世界展望
戦いの絶えない世紀
「この20世紀という血塗られた世紀には,これまでに207の戦争があり,推定7,800万の人命が失われた。これは19世紀中に出た死者の数の5倍を超えるものである」と,最近まとめられた「1985年の世界の軍事および社会保障支出」という報告の中で述べられている。「世界の諸国家の3分の2は,それだけで世界人口の97%を擁しているのだが,今世紀に少なくとも一つの戦争に参戦している。第二次大戦以来,暴力の度合いは強まっている」。事実,二つの世界大戦を勘定に入れなくても,第二次大戦後の40年間に戦争で死んだ人の数は,それ以前の40年間に戦死した人の数の4倍になっている。内戦,局地戦,また地域紛争の数はうなぎのぼりに増加してきた。近年,こうした紛争の原因として数えられるものの中で,宗教や民族の違いが新たな最高数に達している。1945年以来の戦争のほとんどは第三世界の国々が戦場となり,近代兵器によってどの地域も,どれほど離れていようと,戦場に近くなった。一般市民の死者数は急上昇した。「今や戦争は,戦いを行なっている者たちよりも非戦闘員の命を脅かすものとなっている」と,その報告の中で述べられている。
毒物の漏出
米国では過去5年間に毒物の漏出によって死亡した人が少なくとも135人,害を受けた人が1,500人,立ち退きを余儀なくされた人が20万人いた,と米国の環境保護庁は伝えている。危険な化学物質の漏出事故が毎年1,400件ほど起きている。同庁の推定によると,毎年約2,000人の人が毒物にさらされるためにガンにかかるという。これは,広く知られた1984年のインドのボパールでの惨事で死亡した人の数に相当する。「同様の災厄を防ぐ方法について多くのことが話し合われたが,ほとんど実行されていない」と,ニューヨーク・タイムズ紙は述べている。
犯罪におけるアルコールの役割
酒酔い運転の結果はよく知られているが,ほかの犯罪におけるアルコールの役割についてはどうだろうか。米国法務統計局が最近出した報告には,過失致死や,殺意はなかったのに殺人を犯して有罪になった者の68%,暴行犯の62%,殺人もしくは殺人未遂で有罪判決を受けた者の49%が事前に酒を飲んでいた,ということが示されている。全般的に言って,暴力事犯で有罪の判決を受けた者たちの54%は,不法行為をしたとき,「かなり酔っていた」,あるいは「ひどく酔っていた」ことを認めた。公衆の秩序を乱す行為や夜盗といった非暴力犯罪についても,有罪判決を受けた者の48%は犯行前にアルコールを飲んでいた。この調査の対象となった全国400余の刑務所にいる6,000人ほどの囚人は,その時に国内の地方刑務所に留置されていた22万3,000人余りの人々の代表であると言われた。
「供給過剰経済」
「全世界で,先進諸国も発展途上諸国も同様に,多岐にわたる業界の製造業者は,消費者が購入できる以上のものを生産し,新しい世界経済 ― 供給過剰経済 ― を作り出している」と,ニューヨーク・タイムズ紙は述べている。「1970年代の慢性的な不足に代わって過剰供給になってしまった。原材料の備蓄は増大し,工場は操業を短縮したり停止したりしており,膨大な数の失業者がいる」。結果として,多くの工業国では保護主義が一般的になり,第三世界の諸国家が自国の物を売ることはいよいよ難しくなっている。しかも,価格の引き下げを余儀なくさせられたため,これらの国は生産量を増やして収入の不足分を埋め合わせようとした。こうして供給過剰がますますひどくなった。
最低の率
現在,人口増加率が世界で最も低いのはヨーロッパである,とドイツの新聞「フランクフルター・アルゲマイネ」は述べている。1975年から1980年の間に,年間の増加率は,平均約0.8%だったのが,0.4%に下がった。人口問題の専門家は,この現象が続き,今世紀の終わりには0.26%になり,2025年にはゼロ成長になる,と予測している。一方,世界最高の増加率を維持しているのはアフリカである。1950年の2.1%から1980年の3.0%へ上昇し,2000年には3.1%に達するものと予測されている。全体的に見れば,世界人口はもはやかつての勢いで増加してはいない。今では1.7%の割合で増加しており,毎年8,000万ほど人口が増加している。
戦争という遺産
ベイルートの子供たちは,暗い,ゆがんだ人生に直面している,とメルボルンの「ウエスト・オーストラリアン」紙は述べている。今でも,よちよち歩きの子が,飛んで来る砲弾と飛んで行く砲弾の違いや,種々の砲火の違いを告げることができる。「この子たちが大きくなったらどうなるのか,自分を取り巻くありとあらゆる醜い状態にどう対処するのか,考えさせられてしまう」と,ベイルートの保育園に勤めるアイマン・カーライフは述べている。「防空壕,爆発,戦闘,停電,水不足などが子供同士の会話の中心になっている」。彼女が世話している三,四歳の園児の好きな遊びは,砲弾が近くでさく裂したかのように行動する“戦争ごっこ”である。年長の若者も影響を受けている。20歳の大学生,ガージ・サッバーは,「砲弾の音が聞こえなければ眠れない」という。それで彼は,戦闘が中断しているときに眠るために,迫撃砲,砲火,手投げ弾の音を録音したものをかけるようにしている。
たばこに対するより強い警告
米国で1966年に出された最初の警告は,「たばこの煙は健康を害するかもしれない」というものだった。1970年の2番目の警告は,健康にとって確かに危険である,となっていた。そして1986年,たばこの箱には,米国公衆衛生局長からの四つの新しい警告が載せられることになる。すなわち,たばこの煙には一酸化炭素が含まれている,ガン・心臓病・肺気腫を引き起こす,胎児に悪影響を与えたり,つわりがひどくなったりする,今たばこをやめれば,このような危険を大いに減らせる,という警告である。それぞれ具体的な危険について述べるこの新しい警告は3か月ごとに変えられる。情報に通じた一般の人々が納得して喫煙をやめること,あるいは喫煙を始めたりしないことが期待されている。
腱“工場”発見
米国イリノイ州シカゴにあるノースウェスタン大学の研究者たちは,体の腱を作る“工場”を突き止めた。彼らは,100万倍の倍率の電子顕微鏡を使って細胞の中をのぞき,腱を作り上げるタンパク質であるコラーゲンを製造するリボゾームを見いだした。ロープのように3本のタンパク質の糸がねじれ合ってできているコラーゲンは,骨と筋肉をつなぐその強さを腱に与えるものとなっている。ロンドン・タイムズ紙は,タンパク質の糸が作り出され,より合わされる様は,「これまでに発見された細胞の組み立ての中で最も複雑なもののように思われる」ということを伝えている。
危険な仲間
たばこを吸う人と一緒に生活したり働いたりすると,健康を危険にさらすことになりかねない,と「国立ガン研究所ジャーナル」に発表されたアメリカ・ガン協会の新しい研究論文は述べている。研究者たちが,たばこを吸わない女性で肺ガンにかかっている134人から成るグループを分析した結果,たばこを吸わない女性で他の人の吸うたばこの煙にさらされる人は,煙にさらされない女性よりも10ないし30%肺ガンにかかりやすくなる,ということが分かった。肺ガンにかかる危険性は,たばこを吸わない人がさらされる煙の量に比例して大きくなる。「1日に少なくとも20本のたばこの煙にさらされる……女性は,全く煙にさらされない女性よりも危険性が2倍も高くなることが分かった」と,その報告には記されている。
仏教徒のためのジャズ
幾世紀もの間,仏教寺院は,静かに黙想するための平穏な聖域だったが,今では一風変わった副業をしている寺もある。例えば,京都の浄徳寺では週に三晩ジャズ音楽が鳴り響く。アサヒ・イブニング・ニューズ紙によれば,寺の住職は,「レオタード姿の若い女性の体が寺の中で跳ね回っているのを快く思っている」と述べているが,「ジャズの伴奏で経を読むのは容易ではない」ことを認めている。ほかに,ポピュラー音楽や喜劇や“一日尼僧”といった新手を用いて人々を引きつけようとする寺もある。
不十分な技量
乳房に生じる腫瘍を発見する技量テストに志願した80人の医師の成績はよくなかった,とアメリカン・ヘルス誌は伝えている。3ないし13㍉の大きさの異なる,柔らかいものから固いものまで種々の塊が,シリコンでできた乳房の中に埋め込まれた。最も大きな塊は首尾よく発見できることが多かったが,どの医師も平均して塊の44%を見つけたにすぎず,一人の医師は17%しか発見できなかった。内科医の成績が最もよく,婦人科医の発見する数が最も少なかった。医師の多くは,そのような診察の訓練を十分に受けなかったと語った。重要な要素は,乳房を診察するのに費やした時間であった。専門家は,早期発見,すなわち腫瘍がまだ小さいうちに見つけることが最善の防御策であると言う。医師の診察に加えて毎月自分で診察することが勧められている。最も小さい腫瘍は,その周りの組織のほんのわずかな部分だけしか影響を受けない腫瘍除去手術によって取り除くことができる。
自動車発見機
米国では1984年中に100万台以上の自動車が盗まれた。米連邦捜査局の記録によれば,盗難車のうち発見されるのは全体の半分にすぎない。この事態に動かされて,マサチューセッツ州のある会社は,警察が盗まれた車を捜し出すことを可能にする,黒板消しほどの大きさの電子装置を開発した。1年間テストが行なわれたが,この装置を取り付けたほとんどの車は,10分以内にその位置が突き止められた。盗難が報告されると,中央のコンピューターにより,その小型電子装置が作動し始め,それはパトカーに搭載された追跡装置が半径8㌔以内でキャッチできる信号を発信する。また,盗難車を見分けやすくするため,コンピューターは盗難車の年式,型式,色,登録番号を警官に知らせる。この装置は車内のほとんどどこにでも,座席のクッションの中にでも取り付けることができる。