ハルマゲドンとは人類にとって実際にどんなものですか
「ハルマゲドン」ということばは,今でもニュースの中に出てきます。昨年,インドが初めて核爆発の実験を行なった時,ニューヨーク・タイムズ紙は「ハルマゲドンへ」と題する社説を掲げました。「オイル・ハルマゲドン」,「経済的ハルマゲドン」,「ハルマゲドン前の冬」,そのほか類似の表現が最近の月々に見られました。
世界の破滅 ―「ハルマゲドン」ということばを聞くとき,たいていの人の頭にひらめくのはこのことです。ハルマゲドンのあとには放射能をおび,黒こげの燃えがらとなった地球,生存者はいたとしても皆無に近いというのが,多くの人の心に描かれる情景です。
しかしハルマゲドンとはほんとうにこのようなものですか。それは将来に不吉なものしかもたらさないのですか。その答えを聞いてあなたは驚くかもしれません。
それはどんなものか
「ハルマゲドン」ということばは聖書中の啓示の書に由来しています。それは「全能者なる神の大いなる日の戦争に」地の「王たち」つまり支配者すべてを集める大集会を描写する際にただ一度そこに使われています。その預言には次の意義深いことばが含まれています。「それらは王たちを,ヘブライ語でハルマゲドンと呼ばれる場所に集めた」― 16章13-16節。
明確にハルマゲドンと名づけられた地理上の場所は現在にも過去にも実在していません。したがって啓示の書に描かれているのは単なる実際の場所よりもはるかに重要なものに相違ないと言えるでしょう。大英百科事典(1974年版)によると,「パレスチナの歴史において有名な戦場」となった戦略的な位置のゆえに「パレスチナの都市メギドはおそらく象徴として使われた」のではないかということです。古代エジプトの王ストモス三世は,「メギドの攻略は千の町を攻めおとすことである」と言明したと伝えられています。
ゆえにメギドにまつわる出来事は,ハルマゲドンが,昔パレスチナで起きたどんなものよりもはるかに重大な対決を象徴することを示しています。ヘブライ語の表現そのままはハ・メギドンであって,「集結の山」すなわち「軍隊の集まる山」を意味します。それでハルマゲドンは全世界の王たち,つまり政府が共通の敵にむかって集結する事態を指しているに違いありません。
しかし対立する現在の諸国家が結束して事にあたるには,すべての国家に共通の敵が存在しなければなりません。諸国家にとって脅威となっているどんなものが存在していますか。
なぜハルマゲドン?
たいていの場合,国家が戦うのはなんのためですか。それは彼ら自身の主権,外部からの干渉なしに自国の事柄を治める権利を維持するためではありませんか。他の事ではどんなに分裂していても,諸国家はこの国家主義的な立場に立つという点では共通しています。前途にある危機に人間が生き延びるため国際的な協力の必要なことは明白であるのに,そのような一致をはばんでいるのは国家主義以外の何ものでもありません。行動を起こす確かな力に裏づけられた世界権力を作り出そうとする試みは,こぞって反対されるのがほとんど常です。
サタデー・レビュー誌上で主筆のノーマン・カズンズは次のように書いています。「世界平和と正義の確実な基礎をすえるには,国際的な競争の場においてどう行動すべきかを国家に命令できる権威が必要であるが,国々はそのような権威を認めようとはしない」。では「世界平和と正義」を実現する唯一の道はどこにありますか。カズンズはこう言明しています。
「ゆえに平和を守るための世界的な権威,しかも世界の人々の信頼に裏づけられた権威をいかに創造するか ― これが今日,基本的に挑戦となっている事柄である」― 1975年5月3日号5ページ。
諸国家がたとえ一部でもその権力をこのような「世界的な権威」に引き渡すことは考えられますか。事実,諸国家はそうした方向に歩み寄ってさえいるでしょうか。国連食糧農業機構のセレス誌は次のように答えています。「我々は間違った方向に走っている……我々は国際的なレベルで物事を決定するという理想の状態からは全くかけ離れている」。それはなぜですか。「国家という実在は常に自己の利益を求めているので」協力しようとはしないからです。それは行き詰りです。
この理由でハルマゲドンにおける戦いは絶対必要なものです。政治国家にこの行き詰りを打開する力はありません。そのうえ諸国家は,神にいっせいに敵対して主権を神に渡すことを拒んでおり,今やハルマゲドンに臨んでいます。そして全人類の共通の益のために神がその王国の支配を始める時は来ました。
この理由で全能の神はハルマゲドンにおいて決定的な行動を起こされることを,聖書は示しています。「[神の王国]はこれらのもろもろの国を打ち破って滅ぼすでしょう。そしてこの国は立って永遠に至るのです」。神の王国に敵対する者にとってこれは「世のはじめから今に至るまで起きたことがなく,いいえ,二度と起きないような大患難」になると,キリスト・イエスは予告されました。―ダニエル 2:44,口。マタイ 24:21。エレミヤ 25:31-33もごらんください。
ハルマゲドンの益
従おうとしない支配者たちに対する神の戦いの結果,生命が失われ,極度の患難がもたらされることは疑いありません。これは恐ろしいことのように聞こえるかもしれません。しかし諸国家がすでに行なってきた事また機会さえあれば地球にもたらすであろう荒廃は,はるかに悪いものではありませんか。
国家主義的な支配者たちの近視眼的で自己中心の政策は確かに地球を荒廃させてきました。ひろがる汚染,犯罪,暴力,国家主義的また人種の違いゆえの憎しみ,収奪,残酷な戦争は,彼らの政治の失敗を物語っています。これらのものを生み出してきた悪の体制を,その支持者もろとも一掃してはじめて,世界中のすべての人のために真の平和と公正が実現することを期待できます。
このような衝突は考えただけでも恐ろしいと言う人は,近年における恐るべき戦争のことを考えてみるべきです。世界の人々の多くがこれらの戦争を実際にも精神的にも支持しました。第一次および第二次世界大戦にしても,その惨事は悪の体制を一掃して正義の世界の基を据えるものとなりましたか。ハルマゲドンにおける神の戦争は,およそこの地球上で起こり得る事の中で最善の事柄です。なぜならそれはまさにその事をするからです。地に正義の状態をもたらす道を開くものはハルマゲドン以外にはありません。その時には悲しみ,苦痛,死の原因を人間が作り出すことは二度とないのです。―啓示 21:1-4。
それで「ハルマゲドン」ということばを聞く時にこみあげてくるのは不安や恐怖の気持ちではなく,ハルマゲドンそのものと,そのあとに来るもののゆえに抱く期待と希望でなければなりません。その本当の意味と,その近いことを悟る人々は,聖書預言の中で予見された人々の次の感謝のことばに和するでしょう。「いまおられかつておられたかた,全能者なるエホバ神よ,わたしたちはあなたに感謝します。あなたはご自分の偉大な力を執り,王として支配を始められたからです。しかし,諸国民は憤り,あなたご自身の憤りも到来しました。また……地を破滅させている者たちを破滅に至らせる定めの時が到来しました」― 啓示 11:17,18。