世界展望
100万種に上る動植物が絶滅の定めにある
● 米国の首都ワシントンで三日間にわたって開かれた,生物学的多様性の問題を論ずる会議の席上,科学者と当局者は,現存する100万種の動植物が無思慮な人間の手による自然の生息地の破壊によって今世紀の末までに姿を消すであろうと警告した。クジラやパンダばかりでなく,小麦や米,トウモロコシの原始的な品種や,分類もされず,名前もまだ付けられていない動植物の様々な種までが絶滅の危機にさらされている。科学者たちによると,これによって遺伝子の持つ多様性が損なわれることになるが,それは人類の食糧供給・健康・生存に重大な影響を及ぼしかねない。ある科学者はこれを焚書になぞらえ,こう語った。「しかも,こちらの本の多くはまだ解読が済んでいないだけに,一層たちが悪い」。
国連のお役所仕事
● ほかに何の役にも立たないとしても,国際連合は少なくとも関係国が交渉の席に着き,対立点を話し合う場にはなる,とよく言われてきた。しかし,それすら次第に難しくなっているようである。まず第一に,国連総会の議案が毎年増えている。前回の総会では135件の議案が上程されたが,これは新記録であった。また,国連の一職員は次のように語っている。「ここでは一般に,時間に対して実にルーズな態度が見られる。時間通りに始まり,時間通りに終わるものは何一つない」。もちろん,総会の議長は議事進行の務めを負っているが,昨年度の議長はその離任演説の中で次のように語った。「決議や会議や付属機関が多すぎる上,作成される文書が膨大な量に上るため,[国連は]次第に息の根を止められようとしている」。前回の総会の会期中だけでも,約2億3,600万ページもの文書が作成された。これらの文書の各ページの端をつなげば,地球をほぼ1周する長さになる。
ガンの脅威
● 5年にわたる研究によって得た証拠に基づいて,アメリカ人の3人に一人が74歳までにガンにかかり6人に一人がガンで死亡するであろう,と全米ガン研究所は警告している。その研究では,人種,年齢,男女の別,地域別にアメリカ人の罹患率を調べている。それによると,ガンにかかる率はハワイ人が最も高く,それに続いて黒人男性,白人男性,白人女性,黒人女性の順になっている。東洋系の人がガンにかかる率はそれよりも低い。最も率が低いのはアメリカ・インディアンとラテン・アメリカ系の人たちである。報告によると,ガンの中で最大の死因となっているのは肺ガンであり,ガンによる死亡の21.7%がこれによって占められている。他の20%は乳ガンと腸ガンで占められている。
スペインの“オリーブ油”
● BBC放送によると,昨年の5月,マドリードやスペインの他の幾つもの都市の比較的貧しい人々の住む地区で行商人が“格安”オリーブ油なるものを戸別に売り歩き,これが元で昨年の末までに200人以上が死亡し,1万6,000人が中毒にかかった。不届きな業者がフランスから工業用菜種油約1,000㌧を輸入し,それを再処理して,着色してある食用に適さない添加物を除去し,オリーブ油として売り出したのである。再処理が油に何らかの化学反応を引き起こし,油に毒性を帯びさせたようである。この油で害を受けた人がどれほどの数に上るかは定かでない。解毒剤がないため,死者は週に4人以上の割合で増え続けている。現在までに,スペインの食物輸出業界はこの事件によって約92億4,000万円の損失を被った。
子供の養育費
● 米国農務省によると,米国で子供を18歳まで育てるのに要する費用は1960年には3万7,274㌦(約820万280円)であったが,1979年に生まれた子供をその年齢まで育てるには13万4,414㌦(約2,957万1,080円)かかるものと思われる。つまり,わずか20年の間に,子供を18歳になるまで育てるのに要する費用は約10万㌦(2,200万円)増えたことになる。これは300%近い増加である。政府の統計は,1979年に米国で347万3,000人の赤ん坊が生まれたことを示している。これは1997年までにこの国の新しい世代を育てるのに4,670億㌦(約102兆7,400億円)が支払われることを意味する。それはこれだけのお金をかけるのに値する世代となるだろうか。ニューヨーク・タイムズ紙はこれを「利益率の全く保証されていない長期投資」と呼んでいる。
火山から得られる電力
● 火山のすさまじいエネルギーを有効に用いることができるだろうか。フィリピン国営電力事業団は地下にある火山の蒸気だまりから蒸気を取り出して,何十万キロワットもの電力を生産している。マニラのすぐ南にあるマルキリング火山とバナハオ火山にちなんでマク・バンと名付けられた地熱発電所があるが,ここでは出力22万㌔㍗の発電施設が1年以上にわたって稼動している。1983年には出力11万㌔㍗の発電施設も稼動する予定である。ルソン島のティウィという町の近くでも同様の計画が進められている。他の候補地についても調査が行なわれており,同電力事業団は,1985年までにこの方法で172.6万㌔㍗の電力を生産できるようになるものと予想している。これはフィリピンの全電力需要量の18%を賄うものである。「我々は1985年までにこの種の発電方法を用いる国として世界でトップに立つことを強く願っている」と,同電力事業団の会長は語った。
第三世界を脅かす危険
● たばこ会社は第三世界の人々にたばこを吸わせようと手を尽くしている。ロンドンで発行されているアラブ系の新聞ミドル・イーストによると,大規模な宣伝攻勢がなされ,たばこの売り上げは7年間に13.8%増えた。同紙は,中東において喫煙が人々の健康を次第にむしばんでいることを指摘し,さらにこう伝えている。「シリアの伝統的なたばこ栽培地では……気管支炎と肺気腫が……急増している。エジプトの医師の手元にあるグラフには,喫煙と肺ガンの間に密接な関係のあることが示されている」。
どんな映画を上映している?
● 最近はどのような映画が上映されているのだろうか。米国映画界独自の映画審査会が1981年の最初の8か月間に審査した234本の映画のうち,“G”(一般映画),つまりどの年齢層でも見てよいとされたのは全体の2.6%に過ぎないわずか6本であった。性や暴力が問題となる場面があるため,過半数に当たる57.3%の映画が,親または成人の保護者同伴でない限り17歳未満の者が見ることを規制する,“R”とされた。28.6%は親の同伴が望ましいとされる“PG”に,11.5%は17歳未満の者にはふさわしくないとされる“X”(成人映画)と判定された。これでも,一部の専門家は,特に暴力場面に関連して審査委員会は甘過ぎると感じている。また,それらの専門家は,こうした指定が劇場では実質的に何の拘束力も有していない点を指摘している。
ほ乳びんの規制
● パプア・ニューギニアでは,1977年に,ほ乳びんとゴムの乳首を購入するのに「保健関係者の許可を必要とし,その保健関係者はびんの正しい洗浄法と調乳の正しい方法を母親に教える責任を負う」とする法律を制定した。この法律が制定される前後の調査によって,母乳で育てられる赤ん坊の数が,制定前の50%から88%に増加したことが分かった。調合乳で育てられる赤ん坊の割合は45%から17%へ減少した。1978年から1980年の間に胃腸炎で死亡した6か月未満の赤ん坊は一人もいなかった。
フランス人のお酒を飲む量が減少
● 意外に思う向きもあるかもしれないが,フランス国立農業研究所およびテーブルワイン局によると,フランスにおける国民一人当たりのぶどう酒の年間消費量は,1964年の120㍑から約90㍑へと減少した。広範囲に及ぶ研究によって,現在35歳未満の人々のぶどう酒消費量は一世代前のわずか6分の1に過ぎないことが判明した。その理由はテレビと自動化にある,と報告書は述べている。現代の一般の労働者は,ぶどう酒のびんを片手に酒場で仲間と語り合うのではなく,家庭でテレビのアメリカ映画を見て晩の時間を過ごす。自動化によって以前より肉体労働は減る傾向にある一方,酒を飲まずに注意深くあることが一層求められるようになっている。そのため,この研究によると,飲酒の機会の大半(85%)は週末にあり,お酒を飲む人の大多数(66%)はより安く,強いワインを飲むようになっている。
医療の進歩?
● 医療は様々な面で前進しているように見えるが,医療費もその例外ではない。1980年に,アメリカ人は保健衛生費に実に2,400億㌦(約52兆8,000億円)を費やした。これは男女子供一人につき1,000㌦(約22万円)以上に相当する。しかもこの額は,1982年には3,000億㌦(約66兆円)に上るものと予想されている。主な原因は病院の支払いにあるようである。1980年には,平均の入院費が3,000㌦(約66万円)であった。わずか12年前には,その額は300㌦(約6万6,000円)そこそこに過ぎなかった。これはインフレ率1,000%であり,その期間の消費者物価指数の上昇率を8倍も上回る。医療費の高騰に加えて,不必要な手術のなされることもある。1977年の政府の調査によって,200万件の手術が不必要であったことが判明した。これによって,40億㌦(約8,800億円)の費用がむだにされ,1万人の命が失われた。また,帝王切開の件数も10年前の3倍に上っている。このすべてにもかかわらず,米国労働省の報告によると,アメリカ人全体の44%は「不適切もしくは最低限の」医療しか受けていない。
主食が毒物と化す
● モザンビーク北部からの報道によると,この地域の主食であるキャッサバがシアン中毒の元凶となっている。体の一部が麻痺した人は1,000人以上に上り,その大半は女性と子供である。中には,言語障害や視力障害を訴える者もいる。保健当局は,同地を襲った2年続きの大干ばつがその原因であると指摘している。それによって,耐久力のあるキャッサバ以外の穀物は残らず枯死してしまった。普通,キャッサバは約3か月干してから水で洗い,豆,魚,肉などと一緒に食べる。乾燥と水洗によってシアン化物の大半が除去され,残りも体内で処理される。ところが,干ばつによって,人々はキャッサバ以外に食べる物がなくなり,食糧の供給が不足するようになるにつれて,キャッサバをきちんと干さずに食べたのである。ある保健関係者は次のように語った。「人々はキャッサバが中毒を引き起こすことを知っている。だが,それを食べないではいられない。そうせずにはいられないのだ。これを食べなければ,飢え死にしてしまうのである」。
機械による試写
● 思い切って新しい髪型にする前に,その髪型をした時の自分の姿を見ることができたら良いとは思わないだろうか。今やその姿を確実に知って,あとで恥をかかずに済む方法がある。日本の松下電器がスタイルセッターと名付けたビデオ機械を開発した。コントローラーを操作するだけで,新しい髪型や口ひげ,あごひげ,時には新しい鼻をつけた自分の姿をカラーテレビに映し出すことができるのである。この機械は1年ほど前に日本で発表され,間もなく海外でも売りに出されることになっている。美容院,形成外科医,眼鏡の販売店などが利用者の筆頭に挙げられている。しかし,松下電器側は,この機械がやがて警察,市街・道路設計者,建築家などに用いられるようになるものと考えている。
市街電車でティフアナへ
● 米国では,第二次世界大戦の前から市街電車の路線が新設されなかったが,このたび新しい路線が営業を開始した。これはサンディエゴの下町とメキシコの国境の町ティフアナを結ぶ,全長22.5㌔の路線である。料金は25㌣(約55円)から1㌦(約220円)である。