若い人は尋ねる…
聖書はわたしに当てはまるだろうか
「君の話なんか聞きたくない」と,その青年はどなりました。グレースが向きを変えて帰ろうとすると,青年は洗面器の汚い水を全部彼女に浴びせました。グレースは一瞬硬直しましたが,やがて気持ちを和らげ,静かに立ち去りました。
しかし,攻撃されたのに,そのように応じた,この若い女性は愚かで,恐らく意気地がなかったのではないでしょうか。報復すべきだったのではないでしょうか。グレースは,「すべての人に対して平和を求めなさい」という聖書の助言に勝るものはないと考えています。(ローマ 12:17,18)では,腹立ちまぎれに仕返しをしないで聖書に従った結果,どうなったでしょうか。あとでお話ししましょう。
ナイジェリアに住む,リディアという16歳の女学生は,「男の子を追い回し,生物学の先生と寝た」級友の話をしてくれました。その少女は,性の不道徳を避けなさいという聖書の助言などは自分には当てはまらないと思っていたようです。(コリント第一 6:18)そして多分,若い人は自分のしたい事を自由にさせてもらうべきだと考えていたのでしょう。しかし,この少女の行為はどんな結果をもたらしたでしょうか。
グレースや,リディアの級友の経験から,次のような二つの重要な疑問が生じます。つまり,聖書は今でも当てはまるでしょうか。それとも,幸福に暮らすには,現在の社会の教えや生き方のほうが勝っているでしょうか。
現代の基準
種々の“解放”運動や“新しい道徳”のことを考えてみましょう。そのいずれも,性関係は結婚した男女,すなわち夫とその一人の正式の妻との間だけに限られるという聖書の律法を退ける考え方です。(コリント第一 7:1,2)その結果,社会的な態度に大きな変化が生じました。性的乱行は増え,同性愛者や売春婦は社会的に認められることを要求して,今や自分たちの生き方を隠そうともしません。結婚せずに,同棲するだけの若い男女もいます。しかし,そのような人々はみな,より良い家族生活を営んでいるでしょうか。そのために,あなたの住んでいる地域社会の人々の生活の質は向上したでしょうか。
何でも許容する十代の若い人々にはどんなことが生じ得るかを示す次の例をよく考えてください。リディアの級友は,生物学の教師で,妻のある男性の子供を宿し,学校生活も家族生活も台なしにしてしまいました。そのほか,違法の中絶をしようとして死んだ人たちもいます。十代の若い人たちや胎児の死,性交によって感染する病気の伝染,家族生活の崩壊など,今日の社会の人々の人生観の生み出した実は良い実と言えるでしょうか。
恐らく,同様の疑問を抱かせる他の事態についても考えられるでしょう。例えば,20世紀になって,聖書の権威を退ける進化論や無神論のような教えが人気を得るようになりました。しかし,同じ20世紀に生じた戦争や暴力行為や不穏な状態を考えると,それらの教えはより良いものを提供してきたと言えるでしょうか。実際,人間は自分たちの人生観や見解を絶えず修正しています。社会一般の教えが捨て去られることも珍しくありません。ですから,聖書を不用なものとして退けるのは,何と愚かなことでしょう。
導きが必要
人間の考えがもたらした残念な結果をどう説明したらよいでしょうか。一つの点は人間が不完全だということでしょう。人間の考え方も計画も完ぺきではありません。「自分の歩みを導くことさえ……その人に属しているのではありません」と,聖書が述べているとおりです。(エレミヤ 10:23)確かに人間は,最高の源,すなわち神からの指導を必要としています。神はいないと言う人々もいますが,そのような人々の考えがいかに信頼できないものかが分かるので,そのような主張を信頼することなどとてもできないのではないでしょうか。一方,神は人間の創造者であられ,歴史を通じて人間を観察してこられたので,人間の造りを完全に知っておられます。わたしたちを導く資格を神以上に備えた人など考えられるでしょうか。神はわたしたちに,「わたし,エホバは,あなたの神,あなたに自分を益することを教える者」と言っておられます。(イザヤ 48:17,18)では,神はどのようにわたしたちを教えてくださるのでしょうか。
導きとして神が備えておられるもの
聖書はわたしたちに対するエホバからの書簡のようなものです。(テモテ第二 3:16)聖書では実際の人々のことや,わたしたちが抱えているような問題が取り扱われています。聖書は神が人間をどのように,またなぜ創造されたかということや,人間はどうすれば最善の生き方ができるかということを述べています。エフィク語aを話すエヨという16歳の若者もそのことを高く評価して,次のように言っています。「聖書は,若い人に当てはまる,過去の時代の事柄から得られる助言を与えています。その助言は人を束縛するように思える場合があるかもしれませんが,それは確かに,自分を傷つけたり,自分と神との関係を損なったりする恐れのある事柄を行なわないように,私を助けてくれます」。リディアもエヨの言葉に同意し,「聖書は若い人々に正しい振る舞い方を教えてくれます。私には,聖書の助言に従っている若い人と,そうでない若い人との違いが分かります」と付け加えています。
これらの若い人たちは,健全な人格を培うには助けが必要ですし,また実際にそのような助けを受けていると考えています。さらに年上のニコラスとリチャードというナイジェリア人の二人の若者も,エヨとリディアの考えを支持して,「僕たちは経験がありませんし,堕落した世の中で生活しています」と述べ,「エホバは今日のいわゆる賢人よりも多くのことをご存じです。エホバの助言に従うなら,あとで後悔するようなことはありません」と語っています。この言葉は,「わたしの道はあなたの道より高く,わたしの考えはあなたの考えより高い」というエホバご自身の保証の言葉を反映しています。(イザヤ 55:9)最高の知的存在者の考えによって導かれるのは賢明なことではありませんか。
あなたも益を受けられる
さらに聖書の価値を示すよい例として,聖書で取り扱われている人々や状況を少し調べて,聖書が与えている有益な助言を考えてみましょう。
創世記には,ヤコブの娘で,愚かにもカナン人の娘たちと友達になったディナのことが述べられています。それらの娘たちは,ディナと違って,エホバを崇拝していませんでしたし,ディナの家族の道徳規準に従って生活していたわけでもありませんでした。ディナはほどなくして,カナン人のある若者の目に留まりました。その結果,どうなったでしょうか。その若者はディナを力づくで犯したのです!(創世記 34:1-7)この事から学べる教訓が分かりますか。聖書は適切にも,不道徳な人のそばから「あなたの道を遠ざけよ」,「淫行から逃げ去りなさい」,「悪い交わりは有益な習慣を損なう」と助言しています。(箴言 5:8。コリント第一 6:18; 15:33)リディアの級友に起きたことを思い出してください。一方,リディアは聖書の助言に従ったので,学校で人間としての品位と道徳的清さを保ち,他の生徒から敬意を受けました。
アダムの長子,カインのことも考えてみましょう。カインは,弟のアベルが好意を受けたのをねたんで,アベルを勝手に襲って殺してしまいました。しかし,エホバはそれ以前に,カインがその悪い傾向を『制し』ないなら重大な罪を犯す恐れがあると警告しておられました。カインは自分の願望を強引に押し通し,神の助言を無視しました。(創世記 4:1-16)今日の若い人たちはカインと大きく異なっているでしょうか。あなたの知っている人の中には,アロジエのような若者がいるかもしれません。ナイジェリア人のその若者は,聖書を研究する機会を避けました。聖書の影響力が生活に及んでいなかったので,別の若者から襲われたとき,やり返しました。そのためけんかになり,割れた瓶の鋭利な部分で重傷を負わされてしまいました。聖書の助言に従っていたら,事態はもっと良くなっていたのではないでしょうか。恐らくそうだったでしょう。この記事の冒頭で述べたグレースの場合,物事は良いほうに運びました。
グレースはナイジェリアの自分の町で家から家に訪問しながら,人々と聖書について話し合っていた時,例の若者から水を浴びせられました。ところが,その若者は自制心を働かせたグレースに深い感銘を受け,グレースのあとを追いかけて来て謝罪し,許しを求めたのです。グレースは,その青年がエホバの証人と聖書を研究する取り決めを設けました。今ではその青年もクリスチャンになっています。確かに,自分の感情を『制する』ことのできる人は強い人で,そのような強さは身の守りになります。
しかし,以上の事柄は,聖書から得られる益の二,三の例にすぎません。聖書は確かに今日でも当てはまるもので,その中には,あなたのために記されている助言がたくさんあります。それに,人は自分自身の独立の道に従いたいと思えば,そうすることを選べますが,神の指導に従うほうが賢明だということを聖書は明らかにしています。神の指導に従うなら,『あなたの体から災いを払いのける』ことになるでしょう。その災いには,性交によって感染する病気や,けんかをして被る危害,その他の不快な事柄も含められるでしょう。―伝道の書 11:9-12:1。
ですから,聖書を生活の導きにしてください。『若さに伴いがちな欲望から逃れ,清い心で主を呼び求める人々と共に,義と,信仰と,愛と平和を追い求めてください』。そうすれば,現在健全な生活をするという祝福を,また将来には永遠の命という祝福を得ることができます。―テモテ第二 2:22; 3:16,17。テモテ第一 4:8。
[脚注]
a エフィク語はナイジェリアで話されている言語の一つ。
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ディナの取った愚かな道は悪い結果をもたらした。聖書の導きに従って得られる実は,それが最も賢明な道であることを示している