羽を着けたビクトリア湖の道化師
ケニアの「目ざめよ!」通信員
わたしたちの乗ったボートが,ビクトリア湖の穏やかな湖面を滑るように進んでいたときのことです。突然視界に入ってきたのは,湖岸から突き出ている老木の大枝に固定された,大きな鳥の巣です。直径は1.8㍍を超えており,これだけの大きさがあるからには,この巣をねぐらにしているのはプテラノドンのような生き物に違いないと思い,不安になりました。
それでも,わたしたちは巣を見たい一心で,大木の根元のそばにある大岩にボートをつなぎ,全員が枝の所まで登って,近くから巣をのぞくことにしました。全員と言っても,船頭は別です。湖畔の住人は決してこの鳥に近づこうとしません。この鳥はシュモクドリと呼ばれています。
巣に近寄ると,それまで見たこともないような巣であることが分かりました。シュモクドリの雄と雌が一生懸命働いても,自分たちの家の“土台”を据えるだけのために三,四日かかります。受け皿のような形をした巣の底は,葦や小枝やわらでできており,幾分すきまが目につきます。巣の底が完成すると,今度は周りに壁を巡らし,後ろ側から屋根を架けはじめます。屋根がある程度でき上がると,雌は巣の中に落ち着きます。雄が建築資材をさらに探しに出かけているあいだ,雌は巣に残っています。
玄関が完成すると,つがいは玄関と室内の壁に泥を塗ります。次いで,防水と保温の工事を兼ねて,巣の側壁と屋根のすきまに各種の端材を詰めます。最後に待っているのは“飾りつけ”です。空き缶,ヘビの皮,ぼろ切れなど,雄は見つけた物を何でも巣の屋根に載せます。工期は全体で5週間ないし6週間です。
わたしたちは巣を心行くまで見ると,再びボートに乗り込んで待機しました。ほどなくして,シュモクドリの雄がさっそうと登場し,屋根の真上に留まりました。ところが意外なことに,この鳥は並外れて大きいわけではありませんでした。全長はわずか56㌢ほど,灰褐色で,外観は普通の鳥と変わりません。ただし,頭だけは別です。くちばしは大きく,後頭部に大きな羽冠のあるありさまは,くぎ抜きの付いたハンマーの頭にそっくりです。
やがて,シュモクドリは羽を着けた道化師という異名どおりの演技を始めます。甲高い鳴き声をあげると,ダンスをしたり,跳ね回ったりしはじめます。すると突然つがいの雌が現われ,雄の背中に飛び乗って,ユーモアたっぷりの踊りをします。しかし,演技はまだ終わっていません。湖畔の屋敷から飛び立った雄は,昼寝中のカバの背中に舞い降ります。カバが身動きすると,どろどろした湖底の水はかき回されます。カエルはびっくりして水面まで泳いで上がりますが,シュモクドリにさらわれてしまいます。小魚,ミミズの類,昆虫,甲殻類などもシュモクドリの食卓を飾ります。
道化師と呼ぶにしても,腕のいい大工と呼ぶにしても,シュモクドリは興味をそそる鳥です。この鳥も,創造者の尽きることのない想像力を証しする,もう一つの例です。
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シュモクドリとこの鳥の巣