読者からの質問
● 「新世界訳」は,その翻訳者たちの氏名や学者としての身分を序文の中で明らかにしていないのはなぜですか。
多年の間,アメリカ,ペンシルバニア州のものみの塔聖書冊子協会は多くの異なった聖書の翻訳を印刷してきましたが,印刷するに際して当協会は翻訳者の希望を無視したりはしませんでした。例えば,1972年に当協会は「現代英語聖書」をその翻訳者の望む体裁と判型で出版しました。―表題紙を参照のこと。
1949年9月3日,新世界訳聖書翻訳委員会は,クリスチャン・ギリシャ語聖書の完成した翻訳を当協会に提出しました。その原稿は,同委員会がその後続行したヘブライ語聖書の翻訳とともに当協会の合法的な所有物件となりました。このことに関して,「神の目的とエホバの証人」と題する本の258ページでは次のように述べています。「同翻訳委員会が要請した唯一の事柄は,その死亡後も各人の名を匿名のままにしてもらいたいということであった」。当協会はこの合意事項を守り,翻訳者たちの希望を尊重してきました。
しかし,どうしてこうした約定が設けられたのでしょうか。それらの翻訳者は目立つことを求めませんでした。自分たちに注意を引こうとは思わなかったのです。『すべての事を神の栄光のためにする』精神を持っていた彼らは,読者が翻訳者のこの世的な「資格」にではなく,神のみことばに信仰の基礎を置くことを願いました。(コリント第一 10:31)他の翻訳委員会も同様の見解を取ってきました。参照欄の付いた新アメリカ標準聖書(1971年)の表紙には次のように記されています。「われわれは参考のため,あるいは推奨するためであれいかなる学者の氏名をも用いてはいない。神のことばはその真価によって効力を保持すべきものである,とわれわれは信ずるからである」。
「新世界訳」の真価は容易に検討できます。その大型版にはおびただしい数の脚注が付されています。その多くは,特定の訳し方を決定するに際してどの聖書写本が関係していたかを示しています。また,それらの脚注は包括的な序文とともに,翻訳委員会の用いた資料やその翻訳に関して,他のたいていの翻訳に見いだせる以上の情報を注意深い研究者たちに供するものとなっています。
さらに,1969年,当協会はやはり新世界訳聖書翻訳委員会の翻訳である「ギリシャ語聖書 王国行間逐語訳」を発行しました。この希英対照翻訳を読めば,聖書のその部分に関して同翻訳委員会がどれほどの努力を払ったかだれでも詳しく調べることができるでしょう。
なかには,聖書中のそれぞれの書自体でさえ筆者の名が付されていると論じる人がいるかもしれません。多くの場合,それは真実です。しかし,聖書には筆者が自分の名前を記していない書が幾つもあります。同様に,筆者が自分の個人的な資格や教育的背景についてほとんど述べていない点にも注目できます。神のみことばを翻訳するに際して,新世界訳聖書翻訳委員会は,委員個人個人の卒業した大学その他,受けた教育に関する委細は重要なことではないと考えました。とはいえ,その翻訳自体,それらの委員の資格を証明しています。同委員会の翻訳を詳しく調べれば,読者の注意は翻訳者にではなく,聖書の著者,エホバ神に向けられるはずです。
また,その翻訳の脚注の中で同委員会側が,ある箇所を別の仕方で訳せることをも認めている点から同委員会の謙虚さにも注目できます。この点を認識して,当協会は常に他の種々の聖書翻訳を用いることを認め,またそうすることを勧めてきました。a それで,エホバの証人は新世界訳翻訳委員会の翻訳に深く感謝する一方,特定の土地の言語で入手できる聖書があれば,どんなものでも用います。それが現代語による明解な新世界訳,あるいは他の翻訳かどうかにかかわらず,当協会は,神のみことばをともしびとして用いて生活の道を照らすよう,すべての人に勧めます。―詩 119:105。
● 近年激しい嵐や洪水が人命や資産に大きな被害を与えてきましたが,そのあるものはサタンの働きによると言えるでしょうか。―アメリカの一読者より。
聖書は,サタンの引き起こした破壊的な嵐の例を確かに一つ記録しています。それは,忠実なヨブの子供たちの命が奪われた場合です。(ヨブ 1:12,18,19)しかし,これを根拠にして,サタンが破壊的な嵐すべてに直接関係している,と結論することはできません。なぜですか。ヨブの忠誠を試みることをサタンが許されたのは,神の特別の許可によるからです。
実際のところ,いわゆる「自然の」災害については,人間自身の責められるべき場合が少なくありません。人間が地球のさまざまな資源を正しく管理せず,自然の循環を乱してきたことは,天候や気象にまちがいなく影響を与えてきました。「大英百科事典」(1974年版)はこう述べています。「工業その他の活動によって大気中に大量に放出される熱・廃ガス・微粒子などが天候や気象に変化を来たしている証拠はしだいに増大している」。さらに,洪水による被害の多くは,浸食を防ぐはずの樹木の伐採や,河川に隣接した低地や洪水による堆積地に町を建設したことによっても起きています。多くの権威者は,こうした事を避けるようにと諸国家に勧告しています。それは自らに大きな苦しみをもたらすことになるからです。
また,忘れてならないのは,人類は一般に言って神の律法を無視する道を選んできたため,創造者は人間がただ自分の道を進むことを許してこられた,という点です。結果として,人間には,「なんであれ,人は自分のまいているもの,それをまた刈り取ることになる」という神の不変の法則が当てはまってきました。―ガラテア 6:7。
しかし,間接的には,サタンは人間に振りかかったさまざまな災害に責任を持ってきました。明らかに悪魔は危害を目的として人間に働きかけ,環境を破壊するまでに利己主義と貪欲の道を追い求めさせてきました。使徒パウロはエフェソスのクリスチャンたちに手紙を書いたさい,彼らがもはやそうした悪い影響に形作られてはいないことを指摘して次のように述べました。「あなたがたは自分の罪過と罪にあって死んでいましたが,そのあなたがたを神は生かしてくださいました。あなたがたはこの世の事物の体制にしたがい,また空中の権威の支配者,不従順の子らのうちにいま働いている霊にしたがって,一時はそうした罪のうちを歩んでいました」― エフェソス 2:1,2。
サタンはここで,「空中の権威の支配者」と呼ばれています。クリスチャンはもはやその影響下にいないことが示されていますから,彼が支配するこの「空中」とは,文字通りの大気を指していないことが明らかです。クリスチャンも,他の人々すべてと同様,文字通りの大気の乱れによる影響は受けるからです。しかし彼らは,サタンが権威を行使している「天の場所にある邪悪な霊の勢力」の支配もしくは影響の下にはいません。(エフェソス 6:12)したがって,この「空中」とは,これら「邪悪な霊の勢力」が活動している,地的領域を越えた場所を指しています。そして,真のクリスチャンのうちではなく,「不従順の子ら」のうちに働いている「霊」とは,サタンである「支配者」が思うがままに用いる,目に見えない活動力です。それは,この支配者から出るもので,彼と同じようにエホバ神に不従順な者たちに影響を与えています。
したがって,聖書的にも,また他の面から見ても,近年のある特定の嵐や洪水による災害を,超人間の勢力に直接に帰すべき明確な証拠はありません。
[脚注]
a 「ものみの塔」1950年,315ページ参照。(英文)