火災が人込みを襲うとき
公の催しを主催する側にとって,火災という言葉は実にいやな言葉です。毎年,火災が原因で幾千幾万という人が死亡したり重傷を負ったりしています。特に危険が大きいのは,閉ざされた場所に大勢の人が集まるときです。コンサートや演劇や会議など,大きな集まりの責任者は,火災の危険を最小限にとどめるために何ができるでしょうか。また,そういう人込みの中にいる人は,どのように安全を心がけることができるでしょうか。実際に火災が発生したときは,どうすれば助かる見込みが高くなるでしょうか。
これらの問題について幾らかの情報を得るため,「目ざめよ!」誌はアイルランドの消防関係者にインタビューしました。この人は消防署員の訓練を行なっており,火災に関して豊かな経験を持っています。
何かの催しに大勢の入場者が見込まれている場合,主催者側はどのように安全を確保できるでしょうか
最初にできることは,会場となる建物が安全かどうか確かめることです。まさかのときに,建物の中にいる人全員が迅速に避難できるだけの十分な数の出口がなければなりません。また,各々の出口ははっきりそれと分かるように表示しなければならず,出口の付近に障害物があってもなりません。すべての通路や階段は,いつでも障害物のない状態にしておく必要があります。非常ドアは外側に向かって,しかも簡単に開けられるようになっているべきです。
固定席のない建物の場合,席をどのように設けるかということが課題になるかもしれません。いすを並べる際には,地元の消防関係の法律に従うことが極めて重要です。係員や案内者は全員,非常時の対処の仕方をしっかり頭に入れておかなければなりません。安全管理の責任者は,消火器の設置場所をすべて把握し,その使い方を知っているべきです。火災が発生してから説明書を読むのでは遅すぎます。また,避難誘導を始めた後に,まずしなければならないのは消防署に連絡することですから,その点も理解しておいてください。
危険を少なくするため,そうした催しに集まる人たちにも,何かできることがあるでしょうか
もちろんあります。人はだれでも不慣れな場所にいるときのほうがパニックに陥りやすいものです。ですから,集まりが行なわれる建物の大まかな構造を頭に入れておくようにしてください。出口はどこなのか,非常ドアはどこにあるのか,覚えておきましょう。うろたえてはいけません。秩序を守ってください。与えられるどんな指示にも注意深く耳を傾け,それに従うことです。建物から出るときには,早足で歩きますが,走ったり押したりしてはいけません。
ただちに外に出る必要性は,どれほど強調しても強調しすぎることはありません。火がどれほど速く回るか,大抵の人は理解していません。もし年配の人や体の弱い人が困っているのを見かけたなら,助けてあげてください。いったん建物から出たら,出口付近からは離れましょう。あとから来る人の邪魔にならないようにするためです。また,外に出たら,もう大丈夫だと言われるまでは建物の中に戻ってはいけません。
親に対してはどんなアドバイスがありますか
大勢の人が集まっている所では,親自身が常に幼い子供と一緒にいるか,子供を責任の持てる年上の人に必ず預けるようにしてください。火災の発生した非常時に子供の居場所が分からず,取り乱して子供を捜し回る親は,あらゆる種類の問題を引き起こしかねません。
火災のときに危険なのは高熱だけですか
そうではありません。火災のときの死因は,煙と有毒ガスがほとんどです。有毒ガスが致死的なレベルに達してはいなくても,超高温の空気を吸うと,呼吸器系や神経系がやられます。そのため,そうした人は奇妙な行動に出ることがあります。煙が立ちこめているときは,ハンカチで鼻と口を覆ってください。そのようにしても有毒ガスから守られるわけではありませんが,吐き気を催させるようなもっと大きな煙の粒子を避けるのに役立ちます。
煙がもうもうと立ちこめているときは,自分の居場所が分からなくならないようにするため,壁のそばにいるようにしてください。壁が見えず,壁に触れることができないときは,壁に当たるまで一方向に進み,それから壁沿いにドアか窓を捜すようにします。また,煙の充満した部屋では,より呼吸しやすい空気は床の近くにあり,低い所のほうが視界もよいことを覚えておきましょう。
服に火がついたらどうしたらよいでしょうか
一番よくないのは走ることです。走れば火の勢いは強くなるだけです。むしろ,寝そべって転がってください。そうすれば炎を顔から遠ざけることができ,うまくいけば火を消すことができます。
最後に読者の皆さんに一言ありますか
皆さんが火災に決して遭わないことを望んでいます。それは恐ろしい経験です。しかし万一,火災に遭った場合でも,以上述べた幾つかの指針は役立つはずです。そして忘れてならないのは,火災の危険をまじめに受け止めることです。軽い気持ちで考えたり,冗談半分に考えたりしてはいけません。そういうものではないのです。
[20ページの拡大文]
ホテルに宿泊するときは,就寝前に最寄りの非常口の位置をいつも確かめていますか