世界展望
核戦争による食糧危機
30か国から集まった世界有数の科学者200人が,核戦争の地上の食糧供給に及ぼす影響に関する重大な報告を提出した。2巻に及ぶその研究報告は,10億ないし40億人の生存者が飢餓によって死に直面すると判断している。核兵器の爆風にさらされない地域でも,大気中に幾百万トンもの黒い煤煙が含まれるようになって,太陽の光はほとんど農地に届かなくなる。地球が「核の冬」に襲われると,全地球的な飢きんが続いて生じる。米国コーネル大学,生態系研究センターの副所長で,その報告の共同執筆者の一人であるマーク・ハーウェル博士は,記者会見で次のように語った。「大半の人々にとって核戦争後の世界がどのようなものとなるかについては,我々がヒロシマやナガサキに対して抱いているイメージよりも,エチオピアやスーダンに関して抱いているイメージのほうが,その実態をよく表わしているように思われる」。
すい星の尾を突き抜ける
過ぐる9月11日,時速7万4,000㌔で飛ぶ,重さ450㌔の米国の人工衛星が遠方のすい星の尾を突き抜けたが,無事だった。この人工衛星から送られるデータの分析に当たった科学者の一人は,「人類とすい星との最初の遭遇は,完全な成功として評価されるべきである」と述べた。ジャコビニ・ジンナーという名のこのすい星は,その人工衛星が尾を突き抜けた時,地球から7,000万㌔の所にいた。この歴史的な遭遇によって集められた情報は,ソ連・日本・欧州宇宙機関の宇宙探査機が1986年3月に有名なハレーすい星と遭遇する時に役立つものと科学者たちは考えている。
海岸に打ち上げられた鯨
鯨はなぜ海岸に取り残されるのだろうか。大体は偶然による,とオーストラリア,パース市のザ・ウェスト・オーストラリアン紙は伝えている。岸に打ち上げられた若い鯨や病気の鯨,傷を負った鯨は遭難信号を送る。別の鯨がその信号に答え,同じように海岸に取り残されてしまうことも珍しくない。鯨が海岸の浅瀬に入り込んでしまうことも知られているが,マオリ語で“どくろの場所”を意味するニュージーランドの有名なオポウトマもそうした海岸の一つである。それらの海岸は鯨が発する測深の音波を普通の方法で跳ね返さない。さらにサイエンス・ニューズ誌によると,鯨が取り残されることの多い海岸は,回遊する鯨がたどって行くと思われる海洋の,磁気の弱い“通り道”の終わりに位置している。海岸に打ち上げられた鯨は方向感覚を失うが,ザ・ウェスト・オーストラリアン紙は,「鯨には人間が鯨を助けようとしていることがいつも分かるらしく……その援助の努力をおとなしく受け入れる」と述べている。
暴力に対する恐れ
「犯罪に対する恐れは広くまん延しているだけでなく,人々の日常の行動に染み込んでいる」と,1984年英国犯罪調査は結論している。4人に一人はもう夜間の外出をしない。30歳未満の女性10人につき4人までが暴行されるのではないかという恐れを抱いている。その同じ調査では,1981年から1983年までの期間に性犯罪の数が115%増加していることが報告されているので,そうした恐れももっともと言える。英国のギャラップ調査が示すところによると,1965年以来暴力犯罪が4倍に増加しているため,100万人以上の人々が銃かナイフで武装するようになっている。そのほかの100万人は,「クリケットのバットや他の鈍器をベッドの下に忍ばせて眠る」とロンドンのタイムズ紙は伝えている。
注目を浴びる血液
□ デンマークの科学者ニルス・ヤーヌは「免疫学における最も偉大な理論家」とみなされており,1984年のノーベル医学賞を受賞した人の一人となった。最近のこと,ブラジルの雑誌「ベジャ」から,なぜ3年前に行なった手術の際に輸血を拒んだのかと尋ねられ,この科学者はこう答えた。「人の血液は指紋のようなもので,全く同じ型の血液というものはない。そのようなわけで私は体の自然な作用にまかせることを選んだが,何の問題もなく全快した。……一般的に言って,私は常々,1杯のぶどう酒と1日寝ていることがより良い治療法だと考えている」。
□ ブラジルの多くの農村地帯の風土病になっているシャガス病は都市生活者の間でも驚くべき割合で増え広がっている。なぜだろうか。ブラジルの新聞「オー・エスタド・デ・サンパウロ」によれば,主要な原因の一つは輸血である。都市部に移り住み,血を売って食物を買うお金を手に入れる,病気に感染した農村部の人々から汚血が集まって来る。医療関係者にとって供血者をふるいにかけて病気を検出するのは難しい。シャガス病は,心拍の障害,炎症反応などを引き起こし,死に至ることもある。
□ イタリア,アレッサンドリアの一病院は,ウイルス性肝炎の48の症例を調査し,それらの病気の主要な原因(全症例の33%)が輸血にあると言えることを突き止めた。イタリアのウイルス性肝炎8,604件に関する最近の一研究によれば,57%以上は輸血に原因があったと「ミネルバ・メディカ」は伝えている。
「戸惑いを覚える新しい世代」
「何でも許容する子育て理論は,戸惑いを覚える親と,同じほど戸惑いを覚える新しい世代をあとに残した。何が間違っていたのだろうか」と,スイスの新聞「ディー・ベルトボッヒェ」は問いかけている。それに加え,児童心理学と子供のしつけの専門家で,スイスのウィンタートゥール出身の著述家レナート・ビスチオニは,子供の行動に新たな側面が見られることに言及した。つまり「自己中心的で高圧的,気難しく,子供じみた行動を押し通し,わがままばかり言っている,という恐ろしい傾向」である。このように,道徳上の限界を子供に教えないことは幸福のかぎとなってはいない。この著述家は次のような結論を述べている。「今日,思いやりを持ち公平であるよう[子供たちに]教え,一定の形式の精神面での修養,それに行儀作法に関する修養を身に着けさせることは緊急を要する」。
母親は良い教師になる
教育者たちは子供たちが保育園へ行くよう親に勧めているが,その習慣に最近ある研究が難題を突きつけた。「幼児の学習」という本の中で,著者のバーバラ・ティザードとマーチン・ヒューズは,4歳の英国人の少女30人の会話を分析している。この二人は,子供たちが保育園にいる時より家で元気な会話を行なうことを発見した。さらに,子供たちは家にいる時のほうが自由に話す。保育園で大人と話すのは1時間につき10回にすぎなかったが,母親と話すのは1時間につき27回だった。家で一対一で教えることは,保育園で集団的に教えることよりも勝っていた。それらの著者は結論として,幼い子供の教育環境は,典型的な保育園より,典型的な家庭のほうがはるかに良いと述べている。
「静粛に」
大きな音の音楽にいらいらさせられると,暴力行為へと発展することがある。ニューヨーク市ブロンクス区の公園にいたある男の人は,携帯用大型ラジオを消すよう持ち主に言っても断わられたので,そのラジオを銃で撃とうとして4人にけがをさせた。ニューヨーク・タイムズ紙上でジェームズ・クランダーは,自分は「そんなに野蛮なことは」しないと思うが,「自分もそのようなラジオに弾をぶち込みたくなることがしばしばある」と書いている。この事件が起こる前,また一般の人々からの激しい抗議があったため,ニューヨーク市は市内の海岸の幾つかの地域と,セントラルパークのシープ・メドーの部分を“ラジオ禁止区”に指定した。「私としては……周囲の騒音を減らし,静粛にさせるための動きを喜んでいる」とクランダーは書いている。
世界最大の航空機墜落事故
この8月,単独事故としては世界最大の航空機墜落事故が起こり,520人の人命が奪われた。その飛行機は連絡道路のない山地に激突したが,奇跡的に4人の人が生き残り,記憶をたどりながら機上での経験を直接に語った。救援隊が墜落現場に到着するまでに16時間かかった。航空会社の社長は深い同情心を示し,遺族の前に謙遜に頭を下げ,当人の言葉を借りれば,「心から」謝罪した。同社長はまた辞意を表明した。
まだ商売をやめない
「[オーストラリアの]パークレアにある最高の脱走防止装置が設けられている超近代的な刑務所で,独自の20㌦紙幣を印刷している一群の受刑者が発見された」と,シドニーのサン-ヘラルド紙は伝えている。この受刑者たちは偽の結婚証明書,運転免許証,出生証明書なども印刷しており,1台の電話を利用できた。出所した仲間たちは,電話番号を以前の雇用者のものと偽って幾つもの会社をだましてきた。電話をかけてきた数社には,顧客となろうとしている人は安全融資先であるとの保証が与えられた。顧客が負債を払わないと,会社は再び電話をかけてくる。どのように対応するのだろうか。「申し訳ありません,こちらはパークレア刑務所です。番号をお間違えです」と言うのである。
法律に違反するための装置
ある人はこれを安全運転の助け,また警察のわなにはまらないための対抗策と呼び,警察は法律に違反するための道具と呼ぶ。それは,スピード違反の自動車を探知するために警察が用いる警察レーダーの存在を運転者に気づかせる目的で作られたレーダー探知器のことである。価格は100㌦(約2万4,000円)足らずのものから300㌦(約7万2,000円)を超えるものまであり,米国では今年200万個が売れるものとみられる。ある警部補は,「制限速度を甚だしく無視して運転している人たちは,ほとんど例外なくレーダー探知器を使っている」と述べている。
調子はずれの鐘
「オランダの尖塔と鐘楼の鐘のうち,三,四世紀もの間調子よく鳴ってきたというのに,ここ25年間で調子がはずれてしまったものが多くなっている」とサイエンティフィック・アメリカン誌は伝えている。なぜだろうか。酸性雨のためである。その記事はこう説明している。「[酸性雨]のために鐘が腐食し,金属が薄くなって鐘のピッチが下がってしまう。腐食は,大きな鐘より小さな鐘のほうが速く進み」,鐘楼の多くの鐘は「ますます不協和音をかもす」ようになっている。解決策はあるのだろうか。「解決策は,注意深く大きな鐘の内壁を削って音を下げることである」とその記事は述べている。政府は,必要な方法を決定すべくこの問題を研究中である。
80歳を超えた寿命
すでに世界一になっている日本人の平均寿命は,1984年に生まれた女の子の場合,80歳を超えた。男の子は74.5歳生きることを期待できる。しかしこのために,ある審議会が来たるべき老齢化集団を指して呼ぶ「長寿化社会」を管理することに関して懸念が生じている。現在のところ,65歳以上の人は日本人全体の10%だが,2020年までにはお年寄りが全人口の22%を占めるものと見込まれている。お年寄りがどのように活動的で快適な生活を送ることができるかということは,あと数年もすれば,解決しなければならない重要な問題となる。