世界展望
旅行者への警告
旅行者がおなかをこわさないよう,第三世界を訪れる欧米の観光客は,その土地の水にアルコールを加えるか,あるいは水を全く飲まないようにと忠告されることが多い。しかし,テキサス大学の研究者たちによると,その方法が成功するという保証はない。その研究者たちの一人であるハーバート・L・デュポン博士は,下痢を引き起こすバクテリアを抑えるには,「アルコールの濃度は非常に高くなければならない」ので,水にアルコールを混ぜること「を勧めるのは本当に実際的とは言えない」と述べている。それに,旅行者がおなかをこわす一番大きな原因は,水よりも汚染した食物にあるとデュポンは言う。そして,湯気の立つ熱い食物やかんきつ類,パンやトルティーヤのような乾燥した食物,ゼリーのような甘い物だけを食べるように勧めている。
新たに発見された遺伝暗号
「1960年代に遺伝暗号を解いて以来,分子生物学者たちは自分たちの調べる生物がすべて同じ暗号を用いていることを発見してそれにある程度満足していた」と,サイエンス・ダイジェスト誌は伝えている。しかし,最近米国やヨーロッパ,日本などの生物学者たちが各々別個に,少なくとも5種類の単細胞生物に,標準暗号の変異が二つあることを発見した。「少しでも違いが存在するという事実は進化論者たちに対して大きな挑戦を投げ掛ける」と,その記事は述べている。なぜだろうか。そのことを発見したアメリカ人の一グループの指導者,ジョン・プリヤー2世は,「一つの暗号が別のものに進化していながら細胞内のすべてのものがめちゃくちゃにならずにすむということなど考えられない」からだと述べている。
ナチに抵抗しなかった
ヒトラー政権下でのナチへの抵抗を主題とする公開討論会のためにドイツのジュッセルドルフに集まったカトリック教会の代表たちは,83歳の高位聖職者,カール・クリンクハンマー博士の発言にあぜんとした。ライニッシェ・ポストの伝えたところによると同博士は,「教会内のだれが抵抗しようとしなかったかははっきり分かっている」と述べた。「彼は,ミュンヘンのファウルハーベル枢機卿,ブレスラウのベルトラム枢機卿,ケルンのシュルテ枢機卿やフリングス枢機卿など,当時のドイツで司教の職にあった指導層の名前を容赦なく挙げ,彼らは『レジスタンスのメンバーどころではなかった』と述べた」。同紙はその討論についてさらに次のように伝えている。「説教や司教教書,ヒトラーへの表敬電報,またドイツの司教たちが出した他の告示を盛んに引用しながらクリンクハンマー博士は,[ナチ]がいったん政権を取るとそれらの指導者たちは,多数の司祭や一部の平信徒の願いに反して同政権に少しでも反対することを許さないばかりか,同政権こそ社会主義や共産主義から救出してくれる唯一の希望であるとみなした事実を示すことに成功した」。
エジプトの土不足
エジプトのアスワン・ハイダムは1966年に完成したが,それ以前には,「[ナイル川の毎年の氾濫でできる]沈泥がいつも多量にあったので,エジプトはピラミッドのような特別のものを計画しない限り,沈泥以外の建築資材を必要としなかった」と,ニュー・サイエンティスト誌は述べている。赤レンガ ― 表土と砂と水を混ぜたものを小さな窯で焼いて作る ― の家が建ち並ぶさまはエジプト独特の光景である。ところが政府はいま土のレンガの製造に反対する運動を展開している。なぜだろうか。それは人口の急増に伴い,レンガの製造のために農地があまりにも多く失われつつあるからである。現在のところ農民は,1エーカーの土地の表土を売ると作物を作るより10倍も多くのお金をもうけることができる。しかし土を掘ると土地は低くなり,かんがいに支障をきたし,土壌中の塩分の割合を増やす原因にもなる。アスワン・ハイダムの建設以来,エジプト人は推定8,000㌶の土地の表土をはぎ取ってきた。
流行病と化したハッキング
「コンピューター・ハッキング ― 不法な目的でコンピューターを利用することを意味するようになった ― が十代のコンピューター利用者の間で流行病化している」と,ニューヨーク・デイリー・ニューズ紙は伝えている。「ホーム・コンピューター,変復調装置(電話回線を通してコンピューターに話させる装置),プッシュフォン,そして友達からそのやり方を10分間ほど教わることなどが必要なだけなので,子供たちはそれらを利用して数々のデータベースに侵入したり,長距離電話の勘定を他人の番号に入れたり,買物の代金を知らない人のクレジットカードにつけたりする」。またその記事は,「専門家の話によると,コンピューターを持ち,週末の時間を持て余している子供の猛襲に耐えられるシステムは少ない」とも述べている。権威者たちの話によると,多くの親たちは子供がすることに無頓着なので,コンピューター犯罪は子供たちの間で流行病化している。
“法王: 半値”
カナダ,モントリオールの下町にある土産物店の窓にはられたこの広告は,法王がカナダを訪問したあとの商人たちの苦境を反映していた。フランス語の新聞ラ・プレスの伝えたところによると,商人たちは,売れ残りのTシャツやキーホルダー,カレンダー,トランプ,法王の写真などを買うことに対する一般の人々の無関心という壁にぶつかった。売れなくなった品物を大量に抱え込んでいる商人は少なくない。公認の土産物の売り上げ高は460万㌦(約11億円)に上ったが,全体的に見れば利益はなかったとラ・プレス紙は述べた。
女性喫煙者
女性に喫煙の習慣をつけさせようとする圧力は強くなっている。リバプールのデーリー・ポストによると,英国の婦人雑誌には各号にたばこの宣伝が平均12ページは掲載されている。しかし喫煙の習慣はどれほど危険だろうか。今スコットランドでは,喫煙と関係のある場合が非常に多い肺ガンが,55歳以上の婦人の主要な死因となっている。また英国医師会は,1983年の英国の女性の死者のうちのほぼ3万3,000人が喫煙による病気で死亡したとしている。さらに同医師会は喫煙と子宮頸管のガンとの関係を示す新たな証拠があることを警告している。それでも多くの女性は喫煙をやめようとしない。太ることを恐れている人たちもいると研究者のボビー・ジャコブソンは述べている。
流れ作業式の外科手術
目の手術をする外科医が5人,手術用のマスクと手術着を付けてピカピカのステンレスの部屋の中で顕微鏡を前に,流れ作業が始まるのを待ちうけている。ボタンが押されるとガラスのドアが開き,手術台に寝かされた患者たちが徐々に流れ込んで来て,レールの上を各部署にすべって行く。15分たつとそれらの手術台は別のガラスのドアから出て行く。5段階にわたる近視の手術が完了したのである。これは,スビャトスラフ・フヨドロフ博士を所長とするモスクワ眼科顕微手術研究所での風変わりな目の手術風景である。「我々は昨年の秋[1984年]以来,1件の手術を5人の外科医で行なうようにしている」と,フヨドロフ博士は「ソビエト・ライフ」誌の中で述べている。「各医師が,3分から5分かかる一つの段階を担当する。……この方法を用いると我々の研究所の眼科医は1日に約100件の手術をこなすことができる」。このクリニックでは,白内障の除去や緑内障の手術,水晶体の移植なども流れ作業式で行なっている。
ファスナーで外科手術の効果を上げる
「メリーランド大学のある外科医は28件のすい臓手術で,縫う代わりに,スカートに使われるファスナーを用い,急性の病気にかかった患者の死亡率を劇的に減少させた」と,ニューヨーク・デイリー・ニューズ紙は伝えた。その外科医,H・ハーラン・ストーン博士は,内部の包帯の取り替えを便利にするために,60㌣(約150円)で買える,長さ18㌢のファスナー ― 婦人のポリエステルのスカートに付いているのと同じ種類のもの ― を使ったと語った。そういうデリケートな手術を受けている重病患者の回復率は,ファスナーの使用によって10%から90%に急上昇した。包帯の取り替えに繰り返し手術を行なう必要がなくなったからである。
ウォーター・ベッド ― 赤ちゃんには危険?
ウォーター・ベッドは幼児を危険にさらす可能性があるだろうか。ウォーター・ベッドの上で眠っていた5か月半の双子の赤ちゃんが死亡したためにこの疑問が生じたと,カナダ,トロントのグローブ・アンド・メール紙は述べている。解剖によって窒息死だったことが証明された。ある小児科医は,「赤ちゃんがうつぶせになって息が苦しくなっても,もし固い物の上に寝ていれば寝返りをうつことができるが,ウォーター・ベッドのような柔らかい物の上に寝ていると問題が起きるかもしれない」と説明している。検視官はその双子の死は,乳児急死症候群によるものではないと断定した。政府のスポークスマンによると,カナダでは過去2年間に,ウォーター・ベッドの上でのそうした幼児の死が5件報告されている。
“爆雷”治療
東北大学の泌尿器科専門医たちは衝撃波で腎石を破壊する装置を開発した。胸の近くまで水の入ったタンクの中に患者を入れ,それから数時間にわたり水中で200回小さな爆発を起こさせる。その衝撃波は害を及ぼすことなく体を通過するが,その波動のエネルギーは体内の異物に集中して腎石と泌尿器内の沈殿物を破壊する。16人の患者を対象に行なわれたテストでは,それらの患者の石のほとんどが破壊されるという結果が出た。しかしこの治療法は,衝撃波の影響を受けやすい肺と骨盤から遠く離れた場所にある腎臓と尿管の上部の中の石に対してのみ用いられた。
ガンと職業
カナダの国立ガン研究所は,職業の分かっている41万5,000人の人々に関する人口動態統計を分析して,ガンと職業との間につながりのあることを発見した。例えばウエーターは口腔や咽頭のガンで死亡する可能性が一般の人々より7倍も高い。肉屋が直腸ガンで死亡する危険は一般の人の4倍である。疫学者のジョーン・リンゼーは,職場で接触する物がガンを引き起こす要素となっているようだと述べている。ウエーターはたばこの煙を吸うので気管支のガンにかかりやすいのかもしれないと同女史は見ている。同様に,脂肪分の多い食事と関係のあるのが普通の直腸ガンは,肉屋が赤身の肉を食べやすい立場にあるためであろう。それでも,仕事を持つカナダ人全部を合わせた死亡率は,仕事を持てない住民の死亡率より約20%低い。ということは,「もし仕事を持てるほどに健康であれば,仕事を持てない人々よりも健康である」ということだとリンゼーは述べている。