御国の伝道に関する正しい見方を保ちなさい
「御国のこの良いたよりは,すべての国の民への証として,人の住む全地に宣べ伝えられるであろう。それから終わりが来るのである」― マタイ 24:14,新。
1 初期のクリスチャンは自分たちの信仰に対しどんな心構えを持っていましたか。それゆえ,何を行なうように動かされましたか。
初期のクリスチャンは,自分たちの宗教はたまたま自分で選んだものにすぎず,他の宗教となんら異なるところがない,などとは決して考えませんでした。それどころか彼らは,エホバ神とそのお目的に関する真理を自分たちが持っていること,また救いにあずかるには他の人々にもこの知識が必要であることを確信していました。(ヨハネ 17:3)彼らはそうした確信に動かされて伝道活動を精力的に行ないました。霊感の書である聖書はこう述べています。「日毎に宮また家にて教をなし,イエスのキリストなる事を宣伝へて止まざりき」。(使行 5:42)あなたも,自分はクリスチャンである,と考えておられますか。そうであれば,伝道のわざに携わって,これと同じ熱心また熱意を表わしておられますか。御国の伝道は真のクリスチャンにほんとうに要求されている活動ですか。
2,3 イエスは伝道の仕事に関するご自分の見方をどのように示されましたか。
2 キリスト教の創始者イエス・キリストは伝道のわざをそのようにみなしました。事実,それを,地に来たおもな理由とみなされたのです。イエスはご自身の追随者にこう話されました。「いざ最寄の村々に往かん,われかしこにも教を宣ぶべし,我はこのために出で来りしなり」。(マルコ 1:38)そして,どんな音信を伝道するために来たかを明らかにして言われました。「われ…神の国の福音を宣伝へざるを得ず,わが遣されしはこれがためなり」― ルカ 4:43; 8:1。
3 そうです,イエスのおもな仕事は御国の伝道でした。やがてあらゆる不正を地上から一掃し,神の御心がこの地で行なわれるように取りはからうその天の政府をイエスが宣べ伝えるのは,神の目的でした。(マタイ 6:9,10)そしてイエスは常に,天の父から与えられた仕事に関する正しい見方を表明されました。ある時イエスは,その仕事がご自分にとってどんなにたいせつかを示して,こう言われました。「われを遣し給へる者の御意を行ひ,その御業をなし遂ぐるは,これわが食物なり」― ヨハネ 4:34。
4,5 (イ)イエスは,ご自分の追随者も御国の伝道者でなければならないことをどのように明示されましたか。(ロ)初期クリスチャンの伝道はどのように効果的なものでしたか。
4 イエスの仕事には,御国の伝道に携わるようその追随者を訓練することも含まれており,御国の伝道はまた,それら追随者のおもな仕事になろうとしていました。そのうちの12人に特別の訓練を施し,「往きて宣べつたへ『天国は近づけり』と言へ」と命じたイエスは,そのことを示されました。天国つまり御国は「近づけり」と言うことができたのは,神の天の御国の王として指名されたイエス・キリストが,当時彼らのただ中におられたからです。ゆえにイエスは,この重大な音信を携えて人々の家庭を直接訪問するよう弟子たちに命じ,また,家の人にどのようにあいさつし,御国の音信をどのように伝えるかということまで説明されました。後日イエスは,同様の指示と訓練を受けた70人の弟子たちをつかわしました。(マタイ 10:5-7,11-14。ルカ 10:1-11)死んでよみがえったのちでさえ,イエスはご自分の追随者に現われて,伝道を続けるよう彼らを励まされたのです。
5 よみがえったイエスがガリラヤで現われた時に集まっていたと思われる「五百人以上の兄弟」にイエスは言われました。「それゆえ,行って,すべての国の人々を弟子とし,…わたしがあなたがたに命じた事柄すべてを守るように教えなさい」。(コリント前 15:6。マタイ 28:10,19,20,新)そして最後に,イエスが天に向かって去るのを目撃した弟子たちにこう言われました。「汝ら…地の極にまで我が証人とならん」。(使行 1:8)よみがえったキリストに励まされたそれら初期のクリスチャンは,どんなにか熱意と熱情に満たされたことでしょう。自分たちの仕事に関する正しい見方を持った彼らは,御国の伝道を熱心に行ない,驚くべき成果を収めました。キリスト教の支持者ではなかった史家エドワード・ギボンは,「クリスチャンはその熱意のゆえに……[ローマ]帝国のほとんどあらゆる都市のあらゆる地域にはいっていた」と述べています。a
今日行なわれている御国の伝道
6 現代の伝道の仕事に関してどんな質問が生じますか。
6 しかし今日についてはどうですか。今日のクリスチャンも御国の伝道者でなければなりませんか。1世紀の場合のように,伝道の仕事を遂行するよう彼らを訓練する備えがありますか。神の御国は正しい状態をほんとうに地にもたらすのでしょうか。
7 御国の栄光を伴うキリストの到来をしるしづけることになっていた証拠を幾つかあげなさい。
7 19世紀前イエス・キリストは,御国の栄光を伴い見えないさまで再臨することと,「事物の体制の終局」を前もってさし示し,なかでも次のように予告されました。「国民は国民に敵対し,国は国に敵対して立ち上がるであろう。そして,いたるところに食糧不足や地震があるであろう。これらすべては災いによる苦しみのはじまりである」。(マタイ 24:3-13,新)規模また重要性において他に類のない戦争,それに続く食糧不足・地震・不法の増加,その他は,天におけるキリストの再臨と現存する事物の体制の終わりの時の合図となるのです。
8 (イ)わたしたちが,キリストの再臨の時,また現在の体制の「終わりの日」にはいったことを示すどんな証拠がありますか。(ロ)「終わり」が来る前に,どんな重要な仕事が行なわれねばなりませんか。
8 わたしたちは,イエスが話されたそうした歴史上の重大な時代にはいりましたか。イエスが御国の栄光を伴うその再臨をしるしづけるものとして予告された事柄を,現代のわたしたちは見てきましたか。確かに見てきました。1914年から今日に至る世代中のできごとは,まさしくイエスとその弟子たちが預言したとおりの事柄なのです。それらの事柄すべてが前例のない規模で起きているということは,今がキリストの再臨の期間,またこの事物の体制の「終わりの日」であることを疑問の余地なく証明しています。(テモテ後 3:1-5,新。ペテロ後 3:3,4)したがって,「御国のこの良いたよりは,すべての国の民への証として,人の住む全地に宣べ伝えられるであろう。それから終わりが来るのである」とイエスが予告されたとおり,神の御国に関する重要な音信はいま宣べ伝えられねばなりません。そして,「この良いたより」は宣べ伝えられているのです。―マタイ 24:14,新。
9 神の御国に関して,今伝道されねばならない「良いたより」とはなんですか。
9 神の御国に関する現代の「良いたより」とは,御国がわたしたちのこの時代に天で建てられたという音信なのです。そうです,イエス・キリストは天で即位し,その敵のただ中で統治しておられます。これは,悪魔サタンが天から地の近くに落とされたこと,またサタンがまもなく底知れぬ穴に落とされ,その配下の邪悪な事物の全体制が滅ぼされることを意味しています。なんと良いたよりではありませんか。(詩 110:1,2。黙示 12:7-12; 20:1-3)この「良いたより」には,神に仕える人々が現体制の終わりを生き残り,御国の統治下でとこしえの命と平和を享受するということも含まれているのです。(ヨハネ第一 2:17。詩 37:9-11,29)喜ばしいことにわたしたちは,聖書の預言が次のように述べる時代に到達したのです。「この王たちの日に天の神 一の国を建たまはん これはいつまでも滅ぶることなからん この国は…もろもろの国を打破りてこれを滅せん これは立ちて永遠にいたらん」― ダニエル 2:44。
10 (イ)御国の伝道に対する正しい見方とはなんですか。(ロ)エホバの証人はこの正しい見方をどのように表明してきましたか。
10 聖書のこうした預言が成就する時代にわたしたちが到達したことを,あなたは信じておられますか。悪の終わりと,神の御国の治める新しい事物の体制の到来が間近に迫っていることをほんとうに信じていますか。病気や苦しみ,また死が除かれるという聖書の約束の成就を確信をいだいて待ち望んでおられますか。(黙示 21:3,4)もしそうであれば,「この良いたより」を他の人々に伝えたいと願っておられるに違いありません。この世でわたしたちが携わりうるものでこれよりも重要な仕事はありません。これはほんとうに正しい見方です。御国の伝道は,人間の創造者エホバ神がその遂行を命じた仕事なのです。エホバの証人がこの活動に専念しているのはそのためです。今では125万の証人たちが,203の土地で「この良いたより」を伝えるわざに定期的に携わっているのです。そして証人たちは,初期のクリスチャンのように,御国の音信を伝えるよう他の人々を訓練し援助する用意を整えており,その会衆の集会はまさしくこの目的で設けられています。
正しい見方を保つのに妨げとなる障害
11,12 (イ)なかには,伝道の仕事を続けるのに困難を感じている人がいます。なぜですか。(ロ)イエスの伝道に対して多くの人の取った態度を考えると,家の人が聞こうとしないからといって落胆すべきですか。
11 しかしなかには,御国の伝道を始めたものの,それを続けるのに困難を感じている人もいます。いろいろな障害のために,正しい見方を保つことが妨げられているのです。「神の御国の音信にだれも耳を傾けてくれないのだから,伝道したところで何になるのだろう」と感ずる人がいます。そのような人は,「良いたより」に対する人々の無関心な態度に接して気落ちします。あなたも,家の人が御国の音信に応じないため気落ちすることがありますか。しかしそれでは,人々の態度がその逆であることを期待すべきですか。神の奉仕者たちが携えた音信は,いつも大多数の人に快く受け入れられましたか。
12 たとえば,イエスの時代の人々は当時の御国の音信にどんな態度を取りましたか。イエスご自身が良いたよりを告げたにもかかわらず,ほとんど大多数の人は答え応じませんでした。事実,イエスはこう言われました。「この民の心は鈍く,耳は聞くにものうく,目は閉ぢたればなり。これ目にて見,耳にて聴き,心にて悟り,ひるがへりて,我にいやさるることなからんためなり」。(マタイ 13:15)しかしイエスは,人々の多くが受け入れようとしなかったにもかかわらず,天の父から割り当てられた仕事に対する熱意を保たれました。御国の音信を伝えるのは,神の御心でしたから,イエスは,人々が応じようが応じまいがその仕事を遂行する決意をいだいておられたのです。わたしたちは,イエスが示されたと同じ正しい見方をつちかわねばなりません。わたしたちの伝道を受ける人がたとえだれひとり真の弟子にならないとしても,それは,わたしたちの宣教の失敗,または,わたしたちが神の不興を買っていることを示すものではありません。
13 エレミヤは,自分の受けた伝道の割り当てに対する正しい見方をどのように表明しましたか。エレミヤの手本から何を学べますか。
13 預言者エレミヤの宣教を考えてごらんなさい。真の神の崇拝から離れた反抗的で頑固な同胞に伝道することをエホバ神はエレミヤに命じました。エホバはこう言われました。「汝彼らにこれらのすべてのことばを語るとも汝にきかず かれらを呼ぶとも汝にこたへざるべし」。(エレミヤ 7:27)考えてみてください。わたしたちの伝道を受ける人々はそれ以上に心のかたくなな人間であると言えますか。ところが,それらイスラエル民族は神に対し極端に冷淡だったにもかかわらず,エレミヤはおよそ40年間,忠実に彼らに伝道しつづけたのです。確かに,気落ちしたこともありました。(エレミヤ 20:9)にもかかわらずエレミヤは,伝道の重要性に関する正しい見方を保持し,その忠実な忍耐のゆえにエホバに喜ばれました。エホバ神は今,終わりの到来する前に「すべての国の民への証」を行なわせることを意図しておられます。したがってエホバは,わたしたちがそのご命令に服して伝道しつづけるなら,同様に喜んでくださるのです。
14,15 (イ)他のどんな障害が御国の伝道に関する正しい見方を保つのに妨げとなりますか。自分の奉仕が神の目にどう見られているかについて,どんなまちがった考え方をすることがありますか。(ロ)神はご自分のしもべたちに何を要求しておられますか。したがって,正しい見方とはなんですか。
14 しかし,この仕事を始めた人が,手をゆるめたり,「御国のこの良いたより」の伝道をやめたりさえする原因は,単に人々の冷淡でかたくなな態度だけにあるのではありません。御国の伝道の重要性に関する正しい見方を保つのに妨げとなる障害はほかにもあります。その一つは,イエスのことばを借りれば,「世の煩労」とされている,増し加わる重荷にほかなりません。―ルカ 21:34。
15 今日のように競争の激烈な社会に住んでいる以上,責任がふえ,自分の時間がますます多く要求されるような事態に直面することもあるでしょう。雇い主からはさらに圧力が加えられるかもしれません。また,突然の出費が必要となり,そのくめんに心を砕くこともあるでしょう。健康や体力が衰え,さらに困難が増すかもしれません。それで,こうした事態を見て,神への奉仕にささげうる時間や力がほとんど残されていないため,神に喜んでいただけないと考えるかもしれません。しかしそうではありません。エホバ神は,ご自分のしもべたちが与えうる以上のものを要求してはおられません。それが自分のささげうるすべてであれば,“やもめのわずかな寄付”でさえエホバは大いに喜ばれるのです。(ルカ 21:1-4。マタイ 11:28,29)ですから,伝道の仕事の点でクリスチャンは,自分にできるかぎりのことを行なうという正しい見方を持てます。神が求めておられるのはそれだけです。
16 御国の伝道に関する正しい見方を保つのに妨げとなるどんな障害がまだほかにもありますか。
16 御国の伝道は今日地上で最もたいせつな仕事ですが,この正しい見方を保つのに妨げとなる障害はまだほかにもあります。たとえば,物質主義に根ざす欲望,もしくは物質の追求は現実にそうした障害となりうるのです。使徒パウロの宣教旅行に同伴したデマスの場合がそうでした。デマスは「この世を愛し」たためにパウロを捨てました。(テモテ後 4:10)あなたの生活の場合でも,自分ではどうすることもできないと感じるほど強く,何ものかに,またはだれかに心をひかれているかもしれません。(ヨハネ第一 2:15-17)一方,親族や友人から嘲笑されたり,のけものにされたりして反対を受け,そのために正しい見方を保つことが妨げられるかもしれません。(マタイ 10:33-38)あるいは,ひどい肉体的な虐待や迫害を恐れるあまり,伝道の仕事を忠実に続けることの重要性を見失ってしまうかもしれません。(テモテ後 3:12)または,だれかの言行に腹をたてたために,正しい見方を保つことが妨げられているかもしれません。感情を害した人は,聖書に定められている仕方で問題を正すかわりに,問題を大きくしてしまい,御国の伝道に関する正しい見方を失います。―マタイ 18:15-17。詩 119:165。
まちがった見方の源
17 伝道の仕事に関する正しい見方を保つのは非常に困難です。なぜですか。
17 地上で最も重要なこの仕事に関する正しい見方を保つのに妨げとなるものがそれほど多いのはなぜですか。その重要な原因は人間生来の不完全さと弱さです。それらは,神の御心を従順に行なおうとするわたしたちに逆らうものとなります。(詩 51:5。ロマ 7:18-21)しかし,まちがった見方をわたしたちにいだかせ,神の御国に関する伝道をやめさせることをもくろむ強力な力も現実に存在しています。そうした敵について述べた使徒パウロはクリスチャンたちに次のように書きました。「悪魔の術に向ひて立(つべし)…我らは血肉と戦ふにあらず,…この世の暗黒をつかさどるもの,天のところにある悪の霊と戦ふなり」。(エペソ 6:11,12)それらの霊者は現実に存在しているのです。それだけではありません。1914年以来のまさにこの世代に至って,それらの霊者は神の王イエス・キリストにより天から放逐され,今や人間に対する最後の報復攻撃をしているのです。聖書の預言はまさしくこの世代のことを事前に指摘し,こう述べています。「地と海とは禍害なるかな,悪魔おのが時のしばしなるを知り,大なるいきどほりをいだきて汝らのもとに下りたればなり」― 黙示 12:9,12。
18 わたしたちの伝道をやめさせようとする悪魔の働きに対して,どんな態度を取るべきですか。
18 それであなたはどうなさいますか。あきらめて,やめてしまいますか。あなたの伝道をやめさせようとする悪魔と配下の悪霊たちの働きに屈しますか。それとも全力を尽くして戦い,何ものにも妨げられることなく,今日の地上における最も重要なその仕事を続行しますか。クリスチャンは激烈な霊的な戦いを行ない,「もろもろの論説を破り,神の示教に逆ひて建てたるすべての櫓をこぼ(た)」ねばならない,と使徒パウロは述べました。(コリント後 10:3-5)悪魔が支持しそうな,まちがった見方のために,神の御心を行なう面で手をゆるめたり,やめたりすることはできません。
19 悪魔がもたらすあらゆる反対にもかかわらず,兄弟たちが忠実を保っているということを知ると,どのように心を動かされますか。
19 使徒ペテロも,悪魔が現実の敵であることを指摘してこう言いました。「なんぢら信仰を堅うして彼をふせげ,なんぢらは世にある兄弟たちの同じ苦難に遭ふを知ればなり」。(ペテロ前 5:8,9)世界中のあなたの兄弟たちは,あなたの場合と同様の困難に直面し,かつ忠実を保っているのです。このことを知るとき,あなたはどう感じられますか。真の励みが得られるのではありませんか。たとえさまざまな障害に直面しようと,わたしも忠実に伝道を続けることができるという自信が得られるのではありませんか。そうです,彼らが試練の下で忠実を保てるなら,あなたにもできないことはないはずです。
正しい見方を保つ方法
20,21 たとえ試練や困難に遭遇しても,神への献身に関する正しい見方を持つと,どのように伝道に幸福を見いだすことができますか。
20 しかし,さまざまな試練や困難に遭遇する場合,伝道の仕事にどのようにして幸福と満足を見いだせるのだろうか,と尋ねる人がいます。そう質問されるのは,現実の反対はあまりないかわりに,自分の働いている区域の人々がおおかた無関心であるために失望しているからかもしれません。そうした状況の下ではどうすれば正しい見方を保つことができますか。
21 この点で助けとなるのは,自分が伝道をしている理由を熟考することです。あなたはある仕事に身をささげ,御国の伝道の仕事に対する献身を水のバプテスマで表わされたのですか。それとも,ある存在者すなわちエホバ神に献身し,それが何かにはかかわりなく,そのかたの御心を行なうことにしたのですか。もとよりあなたはエホバに献身したのであり,建てられた神の御国の音信を今全地に宣明するのは神の御心であるゆえに,あなたは伝道しておられるのです。(マタイ 24:14)この点を考慮すると,問題がはっきりしてきませんか。そうです,エホバとの貴重な関係をしっかり心に留めることによって,何事によらずエホバの言われる事柄を行なうことに真の喜びを見いだせるのです。愛する者に喜びと益をもたらす事柄を行なって喜びを感ずるのは自然の情です。してみれば,わたしたちが心から愛するエホバ神の御名とお目的を立証する御国の伝道に,わたしたちは深い喜びを見いだすことができるのです。
22 エホバを喜ばせるには,御国の良いたよりを忠実に伝道する以外に何が必要ですか。
22 エホバに対するわたしたちの献身を考えてみると,エホバを喜ばすには,単に伝道するというだけでなく,それ以上に多くが求められていることに気づきます。神の完全な模範に従って自分の生活を形造ることも必要です。それには,愛・親切・柔和・自制などの,神の霊の実をつちかい,人に接する際に常にそれらを実践しなければなりません。(ガラテヤ 5:22,23)また,淫行・姦淫・泥酔・うそ・盗みなどを犯さず,道徳的な正しい生活をしなければなりません。なぜなら,そうした行為はすべてエホバの憎まれることだからです。(コリント前 6:9,10)ゆえに,御国の伝道は地上で最も重要な仕事ではあっても,わたしたちの献身を正しく検討してみると,神の他のいろいろなご要求をも守って,わたしたちの個人的かつ親密な神との関係を保たなければ,伝道に携わっても神の目にはなんの価値もないことがわかります。
23,24 献身したわたしたちとエホバ神との関係と,御国の伝道の仕事との間には重要な関連があります。結婚の関係を考えると,この点を理解するのにどのように役だちますか。
23 したがって,伝道の仕事と,献身に基づくエホバ神とのわたしたちの貴重な関係に対する平衡の取れた見方を保つのは肝要です。そうした関係と仕事との間に見られる重要な関連をよく理解する助けとして,次のたとえを考えてみましょう。円熟した女性は結婚すると,家事や子供の養育というたいせつな,しかも相当な量の仕事が自分の前に置かれていることを知っています。しかしその仕事に喜びを見いだします。それは必ずしも仕事そのものが楽しいからではなく,仕事を忠実に果たすのは,夫婦の親密なきずなを保ち,かつ強めるのにたいせつな役割をはたすということをよく知っているからです。
24 同様にわたしたちも,それと同じ理由で,御国の伝道の仕事に喜びを見いだせます。宣教に際して直面する無関心で不親切な,時には悪意のある態度のゆえに喜びを感ずるのでないことは言うまでもありません。むしろ,伝道せよとのエホバのご命令に従うことにより,エホバとわたしたちの親密な関係を深め,かつ強められることを知るゆえに喜びを得るのです。それで,献身したわたしたちと,エホバとの貴重な関係を常にたいせつにして,わたしたちは伝道の仕事に関する円熟した見方を保ち,かつ,正しい動機をいだいて熱心に伝道の仕事に携わってゆきます。なぜなら,わたしたちはほんとうにエホバを愛し,その御名を高めたいと願っているからです。―ヨハネ第一 5:2,3。
25 (イ)イエスにとって神の御心を行なうことは,たいへんな苦しみを伴うことだったにもかかわらず,どのようにしてそこに大きな喜びを見いだすことができましたか。(ロ)今日わたしたちにはどんなすばらしい特権がありますか。
25 そうです,御国の伝道の仕事を,エホバ神に対するわたしたちの愛と献身を実証する機会とみなすなら,御国の伝道に関する正しい見方を保つことができるでしょう。これはイエスの物の見方でした。イエスは言われました。「わが神よ われは聖意にしたがふことを楽む」。(詩 40:7,8。ヘブル 10:5-10)神の御心を行なうことは,自分が嘲笑と非難を受け,ついには刑柱上の死を遂げることを意味したにもかかわらず,イエスはそう言われたのです。(詩 22:7,8,16。イザヤ 53:5,7)イエスは伝道の仕事に喜びを見いだしました。なぜなら,その仕事は,神に対する破れることのない,イエスの愛を実証する機会となり,また,その仕事を忠実に行なって,人間は愛の心から神にすすんで仕えることはできないというサタンの嘲笑に対する答えを,天の父に差し伸べることができたからです。(箴言 27:11。ヨブ記 1,2章)わたしたちもまた同じ理由で,神の御心を行なうことに喜びを見いだせます。神の御名の立証にあずかり,神の心を真に喜ばせる仕事に携わるのは,ほんとうに特権です。
26 仲間の人間に対する純粋な愛は,御国の伝道に関する正しい見方を保つのに,どのように役だちますか。
26 ほかに,御国の伝道に関する正しい見方を保つのに助けとなるのは,仲間の人間に対する純粋な愛を保ち,わたしたちの仕事が彼らにどのように益するかを思い起こすことです。考えてみてください。「なんぢ死地にひかれゆく者をすくへ 滅亡によろめきゆく者をすくはざるなかれ」と聖書の箴言が勧めているとおり,忠実に伝道すれば,わたしたちは,足早に近づいている現在の事物の体制の終わりにおける確実な死に向かう人々を救う器となりうるのです。(箴言 24:11)使徒パウロもまた,わたしたちの仕事の,人を救う働きを強調して,こう述べました。「自分と自分の教えとに絶えず注意を払いなさい。これらのことを行ないつづけなさい。そうすることによって,あなたは自分自身と,あなたのことばを聞く者とを救うことになるからである」。(テモテ前 4:16,新)仲間の人間を救う器となるのは,愛を示しうるほんとうにすばらしい道と言わねばなりません。
27 忠実に神に仕え,かつ御国の良いたよりを伝道すれば,現在また将来どんな益にあずかれますか。
27 御国の伝道に携わりうるのは,まさに今享受できる最もすばらしい特権です。この仕事に忙しく携わることは,ほんとうに身の守りとなります。そうすれば,神とその御心を行なうことに心を集中でき,したがって神の非としておられる活動に陥らずにすむでしょう。(ガラテヤ 5:19-21)そのうえ,神とともに神の仕事に親しく携わることになるのです。これはなんという特権でしょう。(コリント前 3:5-9)また,エホバ神がご自分の忠実なしもべたちすべてに祝福としてお与えになるすばらしい報いをも思い起こしてください。その約束された祝福とは,現在の事物の体制の終わりを生き残って,神の建てられる正義の新秩序の下で完全な健康を伴う永遠の命を受けることです。(ヨハネ第一 2:17。ペテロ後 3:13。黙示 21:3,4)エホバに仕え,かつ,「終わり」が来る前に御国のこの良いたよりを伝道せよとの御心を遂行したいと願うべき十分の理由が確かにあるのです。―マタイ 24:14,新。
[脚注]
a エドワード・ギボン著「ローマ帝国衰亡史論」,現代叢書版。第1巻16章451ページ。
[402ページの図版]
エホバの証人は203の土地で,神の御国の良いたよりを伝道している