こっけいなイボイノシシ
アフリカの奥地で,イボイノシシの家族のジョギングほど面白い光景はなかなかありません。イボイノシシが威厳あるしきたりに従って,きびきびと走るところを見ることができます。それぞれが,ふさのある長細いしっぽを小型ラジオのアンテナのようにぴんと立ててます。もちろん,イボイノシシは人を笑わせようとしているわけではありません。「メイバリー編 南アフリカの哺乳動物」という本によれば,「イボイノシシのこの習性は,丈の高い草原の中を逃げているときに互いを認識するのに役立っているのだろう。視野が非常に限られている子供のイボイノシシにとっては特にそう言える」。
もっとこっけいなのはイボイノシシの“家”への入り方です。急いで入るときなどは特にこっけいです。イボイノシシはツチブタやタテガミヤマアラシの掘った穴を広げて,自分の“家”にすることがあります。そして独特な仕方でそこに入ります。まだイボイノシシの正しいしきたりを身につけていない若いイボイノシシは,ほかの自尊心のある動物がするように,まず頭から洞穴に飛び込みます。しかし親イボイノシシは全く違います。巣穴の前に立って,全速力で,しかも軍隊のような正確さで,すばやく回れ右をし,それから後ろ向きのまま大急ぎで安全な穴の中へと入ります。このちょっとした行動は,ただ見物人を面白がらせるためにしているのではありません。このほうがイボイノシシにとって断然有利です。捕食動物と向かい合うことができ,さらにどんな攻撃を加えられても,すごい牙でかわすことができるのです。
もちろん,このように大急ぎで後退すると,思いがけなく面倒な事態になることがあります。それは,イボイノシシだけがこうした地中のほこりっぽい巣穴を住まいにしているのではなく,ブチハイエナ,ミツアナグマ,ジャッカル,ヤマアラシがこれらの穴に隠れていることもあるからです。「カスタス」誌はこのように述べています。「もし穴の中に住人がいたなら,[イボイノシシは]時折,不快な出来事に遭遇することになるかもしれない。臀部に[ヤマアラシの]針が刺さっているイボイノシシを何度か見かけたことがある」。当然のことながら,あわれなイボイノイシシにとっては決して笑いごとではありません。
イボイノシシは不気味な牙があるので,獲物を探し回る凶暴な捕食動物のように見えます。しかしそうではありません。イボイノシシは「概して無害な動物」と言われています。イボイノシシは草食動物で,非常に食物をより好みすることが分かっています。もっぱら短茎イネ科の草,それも草の先の柔らかいところしか食べません。雑草や長茎の草やほかの植物は避けます。そのうえ,イボイノシシは食事にありつくためなら,どんなに気の進まないような所でもくまなく探すのをいといません。とげだらけのやぶの中に顔を突っ込んで,その下に生えているかもしれないおいしい新鮮な草を探すときには,牙が顔を保護してくれます。
一日の中で一番気温の上がる時間帯には,ツチブタがもう住まなくなった穴をイボイノシシが牙で広げて“家”にしているのを目にすることがよくあります。そこで休息していなければ,近くの水場でころげ回ったり,水を飲んでいたりするのを見かけることができるでしょう。食事の時間になると,草原で走り回る姿を見ることができます。(イボイノシシは必要に迫られない限り,急に全速力で走り出すことはありません。)おとなのイボイノシシも子供のイボイノシシも,針金のようなしっぽをぴんと立てて,威厳をもって動き回ります。
イノシシ科の中でイボイノシシは,一番ハンサムというわけではありませんが,最も適切な名前が付けられています。その名称は,長方形の顔に付いている,よく目立つ「イボ」に由来しています。実際にはこれは本当のイボではなく,厚皮が発達したもので,非常に実用的です。イボイノシシが地面を掘り返したり,食事をしたりするときに目を保護するのに役立ちますし,雄同士が闘いをするときに,猛烈な勢いでぶつかってくる相手の牙を防ぐ盾の役目もします。
そのこっけいな顔の裏には,どう猛な戦士の姿が隠されています。イボイノシシの母親は,自分の子供をとても注意深く保護します。同じように群れのほかのおとなも,自分の身に危険が及ぶとしても,年若いイボイノシシを守ります。例えば,チーターがイボイノシシの赤ちゃんを捕らえようとすると,おとなのイボイノシシがチーターに向かっていきます。普通,チーターは激こうした一群のイボイノシシが鋭い牙で向かってくるのを見るだけで退散してしまいます。その間に,赤ちゃんは急いで逃げ,危害を受けないように母親のお腹の下にもぐり込みます。もちろんこれがライオンやヒョウの場合のように,大変な脅威が迫ったときには,イボイノシシは賢明にも退却します。そのときもしっぽはぴんと立てたままです。しかしおとなのイボイノシシはしんがりを務め,若いものがまず無事であるようにします。
それでも,ダリル・メイソン博士は「カスタス」誌の中で,「おとなのイボイノシシは,チーターやヒョウ,ハイエナにとって手ごわい相手となることがある」と述べています。観察によると,一頭の雌イボイノシシが大きな雄のヒョウから自分の子供を守っていました。このイボイノシシは勇敢にもヒョウに襲いかかり,ヒョウが急いで木の上に避難するまで,30㍍も追いかけたのです。別のときには,2頭のイボイノシシが16匹のリカオンの一団を撃退しているのが目撃されています。
アフリカの奥地に住む,この並外れてこっけいなイボイノシシのおどけたしぐさを見るのは,本当に魅力的なことです。