世界展望
「不安定性の新たな要因」
東欧における新たな信教の自由は,その地域の政治的混乱に対してある程度の平和と調和をもたらしただろうか。「ルーマニア,ウクライナ,およびポーランドの東側国境沿いのローマ・カトリックとギリシャ正教会の僧職者たちは,教会の所有権をめぐって闘っている」と,フランスの新聞「ル・モンド」は伝え,さらにこう続けている。「しかし,その論争には非常に不合理なところがある。……ヨーロッパとカフカス地方にまたもや漂っている宗教戦争のこうしたきざしは,あらゆる国家主義的な運動と重なって,不安定性の新たな要因を生みだしており,良いきざしは何も見えない」。
1991年 ― 聖書にとって記録的な年
世界教会新聞社によると,1991年に「新たに……32の言語で聖書の少なくとも一つの書が発行され」,聖書の少なくとも一つの書が翻訳されている言語の総数は1,978に増えたことを聖書協会世界連盟の年ごとの「聖書言語報告」が示している。オランダの雑誌「ファンダール」によれば,1991年に100以上の国の聖書協会が世界中で1,600万部の聖書を販売した。これは新記録で,1990年に対して3.5%の伸びにあたる。旧ソ連(70万部以上)やルーマニア(約34万部),ブルガリア(14万部)向けの聖書の輸出でヨーロッパの聖書頒布数は34%増加し,アジアでは中国(約100万部)や韓国(180万部)への輸出で13%の増加が見られた。しかし同時に,アフリカでは10%以上,アメリカでは11%減少している。ファンダール誌はさらに,発展途上国では聖書の値段が1日の平均賃金と同じだとも述べている。
麻薬で汚染された地域
約10万人がヘロイン中毒にかかっているスペインでは,麻薬取り引きが都会の多くの地区に浸透し,悲惨な結果を生んでいる。マドリードの雑誌「カンビオ16」によると,状況が悪化していることは「すべての人が知っており」,「すべての人が苦しみ,だれもが解決策を待ち望んでいるが,それは出てきそうもない」。バレンシア市では,麻薬中毒者や麻薬の売人の増加があまりにも著しいため,何千人もの住民は環境が汚染されていることに対して毎晩のように抗議のデモを行なっている。ある住民は「カンビオ16」に,「公園に注射器がごろごろころがっているので,子供を公園で遊ばせることはできません。強盗は毎日のことです」と語った。同じようにエル・パイス紙も,マドリード郊外のあるスラムでは毎日のように発砲事件が起きていると伝えている。
魔女狩り
南アフリカ北部のベンダ地方の住民の多くは,人が自然に死ぬことはないと信じている。定期刊行物の「インジケーター南アフリカ」が伝えるところによると,死は魔術や先祖の霊の干渉によるものだと彼らは考えている。ところが,ベンダ地方の多くの若者は変化を強く望み,伝統的な信仰の根絶を決意している。そのため魔女狩りの波が起きている。「インジケーター南アフリカ」は次のように述べている。「人々の恐怖心が高まる中で,魔女と告発された者はだれでも,無実を訴えようが,その場ですぐに殺された。……1990年の3月は,魔術を行なっていると告発された人たちが毎晩のように火あぶりにされた月だった。幾つかの村では毎晩,魔女と告発された人が5人以上も焼き殺されたり家を追い出されたりした」。
武器貿易ブーム
「世界中の武器商人たちは武器貿易のブームに気をよくしている」と,英国のニュー・サイエンティスト誌は伝えている。何が原因で商売が繁盛しているのだろうか。国際的な武器貿易の研究家クリス・スミスは,ソ連邦の消滅と最近の湾岸戦争をめぐる周囲の状況の不安定性が,中東と東欧の安い中古武器の需要と供給をあおっていると述べた。スミスと米国海軍大学のアンドリュー・ロスによると,「第三世界の国々が武器の供給において重要度を増している」ことは穏やかならぬ傾向である。
永続する若さを求めて
老化の過程を遅くするという能書きのついた商品が市場にたくさん出回っている。残念なことに,「消費者リポート」誌によると,そうした触れ込みを支持する証拠はほとんどない。その上,こうした高価な商品には有害な副作用が潜んでいるかもしれない。南カリフォルニア大学の,老化に関連した神経生物学の教授カレブ・フィンチは,「体内に化学薬品を投げ込むと独特な事柄が生じる。それぞれの薬には独自の効果があるが,相互の作用や長期にわたる使用の影響については予告する方法がない」と述べた。「消費者リポート」誌は,「近い将来に人間の寿命の限界が引き伸ばされることを期待している研究者はほとんどいない」と述べている。適切な食習慣,定期的な運動,たばこを避けること,酒を飲み過ぎないこと,ちょうどよい体重を維持することなどには,「寿命を伸ばすと言われている商品と同じ効果があるかもしれない」と同誌は説明している。
捨てられた赤ちゃん
「南アフリカの至るところで,困り果てた母親たちは自分の子供たち ― 1歳未満の子供も含む ― を病院に捨てるようになった」と,ヨハネスブルクの新聞「サタデー・スター」は述べている。「貧困,失業,ホームレス,絶望的な気持ちが重なって途方に暮れ,偽名を使って,ありもしない病気で子供を入院させ,病院に置き去りにする母親が増えている」。1年以上も病院に住むことを余儀なくされ,里親の家庭や孤児院に移れなかった子供たちもいる。そうした施設が満員になっていたためである。一部の病院では,捨てられた子供の大半は乳児だった。同紙は,ヨハネスブルクの児童福祉の責任者アデレ・トーマス博士の言葉を引用し,「田舎の男性は(都市で)若い女性と関係を持ち,その女性を妊娠させたまま田舎の家族のもとに帰ってしまう。そういう女性は子供を捨てる以外に選択の余地はほとんどない」と述べている。内政不安も理由になっている。「昨年,状況が特に暴力的になり,多くの人が家を捨てて逃げなければならなかった時にも捨て子の数は増加した」と,ある病院長は述べた。
ヨーロッパでの正直
市民の道徳性はヨーロッパ諸国の間で違いがあるのだろうか。ヨーロッパ人価値体系研究グループは,その点を明らかにするため,13か国の1万9,000人を対象に世論調査を行なった。税金をごまかすこと,賄賂,ごみを散らかすこと,資格がないのに国の給付金を請求することなどをしてもよいと思うかどうか,一人一人質問された。ユーロピアン紙は,スカンディナビア諸国の人々が最も正直だったと伝えている。なぜだろうか。そこの人々は公共機関を信頼できると感じているが,他の国々の市民の道徳性は,国に対する批判的な見方を反映して低くなっている。したがって,正直さは人々の社会に対する態度を反映しているようだ。「人々が国に対して否定的な場合,社会に関係したすべての事柄に対しても否定的である」と,ベルギーのルーベン大学の社会科学の名誉教授ヤン・ケルクホフは述べた。
アルコール依存症の高いコスト
アルコール依存症は高くつく。アルコール依存症の人にとっても社会にとっても,医療費の上昇,家庭の崩壊,事故,死など,数え切れないほど多くの点で費用がかかる。しかし,しばしば見過ごされる費用は,依存症の人が中毒状態を保つために実際に支払う金額である。パリの新聞「ル・フィガロ」によると,フランスで行なわれたある調査は,一人の依存者が飲酒の習慣を保つのに毎月平均3,000フラン(約7万200円)以上をつぎ込んでいることを示している。その上,典型的なアルコール依存者の家庭の場合,アルコールの消費が生活費の50% ― 独身の場合は80% ― を占めていることもその調査で明らかになった。1年間完全に禁酒した後,調査に参加した依存者のほとんど全員の生活水準は全般的に向上し,食べ物も衣服も良くなった。そのうちの半数の人は貯金することさえできた。
マラリアのより早い診断法
より早く,より正確なマラリア検出法がアフリカの国ケニアで実用化され,良い成果を収めている。パノスコープ誌は,「遠心分離器,毛細管,ポリスチレンの浮き,紫外線」を使えば,「寄生生物を45秒で検出できる。これに比べ,今までの方法では4分かかる」と伝えている。この新しい方法は技術者の疲労を減らすことができ,それゆえに誤診の数を減らすことができる,と同誌は述べている。世界中で1億5,000万人以上の人々がマラリアにかかっている。毎年,この病気で100万人を超える人々が死亡するが,その大半は子供である。
漁業は危険
米国国立調査評議会は最近,漁業が国内で最も危険な職業の一つになったという調査結果を公表した。ニューヨーク・タイムズ紙によると,その調査で,労働者10万人につき47人が死亡した漁業は,米国内で最も危険な職業である鉱業に並んだことが明らかになった。メーン州だけでも,毎年平均6人の漁師が仕事中に死亡する。1991年にその数は倍増した。エビの価格が下がるにつれ,普通なら冬には決してエビの漁に出なかった漁師たちが出漁しなければならなくなっている。冬には,「船に付く氷,天候の変わりやすい海,強風などによって,その仕事はさらに一層危険なものとなる」と同紙は述べている。