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昆虫の媒介する疾患 ― 増大する問題目ざめよ! 2003 | 5月22日
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昆虫の媒介する疾患 ― 増大する問題
ラテンアメリカのある家では,もう寝る時間になりました。母親が坊やに寝具を丁寧にかけてやり,おやすみと言います。やがて暗がりの中で,体長2㌢ほどの黒光りする口づけカメムシが,ベッド上方の天井のすき間から,こっそり出てきます。眠っている子どもの顔にそっと落ちてきて,いつの間にか柔らかい肌に口器を刺し入れます。その虫は血を吸いながら,寄生虫のまじった排泄物を出します。少年は,眠ったままで顔をかき,病原体を含んだ糞をその傷口に擦り込みます。
このただ1回の出会いによって,子どもはシャガス病にかかります。一,二週間のうちに高熱を出し,体が腫れ上がります。すぐに死ぬことはなくても,寄生虫が体内にすみついて,心臓,神経,体内組織に侵入するかもしれません。10年から20年もの間,何の症状も出ないこともあります。しかしその後,消化管に病変が生じたり脳に影響が出たりして,やがて心不全で死亡することがあります。
これは,どのようにしてシャガス病にかかるかを,幾らかリアルに描いたものです。ラテンアメリカ地域では,何百万人もがこの死の口づけの危険にさらされています。
脚の多い隣人たち
「人間がかかる主要な熱病の多くは,昆虫が運ぶ微生物による」と,ブリタニカ百科事典(英語)は述べています。人はふつう,“昆虫”という語を,真の意味での昆虫類 ― ハエ,ノミ,蚊,シラミ,甲虫など6本脚の生き物 ― だけでなく,ダニその他,8本脚の生き物に関しても使います。科学者は,そのすべてを,節足動物という大きな分類の中に含めています。これは動物界最大の区分で,少なくとも100万種が知られています。
昆虫類の大半は人間に無害であり,非常に有益な昆虫もいます。もしそれらの益虫がいなければ,人や動物が食物としている草木の中には,受粉できず,実をつけられないものも多いでしょう。廃物の再生処理に寄与する昆虫もいます。植物だけをえさにする昆虫は多くいますが,他の虫を食べる昆虫もいます。
言うまでもなく,人や獣を煩わせる昆虫もいます。刺したりかんだりして痛い思いをさせ,またたくさん群がるだけで敬遠されたりもします。いろいろな作物に害を与えるものもいます。しかし,さらに問題なのは,病気や死をもたらす昆虫です。昆虫の媒介する疾患は,「17世紀から20世紀の前半まで,人間の病死の大きな原因で,他のすべての原因を合わせたよりも多くの病気や死をもたらしていた」と,米国疾病対策予防センターのドゥエイン・ガブラーは述べています。
現在のところ,6人に1人ほどが,昆虫の媒介する病気に感染しています。昆虫の媒介する疾患は,人間に苦痛を与えるだけでなく,経済的にも非常な重圧です。特に発展途上国には重荷であり,それに対処してゆくだけの余裕はまずありません。その種の病気が1回流行するだけでも,費用が大いにかさみます。そのような事態が1994年にインド西部で生じ,その地方だけでなく世界の経済に何十億ドルもの損失をもたらした,と言われています。世界保健機関(WHO)によれば,世界の非常に貧しい国々は,その種の健康問題を抑制できない限り,経済的な発展を見込めません。
昆虫によってどのように病気が広まるか
昆虫は主に二つの方法で,媒介動物,つまり病気を伝える役となります。一つは,機械的な伝染です。人が汚れた靴で家に泥を持ち込むように,「イエバエは,病気の原因となるほど,何百万もの微生物を脚につけて運ぶことがある」とブリタニカ百科事典は述べています。例えばハエは,わたしたちの飲食物にとまった際に,糞尿からの汚染物を残していくことがあります。こうして人間が,腸チフス,赤痢,さらにはコレラといった病気にかかることになり,衰弱して死ぬ場合もあります。ハエは,世界じゅうで失明の主な原因であるトラコーマのまん延にもかかわっています。トラコーマにかかると,眼球の透明な部分で虹彩の前にある角膜に傷跡が残って失明することがあります。現在,世界じゅうで約5億人がこの病気を経験しています。
ごみの中で精力的に生きるゴキブリも,病気を機械的に伝染させているのではないかと見られています。さらに専門家たちは,ぜん息が特に子供たちの間で最近急増していることと,ゴキブリアレルギーとの間に関係があると考えています。例えば,15歳のアシュリーのことを考えてみてください。この少女はぜん息で毎晩のようにあえいでいます。医師がアシュリーの肺の音を聞こうとすると,アシュリーのシャツからゴキブリが転がり出て診察台を走り抜けます。
病気を体内に保有
昆虫が,ウイルス,細菌,寄生虫を体内に宿すと,別の方法で病気を広めることになります。人を刺したりかんだりした時に病気をうつすのです。このようにして人に病気をうつす昆虫の種類は,比較的にわずかです。例えば蚊は何千種もいますが,マラリアをうつすのはハマダラカ属の蚊だけです。ですがマラリアは,感染症としては世界の死因の第二位(結核に次ぐ)を占めています。
とはいえ,ほかの蚊もいろいろな病気をうつします。WHOは次のように報告しています。「病気をうつす昆虫の中で,蚊は最も厄介で,マラリア,デング熱,黄熱病を広める。毎年数億人がこれらの病気にかかり,数百万人が亡くなっている」。世界人口の少なくとも40%はマラリアの危険にさらされており,また約40%はデング熱にかかる危険があります。両方に感染する可能性のある地域も少なくありません。
もちろん蚊だけが,病気を体内に保有して運ぶ昆虫ではありません。ツェツェバエは,睡眠病を引き起こす原虫を広めます。そのために何十万人もが苦しみ,地域住民がこぞって肥沃な農地を捨てざるを得ない所もあります。ブユは,河川盲目症を引き起こす微生物を伝え,これまでに40万人ほどのアフリカ人から視力を奪ってきました。サシチョウバエも,リーシュマニア症を引き起こす原虫を運ぶことがあります。この病気は,身体の障害や損傷,またしばしば致命的疾病を引き起こして,世界のあらゆる年代の多くの人を苦しめています。どこにでもいるノミが,条虫病,脳炎,野兎病,さらにはペストの病原体を保有していることもあります。ペストと言うとたいてい,中世ヨーロッパで,わずか6年間に総人口の3分の1以上を除き去った黒死病が連想されます。
シラミやダニも,種々の発疹チフスその他の病気を伝染させます。世界の温帯地方のダニは,人を衰弱させることのあるライム病を運んでいる場合があります。これは,虫が媒介する病気として,米国とヨーロッパで最も一般的なものです。スウェーデンでの研究によれば,渡り鳥がダニを何千キロも運んで,病気を新たな地域に持ち込んでいる可能性があります。「ダニは(蚊を別にすれば)他のどの節足動物よりも多くの病気を人間にうつしている」と,ブリタニカ百科事典は述べています。事実,1匹のダニが病原微生物を3種類も保有していることがあり,1回かむだけでそのすべてをうつすこともあります。
病気からの“安息”
昆虫が病気を伝染させることが科学的に証明されたのは,比較的最近で,1877年のことです。以来,病気を運ぶ昆虫を制圧あるいは撲滅する大規模なキャンペーンが実施されてきました。1939年,DDT殺虫剤がその装備に加えられ,1960年代には,アフリカを除く地域で,昆虫媒介性疾患は公衆衛生上それほどの脅威とはみなされなくなりました。媒介動物を制圧するよりも,患者が出たら薬で対処することのほうに重きがおかれ,昆虫とその生息環境への関心は薄れました。また新薬が幾つも発見され,科学はどんな病気にも対処できる“魔法の弾丸”を見つけ得るように思えました。世界は,いわば感染症からの“安息”を楽しんでいました。しかし,その安息は終わろうとしていました。その理由は,次の記事で取り上げます。
[3ページの拡大文]
今日,6人に1人が昆虫媒介性疾患に感染している
[3ページの図版]
口づけカメムシ
[4ページの図版]
イエバエは,病原体を脚につけて運ぶ
[5ページの図版]
多くの昆虫が体内に病気を保有して運ぶ
ブユは河川盲目症を運ぶ
蚊は,マラリア,デング熱,黄熱病を運ぶ
シラミは発疹チフスを運ぶことがある
ノミは脳炎などの病原体を保有している
ツェツェバエは睡眠病をうつす
[クレジット]
WHO/TDR/LSTM
CDC/James D. Gathany
CDC/Dr. Dennis D. Juranek
CDC/Janice Carr
WHO/TDR/Fisher
[4ページの図版のクレジット]
Clemson University - USDA Cooperative Extension Slide Series, www.insectimages.org
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なぜ再び現われたのか目ざめよ! 2003 | 5月22日
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なぜ再び現われたのか
約40年前,マラリア,黄熱病,デング熱など,よく知られた昆虫媒介性疾患は,地上の大部分からほぼ撲滅された,と考えられていました。しかしその後,予期せぬ展開になりました。昆虫の媒介する疾患がまた姿を現わすようになったのです。
なぜでしょうか。一つには,ある種の昆虫とそれによって運ばれる微生物が,その抑圧に使われてきた殺虫剤などの薬剤に対する耐性を高めたからです。この自然の適応過程は,殺虫剤の乱用だけでなく,薬剤の誤った用い方によっても助長されてきました。「蚊<モスキート>」(英語)と題する本によれば,「貧しい家庭では,薬を手に入れても,ただ症状を緩和するのに必要な分だけ使い,残りは病気が次に流行する時のために取っておくことが非常に多い」のです。このように治療をきちんと完了しないために,強い微生物が人の体内で生き残り,薬剤耐性のある新世代を生み出すこともあります。
気候の変化
昆虫媒介性疾患が再び現われるようになった大きな要因は,自然と社会における変化です。その一例として,地球規模の気候の変化があります。ある科学者たちは,地球環境の温暖化によって,今は気温の低い地域にも,病気を運ぶ昆虫の生息域が広がっていくと予想しています。それがすでに起きていると言えそうな証拠が幾らかあります。ハーバード大学医学部の健康地球環境センターのポール・R・エプスタイン博士は,こう述べています。「数種の昆虫と昆虫媒介性疾患(マラリアとデング熱を含む)の双方について,アフリカ,アジア,ラテンアメリカで以前より標高の高い場所でも見られるとの報告がある」。コスタリカでは,デング熱は最近まで山脈のために太平洋岸に限定されていましたが,その山脈を越えて広がるようになり,今や国全体に及んでいます。
しかし気候が温暖になると,ほかにも影響が及ぶ可能性があります。ある地域では川がただの水たまりになる一方で,他の地域では降雨や洪水が多くなって,そのあとに沼沢が残ります。いずれの場合も,たまった水は蚊にとって格好の繁殖場所になります。また,気候が暖かくなると,蚊の繁殖サイクルが短くなって増殖が速くなると共に,蚊のはびこる時期も長くなります。気候が温暖になれば,蚊はそれだけ活発に活動します。温度の上昇は蚊の内臓にまで影響を与え,病原微生物の増殖率をも上昇させるので,わずか1回の刺し傷で感染する可能性が高くなります。とはいえ,ほかにも不安要素があります。
疾病の一事例
人間社会の変化も,昆虫媒介性疾患の一因となります。その事情を理解するためには,昆虫の役割をもっとよく調べる必要があります。多くの病気の場合,昆虫は,疾病伝播の鎖輪の一つにすぎないかもしれません。動物や鳥は,昆虫を体に付けて運んだり血流中に微生物を宿したりして,病原体の宿主となることがあります。このような宿主が微生物を宿しながら生き残ると,感染源ともなります。
ライム病について考えましょう。この病気は,1975年に確認され,その最初の発見場所である米国コネティカット州ライムにちなんで名づけられました。ライム病の原因となる細菌は,ヨーロッパから船で来たネズミや家畜と一緒に,100年も前に北アメリカに来たのかもしれません。小さなマダニが,感染動物の血を吸うと,細菌は残りの期間,そのダニの内臓にとどまります。そのダニは,後に他の動物や人間をかんだ時に,その血流中に細菌をうつすことがあります。
ライム病は,米国北東部に特有の病気で,長いあいだ存在してきました。その地方でライム病の細菌の主な感染源となっているのは,シロアシネズミです。このネズミは,そのダニ,特に幼生期のダニの宿主にもなっています。ダニの成虫はシカに寄生するほうを好み,そこで養分を得て,交尾します。雌のダニは,いったん血をたらふく吸うと,地面に落ちて卵を産みます。その卵からすぐに幼虫が出てきて,新たなサイクルが始まります。
状況の変化
微生物は,人間に病気を生じさせることなく動物や昆虫と長年共存してきました。しかし状況の変化によって,風土病が,地域社会の多くの人に影響を与える流行病になります。ライム病の場合,何が変化したのでしょうか。
昔は捕食動物のおかげでシカの数が適度に保たれ,マダニと人間との接触が限られていました。ヨーロッパからの初期の入植者が森林を切り開いて農耕地にした時,シカの数はかなり減少し,そのためにシカの捕食動物も移動してゆきました。しかし,1800年代の半ばに農業地帯が西に移って多くの農地が見捨てられ,再び森林がその土地に広がり始めました。シカは戻ってきましたが,その天敵は戻ってきませんでした。それでシカの数は爆発的に増加し,ダニの数も同じく激増しました。
しばらくして,ライム病の細菌が現われ,数十年間は人間に脅威となることなく動物に寄生していました。ところが,森林の外れに家が建つようになると,以前よりずっと多くの大人や子どもがダニの生息域に足を踏み入れるようになりました。ダニは人間を見つけてくっつき,人間はライム病にかかりました。
不安定な世界における病気
前述の粗筋は,病気がたどる多くの道の一つ,人間の行動がその出現にどう影響するかを示す一例です。「再興する病気のほとんどは,人間の干渉の結果として盛り返している」と,環境保護論者ユージーン・リンデンは,自著「率直に見た将来」(英語)の中で述べています。他の例を幾つか挙げましょう。今の時代,旅行が大衆化し,移動も速くなるにつれ,病原体とその宿主が世界じゅうに広がってゆきます。大小の動物が生息地を破壊され,生物の多様性が脅かされています。「汚染が空気と水に及び,……動物と人間の別なくその免疫システムを弱めている」とリンデンは述べています。そして,エプスタイン博士の次の言葉を引用しています。「要するに,人間が環境をいじったために,地球そのものの免疫システムが弱められ,微生物に好都合な状態が作り出されているのだ」。
政情不安が戦争につながり,生態系が損なわれ,医療と食糧配分のための施設が破壊されます。加えて,アメリカ自然史博物館の「バイオブレティン」(英語)は,こう指摘しています。「栄養不良で弱った難民が,しばしば難民キャンプに入れられ,その込み合った不衛生な環境ゆえに様々な感染症にさらされる」。
経済的不安定のために,人々は国の中で,また国外へと移動し,もっぱらごみごみした都市部に住み着きます。「病原体はごみごみした場所を好む」と,「バイオブレティン」は述べています。都市人口が急増すると,「基礎教育,栄養,ワクチン接種計画など,不可欠な公衆衛生の手段が追いつかないことが多い」のです。また人口過密になると,上下水道や廃棄物処理のシステムに負荷がかかり過ぎて,公衆や個人の衛生を保つのが難しくなり,それと共に,病気を運ぶ昆虫などが繁殖しやすい状況が作り出されます。とはいえ,状況は絶望的というわけではありません。次の記事はそのことを示しています。
[11ページの拡大文]
「再興する病気のほとんどは,人間の干渉の結果として盛り返している」
[7ページの囲み記事/図版]
西ナイルウイルスが米国に侵入
西ナイルウイルスは,主に蚊によって人に伝染します。このウイルスは1937年にウガンダで初めて分離され,後に中東,アジア,オセアニア,ヨーロッパでも見つかりました。西半球で初めて検出されたのは1999年ですが,以来,米国で3,000件以上の感染例が報告され,200人以上が死亡しました。
感染者の中にはインフルエンザのような症状になる人もいますが,大半の人は少しも感染に気づきません。幾らかの人は脳炎や脊髄膜炎などの重病になります。西ナイルウイルスに有効な予防ワクチンや特異療法は今のところありません。西ナイルウイルスは,感染したドナーからの臓器移植や輸血によってもうつるおそれがある,と米国疾病対策予防センターは警告しています。「現時点で西ナイルウイルスを検出する血液検査方法はない」と,ロイター通信は2002年に報じました。
[クレジット]
CDC/James D. Gathany
[8,9ページの囲み記事/図版]
どのように身を守れるか ― すべきことと,すべきでないこと
「目ざめよ!」誌は,虫などによる病気の影響を受けている世界各地の人々に,健康を保つ秘けつを尋ねました。そのアドバイスは,あなたの土地でも役立つものがあるかもしれません。
清潔さ ― 最初の防衛線
■ 住まいを清潔に
「食物の容器にはふたをする。調理した食物は食卓に出すまで覆っておく。こぼれた食品はすぐに片付ける。食器を一晩洗わずに置いておいたり,生ゴミを翌朝処分するために外に置いたりしない。虫やネズミなどが夜に出てきて食物をあさるので,生ゴミは覆うか埋める。また,土の床をコンクリートで薄く覆うと,住まいを清潔で,虫のいない状態に保ちやすい」。―アフリカ。
「果物など昆虫を引きつけるものは何でも家から離れたところに貯蔵する。ヤギ,ブタ,ニワトリなどの家畜は家に入れない。屋外トイレにはふたをする。動物の糞はすぐに埋めるか,ハエよけに石灰などをかぶせる。近隣の人が同じようにしなくても,昆虫が手に負えなくなるのを避けられるかもしれず,模範にもなる」。―南アメリカ。
[図版]
食物や生ゴミを覆わないのは,自分と食事をするように昆虫を招いているようなもの
■ 個人の衛生
「石けんは高価なものではないので,手と衣服を頻繁に洗う。特に,人や動物に触れた後は洗う。動物の死体に触れない。自分の口,鼻,目を手で触らない。衣服は清潔に見えても,定期的に洗うべき。ただし,昆虫が寄ってくる香りもあるので,香りのついた石けんなどの衛生関係用品は避けたほうがよい」。―アフリカ。
予防策
■ 蚊の繁殖する場所をなくす
貯水槽や洗濯おけにはふたをする。ふたがなくて水のたまるような容器を片付ける。鉢植えにも水がたまらないようにする。蚊は,水が4日以上たまる場所ならどこでも繁殖できる。―東南アジア。
■ なるべく肌を虫にさらさない
虫が好む時間帯と場所を避ける。熱帯では日没が早いので,日常のいろいろな活動が,昆虫の多く活動する暗がりで行なわれることがある。昆虫媒介性疾患が流行している時に,屋外で座ったり横になったりすると危険が増す。―アフリカ。
[図版]
蚊の多い国の屋外で眠るのは,自分を食事とするように蚊を招いているようなもの
なるべく肌が出ない衣服を着る。森の中では特に気をつける。衣服と肌に虫よけをつけ,ラベルの指示に必ず従う。屋外で過ごした後は,ダニがついていないか,自分と子どもの体をよく調べる。ペットは健康で,虫がつかないようにしておく。―北アメリカ。
家畜にはなるべく触らない。昆虫が家畜から人間に病気をうつす可能性がある。―中央アジア。
家族全員のために蚊帳を使う。殺虫剤をしみ込ませたものが望ましい。窓に網戸をつけ,いつもきちんと修理しておく。昆虫が入ってくるような,ひさしの下の開口部はふさぐ。このような予防策は幾らかお金がかかるが,子どもを病院に連れて行ったり,一家の稼ぎ手が病気で働けなくなったりすれば,もっと多くのお金を失うことになる。―アフリカ。
[図版]
殺虫剤をしみ込ませた蚊帳は,薬代や治療代より安い
家の中から虫の隠れ場所をなくす。壁や天井にしっくいを塗り,割れ目や穴をふさぐ。草ぶきの天井の下側を防虫性の布で覆う。紙や布の山,壁にかかった種々の絵など,散らばったものを片付ける。それらに虫が隠れる。―南アメリカ。
昆虫や小動物を訪問客のようにみなす人もいる。そうではない。それらを中に入れない。虫よけや殺虫剤は使用法に従って使う。ハエ取りやハエたたきをうまく使う。創意工夫を働かせる。ある女性は,細長い布袋を作って砂を入れ,ドアの下のすき間にあてて,虫が入らないようにした。―アフリカ。
[図版]
昆虫を家の客にすべきではない。追い払う!
■ 予防衛生
適切な栄養,休息,運動によって抵抗力を維持する。ストレスを減らす。―アフリカ。
旅行者: どんな危険があるのか最新情報を事前に知っておく。情報は,公衆衛生の部局や政府関連のホームページで入手できる。旅行前に,渡航先に適した予防接種を受ける。
体調が優れない時
■ すぐに診察を受ける
たいていの病気は,早期に分かれば治療しやすい。
■ 誤診に注意する
できれば,虫が媒介する病気や熱帯病に通じた医師を探す。医師にすべての症状を告げ,どこを旅行してきたか,以前のことも含めて話す。もし必要なら抗生物質を使用し,途中で治療をやめない。
[図版]
昆虫媒介性疾患は,ほかの病気のように見えることがある。医師にこれまでの旅行先すべてを話す
[クレジット]
Globe: Mountain High Maps® Copyright © 1997 Digital Wisdom, Inc.
[10ページの囲み記事/図版]
昆虫はHIVを広めるか
昆虫学者と医学者は,10年以上にわたって調査と研究を行なってきましたが,蚊その他の昆虫がHIV(エイズウイルス)を伝染させる証拠は見つかりませんでした。
例えば蚊について言うと,その口の部分は,一つだけの開口部で血を再注入する注射器とは異なっています。蚊は,一つの管で血を吸い,別の管を通してだ液を出します。さらに,ザンビアのモング地区健康管理チームのHIV専門家トーマス・ダマソの説明によると,蚊の消化器系は血液を分解し,エイズウイルスを殺します。蚊の糞からHIVは検出されません。またHIVは,マラリア寄生虫とは異なり,蚊のだ液腺には入りません。
人がHIVに感染するのは大量の感染性粒子にさらされた場合です。蚊が血を吸うのを中断し,そのまま別の人のところに飛んで行ったとしても,口の部分に残る血はごく少量で,何も影響を与えないでしょう。HIV陽性の血で満腹の蚊を,皮膚の傷口のところでたたきつぶしたとしても,HIVには感染しないだろう,と専門家は述べています。
[クレジット]
CDC/James D. Gathany
[7ページの図版]
マダニ(右は拡大写真)は,人間にライム病を広める
左から順に: 成虫の雌,成虫の雄,幼虫。すべて実物大
[クレジット]
All ticks: CDC
[10,11ページの図版]
洪水,不衛生な状態,人の移動が,昆虫媒介性疾患の広まる一因
[クレジット]
FOTO UNACIONES (from U.S. Army)
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状況はいつか好転するか目ざめよ! 2003 | 5月22日
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状況はいつか好転するか
現在,世界保健機関および関係諸団体は,各種の疾病監視対策プログラムを実施しています。様々な組織が,情報を普及させ,新薬や新しい抑制法の研究を進めています。すべては,昆虫媒介性疾患という,今日増大している問題に対処する努力の一環です。個人も地域社会も,知識を得て自分を守るために多くのことを行なえます。とはいえ,各人の保護と世界的な病害対策とは,同じレベルの問題ではありません。
多くの専門家が,病害対策を成功させるには地球規模の協力と信頼関係が不可欠,と考えています。「人間の行動範囲が急速にグローバル化しているために,地上のどこにいる人も,ただ自分の住む町や地方,国家,半球だけが,自分の生活圏のすべてだというような考え方を超える必要がある」。ピュリッツァー賞を受賞した記者ローリー・ギャレットは,自著「迫り来る災厄 ― バランスをなくした世界に台頭する病気」(英語)の中でこのように書いています。「微生物やそれを媒介する動物は,人間が定めたどんな人為的境界線も意識しない」。一つの国で病気が発生すると,すぐ近隣諸国に,さらには世界じゅうに懸念が広がります。
ある政府や人々は,外国からのどんな形の干渉にも,疾病対策プログラムにさえ,疑いを抱きます。加えて,政治上の近視眼的な見方や商業上の貪欲さも,往々にして国際的な協力関係の障害となりがちです。人間と病気との闘いで,微生物が優位に立つことになるのでしょうか。著述家ユージーン・リンデンはそう考えており,「勝負は終盤に差し掛かっている」と述べています。
希望の理由
科学や技術の進歩も,病気との競争においては相当の後れをとっています。そしてもちろん,昆虫媒介性疾患は,人間の健康に脅威となる多くの問題の一つにすぎません。しかし,希望を抱ける理由があります。科学者たちは,生物相互の複雑な関係をようやく理解し始めたところではありますが,地球の持つ潜在的な自己修復力に気づいています。この地球には,自然界のバランスを回復させるメカニズムが備わっています。例えば,いったん切り開かれた土地にも,たいていは樹木が再び育ち,微生物と昆虫と動物との関係は時間と共に安定してゆきます。
さらに重要な点として,自然界の精緻な設計は,創造者,つまり地球のメカニズムを始動させた神の存在を示しています。地球が誕生するもととなった,より高い次元の知性が存在するに違いないことを認める科学者たちが多くいます。そうです,物事を真剣に考える人は,神の存在を否定しきれません。聖書は,創造者であるエホバ神が全能で,愛のある方であることを述べています。わたしたちの幸福に深い関心を払っておられるのです。
聖書はまた,最初の人間が故意に罪を犯したために,人は不完全さや病気や死を受け継いだ,と説明しています。これは,わたしたちがいつまでも苦しみを抱えるように定められている,ということでしょうか。そうではありません。神の目的は,地球を楽園とし,人間がそこで,他の大小の生物と共に快適に暮らすことです。聖書は,大きな野獣であれ小さな昆虫であれ,どんな生き物も人間に危害を与えない世界について予告しています。―イザヤ 11:6-9。
もちろん人間には,そのような状況を社会的に生態学的に維持してゆく点で,役割があります。神は,人間に地球の「世話」をゆだねました。(創世記 2:15)将来の楽園において,人は創造者からの指示に従順に従うことにより,その仕事を完全に遂行できるでしょう。ですから,「『わたしは病気だ』と言う居住者はいない」日を,楽しみに待つことができるのです。―イザヤ 33:24。
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