外国旅行には十分の計画が必要
ドイツ連邦共和国の「目ざめよ!」通信員
「こんにちわ。旅券を出してください。かばんを開けていただけますか。何か申告するものはありますか」。
もし皆さんが,車やバスや列車,あるいは急増する航空便で毎年国境を越える大勢の友好的な人々の一人だったことがあれば,こうした要請や質問は別に耳新しいものではないでしょう。
有名な旅行家のマルコ・ポーロも,また,18世紀から19世紀にかけて生存し自然研究者,旅行家として知られていたドイツ人アルグザンダー・フォン・フンボルトも,現代の旅行者がどれほど遠方まで行くかを,また,大陸から大陸へジェット機でどれほど速く飛べるかを知ったら,うらやましくて顔色を変えたことでしょう。
楽しい旅行
近年ドイツでは,休暇を利用して海外旅行をする人の数が急増しています。ドイツマルクの有利な為替レートがそうした増加を促したのです。毎年,幾億マルクものお金が旅行代理店の金庫に流れ込んでおり,“海外旅行”関係の業界は上景気です。ますます多くのヨーロッパ人が,異国情緒豊かな国々や南国の海辺で,“一年のうち最も貴重な数週間”とされている期間を過ごすようになっています。ドイツ連邦共和国に住む人々で1976年に休暇を過ごした人すべての60パーセントは海外旅行をしており,その大部分は,太陽の降り注ぐ地中海沿岸の国々へ行っています。同年中,それらの人々は約225億4,000万マルク(約2兆2,540億円)を使いました。
しかし,海外旅行をするのは休養をとるためだけではありません。ドイツや,ドイツ語を話すヨーロッパの国々の数千人のエホバの証人が,別の理由で,つまり,1978年から79年の冬に南半球で開かれる国際大会に出席するため海外旅行に出掛けました。
周到な準備をする
すべての旅行がうまくいくわけではなく,またすべてが期待どおりになるわけではありません。旅行のための準備がきちんとなされなかった場合はなおさらそうです。外国旅行は忘れ難い経験となるものです。しかし,うっかりして,“胸をおどらす旅”のための必要な準備を怠るなら,貴重な時間と,一生懸命に働いて得たお金とを浪費しかねません。
旅行代理店が手を貸してくれますが,何もかもしてくれるわけではありません。例えば,旅行代理店はガイドブックを用意してくれますが,言語の知識を与えることはできません。また,ペセタ,リラ,エスクード,クローナ,フラン,ポンド,ドルなどの巧みな扱い方を教えてくれるわけでもありません。あなたが夢見ていた国やその国民,またその国の習慣を時間をかけて知るようにすれば,多くの問題を避けられます。
気候の変化と時差
不慣れな気候の国へ行こうと思う人は皆,自分の体調や仕事をする能力,また気分などが影響を受けるということを知っておかねばなりません。また,遠距離飛行の場合には,時差が体に及ぼす影響も見過ごすことができません。
人間の体の数多くの作用は,体内の時間調節機能に依存している昼夜のリズムに基づいています。東西いずれの方向にであれ,急に居場所が変われば,このリズムが乱されかねないことは容易に理解できます。フランクフルトからニューヨークまでの大陸間の飛行の場合,普通6時間の時差があり,オーストラリアのシドニーまでのジェット機飛行の場合,時差は9時間です。すでに活気に満ちた旅行の一日が,到着したときに,6時間,8時間,あるいはそれ以上長くなると非常に当惑します。人間の体は一日に二時間しか時差を吸収できない(ある人々によれば)のですから,体内の時間調節機能が再び調整されるまでにどれほどの時間が必要か容易に想像できるでしょう。帰国後,それとは逆の過程がそのまま再び起こります。
特定の医薬品(例えば,インシュリン薬,あるいは血液を薄める薬品)に頼っている人は,時差の調節機能に特別の注意を払わねばなりません。旅行の計画について,掛かり付けの医師と相談してください。医師は適切な助言を与えることができるでしょう。その他の情報は,H・バールク博士による「飛行機の乗客のための医学カウンセラー」(ドイツ語のみ)と題する本から得られます。その中の「大陸間飛行の際,薬を飲むのにふさわしい時間」という章で,同博士はそうした問題を詳しく論じています。
健康を優先させる
あなたは“ぴんぴんしていて”,旅行中に病気になることなど考えてもみないかもしれません。しかし,その可能性が皆無というわけではないので,危険を最小限にとどめるためふさわしい注意を払わねばなりません。旅行中に,胃や消化器系の具合いが悪くなるなら,喜びは半減してしまうでしょう。
リーダーズ・ダイジェスト1968年6月号に載せられた,P・ライト博士による「旅行中の健康」という記事は,この複雑な問題について次のように述べました。「下痢の99パーセントまでは,バクテリア,原生動物やウィルスなどで汚染された水や食物が原因である。大抵のホテルでは,頼めば,びん入りの水を出してくれる。……飲み物の中に氷を入れないようにした方がよい。……また,歯をみがく際には安全な水だけを使う方がよい」。
どこの場所の衛生管理も自国の基準と当然同じだなどと考えないでください。地中海沿岸地方,近東,熱帯や亜熱帯の国々などでは,その国の通例の料理を食べる際に注意しなければなりません。あなたの消化器系を余り気前よく“驚かせ”ないでください。できれば,生肉,それにサラダや生野菜は食べないようにします。ミルクや乳脂肪製品でできたおいしいごちそうも,もしそれらがきちんと貯蔵あるいは冷蔵されていない恐れがあれば,控えてください。
暑い国々のための情報
暑い国々へ行く際には,うっかりすると健康をひどく損ねる場合があることを覚えておいてください。例えは,一月か二月に冬のヨーロッパを出発して真夏の南米に行くような場合には,特に注意が肝要です。そうしないと,矛盾しているようですが,余りの変化で熱帯地方での滞在期間の初めにひどい鼻かぜをひいてしまうかもしれません。少なくとも体が順応するようになるまでは,日光を少しずつあびてください。もし多量に汗をかくなら,食事の際に十分の塩分をとるのを忘れないでください。また,暑い国々では,皮膚感染の危険が大きいことも覚えておいてください。
熱帯の国々では,吸収性のある生地でできた衣服を着用するとよいでしょう。下着は特にそうです。また,シャツやブラウス,あるいはドレスなどが発汗作用を妨げるようであってはなりません。綿やリンネルが最適です。できれば一日に二度下着を取り替え,他の衣服も着やすく軽いもので,洗たくしやすいものであることを確かめてください。もしできれは皮底のくつをはき,つばの広い帽子を忘れずに持っていってください。
旅行に順応する
旅行を計画する際,必要な他の事柄と共に,心の準備も忘れてはなりません。ぜひとも心の平静さを保ち,思いがけない出来事にも心の備えができているようにしてください。遅れたり,保安の目的で身体検査をされるなど,予期せぬ出来事のために喜びを半減させないようにします。物事が予定通りにゆかなくても気分をいらいらさせないでください。「人が旅をするのは,行き先に到着するためではなく,ただ旅をするためである」とは,ドイツの賢明な金言です。休暇中に遭遇する“災難”そのものが一番愉快な経験となることもあります。その後幾年もの間,そうした出来事について幾度も笑いながら話すことでしょう。
1976年4月15日付ハンブルガー・アーベントブラット紙は次のような適切な助言を与えています。「社用や娯楽で旅行をする際,ドイツ人[そしてこれはすべての旅行者に当てはまる]は,他国の人々の風俗習慣に,もっと理解を示すべきである」。皆さんはきっとそうしたいと思われることでしょう。いつも親しみやすく,また礼儀正しくあってください。土地の人々の考え方に自分を合わせ,注意深く物事を観察し,よく注意して聴いてください。そうすれば必ず豊かな報いを受けられるでしょう。また,エホバの証人の国際大会のどれかに出席した人は霊的な祝福をも受けられたことでしょう。
あてもなく見物に走り回るのは必ずしも楽しいとは言えません。他方,よく計画した旅行からは多くの満足が得られ,さらに後日,うまくいった外国旅行を楽しく思い出すことができるでしょう。
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あなたの外国旅行を成功させるには:
旅券が最新のものであることを確かめる。(査証が必要なら,すべての規定や最終期限に注意する。)
関税の規定(特に免税品の制限や輸出入品の制限規定)に注意する。
外貨法(例えば,外国に持ち込むお金の制限や禁止)を考慮に入れる。
自分自身のために,健康に関する規定や忠告(天然痘,コレラ,黄熱などのワクチン接種や,マラリアや腸チフスの予防薬)に注意を払う。
必要な旅行保険(外国での健康保険,荷物保険)に加入する。
全部の荷物の中に,名前と住所をはっきり書いた紙片を入れる。