水 ― 特異な物質
「特異な物質。その物理的・化学的特性のほぼどこを取っても類例のない[自然からは予測できない]物質」。これは科学者たちの言葉です。科学者たちは,新しく発見された風変わりな化学物質について語っているのでしょうか。
そうではありません。普通の水について語っているのです。
水の極めて特殊な性質はどこからきているのでしょうか。その一つは,水の分子の形です。二つの水素原子がおもちゃの熊の耳のように酸素原子に付いているため,水の分子は非対称形をしています。そのため,各の水の分子は小さな磁石のような働きをします。下の酸素原子が陰極になり,上の水素原子のあたりが陽極になるのです。
磁気を帯びている物質は互いに引き合いますが,水の分子の場合も同じです。そのために水には高度の“表面張力”が生じます。水が,滑らかな面の上で玉になり,重力に逆らうかに見える小さな水の山を形造るのはこれが理由です。消毒用アルコールのような表面張力の弱い他の液体で試してみてください。
熱せられるとすべての分子は振動し,互いに分離してゆきますが,“粘着力の強い”水の分子は“離れ離れになる”つまり蒸発することなく多くの熱を吸収できます。氷と金それぞれの塊からあらゆる熱を取り去り,いわゆる絶対零度(摂氏零下273度)にまでそれらを冷凍したとしましょう。そして金と氷の両方を同じ割合で熱してゆきます。同じ熱量でも,金の方が氷よりも早く温度が上がります。金が融解する時でも,氷は依然として摂氏零下184度の“凍結”状態にあります。
水は多量の熱を吸収できるので,水がこの惑星の大部分を覆っていることにわたしたちは感謝できます。日中には地表面に非常に多くの熱が届きます。日没後,熱の供給は突然しゃ断されます。海の水がその熱の大部分を吸収し,次いでそれを徐々に放出して太陽の影響を加減しないとしたら,24時間ごとのこうした激しい変化によって生活は悲惨なものとなってしまうことでしょう。
水の分子の形はまた,水の凍り方にも影響を与えます。水が凍ると液体の時よりも多くの空間が必要になるのです。つまりこれは氷が浮くことを意味しています。
もし水がこの点で特殊性を欠いていたとしたらどうなるかを考えてみてください。冬が訪れるたびにますます多くの氷が海の底深くに沈んでゆき,次の夏になっても太陽光線がその氷を解かすことはありません。やがて海は,夏期にごく薄い水の層が出来ることはあっても,凍結して固まってしまうかもしれません。蒸発できる水の少ない陸地の部分では,ききんが生じるでしょう。生命はほとんど生息できないでしょう。
私たちの生活は多くの点で,この水の分子の特異な形に依存しています。偶然にそうなったのでしょうか。それともそこには,愛ある創造者の卓越した知恵が表わされているのでしょうか。
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水の分子