仕事をするにも経費がかかる!
「妻を勤めに出したくはないのですが,“赤字続きになる”と,妥協せざるを得ません。それで妻が働くようになり,おかげで少しは楽になりました」と一人の夫は述べています。
一つの収入で暮らしてゆくのは難しいと言う夫婦の声が,世界のどこへ行っても聞かれます。オーストラリア,フランス,それにスウェーデンでは,1975年から1982年までの間に,食と住にかかる費用がほぼ2倍になりました。米国では,1975年に週67㌦ほどで一家4人が食べていけたのに,1983年には100㌦以上かかるようになりました! 米国で車を所有し,それを維持してゆくための費用は,1970年から1981年までの間に3倍近くに跳ね上がりました。
憂うつになるような統計はまだまだあります。その上,給料がインフレについてゆけない場合(そういうことが少なくない),残された道は一つしかないと夫婦は考えるかもしれません。つまり,妻が勤めに出ることです。ベストセラー作家で,社会評論家のジョン・ネースビットは,現在の傾向が続けば,2000年までに,「アメリカ女性の85%は働きに出ているであろう」と断言しています。
ところが,二つ目の収入が経済面の万能薬にはなりきれないことは非常に多いのです。一つには,女性の賃金が概して男性よりもはるかに低いということがあります。a 確かに,生活難にあえぐ夫婦の中には,幾らであろうと妻の収入を歓迎する向きもあるでしょう。しかし,「夫婦が協力して共働きを成功させる方法」という本の著者たちはさらにこう述べています。「共働きの夫婦の多くが理解していない人生の冷厳な事実の一つは,お金を稼ぐのにも経費がかかるという点である。……この厳しい現実に気づいていないと,共働きをしている場合に入る,使ってもよい収入の額について非現実的な期待を抱くようになる傾向がある」。
ですから,女性の得る賃金から,所得税,保育費,食費の増加(共働きの夫婦はバーゲンで買い物をする時間がめったになく,しばしばレストランで食事をしたり,すぐに調理できるインスタント食品を食べたりする),交通費,被服費,および諸雑費を差し引くと,大抵の場合に妻の給料はほとんど残りません。2か国語を操る秘書で,翻訳者でもあったジョアンが仕事をやめたのもそのためでした。ジョアンは,「主人も私も……私が勤めに出るだけの価値はとてもないと考えたのです」と説明しています。
妻の給料がほかの面で犠牲を求めることを悟るようになった家族もあります。そして,妻が勤めに出ることにはそれだけの犠牲を払う価値があるかどうか疑問視する人もいます。
[脚注]
a 米国では平均的な女性の収入は平均的な男性の給料の59%です。日本では女性が労働者総数の34%を占めていますが,女性の収入は男性の収入の約50%です。スウェーデンは「世界でも賃金の面で男女の平等に最も近づいて」いますが,それでも女性は男性の収入の約80%を得ているにすぎません。