エホバの証人の「王国の真理」地域大会
ほとんどどんな人でも,毎日の決まり切った仕事から離れ,気分転換のできる時を心待ちにします。大抵の人にとって,気分転換となるのは夏の休暇です。しかし,たとえどこかへ出掛けたとしても,周りは見知らぬ人ばかりで,自己中心的な態度にはほとんど休みがないので,景色だけが変わるということになります。
一方,エホバの証人やエホバの証人と聖書を研究している人々は,年に一度開かれる地域大会で,心をさわやかにさせるものや平和や一致を本当の意味で見いだせることを知っています。こうした大会で,彼らは世界のどこを探しても匹敵するものがないような,喜びに満ちた兄弟関係の雰囲気の中で,幾千幾万人もの人々と交わることができます。その理由で,エホバの証人は,夏に開かれる大会を心待ちにしているのです。ここ日本では,17の都市で今年の「王国の真理」地域大会が開催されました。
エホバの証人は地域大会に出席した後必ず霊的に新鮮な気持ちになります。彼らの振舞いや一致は,いつも会場の管理者や責任者から好意的な感想を引き出します。特に感銘を与えるものの一つは子供たちの立派な振舞いです。子供たちは行儀が良くて,言う事を聞かずに暴れたり暴れ回って手に負えなかったりすることはありません。市の交通機関やバス,タクシー,電車などの関係者たちは,異口同音にエホバの証人の親切な態度と協力について感想を述べました。
毎年借りている施設も少なくありません。エホバの証人なら信頼できることを管理者側が知っているからです。エホバの証人は,そうした施設を必ず借りたときよりもきれいにして返します。これらの施設で清掃作業をして働く人々でさえ,物事がきれいに,またきちんと保たれる優れた方法に感銘を受けています。次に外部の人々から寄せられた幾つかの経験を挙げることにいたしましょう。
ある新聞の記者とカメラマンが吹田の大会会場にやって来ました。非常に暑い日で,みな汗だくでした。その記者は,すべての人が顔の汗をふきふき聖書を開いているのを見て回り,こう語りました。「私は仕事上多くの宗教団体の集まりに行くことがありますが,大体暗い印象を受けます。ところが,この集いは全く異なっていて非常に明るい感じです。カリスマ的な宗教ではないことが分かります。皆さんは素朴で純粋な信仰を持っています。個人的な意見を言わせてもらいますと,私は感動し,心を打たれました」。この記者はたばこに火をつけようとしましたが,エホバの証人はたばこを吸わないという説明を受けて,それをしまいました。
給食関係の部門に飲み物を配達していた一人の人は,自分の会社でエホバの証人についてはいろいろ聞いてはいたけれども,自分で大会会場に実際に来たのは今度が初めてだと話しました。この人は小さな子供にまで高いモラルが行き渡っているのに驚いていました。子供たちの中に悪い子が見られなかったのです。この人はこう述べています。「感心したのは,小さなごみが落ちているとだれでも気が付けばすぐに拾ってごみ入れに捨てていることです。今の人は自分のことだけを考えているのに,ここにいる人たちは他の人のことに気を遣って働いています。ここにいる人たちは他の人とは違っています」。エホバの証人がどれほど信頼されているかを示しているのは次の経験です。ある大会の会場(吹田)では,兄弟たちが交通を整理し,駐車料を集めました。夕方になると,兄弟たちは集めた料金を袋に入れて会場の係りの人に手渡しました。係りの人は,「皆さんはすべて正直な人たちですから,確かめなくても信用することができます」と言って,中味を確かめることもせずに袋をそのまま持って帰りました。
大会に出席するために払われた努力
これら夏の地域大会は四日間にわたるものなので,家族そろって出席するには計画が必要になります。毎日自宅から通える人もいるでしょう。しかし,多くの人は,何らかの宿舎で,少なくとも3泊するよう計画しなければなりませんでした。個人の家に泊まった人もいれば,旅館に泊まった人もいます。大会の開催されている都市やその近隣のエホバの証人は,自分たちの仲間のクリスチャン兄弟姉妹を泊めるためにしばしば自宅を解放しました。中には自分の家族の3倍か4倍の数の人を泊めた人もいました。
大会の開かれる都市に旅行するだけのために,事前によく計画し,努力を払わなければならなかった人もいます。時には忍耐が求められることもありました。海老名市にあるものみの塔協会の印刷工場の働き人の幾人かはそのことを経験しました。この一行29人は福島市での大会に出席しました。大会で発表される文書を準備するための仕事に幾週間も交替制で忙しく携わってきたからです。特に,17の地域大会で発表するために,15万冊の聖書を準備することができました。(1982年10月22日号の「目ざめよ!」誌の記事はこれらの発表された文書について詳しく説明しています。)ですからこれらの働き人は,自分たちの忙しい仕事が一段落つくのを楽しみにしていました。ところが,大会がお盆に掛かったため,道路はあたかも東京の車すべてが東北に向かっているかの様相を呈していました。マイクロバスとルートバンでのこの旅行は,往路に11時間,復路に14時間かかりました! 交通が渋滞して身動きが取れなかったのです! しかし,大会には長い道のりを旅して来ただけの十分の価値がありました。
ほかの人々には,考慮しなければならない別の問題がありました。奄美大島に住む一人の若い人は,大会が普通沖縄か鹿児島で開かれるために,どんな大会に出席する場合でも300㌔以上の旅行をしなければなりません。距離は問題の一部に過ぎません。この女性は独りで,病身の母親と在学中の二人の妹を扶養しています。当然のことながら,経済面で注意深い計画を立て,船賃と大会での費用を工面しなければなりません。大会に出席するために休みを取らせてほしいと申し出ると,職場ではあまりよい顔をされません。船での旅に丸一日取られるので,旅行のためにも休みを取らなければならないことを意味しています。また,その間,病気の母親の世話をしてもらう取決めも設けなければなりませんでした。この女性はまだバプテスマを受けていないとはいえ,多くの障害にもめげず沖縄での大会に出席したいというその強い願いは非常にほめるべきものです。
農家の人は,理想的な状況の下でも,この四日間の地域大会に出席するためにはよく計画しなければなりません。しかし,今年の夏には天候が問題を引き起こしました。台風10号のために,ある研究生の義理の父親の梨畑の梨が落ち,研究生自身の家のビニールハウスは飛ばされてしまいました。この研究生の未信者のご主人が野菜を片付ける間,この研究生は義理の父親の梨の片付けを手伝わなければなりませんでした。それは一人では終わらせることができない,大変な仕事でした。ところが,エホバの証人の地元の会衆がその窮状を知り,ある日の夕方,大勢の子供たちと共にやって来ました。そして,あっという間に大きな梨を拾い切ってしまいました。梨はまだ食べられたので,それを捨ててしまうのはもったいないことでした。その研究生の義理の父親とご主人からその梨を売る許可を得て,会衆の大勢の人々から電話で注文が取られ,すべての梨が売り尽くされました。こうした助けを得て,この人は大会に出席できました。妻が大会に出席することを望んでいなかったご主人も,大会の四日目に妻を大会会場まで送って来ました。真のクリスチャンのこの一致と一体感はエホバからの祝福をもたらします。
プログラムの際立った点
なぜこうした犠牲が払われたのでしょうか。それは,四日間そこに出席して,「王国の真理」を特に取り上げた,聖書の教訓を受けるためでした。それぞれの日には主題があり,話,シンポジウム,インタビュー,経験,聖書劇などを通して,聴衆はプログラムから最大限の益を得るよう助けられました。大抵の大会は木曜日に始まり,日曜日に終わりました。(五つの大会はほかの曜日に始まったので,プログラムの順番に幾らかの調整が加えられました。)最初の日の主題は,「教理上の真理を擁護する」というもので,エホバの証人の持つ「王国の真理」が聖書に基づいていることを認識するようすべての人が助けられました。また,「魂」,「創造」,「復活」,および「再び生まれる」などの主題に関して聖書の基本的な教理が扱われ,偽りの教えが論ばくされました。
最初の日のプログラムの中で,最も忘れ難いのは,何と言っても「新世界訳聖書」の発表でした。長年待たれていただけあって,この発表に対する拍手はなかなか鳴り止みませんでした。全員が個人用の聖書を手に入れたので,ほとんどの大会で在庫はすぐに底を突いてしまいました。
「王国の真理の奉仕者たち」
これは二日目のプログラムの主題で,エホバ神の崇拝者すべてに,良いたよりを遠く広く告げ知らせる業にあずかる自分たちの分を増やすようにとの励ましを際立たせていました。
読書力のない人々が聖書の真理を理解するのを助けるために作られた32ページのパンフレットが発表されました。大きな美しい色刷りのさし絵があり,活字が最小限に抑えられているので,多くの人が聖書の教えの大意をつかむのにこのパンフレットは役立つことでしょう。
この日のプログラムには野外奉仕が含まれており,そして配布のために新しい王国ニュース(第31号)が準備されました。それは,「ハルマゲドンは近づいていますか」と題するものでした。多くの人にとって,午後遅くあるいは晩の早い時間(午後5時-6時30分)に野外宣教に携わるのは新たな経験でした。しかし,その際に会った人の多くは,以前にエホバの証人と話したことも,「ものみの塔」誌や「目ざめよ!」誌を見たこともなかったので,それは非常に励みの多いものとなりました。
非常に多くの経験が寄せられているため,数ページですべてをお伝えすることは不可能です。そのうちの幾つかを挙げれば,王国の良いたよりを告げ知らせることから味わえる喜びがどんなものか,大体のところを理解していただけるでしょう。
正規開拓者(全時間の福音伝道に携わる人)である高校2年の一兄弟は,6週間に1度網らされている,王国会館の近くの区域で一人の家庭の主婦に会いました。その人は,「『ものみの塔』の方ですね」と尋ねました。
その人は,7年前,高校生のころに九州でエホバの証人と聖書を研究したことがある,と説明しました。しかし,家族の反対が非常に激しかったため,やめることを余儀なくされました。この若い兄弟が新しく発表された聖書を用いて証言をすると,その主婦は是非ともその聖書が欲しいと言いました。兄弟は,それは今回の大会で発表されて,大会に出席した人だけが得られる個人用の聖書なので,と言って説明しましたが,どうしても欲しいというその主婦の態度に,この兄弟は親切にも自己犠牲の精神を示して,自分用の聖書を提供しました。この主婦は,自分は研究を再開して,クリスチャンとして進歩することを決意している,と語りました。これは確かに,大会中の特別な証言活動の優れた成果の一つでした。
別の経験ですが,ある兄弟とその家族が大会での仕事と道路の渋滞のために野外宣教に遅れてしまいました。しかし,驚いたことにその家族はすでに奉仕を始めていた他の人たちを見つけました。一家は,紹介の言葉の中で自分たちの大会のバッジを使い,その帰り道に立ち寄ったと説明すると,多くの人が耳を傾けることに気付きました。夕方の6時で家の人にとっては非常に忙しい時間であったにもかかわらず,大勢の男の人とも会うことができ,わずか45分間の奉仕で,雑誌の予約が2件得られ,4冊の雑誌と1冊の小冊子が配布されました。これは2週間に1度奉仕され,留守宅訪問も徹底的に行なわれている区域でのことでした。明らかに,エホバはこの特別な活動で野外奉仕に出掛けて行った人々すべての努力を祝福されました。
大会の三日目
大会の三日目には,バプテスマを受ける人たちのためのプログラムをだれもが楽しみにしていました。このようにして人々がバプテスマを受けるのは確かに,「真理の原則に従って生活する」というその日の主題とよく調和していました。バプテスマを受けることを望む人々のための話は,「王国の奉仕者として叙任される」というもので,その人たちの責任を強調していました。この話は,すでにバプテスマを受けたすべての人に,たとえそれが10年,15年,あるいは20年前だったとしても,有益でした。その話は自分たちのバプテスマの意味を思い起こすようすべての人を助けるものだったからです。(次号で,バプテスマを受けた2,894人のうちの幾人かの経験をお読みになれるでしょう。)
午後のプログラムには,自分たちの生活をエホバの原則に合わせ,人を堕落させる音楽などのわなを避けるようすべての人を助ける話が含まれていました。
出席者すべてはこうした話を聞いて励まされ,エホバがご自分の忠実な組織を通してわたしたちを保護するために,父親のような教訓を与えておられることを悟りました。
この日の最後のプログラムは喜びをもたらしました。「あなたは地上の楽園で永遠に生きられます」という新しい出版物が発表されたからです。この本はこれまでの出版物の特徴を合わせ持ち,地上の楽園で永遠に生きることを学ぶ上でまさに最善の方法を備えるものとなっています。この出版物は,エホバとそのお目的について知るよう文字通り幾百万もの人々を助けることでしょう。この本はまた,間近に迫っている新しい事物の体制で命を得る人々に対する神のご要求をも示しています。
「預言的な真理にしっかりつき従う」
これは大会最終日の主題です。すべての人はエホバの忠節な組織に堅く従い,『弱くて貧弱な事柄に逆戻り』することがないよう励まされました。ペテロ第二 2章22節の聖句は,逆戻りするそうした人々を『自分の吐いたものに戻る犬,洗われてもまた泥の中で転げ回る豚』になぞらえています。これは,「逆戻り」する人をほめる言葉とは言えません。
大会の2番目の劇はわたしたちをエレミヤの時代に引き戻し,エホバの警告の音信に反対する者たちとのエレミヤの闘いを思い起こさせるものでした。打たれ,足かせ台に付けられ,井戸に投げ入れられながらも,エレミヤは人気のない音信を恐れずにふれ告げる人でした。エレミヤを通して与えられたエホバの警告は真実であることが証明されました。今日でも同様に,現在の邪悪な事物の体制を滅ぼす神の王国を告げ知らせる人気のない音信も,真実であることが証明されるでしょう。それも近い将来そうなるのです。
地域大会の最高潮である公開講演の主題は「あなたを自由にすることができる真理」というものでした。この話は,この世の思い煩いや恐れや欺きから人を自由にするのは「王国の真理」であることを強調していました。また,『真理』を学ぶために努力を払い,保護されて神の義の新秩序へ生きて入ることの重要性をも強調していました。
耳の不自由な人々も,このような励みを与えるプログラムを楽しめてしかるべきです。しかし,それは可能でしょうか。
耳の不自由な人も益を得られる
近年,エホバの証人は,数多くのろうあ者が聖書の真理を学ぶよう助けられていることを知って喜んでいます。1対1で教えるのも容易なことではありませんが,その場で行なわれているプログラムを耳の聞こえない人が理解できるよう手話に通訳することにはまた別の問題が伴います。
今年は,幾つかの大会でろうあ者のために特別な席が設けられました。これを成功させるために求められた努力にはどのようなものがあったでしょうか。数か月前から,手話通訳者は毎週集まって,まる一日の練習会を開きました。特に劇には注意が向けられました。一つの場面で数人の人が話をし,それをできるだけ正確に伝えなければならないからです。地方によって手話の表現が少し違うようでしたが,これは大きな問題にならず,概してすべての人に理解されました。
賛美の歌が手話で歌われました。これはある人がホワイトボードに書かれた歌詞の歌われている部分を示し,通訳者がそのグループに向かって手話で歌を通訳することによって行なわれました。
祈りも手話に通訳され,ろうあ者は祈りを見守りました。
ろうあ者たちは自分たちに対して示された愛ある親切に対する感謝を表明しました。彼らは劇がたいへん良くできていると感じていました。また,同じような状況に置かれた他の人々と会って励まされました。そして,みんなでそろって歌をうたうのはすばらしいことだと述べ,だれもが翌年の大会を楽しみにしていました。
四日間に及ぶ「王国の真理」地域大会は,同じ思いと考えを抱く人々との心をさわやかにする交わりのうちに終わりました。出席者最高数の合計は13万9,025人でした。それは,この地が楽園になる時の,エホバの証人の待ち望む平和と調和を前もって味わわせるものでした。あなたもこれらの人々に加わりたいと思いますか。無償の聖書研究ができるよう,エホバの証人に頼んでください。あなたも将来に対してこのすばらしい希望を持つことができるでしょう。
[26ページの図版]
新しく出版された聖書を用いての伝道