氷の中でくつろぐ
氷河の中で生活し,その上で成長することを想像してみてください。ところが,その氷もコオリムシと呼ばれる余り知られていない生物にとっては居心地のよい住みかです。氷の中に住む,環状動物の一つであるこの生物は,小さなミミズのような姿をしており,体長わずか1ないし3㌢です。コオリムシの氷河の住みかは,北米西部の沿岸部にある氷河に限られているようです。では,コオリムシはどのようにして生きているのでしょうか。
日中,コオリムシ氏はその氷の家の中深くに潜り込み,割れ目のない氷河の氷の中を驚くべき軽快さで動き回り,時には深さ2㍍の所まで潜り込むことがあります。夕暮れ時になると,この寒冷地の生物は,氷の家の中から表面へ出てきて,おなかに入れるおいしいごちそうを探します。そのごちそうは,雪藻,花粉の粒,ときには雪トビムシであることもあります。しかし,コオリムシのほうも,氷河に降り立つ,ユキホオジロやチドリなどに見つけられ,食べられてしまうことがあります。コオリムシは冷たい氷なら何ともないようですが,暑さは致命的なものとなります。事実,コオリムシは摂氏20度で形を失ってしまいます。北米西部の沿岸部にある氷河を歩く人は,生物の全く住まない氷の上に立っているにすぎないと思うでしょうが,その氷の中に生物が全くいないとは限りません。少なくともコオリムシにとって,そこは居心地のよい住みかなのです。