陶土 ― ありふれてはいても価値のあるもの
英国の「目ざめよ!」通信員
陶土は何に使われるのかと尋ねられたなら,恐らく『もちろん,陶器を作るためです』とお答えになるでしょう。確かにその通りです。でも陶土がゴムやプラスチック,織物や塗料,鉛筆や壁紙,電気の絶縁体や排水管,殺虫剤や肥料の製造にも用いられ,薬局で求める薬剤の中にさえ,しばしば含まれているのをご存じでしたか。実に用途の広い産物なのです。では,陶土はどこから来るのですか。どのようにして使えるまでになるのでしょうか。これほど多種多様な使い方ができるのは,どんな特性があるからなのでしょうか。
どこで,またどのようにしてできるのか
陶土はカオリンとしても知られていますが,これは陶土が最初に発見された場所,江西<チアンシー>省の丘陵地帯を指す“高陵<カオリン>”という中国語に由来しています。中国人は幾世紀にもわたって,その見事な陶磁器を作るのに陶石と共に陶土を用いていました。1295年にマルコ・ポーロは陶磁器の見本を幾つかベニスに持ち帰り,それをポルチェラーナ ― 磁器<ポーセリン>と呼びました。
しかし,西洋の陶器師たちが磁器を作る中国人の秘伝を学んだのは18世紀になってからのことでした。以来,西洋の数多くの国々で陶土のたい積物が発見されてきました。今日,陶土を産出するのは主に米国,フランス,チェコスロバキア,ドイツ,ソ連および英国のコーンウォール地方です。
これら陶土のたい積物がどのようにしてできたのかは定かではありません。一つの学説は,地核から出る熱い酸性の気体もしくは液体に圧力が加わると,それが花こう岩を突き破り,硬い水晶をきめの細かい白色の陶土や他の鉱物に変えると述べています。別の学説によると,幾らか侵食された花こう岩に,酸性の地表水が長い期間をかけてしみ込み,ある成分が除かれ,溶けずに残った石英と雲母の混ざった柔らかくて白い陶土が残るとされています。実際,この両方の作用が陶土を生み出すのに一役買ったということも十分に考えられます。
陶土の採掘場で
現在,世界一生産性の高い,陶土の採掘場は英国のコーンウォール地方とデボン地方にあります。毎年約250万㌧が露天掘りの採掘場から採取され,そのうち4分の3は世界の約60か国へ輸出されています。
コーンウォールの採掘場では,陶土は水を使って採取されます。崩れかかった花こう岩に水の噴流をかけて粉々にすると,陶土は粗くて重い粒子や砂,また雲母などと一緒に洗い流されます。砂や雲母は別にされ,建築用ブロックや成型コンクリート材を作るのに用いられます。まだ懸濁状態にある陶土は粘度を高めるため混ぜ合わされ,精製されます。その後,一連の乾燥工程を経て残りの水分が除かれます。
陶土のさまざまな使い方
奇妙に思えるかもしれませんが,陶土の用途が広いのは,複雑なあるいは珍しい特性があるからではなく,まさにそうした特性を備えていないからなのです。化学的に不活性であること,根本的な純度,そのきめの細かさ,そして見過ごしてはならない点としてそれが安価であることなどがこの何の変哲もない,ありふれた物質を,きわめて有用なものにしているのです。
例えば,紙が木材パルプや他の繊維でできているのは恐らくご存じのことと思います。でも,紙のかなりの部分が陶土で“充てん”されているということをご存じでしたか。繊維だけでは目が粗すぎて,良い印刷ができるような紙面にはなりません。それで繊維と繊維のすきまにきめの細かい白い陶土が詰められるのです。こうすれば紙が不透明になりますから,裏のページの印刷が透けて見えることもなく,美しいページに鮮明な印刷ができます。
一般的な雑誌に用いられている紙の中には,陶土を5分の1ほど含んでいるものもあります。もう少し高価な雑誌に使われる光沢のある紙の場合,土でできたこの物質に負うところはさらに多くなります。この光沢は実際のところ,陶土にある種の粘着性物質を混ぜて紙の表面に塗布したものなのです。
陶土は多くの場合木材パルプよりもはるかに安価であるため,パルプの繊維に陶土を混ぜると紙の値段は大幅に下がります。実際,今日陶土を一番よく用いるのが製紙業界であるのももっともなことです。
一方,陶器や磁器は陶土だけでできていると考える方も多いかもしれません。ところが実際には,ほんの10%ないし60%の陶土しか含まれていません。あとの残りは砂,すい石,石英などの物質でできているのです。陶土を用いる主な目的は,品物の形を作りやすくするため,そして火を入れた時に白くなるようにするためです。
陶土が足元の土の中にだけではなく,足をぬらさないためにはくゴム底の靴や長靴にも含まれているのをご存じでしたか。天然ゴムや合成ゴムに陶土を加えると,価格が下がるだけでなくゴムが丈夫になり,すり減りにくくなります。結果として安くて長持ちする靴が出来上がるのです。同様に,陶土は塗料の体質顔料としても使われています。陶土はきめが細かいので塗料が塗りやすくなり,伸びもよくなります。また色彩顔料がすぐに底のほうに沈んでしまわないよう混ざった状態に保っておくのにも一役買っています。
陶土が薬の中に含まれているという前述の言葉に驚かれたかもしれませんが,それは事実です。陶土は全く不活性で,きわめてきめが細かいため,単に水に溶かす場合にも,錠剤や粉薬に含まれる他の有効成分の基剤や賦形剤として用いる場合にも有用だからです。陶土は練り歯みがき,石けん,そして化粧品にも使われています。
わたしたちは,この何の変哲もない産物の主な用途の幾つかにほんの少し触れたにすぎません。陶土の用途が広いのに驚かれましたか。非常にありふれていてどこにでもある物質が,これほど有用になるなどと一体だれが考えたでしょう。ここにも,人類のために備えを設けてくださった,つまり人間の必要とするあらゆる物を地球に備えてくださった愛ある創造者が存在されることのもう一つの証拠があるのです。