていると信じていたからです。この法則を発見した後,ケプラーはこう叫びました。「天体の調和の示す神の偉大な業を見て,私は言うに言われぬ陶酔感に酔いしれ,それに取りつかれてしまったように感じた」。確かに天的な音楽家とも言える方について,またその方が作られたハーモニーについて考えると,わたしたちも畏怖の念に打たれます。
アイザック・ニュートンがその万有引力の法則を発見する糸口となったのは,惑星の運行に関するこの第三法則,すなわち調和の法則です。ニュートンは,どんな力が惑星の距離と周期の間にこの奇妙な関係を生み出しているのかを知りたいと思いました。ニュートンの発見によると,すべての物体は,ちょうどリンゴを地面に落とす力と同じような引力を作り出します。ニュートンは,惑星の運動を支配しているのは太陽の引力の場であり,ケプラーの法則はこの現象に基づいていることを示しました。
惑星の運行に関するケプラーの三法則は,科学の分野にある人々に非常に有益であることが示されてきました。これらの法則は,引力の法則とあいまって,どの惑星の位置や速度を計算する場合にも肝要なものとなっています。
1976年に,米国の宇宙工学者たちは,バイキング1号とバイキング2号を火星の表面に首尾よく着陸させました。それが可能になったのは,着地の際に火星がどの位置にあり,どんな速度で運行しているかをはっきりと定めることができたからです。ヨハネス・ケプラーが今日生きていたなら,人間の成し遂げためざましい業績を見て驚くに違いありません。しかも,それは彼の発見した法則を活用した結果なのです。
興味深いことに,惑星の運行に関するこの三法則は,太陽系の九つの主要な惑星の場合だけではなく,さらに多くの場合に当てはまることが長年にわたって証明されてきました。これらの法則をもって,火星と木星の間に帯状に横たわる2,000近い小さな惑星のような物質のグループ,すなわち小惑星の楕円軌道を説明することもできます。また,彗星,すなわち天体を周期的に横切る,火の球状の物質の動きも,ケプラーの法則を当てはめることによって定められます。太陽系からは想像もつかないほど遠く離れた,広大な渦巻星雲の中にあってさえ,渦の先端の形はこれらの法則に従う傾向のあることを明らかにしています。理解ができないほど大きなものから,ごく微小なものへとわたしたちの焦点を移すと,原子の中の電子の動きも,原子核の周りの軌道を回る小さな惑星のように,楕円形の進路を取るとして数学的に説明できることが分かります。
ですから,惑星の運行に関するケプラーの法則は,宇宙の至る所で守られねばならぬ天体の運行法則となっています。こうした運行法則を定めたのはだれですか。これらの法則の創始者は,普通の顕微鏡では見えないほど小さな原子から,天文学的に膨大な星雲に至るまであらゆる物事の働きに精通しておられる,あの唯一の壮大な主権者であられることに疑問の余地はありません。
神に対するケプラーの信仰
ヨハネス・ケプラー自身,自分の発見した,これらの驚くべき法則は神の業であることを悟っていました。あるときケプラーは,「人間の建築家の場合と全く同様,神は秩序と規則をもって,地球の基礎に臨まれた」と述べました。ケプラーはまた,神の法則や規定が人間の益のために働いていることを認識していました。ケプラーの言葉を借りて言えば,「地球にある事物の原因の大半は,人間に対する神の愛から演繹し得る」ということになります。さらに,今日の科学者の多くとは異なり,ケプラーは聖書が真の科学と調和していることを確信していました。あるとき,ケプラーは聖書と科学的な事実との間に見られる一致点を示す論文を書きましたが,僧職者からの圧力のために,その論文は出版されずに終わりました。
ケプラーの研究した天体の世界に見られる調和とは対照的に,当時の人間の世界には絶えず不一致が見られました。ケプラーは,カトリック派とプロテスタント派が互いに激しく戦い合った,三十年戦争の幕が切って落とされた時代に生きていました。どちらの側にも完全には同意できなかったヨハネス・ケプラーは,絶えざる不安を抱いて生活しました。迫害を避けるために,ケプラーとその家族が自分の家を捨てて逃げ出さねばならないことも幾度かありました。こうした状況のただ中で,ケプラーは1630年に,59歳で没しました。
ヨハネス・ケプラーと同じく,わたしたちも身の回りにある創造物に表わされている,栄光ある調和を認識できます。ケプラーの発見した法則は,惑星の動きに見られる秩序と調和を鮮明に立証しています。もしこの動きが盲目的な偶然の所産であったとすれば,その結果は混乱と無秩序になっていたことでしょう。至高の立法者,熟達した製作者のみが,この調和を造り出すことができました。わたしたちの心はその方に対する深い愛と敬意に満たされていて然るべきです。わたしたちは全身全霊をもってその方に仕え,然るべき誉れをその方に帰すよう心を動かされるのではないでしょうか。そうです,そしてそうするなら,その方は新秩序における命をもってわたしたちに報いてくださいます。そして,その新秩序は,人類が大いに必要としている秩序と調和を,人類にもたらすでしょう。
[24ページの図表]
惑星 太陽からの距離 周期
水星 .39 .24
金星 .72 .61
地球 1.0 1.0
火星 1.5 1.9
木星 5.20 11.86
(1.0で示される地球が,用いられている尺度の単位になっている。ここでは距離や周期が小数点以下一位,あるいはそれ以上まで挙げられている。それで,ここに挙げられている数字を使った計算は,概算値を出すものにすぎない。周期は,太陽の周りを一周するのにかかる時間を,地球の周期を1.0として,それに比例させた値)
[22ページの図]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
第一図
楕円を描く
楕円の描き方。まず,一枚のボール紙に画びょうを二つ差し込む。画びょうの周りに,輪になった糸を掛け,鉛筆で糸をぴんと張らせ,画びょうの周りに沿って鉛筆を動かす。二つの画びょうは,楕円の二つの焦点となる
第二図
ケプラーの第二法則
惑星がT1からT2まで移動するのに,それがT3からT4まで移動するのと同じだけの時間がかかったとすれば,斜線の部分の面積は等しくなる
T2
T1
太陽
惑星
T3
T4