“緑の革命”はどうなったか
40年近く前のこと,農業の専門家たちは新種の小麦を用いて実験を始めました。これらの“作物栽培家”たちは単位耕作面積当たりの収量の増加を目指していました。そしてそれに成功しました。
その後,実験の成果は米にも及ぶようになりました。これら新品種の小麦や米が中南米やアジア地域で広範囲に植えられ,収量は急激に増大しました。そのため,ある人々は,世界の食糧不足をある程度解決する手掛かりがここにあると考えました。
どうなったか
最近のこと,「飢餓を終わらせると考えられていた“緑の革命”はどうなったのか」と尋ねられて,著名な農業専門家レスター・ブラウンはこう答えました。「緑の革命は食糧問題の解決を意図したものではなく,単に人口増加を抑制する時間をかせぐためのものであった。……[人口]増加に追い付くような農業技術はない」。
このように,“緑の革命”は食糧生産のある程度の増加をもたらしました。しかし,そうこうしているうちに,人口の急激な増加がそれを大きく上回ってしまったのです。
また,“緑の革命”には一つの“アキレスけん”つまり弱点があります。それは何ですか。収量は増加したものの,肥料や殺虫剤の大量使用,灌漑の整備,機械の大幅導入といったものがその基盤にあったという事実です。前の記事でも取り上げたように,これは,“緑の革命”で用いられる肥料や化学物質の製造をはじめ,トラクターその他の機械を動かすための石油が入手できるかどうかに大きく依存しています。
しかも,エネルギー問題で締めつけられているだけではなく,「天井知らずの高騰する」石油価格の問題があります。食糧を一番必要としている国々が石油を入手するのに最も不利な立場にあります。石油がなければ“緑の革命”を行なってゆくことはできません。
最近行なわれた石油価格の再引上げの前に,タイム誌はこの点を取り上げ,こう報じました。
「[それらの国々は]今や,1970年当時と比べて,OPEC価格で1,600%も高い代金を支払っている。石油がなければ何もできないが,かといって石油を買う資力もない。
「国連食糧農業機関の一職員は次の点を認めている。『我々の勧めに従って機械類や肥料を購入した進歩的な人々はにっちもさっちも行かなくなっている。それに対し,水牛を手放さなかった農夫の方はずっと良い立場にいる』」。
また貧しい国々には,“緑の革命”を成功させるために必要な新技術を採用する資力があるのは普通,裕福な農夫だけであるという逆説的な事態が見られます。食糧生産量を増やす必要の最も大きい貧しい農夫にはその余裕がないのです。
事態を一層複雑にしているのは,地球に住む40億人の大半が貧しい人々であるという事実です。ですから,たとえ食糧生産が人口の増加に追い付いていったとしても,これらの貧しい人々には十分な食物を購入する資力がありません。
新たな突破口?
食糧生産に関連して何らかの劇的な進歩が図られ,局面が打開される見込みがあるでしょうか。専門家たちは悲観的です。
カナダ銀行月例書簡は次のように伝えています。「緑の革命は驚異的な事柄を成し遂げてきたが,これによって,人類が現在かかえている食糧問題の完全な解決が図られると主張した者は一人もいない。……その仕事を科学だけに負わせるのは無理というものである」。
「今後,食糧の供給を急激に増加させる突破口のようなものを展望できるか」というUSニューズ・アンド・ワールド・リポート誌の質問に対して,レスター・ブラウンはこう答えました。
「できることなら,然りと答えたい。だが,その見込みはない。
「第二次世界大戦以降,トウモロコシの交配,化学肥料の大量使用,灌漑の急速な整備,高収量種の小麦や米の開発など数々の進歩がみられたが,今日の計画を見ても,同様の急速な進歩をもたらすようなものは何も見当たらない」。
これは何の解決策もないことを意味しているのでしょうか。そうではありません。解決策はあります。しかも,その解決策は必ずもたらされる,満足のいく完全なものなのです。しかし,その時が訪れるまで,他の人が何を食物にしているかを知るなら,ある人々はそれから益を得ることができるのではないでしょうか。