お金,エネルギー,時間の節約に役立つ動作経済
買い物から帰って来たばかりの女性が,投かんされていない手紙がテーブルの上に置かれているのに目を留めます。「まあ,手紙を出すのをまた忘れてしまったわ。昨日,投かんしなければいけなかったのに」。こう言うと,その女性は,忘れた自分を幾分腹立たしく思いながら,郵便局が閉まらないうちにと,再び出掛けていきました。「お金とエネルギーと時間の大きな浪費だわ」と,その女性は考えました。
もちろん,忘れっぽい人がいても,わたしたちはその人を許せるでしょう。しかし,実業界では,能率専門家が,不要な動きをなくしてこの種のむだを省こうと努めています。より少ないエネルギーと経費で,より短い時間内に,より多くを成し遂げようというのがその目標です。これは“動作経済”と呼ばれています。その同じ原則が日常生活にどのように当てはまるかを示す幾つかの例を挙げることにしましょう。
事前に計画する
事前に計画する人は,計画を立てずに物事をせいて行なう人よりも明らかに有利です。無計画に,一時の思いつきで物事を処理すると,高くつく場合があります。
例えば,一週間分の食事の計画を一度に立てる主婦は,「今日の食事は何にしようかしら」と毎日思い悩むことも,絶えず店へ買い物に行くこともしないですみます。週ごとの買い物リストがあれば,必要品の多くを少なくとも何日か前もって購入できます。買い物の回数が減れば,お金やエネルギー,時間の節約になります。
居間の壁紙はりのような,初めての仕事をする場合には,事前に計画を立てるようにします。初心者なのですから,普通よりも多くの時間と骨の折れる働きが求められるという事実を認めてください。経験者に助言を求め,どのような間違いを避けたらよいか注意を聞いておきましょう。
仕事に取り掛かる前に,「これから始めることを成し遂げる十分の時間があるだろうか。必要な材料や道具は全部そろっているだろうか。道具の手入れは行き届いているだろうか」と自問してみてください。道具が十分に手入れされておらず,これを使うのに苦労していると,多くのエネルギーをむだにしかねません。
「その仕事を完成させるだけの資金があるだろうか」とも自問してみるとよいでしょう。聖書は,ルカ 14章28節で,「あなたがたのうちのだれが,塔を建てようと思う場合,まず座って費用を計算し,自分がそれを完成するだけのものを持っているかどうかを調べないでしょうか」と論じています。成し終える資力もないのに何かの計画に手を出すのは,お金のむだ使いもはなはだしいものです。
新しい家に引っ越す時にも,事前の計画は大切です。紙箱<カートン>や梱包用の箱の外側に,台所,寝室,居間などと,その箱の置き場所を書きつけておきます。そうしておけば,中の物を取り出す段になって,重い箱を部屋から部屋へ引きずり回す必要はありません。
前もって,家具の配置を決めておきましょう。新しい家の間取りを示す縮図を描くこともできます。それにはドアや窓の位置も記します。次に,同じ縮尺で家具の大きさに紙を切り抜き,これを間取り図の上で動かして,いちばん実際的な位置を決めます。このほうが,家具そのものを動かすよりもずっと簡単で早くすみます。これはお金の節約にも役立ちます。家具を必要以上に動かして,床やカーペットは言うに及ばず,家具そのものを傷つけるといったことを避けられるからです。
事前に考える
事前に考えることには,単に事前に計画する以上のことが含まれます。車の運転手がルートを地図で調べれば,事前に計画を立てたことになります。では,この運転手は事前に考えたことになりますか。様々なルートについて,必要とされる時間や費用,エネルギーを注意深く比較考量したでしょうか。短いルートでも,交通が激しかったり道路が悪かったりして,結果的には経費がかさみ,時間がかかり,他のルートより危険であるかもしれません。事前に考えることには,ぎっしり詰まった予定を立てずに,不測の事態に備えて余裕を取っておくことも含まれます。
ぐずぐずせずに物事を行なう習慣を身につけましょう。18世紀の英国の詩人エドワード・ヤングが語ったように,「遅延は時間の泥棒」だからです。それは,エネルギーやお金の泥棒でもあります。例を挙げて考えてみましょう。着ている服のボタンがゆるんでいるのに気づくとします。落ちかかったボタンをすぐに縫うか,少なくとも取り外して確かな場所に保管し,都合の良い時に縫い付けますか。それとも,ボタンを文字通りぶらさがったままにしておいて,いつの日か落としてなくしてしまうようなタイプの人ですか。後者のようであるなら,次にどうなりますか。全く同じボタンを探しても見つからないので,最後にはボタンを全部買い替えることになるかもしれません。こうして,お金とエネルギーと時間が浪費されてしまいます。同じことが車や家についても言えます。何かの必要に気づくなら,深刻化しないうちに素早く措置を講じることにより,多くの費用と時間を要する修理を回避できるかもしれません。
物をきちんと保管する
「眼鏡をどこにやったかな」,「だれかわたしの鉛筆を持っていかなかった」,「おい,鍵がないぞ」。お宅ではこのような言葉がよく聞かれるでしょうか。物をきちんと保管する良い習慣は,必要な物を素早くまた容易に見つける助けになります。またそれにより,何もしていない人に非難の矛先を向けてきまりの悪い思いをするといったことをしないですみます。
事務所の整理が行き届いているのは,書類が正しくファイルされていて,必要な時にすぐに取り出せる点にあります。同じ原則が整理の行き届いた家庭にも当てはまります。ここで注意を一言。ふさわしい場所というのはいつでも論理にかなった場所です。
その物にとってふさわしい場所とは最も実際的な場所でもあります。よく使うものを引出しの底や食器だなの奥にしまっておくのは最善ではなく,むしろもっと取りやすい所に置いておくほうがよいでしょう。必要な道具が物置の箱の下に埋もれているならどれほど役に立つでしょうか。
時間を最大限に活用する
「時は金なり」という言葉は,時間が貴重なものであるという考えを言い表わしています。これはいつの時でも真実でした。使徒パウロは一世紀のクリスチャンに,非生産的な事柄に時間を浪費することなく,むしろ立派な業を行なうために『よい時を買い取る』べきである,と語りました。―エフェソス 5:16。
例えば,ひどく疲れていて注意を集中できない時に勉強して時間を浪費するようなことを避けます。その勉強から最大の益が得られる時,また邪魔が入ることも気が散らされることもなく勉強できる時を選んでください。
時間を最大限に活用する別の方法は,仕事を幾度にも分けて行なうのではなく,一気に行なうようにすることです。幾晩もかけて居間の壁紙はりをする代わりに,丸一日ないし二日続けて働ける週末にそれをするのはいかがですか。作業衣に着替え,道具と材料を準備し,くずを片付けたりふき掃除をしたりして後片付けをするという同じ手順を毎晩繰り返さないですむことから,どれほどの時間と労力を節約できるか考えてみてください。
幾つかの物事を同時に行なうことを学ぶ
有能な主婦は幾つかの物事を同時に行なうことができます。例えば,ケーキが焼き上がるのを待っていたり肉のフライが出来上がるのを待っていたりする間に,サラダを調えたり,時によってはアイロン掛けや家の掃除をしたりします。
こうした主婦から学ぶようにしましょう。さほど生産的でない活動と生産的な活動を組み合わせるようにします。例えば,何もせずに(医院の待合室その他で)じっと待っている時間を,建設的な文書を読むことによって有意義な時間に変えるのです。そうするなら,後にその文書を読む時間を節約できることになります。特に,バスや列車や飛行機で旅行する場合,ただ座っているだけでなく,読書をするようにしてみましょう。
読書その他の活動をするのが実際的でない場合,その時間を黙想に用いてください。しなければならない仕事を頭の中で整理して,それを行なう最善の方法を定めます。頭に浮かぶ考えを書き留める小型の手帳やノートを持つようにしましょう。エホバの証人の中には,何かの活動に従事しながら聖書のテープを聴く人が少なくありません。これらのテープはそのような目的のために用意されました。
もちろん,二つのことを同時に行なうことがどんな場合でも可能で,勧められるというわけではありません。機械類を操作している時は特に注意深くあってください。たいていの場合,この種の仕事には注意を集中することが求められます。車を運転しながら道路地図を見ようとすることは時間の節約に役立つかもしれませんが,その代償として時間よりもはるかに貴重なもの,つまり自分の命や他の人の命を失うことになりかねません。
平衡を保つ必要
動作経済はお金とエネルギーと時間の節約に役立つことがありますから,「自分の場合も不必要な仕事や動きを省けるだろうか」と自問できます。自分のやり方を変えることに恐れを抱いてはなりません。もちろん,他の人の下で働いている時は,仕事の習慣を大きく変えることについてどんな場合でも監督者と話し合い,その変更がほんとうに実際的であるかどうかを確かめるのは賢明です。経験から,実際的でないことが判明している場合もあるでしょう。
動作経済に関して特に平衡を保つようにしましょう。完全主義者になって,時間やエネルギーが実際にむだにされたり,あるいはそう思い込んだりするたびに,いら立つようなことがあってはなりません。完全主義者になるなら,健康を害することになりかねず,自分と周囲の人々の喜びが損なわれるのは必至です。生活の喜びをむしばまれるにまかせて,生活を能率第一の冷酷な仕事にする必要はありません。
他の人と一緒に働く時は,だれもが同一水準の能率で仕事を行なえるわけではないことを念頭に置くようにします。結局のところ,能率の点で完璧であっても,喜びがなく,冷淡な態度でいやいや仕事を行なう人より,能率は悪くても喜びにあふれて仕事を行なう人のほうが信頼に値するものです。
このように,能率にはそれなりの価値があります。しかし,能率の奴隷となってはなりません。能率を自分の奴隷にしてください。動作経済を道理にかなった仕方で活用すれば,自分と周囲の人々の喜びは増し加わることでしょう。
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事前に一週間分の食事の予定を立てておけば,マーケットに買い物に行く回数が減ることになる
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修理の必要に気づいたら,すぐに措置を講じる