世界展望
「会計ゲーム」
3年前,第三世界の債務危機が一斉に表面化し,世界の金融体制が崩壊するのではないかとの恐れが生じた。ところが今日では,「大銀行を将棋倒しにするような債務問題の差し迫った危険はもはや全くないように見える」と,ニコラス・D・クリストフは,ニューヨーク・タイムズ紙のニュース解説に書いている。なぜだろうか。膨大な債務を抱える中南米諸国の貿易収支が黒字になり,国際通貨基金などの機関からさらに融資を受ける道が開かれたからである。しかし,批判的な人々に言わせると,これは決算の日を先に延ばす方法にすぎない。「言ってみれば,それは会計ゲームである。主要な負債の支払いを先に延ばし,利息の支払いに充てるために新たな借金をするのである」と,大手証券会社の筆頭副社長は非難している。クリストフはさらにこう言葉を続けている。「ありとあらゆる緊急救済措置が取られたにもかかわらず,中南米諸国の負債総額は過去3年間に減少するどころか,実際には増加している」。
女性とストレス
女性が家庭内での役割を果たすときに生じるストレスは,男性が職場の問題に直面するときに生じるストレスよりも大きい,とニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。「主婦,それも特に幼い子供たちを持つ主婦を,働く夫や父親と比べると,主婦のほうが思い煩いや抑うつ状態に悩まされているということにまず疑問の余地はない」と,プリンストン大学のペギー・ソイツ博士は述べている。一番苦しむ女性は,“役割のとりこ”と呼ばれる人々,すなわち退屈な仕事や家庭にとらわれて身動きがとれないと感じている女性である。研究者たちの調べで明らかになったところによると,最も幸福な主婦は外部に関心を向け,妻,母親,パートタイマー,学生,宗教的あるいは社会的な組織の活発なメンバーなど,多様な役割を果たしている。
雷に注意
「雷は,読者が考える以上に致命的である」と,ペアレンツ誌は述べている。大抵の場合,人々は雷に対する防備のない建物の中で負傷する。激しい雷雨に襲われたら,家の中にいる人は開けっぱなしのドアや窓,暖炉,電話,金物から離れているよう勧められている。屋外で襲われた場合には,何もない野原,甲板のない小舟,金網の囲い,一本だけぽつんと立っている樹木,森の中で一番高い木などを避けなければならない。泳いでいたなら,水から出るようにする。最も安全なのは低い場所である。しかし,何もない所で襲われた場合について,同誌は次のような助言を与えている。「手をひざにつけないようにしてひざまずき,低く前かがみになる。ひざと足だけが地面につくようにする。体の中を電気が通る危険を少なくする姿勢である」。
骨髄時計
骨髄幹細胞によるヘモグロビンの生産を研究している研究者たちは,これらの細胞の内部に「発育時計」が存在することを伝えている。ロンドンのガーディアン紙によると,「胎児のヘモグロビンは,誕生した子供の赤血球に見られるヘモグロビンとは化学的に異なっており」,母親の血液から酸素をより容易に取り入れる。ところが,誕生後,新生児の肺から酸素が十分に供給されるようになると,幹細胞は化学的に異なったヘモグロビンを生み出すようになる。細胞は生産するものをいつ変えたらよいのかをどのように知るのだろうか。その時期は細胞内のある種の遺伝時計により定められる。ガーディアン紙は,「細胞が一体どのように前もってプログラムされ,自らの遺伝的な出来事の時を計るのかは,興味をそそる謎である」と述べている。
銃か赤ちゃんか
ハーバード大学とボストン大学の研究者によると,141か国からのデータを研究した結果,軍事費が増えると乳幼児の死亡率も高くなることが分かった。研究者たちはその結論に納得している。軍事費は,乳幼児の死亡率を下げることになる社会福祉計画に回されるはずの予算を奪うからである。一例として,日本の防衛費は国民総生産の1%足らずで,1歳以下の乳児の死亡率は,生きて産まれてきた子供1,000人に付き6人である。それとは対照的に,軍事費の占める割合が日本よりも高い米国 ― 6% ― では,乳児の死亡率も1,000人当たり11人と高くなっている。「この差は,かなりの程度軍事費のために生じたと言えよう」と,研究者の一人は述べている。
楽をして得た金は失われやすい
ジム・コフーンはカナダの州の宝くじを当てて50万㌦(約1億2,000万円)を獲得した時,仕事をやめてしまった。そして11週間後に破産した。53歳のこの船員は,そのお金をどうしてしまったのだろうか。人にあげてしまっただけのことである。友人や見知らぬ人々にあげて,一度などは行きずりのワイン中毒者や売春婦などに5万㌦(約1,200万円)を振りまくことさえした。また,家や幾台もの車を買い,それをすべて人にあげてしまった。しかし,家族には一銭も渡らなかった。宝くじが当たったことを知らせるコレクトコールの代金さえ払っていない,と兄弟のボブは嘆いている。現在,ジムは失業保険で暮らしており,友達の所を泊まり歩いている。
一番安全な座席?
飛行機の中で一番安全な座席はどこだろうか。最近の2機の飛行機の墜落事故で生存者たちがいずれも後部座席に座っていたことから,後部座席を望むようになった旅客もいる。しかし専門家たちの指摘によると,墜落の際に飛行機のどの部分が最初に衝突するのか,どの部分が一番大きな被害を受けるのかを予知する方法は全くない。「1970年以降の飛行機の墜落事故のうち特に大きなもの16件に関する安全委員会の記録は,大抵の墜落事故で,生存者は飛行機の後部に座っていたことを示している」と,ニューヨーク・デイリー・ニューズ紙の記事は述べている。「後部座席にいた人が生き残った墜落事故は9件あり,生存者が機内のあちらこちらに散在していた事故は4件だった。後部に座っていた人が死者の大半を占めていた事故は3件である」。普通,生存者にとって危険なのは主に火災なので,一番安全なのは火災発生箇所から一番遠い所にある非常口のすぐそばの座席かもしれない。犠牲者の大半は,墜落の衝撃ではなく,破壊された客室の残骸により逃げ遅れたり逃げられなくなったりして死亡したことが分かっている。
科学の不正行為の増加
現代科学における競争から来る圧力のために,不正行為や“罪のないうそ”,および欺きなどの事例が増加の一途をたどっており,科学の高潔さが徐々に損なわれている。これは,アメリカ科学振興協会の年次総会の際に行なわれた雑誌編集者と医学界の指導者の公開討論会でまとめ上げられた結論である。「1985年における科学は,競争が激しすぎ,大きくなりすぎ,企業的利潤を追求しすぎ,勝つことに熱中しすぎる」と,カリフォルニア大学のロバート・G・ピータースドルフ博士は語っている。昇進や研究補助金にありつくための競争により,多くの科学者は自分たちの研究についてごまかしをしたり誇張したりするようになっている,と同博士は語った。
危ない橋は渡らない
東ロンドンにある教会の地下室で,考古学者たちが1845年ごろに死亡した天然痘患者の遺体を発見した時,当局者は危ない橋を渡ろうとはしなかった。約140年もたっているので天然痘のウイルスが生きているとは考えられなかったが,組織のサンプルが米国に送られて分析されるまで発掘調査は中断された。また,考古学者たちはこの病気にかからないように予防接種を受けた。「ウイルスが生きている形跡はなかった」と,サンデー・テレグラフ紙は伝えた。世界保健機関は2年前に天然痘撲滅宣言を出した。
氷も避けること
賢明な旅行者は,おなかをこわさないようにするため,場所によっては土地の生水を飲んではいけないことを知っている。しかし,それだけでは十分ではない,とアメリカ医師会ジャーナル誌に載せられた一記事は警告している。氷も使わないようにしなければならない。その研究によると,おなかをこわす原因になるバクテリアは氷の中でも生きつづけ,中には幾週間も冷凍されていながら生きつづけるバクテリアもある。氷を仕入れた場所によっては,飛行機で出される氷も安全でないことがあり得る。たとえ,アルコール飲料に入れる氷でも安全ではない。この報告の作成に当たった医学研究者の一人であるハーバート・L・デュポン博士は,「飲み物に氷を入れると,危険を冒すことになる。私は氷を入れないことにしている」と語った。
頑固なウイルス
ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌の最近の一記事によると,エイズのウイルスに感染した人々は4年間にわたって症状が出ないままその保菌者になり,なおかつ輸血を通して他の人々にその病気をうつすことがある。輸血や血液製剤の使用によって,200人以上の人がエイズになった,と伝えられている。米国アトランタ市にある疾病対策センターの行なった別の研究は,このウイルスが,何の症状も引き起こさずに5年以上もある人の体内にとどまっていることがあるという点も確証している。8月半ばの時点で,米国にはエイズと確認された患者が1万2,000人以上おり,毎週160人という率で新たな患者が増加している。そのうち,5,000人以上が死亡している。最初の患者が報告されたのは1981年であった。
ソ連版,アルコール中毒との闘い
ソ連政府は,大きな国内問題になっているアルコール中毒に関する集中的な広報活動に続いて,広範にわたる猛烈な反対運動を展開している。新たに課された措置の中には,飲酒の許される年齢を21歳に引き上げること,公衆の面前あるいは職場での泥酔に対する罰則の強化,レストランで酒類を出す時間を午後2時以降に制限すること,そして平日には酒屋を5時間しか開けないことなどが含まれている。酔っぱらい運転をする者を捕まえるために,国中に検問所が作られ,テレビで上映される映画からは飲酒の場面が削除されている。しかし,飲酒の習慣を変えられるだろうかと危ぶむソ連人もいる。ある人は,「人々は酒を飲む方法を必ず見つけだす。酒は我々ロシア人の生活に溶け込んでいるのだ」と語っている。
テロリストのお好み
イスラエルにあるヤフィー戦略研究センターの行なった調査によると,昨年国際テロが最もひんぱんに起きたのは西ヨーロッパであった。2か国以上の国の利害が関係しているテロ行為412件のうち,40.5%は西ヨーロッパで生じ,349人の死者を出した。しかし,その中でヨーロッパ人以外の人々が関係していた事件はかなりの数に上る。第2位は20.6%の中東であり,全体の9.7%はレバノンで起きている。その数には,同国におけるイスラエル人に対する攻撃は含まれていない。スペインの8.3%とフランスの8%がそれに続く。国際テロのうち東ヨーロッパで起きたものは全体の0.2%にすぎなかった。「その報告は,政府により直接あるいは間接に支援されている事件の数が多くなっていることに注目している」と,ニューヨーク・タイムズ紙は述べている。