世界展望
民族紛争についてヨーロッパに警告が与えられる
「憎み,殺す機械に大衆を変えることはさほど難しくない」と警告しているのは,国連難民高等弁務官のホセ-マリア・メンディリュセ特別代表である。旧ユーゴスラビアで国連の難民計画を1年7か月の間監督してきたメンディリュセ氏は,バルカン諸国の人々が「他のヨーロッパ人とは根本的に違う」と見ることは「非常に危険な誤り」であると述べた上で,同様の民族紛争が他のヨーロッパ諸国で容易に起こり得ると指摘した。「経済危機に加え,移民や貧しい人や何らかの相違点を持つ人に責任をなすりつける,冷ややかな政治家が数人いれば事足りる」と,同氏は言う。ニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば,「マスコミでうそを広めて挑発することによって」憎しみをかきたてるのは指導者たちにとって朝飯前であると,メンディリュセ氏は指摘した。また,和平協定に署名した人々が自らの行動を改めることなく『憎み,殺すこと』を続けたと断言した。
オーストラリアにおけるアルコール飲料の乱用
オーストラリアでは良いニュースとして,酒類の国内の消費量が減っている。しかし悪いニュースとして,今でもアルコール飲料の乱用で国民に「毎年60億オーストラリア㌦(約4,500億円)と死者6,000人」という付けが回っていると,シドニー・モーニング・ヘラルド紙は述べている。少し前に刊行された「アルコール飲料の乱用の規模と影響」という報告が明らかにしているところによれば,オーストラリアでは男性の88%,女性の75%が飲酒をする。またこの報告は,女性の飲酒量の増加と,ティーンエージャーの“酒盛り”をおもな不安要因として挙げている。
資金不足でつまずく国連の平和貢献
今年の国連平和維持活動の費用は,37億㌦(約4,070億円)に達すると予想されている。しかし,「加盟各国が分担金を払っていないため,国連が将来の活動に出資したり,目下展開中の平和維持活動を十分賄ったりできるかという疑問が生じている」と,ニューヨーク・タイムズ紙は述べている。国連は平和維持活動の支援国に対し,派遣した兵士一人あたり月額1,000㌦(約11万円)の費用払い戻しをすることになっているが,旧ユーゴスラビアやカンボジアでの活動に部隊を派遣した国への払い戻しを何か月も行なっていない。4月末の時点で,平和維持活動に関する未払い額は15億㌦(約1,650億円)に達し,そのほかにも通常の運営費の未払い額が9億7,000万㌦(約1,067億円)となった。払い戻しを受けていないため,発展途上国の一部の政府は,部隊を撤収させたり,新たな活動への参加を拒否したりしている。
憎しみの年
「1992年のような年には,人間の本性に関する昔ながらの問題が改めて目につく」と,ニューズウィーク誌(英文)は述べている。「我々にはいつの時代も,隣人どうし,人種間,国家間で対立する傾向があった。そして今年の出来事は,我々がこうした溝に橋をかける点で幾らかでも進歩したかに関して疑問を投げかけた」。同誌は,「“汝の隣人を憎め”が1992年の標語のようだ」と述べた。「人間の醜さ」が1992年にとりわけ目についたのはなぜだろうか。「極端な無政府状態が昨年に生じた暴力行為のおもな原因」とニューズウィーク誌は言う。また,ソ連共産主義の崩壊に伴う「突然の経済不安」も要因とした。これに加え,各国の政府当局は共同社会間の憎しみをあおった。平和維持軍が解決になるだろうか。「国連軍はキプロスで20年近くギリシャ系住民とトルコ系住民を隔ててきた。国連の保護という仕切りの後ろで双方とも安全なため,互いに妥協しようという気が全くない」と,ニューズウィーク誌は答えている。
国旗と国歌をめぐる日本での論争
このほど大和市で公開された記録によれば,学校長たちは「一般教職員の強い反対があったにもかかわらず……国旗掲揚と国歌斉唱を規定した文部省の指導要領を押しつけた」と,マイニチ・デーリー・ニューズ紙は述べている。「学校の式典に日の丸掲揚と君が代斉唱を導入すべきかという問題は全国的に論議を呼んでいる。戦時中の国粋主義や帝国主義を想起させるからだ」。アサヒ・イブニング・ニューズ紙によれば,反対する人は,日の丸と君が代を天皇崇拝と結びつけ,子供たちに君が代を無理に歌わせるのは「特定の宗教信条を押しつけることに等しい」と述べている。これは憲法で定められた権利である信教と良心の自由の侵害だと,彼らは言う。
原子力災害が明るみに出る
長年機密扱いだった,世界でも最悪の原子力事故の発生現場に関する新たな情報が公表されたと,パリの日刊紙「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」は述べている。旧ソ連政府は,核兵器の開発競争で優位に立とうと,ウラル山脈にプルトニウム工場を建設した。建設の始まった1948年から1951年にかけて,工場の放射性廃棄物はそのまま地元の幾つかの川に投棄された。これらの川から農業用水と飲料水も取られていた。その後,1957年に核廃棄物の一部が爆発し,膨大な量の放射性物質が空中に放出された。1967年にも事故が起きた。核廃棄物が投棄されていた付近の湖が干上がり,放射性廃棄物が風であちこちに運ばれたのだ。この三つのケースによる放射能汚染は約45万人に影響を与えたと,科学者たちは見ている。
『2000年におもな健康問題になっているもの』
フランスの保健担当者たちは,「フランスではC型慢性肝炎が2000年におもな健康問題になっているだろう」と予測している。パリのル・モンド紙に掲載された医療論文の抜粋によれば,この問題には二つの肝要な特色がある。「輸血が肝炎ウイルスを広める点で重大な役割を果たし」,「慢性型の[ウイルスの]発達が著しい」ということだ。現在フランスでは推定50万人から200万人が肝炎ウイルスの感染者で,うち62%は慢性肝炎に進行するおそれがある。そして慢性化すると,向こう10年ないし30年で肝硬変になるか肝ガンにかかるおそれがある。医師たちによれば,C型肝炎に感染した人の大半は症状が出ないものの,予後はやはり芳しくない。
宇宙ゴミの危険
「宇宙ゴミは宇宙飛行にとってますます厄介な問題になっている」と,「南ドイツ新聞」は伝えた。4月にドイツのダルムシュタットで開かれた,宇宙ゴミに関する第1回ヨーロッパ会議では,「使用済みの衛星,燃え尽きたロケットの段,以前の宇宙計画で破損した装置などの,増える一方の破片をどうすべきかという問題」が提起された。テニスボール以上の大きさの物体で地球の周りを勢いよく回っているのは7,000個あまり,それより小さい破片は10万個以上あると推定されている。宇宙ゴミの95%は,ソ連と米国の飛行計画の落とし子である。「宇宙にある運用中の機器と周回中のゴミとのニアミスは,ここ数年で何件か生じた」と,同紙は説明している。「西暦2000年以降の宇宙飛行が中止に追いやられないようにする唯一の解決法は,厳重なゴミ防止策を講じ,将来の宇宙計画の国際協定を作ることだ」。
いなくなった女性
英国,フランス,スイス,米国といった先進国で,女性は男性を105対100という比率で上回っている。ところが,国連の統計によれば,アジアでは幾千万もの女性がいなくなっている。例えば,アフガニスタンとバングラデシュでは,男性100人につき女性は94人しかいない。インドでは93人,パキスタンではわずか92人である。中国では当局の数字によれば,1歳から2歳までの女の子100人につき,男の子は114人いる。なぜ開きがあるのだろうか。「専門家の指摘によると,女性は命が危険にさらされるような差別に甘んじなければならず,男性に比べて生き延びる確率が低い。例えば,女児を選んで中絶したり殺したりすること,栄養不良,健康面であまり世話してもらえないこと,度重なる妊娠,ひどく骨の折れる肉体労働などがある」と,ワシントン・ポスト紙は言う。さらに,男性の調査員が女性を無視したり,女性と話をさせてもらえなかったりする文化もある。また,息子より娘が多いことを恥じて子供の性別を偽る父親もいる。
減少する中国の出生率
1992年の統計によれば,中国の出生率は史上最低を記録した。1,000人あたり18.2で,1987年の23.33を下回ると,ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。この目標は2010年まで到達できないとされていたが,「党,および政府当局のあらゆる階層の人が家族計画に一層注意を向け,より効果的な手法を採用した」ため達成されたと,国家家族計画委員会のペン・ペイユン委員長は言う。この計画のもとで,地元の当局者は自らの管区で出生数を減らす義務を負い,失敗すると罰せられる。この措置のため,多くの場合,すでに子供のいる女性に不妊手術が強制されたり,許可なく子供を生んだ夫婦に非常に重い罰金が課されたりした。村民は罰金を払えないと,財産を没収されるか壊されるかし,家屋が取り壊されることも珍しくない。人口11億7,000万の中国人は,すでに世界人口の約22%を占めている。