家族はどのように助けになれるか
「1杯飲むと,もう1杯飲みたくなり,しまいには酒がその人を飲んでしまう」― 東洋のことわざ。
湿地帯の縁を歩いているとしましょう。突然足もとが崩れだし,あれよあれよという間にあなたは流砂の中に沈んでゆきます。もがけばもがくほど,深く沈んでゆきます。
アルコール依存症も同じように家族全体を呑み込みます。共同依存者である配偶者はアルコール依存者を変化させようとして必死にもがきます。愛するがゆえに夫を脅しますが,夫は飲み続けます。妻が酒を隠すと,夫はまた買ってきます。妻が夫のお金を隠すと,夫は友人からお金を借ります。妻は,家族や命,また神に対する愛にさえ訴えますが,うまくゆきません。妻がもがけばもがくほど,家族全体がアルコール依存症の泥沼に深く沈んでゆきます。アルコール依存者を助けるには,家族の者がまずアルコール依存症の性質を理解していなければなりません。“解決策”の中にも,まず間違いなく失敗するものがあることを知る必要があり,どの方法が本当に役に立つかを学ばねばなりません。
アルコール依存症とは単なる酩酊のことではありません。それは慢性的な飲酒障害のことです。アルコールに心を奪われ,飲む量をコントロールできないのが特徴です。ほとんどの専門家の意見では,アルコール依存症は治療不能ということですが,禁酒を一生の習慣にするならば,抑えることができます。―マタイ 5:29と比較してください。
この状況はある点で糖尿病患者と比較できるかもしれません。糖尿病患者は自分の病状を変えることはできませんが,糖分を避けることによって体に協力することができます。同様に,アルコール依存症の人は酒に対する体の反応を変えることはできませんが,アルコールを完全に断つことによって,自分の抱えている障害に協調することはできます。
とはいえ,これを実行するのは口で言うほど簡単ではありません。アルコール依存者は『そんなに重症じゃないよ』,『家族のせいでどうしても飲んでしまう』,『あんな上司の下で働いていれば,だれだって飲まずにはいられない』といった否定的な主張をすることにより,現実に対して目をつぶっています。依存者が非常に納得のゆく理由づけをするため,家族全員が一緒になって否定的なことを言うかもしれません。『一日の仕事が終わったら,お父さんにも息抜きが必要なのよ』,『パパにはお酒が必要なんだ。ママの小言をあんなに我慢してるんだから』。父親がアルコール依存症だといった家庭内の秘密は決してもらしません。「彼らが一緒に生活してゆくにはその方法しかないのだ。そのような家庭では,うそや言い訳や隠し事が空気と同じくらい当たりまえになっている」とスーザン・フォワード博士は説明します。
家族の者がまず流砂から出なければ,アルコール依存者をそこから引き出すことはできません。これに対して,『助けが必要なのはアルコール依存者であって,私ではない』と反論する人もいます。しかし考えてみてください。あなたの感情や行動は依存者の振る舞いにどれほど縛られているでしょうか。依存者の行動がもとで,怒り,心配,欲求不満,恐れを感じることがどれほどあるでしょうか。もっと重要な活動に従事すべき時に,依存者の世話をするために家にいることがどれほどありますか。家族の中でアルコールに依存していない者が自分の生活を改善する手段を講じると,依存者はそれに倣うかもしれません。
自分で責任を負うのはやめましょう。アルコール依存者は,『もっと優しくしてくれたら,酒なんか飲むことはないんだ』と言うかもしれません。「アルコール依存者は自分の飲酒の責任をあなたに転嫁するため,あなたがそのように信じ続けてくれないと困るのだ」と,カウンセラーのトビー・ライス・ドルーズは言います。そのような考えに乗せられてはいけません。依存者はアルコールだけでなく,自分が否定していることを認めてくれる人々にも頼ります。家族の者はそのようにして意識せずに依存者の飲酒を長引かせてしまうことがあります。
怒ることに関する聖書の箴言は,アルコール依存者にも同じように当てはまります。「彼に責任を取らせよ。あなたが一度彼を問題から救い出しても,再びそうしなければならなくなる」。(箴言 19:19,今日の英語訳)依存者自身に仕事を休む理由を電話で上司に伝えさせ,寝室に連れて行って自分の吐いたものを始末させてください。家族の者が代わりにそうしたことをすると,依存者が死ぬまで飲むのを助けることになるだけです。
助けを求めてください。家族だけで流砂の中から脱出するのは困難ですし,不可能かもしれません。援助が必要です。アルコール依存者の否定的な主張を支持しない,そしてあなたが現状のままでいることを望まない友人にしっかり頼ってください。
もしアルコール依存者が援助を受けることを承諾すれば,それは大変喜ばしいことです。それでも,回復の過程はまだ始まったばかりです。身体面でのアルコール依存は,体からアルコールを抜くことによって数日で抑えることができますが,心理的な依存に対処するのははるかに困難です。
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アルコール依存者のはっきりした特徴
心を奪われている: アルコール依存者は酒を飲む時が来るのを待ち遠しく思う。飲んでいない間は,アルコールのことを考えている。
抑制不能: 依存者はどれほど堅く決意していても,自分の意志とは違う飲み方をすることが多い。
頑固さ: 自ら課した方針(「独りでは決して飲まない」とか,「仕事中は絶対に飲まない」など)は,「酒を飲むことを何物にも邪魔させない」というアルコール依存者の本当の気持ちを覆い隠すものにすぎない。
耐性: “酒豪”と言われるほどとび抜けて飲めることはほめられたことではない。それはアルコール依存症の初期症状である場合が多い。
悪い結果: 普通の習慣は家庭や仕事や健康を台なしにはしないが,アルコール依存症は台なしにしてしまう。―箴言 23:29-35。
否定: アルコール依存者は自分の行動を正当化し,大したことではないかのように言い,弁解する。