特別な望遠鏡が太陽の秘密を明らかにする
しばらく砂漠の暑さから逃れようと一日休みを取り,米国ニューメキシコ州南部の涼しいリンカーン国有林にピクニックに行った時のことです。ニューメキシコ州のクラウドクロフト市に近い,サンスポットのサクラメントピーク天文台への道を示す標識が目にとまりました。私たちは好奇心をそそられ,車でサンスポットに向かいました。
私たちの小人数のグループの中で,標高2,800㍍という高さに慣れている人は一人もいませんでした。ですから,不思議な形をした建物の先端に収められている望遠鏡を見学しようと細い道を上った時には,みんなが息を切らしました。私たちはドームのある建物を予想したので,ヒルトップドームを見た時には,果たせるかな,と思いましたが,訪問者が中に入ることは許されませんでした。そのとき,不思議な感じのする建物を見ました。
その高い建物は基部が狭く,三角形をしており,地上に突き出ていました。訪問者はそこに入ることができました。(次のページの写真をご覧ください。)程なくして私たちはある研究室にいましたが,そこには,頭上高く,塔のようなその建物の頂の支点から吊り下げられた長い望遠鏡が収められていました。台の上に乗って望遠鏡のバランスをくずさないように,という警告の標示がありました。
太陽を「静止」させる
小さな応接室には,現在研究されている事柄を説明した,色刷りの図が掲示されていました。この建物群がもっぱら太陽の研究のために用いられていることを知って興味深く思いました。そこで働いている科学者の一人に,ここで実施されているのは,太陽からエネルギーを得る方法を学ぶための研究計画なのかと尋ねたところ,そういう研究ではなく,太陽と,太陽が地上の大気および太陽系の宇宙に及ぼす影響に関する情報を収集するための基本的な研究計画だと説明してくれました。科学者たちは,太陽の表面を常に観測することにより,太陽の内部の研究も行なっています。
案内者の説明によると,天文台がここに設置されたのは,山地の乾燥した空気と,汚染されていない環境が良い立地条件になったためです。この天文台は1951年に設立されたもので,米国で建造された,もっぱら太陽の研究のために用いられるその種の天文台の草分け的存在です。近くの図には,大きなこの塔が地上約41㍍の高さに突き出しているものの,望遠鏡のさらに59㍍の部分が地中に埋められていることが示されています。ですから,望遠鏡の全長は100㍍になります。これはフットボール競技場の長さに匹敵します。望遠鏡の筒の中はほとんど完全な真空状態なので,太陽光線が中に差し込んでも,熱せられた空気によって機材にひずみが生じることはありません。そのため,際立って明確な像が結ばれ,研究者たちは太陽の表面に関する優れた映像を得ることができます。
望遠鏡はその全体(重量は250㌧余り)が,水銀に浮かぶ支点から吊り下げられているため,地球の自転に影響されないよう自在に回転することができます。そのようにして望遠鏡を太陽の方角に長時間向けておくことができるので,太陽はこの望遠鏡との関係において事実上「静止する」ことになります。この望遠鏡の目的は,太陽の表面,つまり光球,また太陽大気の低い部分,つまり彩層のどんなわずかな特色をも観測し,それを写真に撮ることです。
グレイン・ビン・ドーム
車に戻る途中で,丸いサイロのように見えた不思議な建物を通り過ぎました。確かにそれは丸いサイロでした。それはグレイン・ビン・ドームと呼ばれ,この天文台ができて間もないころ,シアーズ・ローバック社から購入したもので,サンスポットの最初の望遠鏡を収めるために手が加えられました。当時は宇宙旅行が計画され,とりわけ太陽の異例な活動が障害を生じさせるようなときに太陽が地球の大気にどんな影響を与えるかについて,情報が必要とされていました。
その後1957年に,アリゾナ州トゥーソンのキットピーク国立天文台,チリのラセレナ市にあるセロトロロ・インター・アメリカン天文台,メリーランド州ボルティモアにある宇宙望遠鏡科学協会などと関連のある非営利の団体,AURA(天文学研究のための大学協会社)が組織されました。AURAは,科学者と情報とを分け合えば,すべての人が太陽に関する理解を深められると考えました。私たちは,孤立したこの天文台が,地上のさまざまな部分と関連していることを理解できるようになりました。
震える太陽
主任研究員のバーナード・ダーニー博士が,太陽に関する幾つかの質問に丁寧に答えてくれました。その説明によると,彼は太陽震動学の分野を研究しているそうです。それがどういうものなのか,私たちには説明が必要でした。その研究はそこサクラメントピークで始まったようです。彼はこう説明しました。「太陽は太陽軸を中心に自転しているだけでなく,他の多くの面でも動いています。それは,太陽の表面を絶えず観察したり,生じる変化を見たりして研究できます。そうした変化から,太陽の内部で生じていると思われる事柄について考えを公式化し,それから自分の考えを確証する,もしくは反証する研究を計画することができます」。
主任研究員の話は続きます。「1970年ごろ,太陽の震え,つまり揺れが予言されました。それは大きな鐘が鳴るときに生じる揺れ,つまり振動によく似ています。池に小石を投げると,衝撃の加えられた点から水の輪が池に広がり,その池の水面全体にどのような影響があるかという例えで考えることもできます。異なっているのは,太陽の場合,波は太陽内のあらゆる方向に広がるということです」。
この振動の震源の深さは異なっており,表面のすぐ下の場合もあれば,内部の深い場所の場合もあるようです。この研究によって,太陽があたかも呼吸しているかのように,約1時間に一度,わずかながら膨脹し,次いで収縮することが分かっています。研究者が太陽のこうした動きを初めて見たのは,1975年のことでした。1976年にはソ連の科学者たちからも,太陽の表面の上昇と下降が報告されています。a この振動は1979年から1980年にかけて初めて確証されましたが,サクラメントピーク天文台もその確証に一役買いました。
ダーニー博士の話は続きます。「実際,太陽にはいろいろ変わった動きが見られます。太陽上にあるものはすべてガス状なので,太陽の表面には,他の部分より速く自転できる部分があります。……ここサンスポットの天文台で行なっているように,絶えず太陽を観測することによって,太陽の内部がどのように自転しているかを確認することができます。……太陽は赤道部分のほうが速く自転しているので,その表面では混合が多く起き,それによって奇妙な現象が幾つも生じます。この異例な動きが太陽内部の深いところに磁場を生じさせ,その磁場が表面にまで上ってくるのです。太陽の黒点はその磁場の表われです」。
昼も夜も太陽を観察する
ダーニー博士はこう説明しています。「太陽の表面で生じている活動と変化をくまなく見るためには,太陽を絶えず観察することが本当に必要です。地球は毎日自転しているので,地上の一箇所でこれを行なうことは不可能です。ということは,地上の各地に太陽を観測する天文台が必要になるということです」。
今のところ,これは不可能ですが,ダーニー博士の話によると,1980年から1981年にかけて,サクラメントピークで働く科学者たちが何人か南極へ行き,3か月ずつ3回,太陽を観測しました。南極では太陽が3か月間沈まないので,1台の望遠鏡で昼も夜も続けて観察できるのです。この情報収集に,地上の非常に多くの場所が関係していたことを聞いて,興味深く感じました。科学者たちはいつの日か太陽の振動すべてを分類し,それを解明し,太陽の内部で生じている事柄を理解できる日が来ることを待ち望んでいます。研究者たちは,それを実行するための世界的な観測用ネットワークを設けることを予定しています。
太陽のフレアとコロナ
次に,「このサクラメントピークでは,ほかにどんなことを研究しているのですか」とダーニー博士に質問してみました。博士は太陽のフレアについて話してくれました。「太陽の表面から宇宙空間に向けて何百万キロもの高さに燃え上がるこの巨大な炎(フレア)から,粒子が放たれます。この粒子が地上に達すると,無線通信は混乱します。また,太陽からは,太陽風と呼ばれる粒子の流れが絶えず吹き出しています。この風によって太陽の表面の自転は遅くなり,それが今度は太陽内部の深いところの自転に影響を与え,結果として,太陽の年齢が進むにつれ自転が次第に遅くなってゆきます。表面の動きが抑えられる結果,太陽の内部でどんな反応があるかということも,私たちがここで行なっている研究の一つです」
この天文台で行なわれているもう一つの研究は,太陽コロナの写真を毎日撮ることです。それらの写真からは,太陽の周囲の温度が毎日どれほど変化しているか,はっきり分かります。太陽から高温が届く距離を示した図表が準備されていて,内容は毎日変わり,宇宙飛行士のために有用な情報を提供しています。
太陽の重要な役割
生物が地上で生き続けるには,太陽からのエネルギーが必要です。それはわたしたちに,わたしたちの視界に,また地上の動植物に影響を与えます。1979年に発表されたある研究によれば,22年周期で起きる米国西部の干ばつと,約22年の周期で生じる太陽黒点には,幾らか関係があるらしいことを示す証拠があります。太陽の活動と,太陽が天候にどんな影響を及ぼし得るかということに対する関心が高まっている理由の一つは,そこにあるのです。
1950年代,サクラメントピーク天文台は,太陽定数を決めるのに貢献した最初のグループの一つとなりました。太陽定数とは,宇宙内における,太陽から地球までの距離にある物体に達するエネルギーを表わす数字です。恐らくもっと重要なのは,太陽定数がどのように変化するかということでしょう。
黒点は太陽に関する一段と興味深い面の一つであり,地上のわたしたちに影響を与えます。黒点を最初に観察したのはガリレオでした。後日,黒点の1周期は11年続くことと,黒点の完全な周期は,黒点の活動に関連した11年続く二つの期間から成ることが確認されました。ダーニー博士が説明したとおりです。「黒点は磁場です。それが暗いのは,エネルギーを伝達する運動を阻止するからです。太陽の表面にあるそれらの磁場の消滅によって,フレアが生じるものと考えられます。フレアは莫大な量のエネルギーを放出するので,電波障害を起こしたり,地上の大気の一部を帯電させたりして,わたしたちに影響を与えます。さらにこのエネルギーによって,北極光と南極光,つまりオーロラと呼ばれるものが生じますが,オーロラはいつの時代も人類にとって一つの不思議でした」。
太陽の研究は,黒点の活動が見られる時に地球の大気に生じ得る地磁気のあらしを予言するのに役立つ場合があります。この現象は世界の通信に影響を与え,その結果として,飛行機旅行のような,無線通信の良好な状態に依存している活動にも影響が出ます。人工衛星による送信は高くつくため,大半の通信は今も地上の無線通信機を用いて行なわれています。黒点から放出されたエネルギーは,地球を取り囲むイオン化した粒子 ― これが無線の電波を地球に反射させている ― の電子の殻を混乱させますが,この殻が機能しなくなると,無線の音信は伝わらなくなります。
太陽の光に関しては,さらに知るべきことがあります。わたしたちの食物を生産する植物が食物中の糖分や他の化学物質を作り出すには,どうしても太陽の光が必要です。太陽の光によって生じる光化学的な反応のおかげで,わたしたちは白黒写真も,カラー写真も撮ることができます。ですから,わたしたちに最も近い恒星について学べることすべてを学ぶのは,多くの人にとって賢明なことのように思えます。
短い時間ながらサンスポットを訪ねて,また専門家と話をして,太陽に関する私たちの知識は非常に限られていることに気づかされました。わたしたちのほとんどは,寒い冬の日には太陽に感謝しても,夏の間は,こんなに暑くなければいいのにと思うだけで終わってしまいます。私たちは太陽に関するより専門的な面をかいま見て,うれしく感じました。そして皆で,次のように結論せざるを得ませんでした。人間はやっと,わたしたちに恩恵を与える恒星である太陽の不思議を理解し始めたに過ぎないのです。―寄稿。
[脚注]
a ソ連には,シベリア東部のイルクーツクを拠点とする,立派な太陽研究機関があります。ここには,日の出から日没まで,太陽の動きと同じ速度で太陽を追跡する256本のアンテナから成る,世界で最も強力な太陽電波望遠鏡があります。
[24ページの囲み記事]
太陽の温度は何を意味するか
ジョン・ラブロウスキー著「太陽の命と死」と題する本は,その59ページと60ページでこう説明しています。「温度の意味について理解すべきことがある。温度には2種類あって,一つは“運動温度”,もう一つは“放射温度”と呼ばれる。運動温度は,粒子の平均的な分子運動を測定する尺度である。この運動が速ければ,それだけ温度は高くなる。我々は太陽大気の温度について語る時,この運動温度のことを言っているのである。それで,太陽大気内における粒子の運動の平均速度は,光球から上へゆくほど高くなる,と我々は言っている。それらの粒子は何百万度という高熱を帯びているが,人間の皮膚に水ぶくれを生じさせることはない。
「一方,放射温度は,物質から発せられる放射エネルギーの量と質を測定する尺度である。我々は太陽内部の奥深い場所の温度について語る時,その意味でこの語を用いている。炎の温度も,放射温度である。
「しかし,太陽大気について語るときには,この放射という意味で温度の概念を用いることはできない。もしコロナの温度が放射温度で[摂氏]100万度だとしたら,太陽大気はあまりにも明るくなり,光球を見ることはできないであろう。実際,もしそれほどの温度になれば,太陽大気から発せられる放射エネルギーはあまりにも膨大で,太陽から最も遠い惑星である冥王星でさえ,炎熱のために蒸発してしまうであろう。太陽大気の温度が放射温度ではなく,運動温度であるのは,我々にとって良いことである。
「これは,太陽大気から放射エネルギーが全く発せられないという意味ではない。そこからは大量の放射エネルギーが出されるばかりか,極めて特殊な種類の放射が行なわれている。コロナの最上部からは,X線と幾らかの可視光線,下部からは,紫外線が発せられている。この放射は,地上の大気のさまざまな層を生み出すため,地球にとって非常に重要である」。
[25ページの囲み記事/図]
太陽 ― 地球の恒星
太陽はわたしたちの地球に,命を支える熱と光を供給する巨大な炉です。おもに水素ガスでできたこの膨大な球は余りにも大きいため,地球を100万個以上入れることができます。しかし,恒星全体の中では,最大級の部類には入りません。科学者たちはこのエネルギーの源が精緻を極めていることに気づき始めています。例えば,「可視光線の大半は,厚さわずか100㌔ほどの光球内の領域から出ている」のですが,太陽の半径は69万6,265㌔と算定されています。―イアン・ニコルソン著「太陽」。
太陽の造り
中心核 ― 太陽の中心にある,原子エネルギーの“燃える”部分で,最高温度が観測されている。
放射層 ― 中心部のエネルギーは放射により,ガンマ線およびX線としてこの部分を通る。
対流層 ― 比較的温度の低い部分で,放射帯から来たエネルギーはこの部分を対流によって移動する。
光球 ― 事実上,太陽の光はすべて,太陽の表面のように見えるこの場所から出ている。ある程度透明であり,「数百キロの深さまで観測できる」。(「太陽」)温度は摂氏約6,000度。
彩層 ― 皆既日食の時にしか見られない。厚さ数千キロの希薄なガスの層だが,光球よりも温度は高く,摂氏約1万度に達する。
コロナ ― 皆既日食の時にしか見えない。その時には,非常に高くまで延びる羽毛,もしくはリボンのように見える。温度は極めて高い。
[図](正式に組んだものについては出版物を参照)
彩層
光球
対流層
放射層
中心核
[クレジット]
From a sketch by National Optical Astronomy Observatories
[23ページの図/図版]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
鏡(地上41㍍)
地平線
真空の管が回転する(250㌧)
59㍍
地下67㍍
[クレジット]
From a sketch by National Optical Astronomy Observatories
[26ページの図版]
太陽の紅炎(プロミネンス)
[クレジット]
Holiday Films
[26ページの図版]
黒点
[クレジット]
National Optical Astronomy Observatories