多様性はメキシコの生活の薬味
メキシコの「目ざめよ!」通信員
典型的なメキシコの食事をしてみたいと思われませんか。では,どうぞ食卓に着いてください。ご覧のように,テーブルクロス代わりにしたメキシコ製の華やかなセラーペの上には変化に富んだ料理が並べられ,おいしそうな香りを漂わせています。
もちろん,大抵どこの国にも多種多様な食べ物がありますが,メキシコの郷土料理は挙げればきりがありません。何種類ものモーレ,食べ物にかける様々な辛いソース,トスターダやエンチラーダ,ソペ,ケサディーヤ,トラコーヨスなどのメキシコ風オードブルに,おいしいタコスもあります。タマーレスの種類はメキシコの州の数ほどたくさんあります。魚介類を使った料理も数多くあります。
食欲がわいてきましたか。では次に,比較的に有名なメキシコ料理を幾つかご紹介しましょう。
モーレ ― メキシコ料理の代表
モーレという語は,アステカ族のナワトル語の方言で「ソース」を意味するムリに由来しています。モーレは鶏肉や七面鳥の肉,あるいは米の上にかけるペーストまたはソースで,祭りの雰囲気を醸し出します。というのは,通常,モーレは特別な時に使われるからです。パトリシア・キンターナは自著「メキシコ生活の宴」の中で,「モーレは地方や村によって,また同じ村であっても作る人によって異なる」と述べています。
このペーストの材料は,乾燥させたチリペパー,真っ赤なトマト,タマネギ,アーモンド,プルーン,料理用バナナ,こんがり焼いたパン,クローブ,シナモン,植物油などで,塩とコショウで味付けをします。チョコレートも加えるので,このペーストはぴりっとしたような,また甘いような味になります。あなたのチキンやライスの上におかけしましょうか。でも,気をつけてください。人によっては,舌や胃がこのこってりとしたソースに慣れるまで時間がかかります。
トウガラシの肉詰め
トウガラシの肉詰めはたいへん一般的な料理です。これはポブラーノという大きなチリペパーで作ります。ポブラーノは熱した油でさっと揚げて薄皮を取り,柔らかくし,筋と種を取り除いておきます。それから,ひき肉とナッツを混ぜたものを香辛料やプルーンと一緒にいため,それをこのトウガラシに詰めます。トウガラシの口はつまようじで閉じます。その中にチーズを入れることもあります。次にそのトウガラシに衣を付けて揚げます。食卓に出す時には,赤いトマトソースをかけます。とてもおいしいので,つまようじまで食べてしまわないようくれぐれも注意してください。
チレス・エン・ノガダという,もっと気の利いたトウガラシの肉詰めもあります。その詰め物はナッツや牛肉,子牛肉,豚肉などのひき肉でこしらえます。種々のフルーツを細かく刻んだものと甘いサボテンを入れることもあります。出来上がったチリの肉詰めは冷やし,白くて甘いクリームをかけ,ザクロの実を散らします。
食欲をそそるメキシコのオードブル
メキシコのオードブルを作るのに欠くことのできないものはトルティーヤと様々な種類の辛いチリソースです。トルティーヤは世界中でよく知られており,普通はコーンミールの練り粉をコマル(熱した鉄板)の上で焼いて作った,手で折り曲げることのできる薄いパンケーキです。一般に,ソースはハラペーニョ(長さが5㌢ほどで膨らんでいる)やセラーノ(もっと小さくて細い)などの緑色のトウガラシで作ります。これらのトウガラシは酢漬けにして輸出され,世界中で使われています。
最もよく使われるソースは,作るのも一番簡単です。緑色のトウガラシ,赤いトマト,タマネギをそれぞれ生で使います。それらを細かく刻み,好みに合わせて塩で味付けします。このソースを,つぶしたアボカドと混ぜると,おいしいグァカモーレができます。これは,ソースとして使ったり,またタコス(トルティーヤで具を巻いたり,はさんだりしたもの)の材料にしたりします。緑のトウガラシと緑のトマティーヨを火であぶり,ミキサーにかけて作る緑のソースもあります。赤いソースは赤トウガラシと赤いトマトを火であぶって作ります。ソースをチリペパーだけで作ることもありますが,これは辛いものがどのくらい好きかによります。
トスターダは,ぱりっと揚げたトルティーヤの上にフリホーレス・レフリートスを塗り,その上にチキンか他の肉をほぐしたものや輪切りのタマネギをのせ,その上からソースをかけたものです。ソペはトスターダに少し似ていますが,この場合のトルティーヤはもっと分厚くて小さく,ぱりっとしていません。トラコーヨスはトルティーヤの中にフリホーレス・レフリートスを詰めたものです。その上に輪切りのタマネギをのせ,ソースをかけます。エンチラーダは巻いたタコスに似ており,普通は中に鶏肉が少し入っています。その上にモーレをたっぷりかけ,すりおろしたばかりのチーズを振りかけ,輪切りのタマネギをのせます。お望みなら,どのオードブルにも新鮮なクリームをかけることができます。
ケサディーヤはみんなの大好物です。この名前はその中に必ず入れるケソ,つまりチーズから来ています。でも,ケサディーヤにはほかにも様々なものが入っています。その幾つかを挙げると,ぱりぱりした豚の皮,ウィトラコーチェ(トウモロコシに生えるキノコの一種),カボチャの花,ティンガ(ほぐした辛い牛肉),豚肉のソーセージなどがあります。作り方はたくさんありますが,一番おいしいのはトルティーヤと一緒に作る方法です。丸くのばしたトルティーヤの片面にチーズをのせて折り曲げ,油を少々引いたコマルの上に置いて焼きます。両面とも焼くために,少なくとも一度はひっくり返します。食卓に出す前にソースを内側にかけます。まだ湯気が立っているうちに召し上がってください。これはいけます!
勇気がなければ食べられない料理
しかし,メキシコ料理の中には,勇気がなければ食べられないものもあります。おいしいイグアナ,そう,イグアナのモーレ煮を食べてごらんになりませんか。お皿に載せると,見た目にはそれほど悪くありません。信じられないかもしれませんが,味も結構いけます。いためた赤アリのタコスはいかがですか。通に言わせると,赤いソースと緑のソースのどちらをかけてもおいしいそうです。アリの卵のタコスはめったにお目にかかれない料理です。メキシコのキャビアと言えるでしょう。あるいは,フライパンでいためて赤くなったバッタを食べてみませんか。大きさは様々ですが,初めて召し上がる方は小振りのものにしておいたほうが良いでしょう。それでも,これらの料理はメキシコ人かよほどのグルメでなければ食べられません。
ざっと取り上げてみましたが,ぜひとも時間を取って,いろいろな種類のタマーレス(トウモロコシの練り粉で肉をくるみ,トウモロコシの穂のような形にし,トウモロコシの皮で包んで料理する),ミチオテス(リュウゼツランの薄皮に包んでゆっくりと料理した肉やハーブ),セビッチェ(生の魚介類をレモン汁でマリネにしたもの),スープ,食事には付き物のありとあらゆる色をした豆などを試してみてください。
さあ,食卓に着いてください。チリの辛さは心配無用です。たいていの食べ物はトウガラシを入れずにこしらえるので,好みに合わせて辛いソースをかければよいのです。メキシコの人と言えどもチリペパーの好き嫌いがあり,全然食べない人もいます。そんなことより,わたしたちメキシコ人の親切なもてなしを受けて,目の前に並んだ変化に富む食べ物を食べてみてください。多様性はメキシコの生活の薬味なのです。
[25ページの図版]
左上: タコス
右上: チレ・レイェノス
下: トスターダ
[26ページの図版]
グァカモーレ
トラコーヨス
エンチラーダ・デ・モーレ
[25ページの図版のクレジット]
The Codex Nuttall/Zelia Nuttall/Dover Publications