トックリバチの巣をのぞく
はがれかけた樹皮の下に,小さなさくらんぼ大の,特徴ある粘土のつぼが五つ隠すように置かれています。1匹のトックリバチがこれらのつぼを作り,次の世代のためにそれを上手に隠したのです。これまでにするには多くの仕事が求められました。
粘土を見つけ出して運ぶだけでも,母バチは160㌔から320㌔も飛び回りました。粘土が乾燥し過ぎていれば,唾液を吐いて湿り気を与えます。粘土を丸めて小さな塊にしたもので作った円形の板がトックリの底になります。作業が進むにつれて,ほかの玉は引き伸ばされ,その細片で中空の球体が作られました。完成した球体の内側をてっぺんの所で外側に出し,その部分が器の開口部になりました。外側はごつごつしていますが,内側は滑らかです。
次に必要なのは食糧の蓄えです。容器にえさを蓄えて置くため,トックリバチは小さな芋虫をその毒針で麻ひさせ,つぼの中に押し込みました。芋虫は死んではいないので,やがて卵からかえるトックリバチの幼虫のために新鮮なえさが備えられたことになります。それぞれの入れ物には,卵が一つだけ産み付けられます。
卵はトックリのてっぺんから細い糸でつり下げられています。卵はどのようにしてこの位置に置かれたのでしょうか。産卵の最中に,トックリバチは腹部の先端を内壁に付け,液を分泌しました。腹部を壁から離すと,糸ができ,糸はたちまち固くなりました。このようにして,産み落とされる卵は糸の先端につながることになったのです。
雌の場合は雄よりも多くの芋虫が必要とされます。雌は雄よりも幼虫でいる期間が一日か二日長いのです。その卵が雌の幼虫になり,より多くのえさを必要とすることをトックリバチが一体どのようにして知るのかはなぞに包まれています。
トックリバチは卵と芋虫の入ったつぼを粘土の小さな塊で閉じ,トックリの首の部分を滑らかにしました。最後のトックリに封がされて,このトックリバチの仕事は終わりました。
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糸でつるされているトックリバチの卵
つぼを閉じるため,粘土の塊を運んでいるトックリバチ