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妊娠中絶の問題目ざめよ! 1971 | 1月8日
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妊娠中絶の問題
世界中で毎年行なわれている妊娠中絶は3,000万件を越えており,年間,毎秒約1件の割合で行なわれています。
その大半は不法な妊娠中絶とされていますが,近年,多くの国は,いっそう寛大な妊娠中絶法を制定しています。なかには,制限規定がほとんどないため,“申請ありしだい妊娠中絶”に類する政策の行なわれている所もあり,ゆくゆくは,たいていの国がそうした態度を取るようになろうと予告する権威者もいます。
妊娠中絶の方法
妊娠中絶とはいったいなんですか。それは(不慮の流産以外の)人工早産,つまり,発育中の胎芽または胎児を,胎外で生存できるようになる前に故意に流産させることです。妊娠後,最初の2か月間の発育段階にあるものは胎芽で,その後は胎児と呼ばれます。
多くの国は今でも厳格な妊娠中絶法を施行しており,あいつぐ妊娠のため母体が危うくなる事態その他,ごく限られた事情の場合だけ,妊娠中絶を合法とみなし,法の認める理由に基づかない中絶は不法行為とみなします。後者の中絶手術は正式の病院では行なえないため,しばしば無資格者の手で,しかも,おそまつな状況のもとで行なわれます。
では,“合法的な”人工早産はどのようにして行なわれますか。たいてい妊娠初期に,次の二つの方法のいずれかでなされます。一つは頸管拡張器とキュレットを用いる方法で,手術に際し,小さな頸管拡張器で子宮口を開き,キュレットを入れられるようにし,キュレットで子宮内壁をこすって,胎芽を除去します。
一般に広く用いられている,もう一つの方法はソ連で考案されたもので,いわば真空そうじ機のような働きをする小さな吸管を利用して,子宮壁から胎芽を引き離す方法です。
妊娠3か月以後の中絶手術はいっそう困難で,危険を伴います。胎児を除去するには,帝王切開をして子宮壁を切る場合もあります。また,塩溶液を腹部から注入して胎児を圧死させ,陣痛を誘発させたりします。陣痛は12時間ないし36時間内に始まり,筋肉の収縮作用で胎児は押し出されます。
こうした手術には,熟練した外科医,十分の設備や医薬品が必要であり,そうした条件を満たしうるのは,十分整った病院だけです。ところが,妊娠中絶の大半は,不法なものだけに,そうした条件のもとでは行なわれていません。助産婦や,しろうとの堕胎手術者による不法な妊娠中絶の方法に,ぞっとするようなものがあり,不具や死をもたらす場合がしばしばあります。「産児制限」と題する本はこう述べています。
「その方法の多くは,たいへんな苦痛を伴う恐ろしいほどのもので,大半は子宮に病気を感染させる手段に等しく,胎芽どころか,母親さえ殺しかねない」。
疫病のように増大する妊娠中絶
世界中でなされている妊娠中絶は疫病のような勢いで増大しています。妊娠中絶が出生件数と等しい国もあれば,出生件数を上回っている国さえあります。
日本をはじめ,ソ連および東欧諸国の大半は妊娠中絶を“合法”とみなしています。アメリカ,ミシガン州の人口計画センターのレスリー・コルサ博士はそれらの国に関し,こう述べました。「人工流産の件数が今や出生件数に近づきつつあるとされる,十分確かな証拠がある」。ハンガリーでは妊娠中絶件数は出生のそれを上回っています。このことに関する左表の数字に注目してください。
年 出生件数 “合法的”妊娠中絶件数
1960 146,500 162,200
1961 140,400 170,000
1962 130,100 163,700
1963 132,300 173,800
1964 132,100 184,400
1965 133,000 180,300
ラテン・アメリカ諸国は厳格な妊娠中絶法を施行しており,ローマ・カトリック教会も同様の態度を取っています。ラテン・アメリカの人口の大半はカトリック教徒です。ところが,この地域について,US・ニューズ・アンド・リポート誌はこう報じています。
「特に大都市では,[不法な]妊娠中絶が産児制限の最も普通の方式とされている……。
「ブラジル家族福祉協会の推定によれば,ブラジルでは1日に4,000件,年間150万件の妊娠中絶が行なわれており,出生3に対し,妊娠中絶は1の割合である。
「隣接するウルグァイではその割合は逆になり,出生1に対し,妊娠中絶は3となっている。他の南米諸国はその中間に位置している」。
国民の大半がカトリック教徒のフランスでは妊娠中絶は不法行為ですが,それでも,出生件数相当の妊娠中絶が行なわれており,年間,100万件に達しています。イタリアでも不法な妊娠中絶が広く行なわれており,スペインやポルトガルの当局者は,妊娠中絶を「人口制限の主要手段」と呼んでいます。
ベルギーの出生件数は年間約20万件ですが,医師の推定では年間約10万件の不法な妊娠中絶があり,警察当局はその数を40万件と見ています。西ドイツの年間出生件数は100万件ですが,不法な妊娠中絶は100ないし300万件と推定されています。
アメリカでは年間出生件数はおよそ400万件で,不法な妊娠中絶は約100万件ですから,妊娠件数のおよそ20%は妊娠中絶に終わっていることになります。ここ数年来,“合法的”な妊娠中絶を容易にする新しい法律が幾つかの州で制定され,ニューヨーク州の新しい法律によれば,在住期間の条件を問わず,妊娠24週目までは,どんな理由でも中絶手術が認められます。
すべての国が,より寛大な妊娠中絶法を制定しているとはいえませんが,今後どのような傾向を取るかには疑問の余地がありません。「申請ありしだい妊娠中絶」という方針が法制化される傾向に進んでいるのです。
妊娠中絶が行なわれるのはなぜか
大ぜいの女性が妊娠中絶をするのはなぜですか。そうするのはどんな女性ですか。
妊娠中絶を求めるのはおおむね未婚女性に違いないと考える人がいますが,そうではありません。ほとんどどの国でも,妊娠中絶の大半は既婚婦人です。デンマークでは76%,チリでは85%が既婚婦人で,アメリカでは60%余を占めるという人もいます。
既婚婦人がそれほど多いのはなぜですか。それは産児制限の主要な手段とされているのです。妊娠中絶をする既婚女性はたいてい希望数の,場合によってはそれ以上の子どもをかかえているので,不必要な子どもを生まずにすませようとします。教育程度の高い人ほど,妊娠中絶を求める傾向が強くなります。
アメリカでは妊娠中絶を求める未婚女性がふえており,今では既婚女性のその数に匹敵すると見る人もいます。そうした事態が見られるのはなぜですか。マサチューセッツ総合病院のJ・W・グロバー博士はこう言います。「若い女性が性革命や無責任な性の実験に加わっている」。バルチモアのF・J・エイド博士は,若い人びとの乱交の増大が,「不法妊娠,不法な妊娠中絶,性病などをエスカレートさせて」いると述べました。
カトリック教徒で妊娠中絶をする女性も大ぜいいます。しかも,それは教会法に反することなのです。妊娠中絶に関する全米聖職者審議会について報じた,ニューズウィーク誌,1970年4月13日号はこう述べました。
「相談に来る女性の優に4分の1,あるいはそれ以上がカトリック教徒である。同審議会の聖職者の中には少なくともふたりの司祭が加わっている。カトリックの女性に助言をする際,新教の牧師は,当人が破棄することになる教会法を慎重に考慮するよう勧める。〔同審議会を創設した僧職者〕パーソンズは,『良いカトリック教徒でありたいと願って,不妊週期に基づく避妊法を用いたものの,いざ妊娠したとなると,教会の教えをあっさり破棄する人が多いのには驚かされた』と述べた」。
どんな影響をもたらすか
妊娠中絶は女性にどんな影響をもたらしますか。身体的には,不具・不妊・死の脅威がつきまとっています。
アメリカでは妊娠中絶手術の不手ぎわのため,1時間1件の割合で妊産婦が死亡しており,妊産婦の死亡件数の45%は不法な妊娠中絶によるものとされています。ジャマイカでは,それが妊産婦の死因の筆頭とされています。コロンビアでは,妊娠中絶が出産年齢の女性の死因の第1位を占めています。
身体的な影響に加えて,精神的な影響もあります。「産児制限」と題する前述の出版物はこう述べます。「多くの女性にとって妊娠中絶が精神的衝撃を与える経験であることは争えない事実といえよう。宗教的背景や信仰のいかんを問わず,命とはいわぬまでも,少なくとも生のきざしを断つということには,かなりの憎悪の念を感ずるものである」。
スイスの医師は,妊娠中絶をした女性の半数以上に,心理学上好ましくない反応が見られたことを報じています。ニューズウィーク誌に載せられた,ある女性の次のことばは典型的な例といえます。「胎児をトイレに流し去るときの女性の苦脳を理解できる男性はいないと思います」。なかには,妊娠中絶をしたのち,自責の念にかられて自殺した女性もいます。
医師や看護婦とて,そうした精神的影響をこうむらずにおれるものではありません。新しい法律が施行されて妊娠中絶が以前よりも容易になった英国の,1970年3月9日付,デーリー・ミラー紙はこう報じました。「保守党議員N・セント・ジョンステバスは…全国の看護婦は妊娠中絶手術にいよいよ嫌悪の念をいだいていると語った。なかには,焼却炉に投げ込まれる直前,うぶ声を上げた胎児もいた」。1970年3月30日付,ニューヨーク・タイムズ紙は報じました。
「産科医の多くは,要請ありしだい中絶手術を施すことはおろか,いかなる種類の中絶手術であれ,中絶手術を施すことをいやがる。これこそ,妊娠中絶を望む患者の多くが直面する最大の障害であろう。
「ある著名な産科医は語った。『研究と臨床経験を積んだ産科医は,新しい命を断つためではなく,世に送り出すために働く者であることを…理解してもらわねばならない。われわれ産科医の多くにとって,宗教上の理由はいざ知らず,妊娠中絶は本質的に性に合わない事なのである』。
「妊娠中絶法がゆるめられた幾つかの州の経験からしても,資格のある医師で中絶手術を快く引き受けるのはごく少数であることがわかる」。
それは命を断つことか?
人工早産は,命を断つことですか。前述の医師は,そうであると述べています。
産婦人科医専門の「産婦人科ニューズ」誌1970年5月15日号は,未婚の母親に関する,バルチモアのF・J・エイド博士の所見を載せましたが,同博士はその中でこう述べています。
「その傾向が今後も続き,要請されしだい妊娠中絶が認められ,この部類の人びと[未婚の母親]だけが中絶を受けるとすれば,医師の手で子宮内で殺されるアメリカ人の数は,これまでのわが国の戦死者数の合計を上回り,キューレットは剣以上に命を奪うものとなろう」。
これでわかるとおり,多くの医師は妊娠中絶を殺人とみなしています。
妊娠中絶は実際に命を奪うこととはいえない,と主張する人もいます。しかし,成育さえさまたげられなければ,受胎の瞬間から,母親の子宮内の受精卵には何が生じますか。それは発育して赤ん坊となり,やがて成長してひとりの人間となるのです。だからこそ,ワシントンのM・J・ハルベルスタム博士は,胎児についてこう語ったのです。
「その将来は果てしがない。このことは分子生物学として知られている事から,つまり,受胎の際,胎児はRNAとDNAの遺伝学的潜在能力すべてを受け継ぐという事実と完全に合致する。…特別な方法においてであれ,胎児が生きているということには疑問の余地がない。…ひとりの医師として,わたしは,胎児が生きていることを知っているとともに,ひとりの人間として,わたしは胎児に対し,畏敬の念をいだく者である」。
誕生1か月の赤ん坊を殺すのは殺人ではありませんか。誕生後1日目の赤ん坊を殺すのも殺人ではありませんか。出生後,1分を経た赤ん坊はどうですか。そうした赤ん坊を殺せば,だれでも殺人の罪に問われます。
しかし,生後1分の赤ん坊と出生わずか1分前の胎児とはいったいどんな違いがあるというのでしょうか。それが出生前日,あるいは1週間,1か月または,もっと前であっても,胎児はやはり人間として誕生しうるのです。
受胎の瞬間から,新しい人間の生の営みが始まるという事実はだれも否定できません。どれほどいわゆる“詭弁”をろうしても,妨げられさえしなければ,正常な場合,胎児はやがて成育して,ひとり前のおとなになるという真理は,くつがえせるものではありません。
そのうえ,男女を問わず,妊娠中絶をよしとする人は,ある人間には別の人間以上に生命を受ける権利がある,と言っていることになります。しかし,それと同じことを語って,ユダヤ人600万人のほか,他の幾百万もの人びとを殺したのはヒトラーでした。そしてヒトラーは,狂気の殺人者として人びとから非難されました。ところが,妊娠中絶によって,毎年なんと3,000万人もの命が奪われているのです!
この問題に対するエホバの証人の見方
クリスチャンとしてエホバの証人は,生命の創造者の見解こそ最もたいせつなものであることを認識しているゆえ,神のことばを指針として,この問題を論じます。
神のことば,聖書を調べると,生殖は結婚の唯一の主要な目的ではないまでも,その一つであることがわかります。しかし今日,クリスチャンは,「生よ繁殖よ」との,神からの命令のもとにはありません。なかには,イエスが言われたように,「天〔の王〕国のために」独身の道を選ぶ人さえいます。―創世 1:28。マタイ 19:10-12,〔新〕
したがって今日,結婚したクリスチャンは,家族の大きさをみずから制限したり,子どもをもうけずに生活したりすることができます。神に仕えるより大きな自由を持つため,あるいは,健康また経済事情その他の理由でそうすることがあります。聖書では産児制限の問題は直接論じられていませんから,この問題に関し,夫婦は各みずから結論を出す権利を持っています。―ガラテヤ 6:5。
しかし聖書は,神にとって生命が貴重なものであることを確かに示しています。しかも,普通に行なわれている人工流産は,生命に対する深い敬意を表わすものでは決してありません。モーセを通して与えられた神の律法によれば,人間の胎芽また胎児は1個の生命とみなされました。(出エジプト 21:22,23)聖書のヨハネの第一の書 3章15節はこう述べています。「おほよそ人を殺す者の,そのうちに永遠の生命なきを汝らは知る」。黙示録 22章15節は,「まじ術をなすもの,淫行のもの,人を殺すもの,偶像を拝する者,またすべて虚偽を愛してこれを行ふ者は外にあり」と断じています。
出産に際して,母親の生命が確かに脅かされる場合,その時こそ,母親の生命と,生まれ出る子どものそれのどちらを守るか選択しなければなりません。その場合,どちらを選ぶかは当事者の責任となります。たいていの場合,母親は家族にとって重要な存在であることを考え,母親の命を救う道を選びます。しかし,医療の発達した今日,多くの国では,そうした事態はめったに生じません。
神の律法の益にあずかる
エホバの証人は妊娠中絶をもって家族の大きさを制限する手段とせず,注意と自制を働かせて,家族を大きくしないようにします。
たとえ予定していなかった子どもが生まれても,やはりできるかぎりの愛をその子どもに注ぐよう努力します。神の律法を尊重するゆえに,神の助けが得られることを知っているのです。詩篇 37篇25節はこう述べています。「義者のすてられ 或はその裔の糧こひありくを見ることなし」。有名な山上の垂訓の中で同様のことを述べたイエスは,神の律法に服する人は自分たちの責任を果たす際,神の助けにあずかれることを示されました。―マタイ 6:25-33。
同時に,エホバのクリスチャン証人の独身の女性も神の律法の益にあずかっています。それら女性の間では,妊娠中絶の増大という問題は少しもないからです。なぜですか。なぜなら,聖書にしるされている,キリスト教の原則と律法に準じて生活する未婚の男女は,淫行をならわしにしないからです。それらの男女は,今日の若者に見られる不道徳な傾向にくみさず,結婚してはじめて性関係を持てるという事を重んじて,その時まで純潔を守ります。こうして神の律法を守るので,その益を受け,不本意にも妊娠するというような問題に陥らずにすむのです。
聖書の律法と原則に従って生活すれば,妊娠中絶の問題は確かに解決できます。200余の土地のエホバの証人は,それが真実であることを知っています。しかし,他の人びとが,性道徳や殺人にかかわる神の律法に反する道を選ぶなら,それはそれらの人たちの責任に属する問題です。そのような人はみずからの行為に関し,神に申し開きをしなければなりません。
エホバの証人は神の意志を行なうことをなぜそれほど重視しているのですか。なぜなら神は創造者であられるとともに,証人たちは神を愛し,その律法を尊重しているからです。同時に,今は,現存する邪魔な事物の体制の「終わりの日」だからです。―ヨハネ第一 2:17。
聖書預言の成就に見られる証拠のすべては,神が現在の腐敗した事物の体制に対するさばきを執行する時が間近に迫っていることを示しています。神の律法を尊重して,神に仕える人びとだけが,とこしえの命の見込みをいだいて,平和と安全の保障された,神の新しい秩序に生きつづけるのです。その時,生きとし生けるすべてのものは,神の律法を尊重するでしょう。そして,妊娠中絶の問題はもはやなくなるでしょう。
[9ページの図版]
多くの場合,妊娠中絶は,好ましくない精神状態をもたらす。
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タマネギと血栓目ざめよ! 1971 | 1月8日
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タマネギと血栓
● タマネギを食べて,まれに見る好結果が得られたことを,1969年3月28日号,タイム誌は報じた。ビルマ人の一医師は,22人の患者を対象にした実験で,血栓が生ずるのを防ぐ物質が,ありふれたタマネギに含まれていることを発見した。同医師は,14人の患者に85㌘ほどの脂肪を含む朝食を取らせたところ,血液の備えている,凝血を防ぐ力がたちまち減退するのを知った。別の日,同じ患者たちにいためたタマネギ60㌘ほどを加えた同じ内容の朝食を食べさせたところ,血栓を防ぐ要素の度合いは減少するかわりに増大した。いためるために余分の脂肪が使用されたにもかかわらず,そうした結果が得られたのである。残り8人の患者を対象とした実験では,煮たタマネギが使われたが,ほとんど同様の結果が得られた。
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