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「緑の革命」から最大の益を受けるのはだれか目ざめよ! 1972 | 10月22日
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さらに重要な必要物
肥料よりもっと大切で,しかも非常に重要なものがあります。F・R・フランケルは自著「インドにおける緑の革命」の中でこう述べています。「超小型小麦の耕作が成功するかどうかは,それ以上に,水の供給を確保することに深い関係がある。事実,育成周期の間のいくつかの定まった期間にかんがいすることは,収量を上げる可能性を実現させるために肝要である」。しかも,稲は小麦よりも多くの水を必要とします。
かんがいは降雨とは別です。新種の穀物は不確かな降雨に依存することはできません。定期的なかんがいが必要です。つまり,水の供給を確保しなければなりません。かんがい用水は,運河を利用して河川から引くことができます。しかし貧しい地域ではそうした運河を作れるところはそう多くありません。たいていの場合,地下水をくみ上げるためのポンプが必要です。
それにはすべて科学技術が関係してきます。運河を掘るには機械が,ポンプを製造するには工場が必要です。さらに,フランケルはこう述べています。「加えて,新しい小麦の収量を最も多くするためには,より複雑な農業設備が要求される。すなわち,土壌を水平にするための改良されたすき,円板すき,まぐわ,種を浅く植え,苗の間隔を均等にするための種まき機と施肥機,さび病や他の病気から植物を保護するための設備」。
こうしたものすべてを整えられる人はだれですか。やはり,すでに相当に富んでいる農家ということになります。
穀物を保護する設備が必要なことに注目してください。それには,穀物の新しい品種を保護するために多量の殺虫剤の使用が含まれます。それは金かいるだけでなく,毒性です。しかし,二つの害悪のうち,このほうが程度が軽いとして,広範に使用されています。飢えている人は,腹の中に食べ物を入れることにせいいっぱいで,殺虫剤の害が長く残ることなどあまり気にしない,という考えがあるからです。しかしながら,あとになって必ずその価を払うことになるのです。
こうした必要を要約して,USニューズ・アンド・ワールド・レポート誌はこう述べています。「しかし,新しい種だけでは農業に革命を起こすことはできない。遺伝的に宿っている可能性を最大限に発揮させるためには,かんがいそして多量の肥料と殺虫剤が必要である」。それにはすべて金がいります。貧しい人や飢えている人に金はありません。
不平等な分配
以上のような理由のために,「インドにおける緑の革命」と題する本は,「新しい科学技術の益は極めて不平等な仕方で分配されている」と述べているのです。
この結論は,「生き残るための方程式」の中で次のように支持されています。
「革命は非常に『選択的』であるといわねばならない。…インドの耕作地の4分の3にはかんがいの設備がなく,『乾地』農法が主であることを考えれば十分である。他に理由がないとして,国土の大部分はなんら変化を受けていないし,同じほどの膨大な土地はその中に『点在する小島』を誇れるにすぎない。…
「緑の革命は多くの人に影響を与える代わりに,わずかの人に影響を与えているに過ぎない。それは環境条件によるだけでなく,大多数の農民に資力がないからである。…その一部になることを待ち望みながらもその希望が実現されないと,動乱を生む社会的,経済的,政治的問題が作り出される。そしてこれが,緑の革命のたどっている道のどの部分を評価しても明らかになってくる別の面なのである」。
こうして,全収穫量と総収入は上昇しても,それは公平に分配されているわけではありません。たとえば,インドの主要栽培地の二つであるビハールとウッタルプラデシでは全農地の80%が3ヘクタール余りの大きさと推定されています。これは,たいていの農民に新しい技術を利用するだけの資力がないことを物語っています。ですから,益を受けているのは,ほんとうに困っている人たちのごくわずかの部分に過ぎません。事実,インドでは1億8,500万人の人々が,2ヘクタール以下の農地で生計をたてているということです。
また多くの貧しい国には,自分の農地がなく,地主から土地を借りている農民がいます。しかも近年地価は上がっています。「緑の革命」の効果がはっきり見られる周辺では,地価が時として3倍,4倍,5倍になることがあります。その結果,借地料は高騰し,小作農にとって事態はますますむずかしくなって行きます。また,新しい作物から利益が上がるのを見て,自分で土地を耕作することを決める地主もいます。そのため,小作農は土地を追われ,土地を持たない労働者になってしまいます。
農村地帯の,土地を持たない労働者の数は信じがたいほどです。インドだけでも,その数は1億人を越えると言われています。それも,都市に寄り集まっている何百人もの貧しい人々に加えてそれだけいるのです。
インドにおけるそれら土地のない労働者と,2ヘクタールに満たない土地で農業を営んでいる1億8,500万人とを合わせると,実に3億人近い数になります。これはインドの農村人口の大部分を占め,しかもそのほとんどは,極貧にあえぎながら生活しているのです。その平均収入は一人につき年間わずか200ルピー(約6,000円)だといわれています。
その結果について,「インドにおける緑の革命」は,このために「経済状態は著しく悪化したというのが実状である」と述べています。また,ある経済学者は,「生き残るための方程式」の中で,「富んだ者はますます富み,貧しい者はますます貧しくなる」と書いています。
つまり「緑の革命」は,それが援助するはずの人々に,最低の援助しか与えていないことになります。開発途上にある国にとって,この問題の比重は非常に大きいものです。
「緑の革命」は「赤」になりうる
問題の重大性は,インドのインディラ・ガンジー首相のことばからよくわかります。インド全州の各省長官に対する演説の中で同首相は次のように言いました。「現在の時が発している警告は,社会正義に立脚した革命が緑の革命に伴わなければ,緑の革命は緑ですまされないかもしれないということです」。
つまり,貧困と飢え,また不公平が続く状態に対して反動が起こり,「赤」すなわち共産主義の革命になりかねないことをガンジー首相はほのめかしたのです。それは,貧しい人々が自分たちの生活が悪化してゆくのに,他の人たちは,特に富んでいる人たちが新しい技術の益を受けているのを見る,といった事態の生じた所で現に起きています。
また,これは一国の特殊な事情であると結論してもなりません。例外というよりもそれが通常の状態です。コロンビアの農業関係の職員がその国で開かれた晩さん会で,招かれた客にこう語りました。「『緑の革命』は,民衆を,それを最も必要としている民衆を素通りして,『持てる者』と『持たざる者』との隔差を広げている」。
さらに,オーストラリアの週刊誌「ブレティン」は次のように述べています。「食糧が数に追いついてゆけないのは,おもに農業問題というよりも経済上の問題である。民衆は貧しすぎて,たとえ良い食品があっても,その必要な食品を買うことができない」。これはアメリカについてもある程度いえることです。政府は農民に金を出して生産を抑えているのに,幾百万人ものアメリカ人は健康を維持するために十分な食事ができず,栄養不良の状態にあります。
国連食糧農業機構の理事長A・H・バーマの発表した最近の概略報告はこう述べています。「農業収入の増加は,どちらかといえば,いよいよ不平等に分配されることになり,その結果,過去数年のうちに,飢えて栄養失調をきたしている人たちの絶対数は増加した」。
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『緑の革命』だけで十分か目ざめよ! 1972 | 10月22日
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『緑の革命』だけで十分か
飢えの問題は今日ですら深刻です。しかし専門家たちの一致した意見によると,問題はまもなくさらに悪化しそうです。
なぜですか。なぜなら,ほかにも考慮しなければならないことがあるからです。しかも,それは最大の問題とされているものです。
ミシガン州立大学の食品科学の教授ゲオルグ・ボルグストロムはそれが何かを指摘しています。「現在の世界的なたん白質の危機が自然に解消し,取り除かれると考える人がいるなら,その人は,飢えた人々が十分栄養のとれる人より2倍の速さで増加していることを忘れてはならない」。
事実,最近の国際連合の報告によると,飢えた人々は,十分栄養のとれる人々より,実際には2倍半の速さで増加しています。したがって,『富んだ』国の人口の増加に伴ってより多くの人が良い食事をする一方,貧しい国々の,十分食べることのできない人の数はそれよりも速くふえています。「人口爆発」を口にする専門家たちが心配しているのはこの問題です。
したがって,「緑の革命」にもかかわらず,飢えの問題は解決されていません。1972年3月6日号のUSニューズ・アンド・ワールド・レポート誌はこう述べています。「世界人口の急激な増加は,とどまるけはいがない。それどころか向こう数年,その増加率はさらに上昇するかもしれない。…現在の人口の増加は,年間7,500万人である。つまり,12か月のうちに新しいバングラデシが生まれる割合になる。…その爆発的な増加のため,人口問題の専門家たちは,飢えが世界の開発諸国にも大規模に広がると心配している」。
インドの現在約5億7,000万人の人口は,毎年だいたい1,400万人の割合で,ふえています。この点に関して,ニューヨーク・タイムズ紙はこう述べています。「増加率が大幅に減少しないかぎり,インドの人口は2000年までには10億人になり,食糧の生産が少しぐらい伸びてもとても追いついて行けないであろう」。
しかし別の筋から出されている警告によると,たとえインドが数年の間に徐々に,「出産率を現在の半分に抑えるという非常な難事」をやり遂げたとしても,それでも十分ではないようです。その人口は2000年ごろまでにはやはり10億を越すであろうとのことです。
地球が,35億または40億,あるいはそれ以上の人口を養えないというのではありません。養いうるのです。しかし,この世の経済,社会,政治機構のあり方のために,毎年貧困と飢えに閉じ込められる人口がふえているのです。
『奇跡』はもう起こらない
さらに,一部専門家たちを心配させているのは,将来,食糧の生産の大幅な増加を期待するのはむずかしいだろうとの見通しです。貧しい国々の最良の耕作地には,新しい種子が大部分の面積にわたってすでに植えられています。
その理由で,「緑の革命」の権威として認められている海外開発評議会のレスター・R・ブラウンはこう述べています。「『緑の革命』によって,短期間ではあるが一息つけたにしても,食糧の生産を永久に拡大しつづけることはできない。どれだけの収穫高を上げられるかには一定の限度がある」。フレーザー教授は「人々の問題」の中で次のように言っています。
「わたしたちの心配しているのは,食糧危機がしばらくの間緩和されたので,多くの人がこれは科学が常に救助の手をさし伸べられる証拠だと考えはしないかということである。…
「これからも改良はなされるであろうが,生産が飛躍的に伸びることはもうないであろう。遺伝学者たちは…現在のものは完全に予測できたのに対し,将来に『奇跡』が起きるとはとても考えられないと言い切っている」。
「緑の革命」による最近数年の大成功にもかかわらず,その間の世界人口の増加は急速で,収穫の増加分もほとんど帳消しにされたほどです。貧しい国々で,1エーカー(約0.4ヘクタール)当りの収量をこれ以上ふやすことはできないという限度まで来て,人口のほうは依然「爆発」を続けるなら,その時はどうなりますか。
化学工学者ノーベルト・オルセンは1972年の初めにこう言いました。「肥料や食糧増産の新しい方法を造り出そうとして一日に24時間働いたところで,必要に応じることは無理であろう」。また,1972年3月15日号の「化学ウィーク」誌は次のように報じています。「マサチューセッツ工科大学の4人からなる共同研究班は…人口の増加を固定させ,産業生産を安定させることによってはじめて,人類は向こう100年間を生きのびることができる[と結論した]」。
地域によってはすでに,人口の増加のために自然の草木がたえまなく伐採されている所があります。インドの西部では,森林伐採と牧草地の草を大量に家畜に食べさせるために,土砂あらしのような状態が起きているとのことです。しかも,土地が何世代もの間家族の中で分割に分割を重ねてきているので,これ以上小わけすれば採算のとれる耕作はやっていけない状態です。
オーストラリアの「ブレティン」誌はこう述べています。「1世紀も経ないうちに,世界の荒野の広さは,『土砂あらしを生みだす農法』によって2倍になった。(しかも,破壊は今なお続いている。)一方どの大陸においても農民たち(そして産業)は,作物を栽培するために,地下水という貴重な資源を掘り出している。時には危険な度合いで掘っている」。
マルサスは正しかったか
「ブレティン」誌は次のような結論を出しています。「古い18世紀のあの陰うつな非観論者トマス・マルサスが結局は正しかったことが証明されつつある。彼が著書を明らかにしてから,膨大な土地が開発され,科学のおかげで収穫量はめざましく増加を示した。にもかかわらず,空腹をかかえた飢えた人口は以前よりも多くなっているのが正味の結果である」。
また,「環境の危機」という本はこう述べています。「現在この地球には,1850年に存在していた人間よりも大勢の人が空腹をかかえ,体力的に弱っている」。1850年には,10億の人が地上に住んでいました。
実際には今,どれほどの人が飢えのために死んでいるのでしょうか。スタンフォードのポール・エーリッヒは次のように言います。
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