-
物価はどうなっているのか目ざめよ! 1980 | 4月22日
-
-
物価はどうなっているのか
ある夫婦が,ちょっとした品物を少しだけ買うために食料品店に立ち寄りました。店員はその夫婦の支払った10㌦紙幣を受け取りましたが,釣り銭として40㌣しか渡しませんでした。買い物に来た奥さんはもっと釣り銭があるはずだと思っていたので,「ちょっと,店員さん。お釣りが間違っているわよ。10㌦札をお渡ししたじゃないの」と声を上げました。それに対して店員は,「でも,お釣りは少しも間違っておりません。今ではその品物を合わせると,9㌦60㌣になるのです」と答えました。
その品物の入った小さな袋を片手で持ったご主人は,信じられないといった様子で首を左右にふり,「一体物価はどうなっているんだい」と,つぶやきました。
定期的に買い物をしていれば,既して物価にどんなことが起きているかはよくご存じでしょう。物価は絶え間なく,大幅に上昇しているのです。確かに物価の上昇は今に始まったことではなく,特に第二次世界大戦以降は珍しいことではなくなっています。しかし,近年ほど物価の上昇が続き,物価がこれほど大幅に上がったことはありません。
これはわずかな国だけに見られる状況ではありません。世界中が,事実上例外なく,この現象に見舞われています。それは,統制の厳しい共産国の経済にまで及んでいます。これは類例を見ない状況です。すべての国がこれほどのインフレを同時に経験したことは一度もないからです。
もっとも,比較的裕福な人々は,大抵の物価上昇にはほとんど動じません。余計に支払う余裕があるのです。しかし,世界で圧倒的多数を占めているのは裕福とは言えない層の人々であり,その多くは現在起きている事柄のために苦しんでいます。
世論調査の結果,国民がインフレを自分たちの最大の問題とみなしていることが明らかになる国は跡を絶ちません。人々は,自分が出口のふさがれつつあるわなの中におり,ほかに逃げ道のないような状態に置かれていると考えています。一家の主人の多くは残業したり,内職をしたりしています。主婦の多くも今では働きに出ており,半数以上が共稼ぎという国もあります。家庭生活にも影響が出てきています。というのは,金銭をめぐるいさかいが家庭の崩壊の要因になっているからです。
米国の一主婦は,「私たちが金持ちになれることはないのかしら」と嘆きました。しかし,この主婦が『金持ちになる』ことについて考えていたのに対し,ある人は生き延びることについて考えていました。ブラジルの一トラック運転手はこう語りました。「ここのところ,全く話にもならないような生活費のおかげで,気が狂いそうだ。全く逃げ道がないように思える」。その同じ国では,主人が二つの仕事をかけ持ちし,一日12時間,週に六日間働くという状況も例外ではありません。その人の妻も裁縫を教え,そのうえ家で縫い物の内職をしています。その夫婦は,「家族を扶養してゆくことはますます困難になってきています」と述べました。ブラジルの一用務員は,「我々は生活しているのか,かろうじて生息しているのか分かりません」と語りましたが,この言葉は当を得ています。
こうした状況は比較的貧しい国々にのみ見られると考えるべきではありません。米国のアトランタ市の一婦人は週に40時間美容師として働き,それから週末にウェートレスとして働きます。この人はこう語っています。「二つの職を保ってゆかなければ飢え死にしてしまいます。家賃を払ってゆくすべがないのです」。この婦人の置かれた状況も決してそれほど珍しいものではありません。
報告によると,アフリカのある国では止めどのないインフレが主な原因となって,次のようなことが起きています。「自分たちの日ごとの必要を満たすための金を得るために,盗み,横領,贈収賄などの手段に訴える者がいよいよ多くなっている」。
高度に工業の発達した日本で,七か月ほどの期間に,サラ金の問題を苦にして,100人近くの人が自殺しました。これらの人々は高利で借りた膨大な額の借金を抱え込み,それを返済できなくなり,にっちもさっちもゆかなくなって自殺を遂げたのです。
歴史家のアーサー・M・シュレジンガー二世は,経済情勢について,「宴は終わった」と語りました。シュレジンガーによれば,ある国々では,今や規律や犠牲やより低い生活水準などが,比類のない繁栄の時代に取って代わらなければなりません。
フランスでは,一評論家が次のように言明しています。「1960年代の終わりごろに約束され,1970年代の初頭に称揚された豊かな“新社会”という夢は,インフレがフランスの購買力に致命的な打撃を加えるに及んであえなく消え失せた」。同様に,米国でも,アメリカ百科事典年鑑1979年版が,「一般の人々の言葉を借りれば,アメリカの夢は悪夢と化した」と述べています。
米国の大銀行,シティコープは次のような結論を出しました。「残念なことではあるが,ほとんどすべての国を襲い,とどまるところを知らないインフレがこのまま続いてゆけば,経済という狭い領域にはとても納まらないような影響が最終的に生み出されることになろう」。
そうです,インフレが放置されるなら,単にある人々の持ち物が少なくなるというだけでなく,それ以上のことが起こりかねません。それは一国の生活様式全体を脅かし得るのです。事実,過去においては,インフレが様々な国の経済を破綻へ追いやってきました。今度は,インフレによって全世界が脅かされています。それは単に経済面だけでなく,政治および社会面で驚くべき結果をもたらすものです。
現在,一体インフレはどの程度進行しているのでしょうか。インフレが起きているのはなぜですか。どう対処したらよいのでしょうか。そして,これから先どうなるのでしょうか。
-
-
深刻化するインフレ目ざめよ! 1980 | 4月22日
-
-
深刻化するインフレ
「我々は交戦中であることを認めなければならない。……それはインフレとの戦争である」と,ビジネス・ウィーク誌は言明しました。同誌はさらに,「しかも,我々の敗色は濃くなっている」と加えています。
インフレとの「戦争」に敗れつつあると言えるのは,これまでに様々な措置が取られたにもかかわらず,深刻化するインフレが世界経済を締め付けているからです。
その結果,金銭 ― この場合は紙幣 ― に対する信頼が薄くなっています。これは金の価格に表われています。歴史的に見て,金は最後の切り札となる“お金”とされ,困難な時期には最も価値ありとされます。ですから,金は経済情勢の“バロメーター”のようなものです。金の価格が1オンス(28.3495㌘)35㌦だった時からまだ10年たってはいませんが,1979年にはその価格が1オンス444㌦になりました。これは紙幣に対する信頼感が大幅に崩れ去ったことを表わしており,インフレがいかに猛威をふるってきたかを示すものです。
19世紀中,物価は比較的安定していました。ところが,第一次世界大戦以降,物価は不安定になり,そして第二次世界大戦後にはインフレが日常生活の一部になってしまいました。近年それはこれまでになく顕著なものになっており,景気の悪い時にもインフレが収まらなくなっています。
1979年のある月に,米国でのインフレは前年比12%の上昇を記録し,日本では15%,英国では18%,フランスでは10%以上をそれぞれ記録しました。比較的経済情勢の安定しているドイツ連邦共和国でも,その月に10%の上昇を見ました。
フィリピンからの報告によると,1966年以来,同地での食料品,衣服,燃料などの価格は四倍以上に跳ね上がっています。日本の主要な食糧である米の価格は過去20年間に500%以上上昇しました。ブラジルも,1979年のインフレ率が,1978年同様,40%ほどになることを認めています。同国で,アドミニストラカン・エ・サルビコス誌は,「ブラジル人のうち6,800万人は何の変哲もないアイロンを買うことについて考えることもできない」と論評しています。それは必需品を買うためにお金を使わなければならないからです。
アフリカには,わずか1年間にインフレ率が100%を超えた国が幾つかあります。イスラエルの昨年のインフレ率はそれに近く,30年以上前の同国建国以来,消費者物価指数は5,000%上昇しました。
米国における状況は,インフレのために長年にわたってどんなことが起き得るかを如実に示しています。1898年当時の1㌦を100㌣とすると,現在の1㌦は12㌣の価値しかありません。
しかし,賃金も上がっているのではありませんか。その通りです。そして,賃上げ幅がインフレ率をしのぐような労働者も多く,そうした人々の生活水準は向上しました。
ところが,他の多くの労働者の場合にはそうではありません。例えば,米国では全労働者の約半数が自分の収入の増加ではインフレに追いついてゆけないと感じています。これはその人たちの生活水準の低下を意味します。
さらに,多くの貧しい人々や定まった収入で生活しなければならない人はインフレに全く追いつくことができません。この例を一つだけ取り上げてみましょう。ニューヨーク市の退職した一学校教師はこう語っています。
「私が現在受けている市の年金は一年間で4,439㌦(約106万5,000円)です[米国での貧困線を下回る]。私たちの経済面での思い切った努力にもかかわらず,生計を立ててゆくのは困難だと言っても別段驚かれることはないに違いありません。
「車もなければ,自分の家もありません。そして,これまで35年以上住み付いてきた相も変わらぬ小さなアパートを借りています。バカンスに出掛けることも,旅をすることも,外食することもありません。買物は特売[のとき]しかしないことにしていますし,必要最小限の物しか買いません。
「私たちはたばこをのみませんし,酒にふけることもありません。時折りビールを飲む,などということもありません。21年以上前に退職してからこのかた,観劇はおろか,近所の映画館へ行ったこともありません。
「人をもてなすことも,友人や親族に贈り物をするためにお金を使うこともありません。特別に重要な事があったときに,時折り好意を示すためのはがきを出すことで満足しています。今では定期的に新聞を買うこともありません。
「私も家内も70代の半ばになっており,どちらも健康がすぐれず,働きに出ることもできません」。
自分の賃金がインフレにかろうじて追いついているような労働者も損害を被っています。どうしてですか。インフレの牙は二つの仕方で襲って来るからです。物価が上がるために,汗水流して働いたお金の価値が下がるだけでなく,それに伴う賃上げで労働者はより高い課税区分に入れられ,その人たちの税負担は重くなるのです。その結果,購買力が実質的に低下します。
多くの場合,貯蓄銀行に預金をする倹約家もインフレによって不利な立場に置かれます。ある国では,銀行預金の利率がインフレ率の約半分にすぎませんでした。ですから,一年たつと,預金は利子を含めても,目減りすることになります。さらに悪いことに利息は課税の対象になるのです。
インフレの重圧の結果として,あらゆる種類の個人的な負債が増加しています。その一因は,人々が自分たちの望む物を買う前にお金をためようとしたがらないことにあります。そこで,望む物を手に入れるために借金をするのです。
しかし,この負債の別の原因として無視できなくなってきているのは,インフレの絶えざる高進のために,自分たちの持つ物を維持してゆくだけの目的で借金をする人が多くなっているということです。アメリカ百科事典年鑑1979年版もこう述べています。「以前はめったに借金をせず,したとしても高価な品物を買うためであったような人が,時として,借りた金を必需品の支払いに充てているようなことがある」。
さらに,前途の見込みはないと考え,『ただ食べたり飲んだりして楽しくやろう』という態度を取り,遅くなりすぎないうちに楽しめるだけ楽しんでおこうとする人もいます。これは,そのような態度を持つ人の一人が,「私は一種の終末論的な態度を持っている」と語った言葉に表われています。中には返すつもりもなく多額の借金をする人もいますが,それは盗みと変わりありません。
US・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌は,借金に関するこの傾向を,「経済学者に新たな脅威を投げかけ」ている「津波」と呼んでいます。同誌はまた,「人々がこれほど借りた金を当てにした時代はない」と述べました。深刻な経済上の後退があれば,こうした人々のうち幾百幾千万もの人々は破産の憂き目を見るでしょう。
今日の世界の至る所で猛威をふるう,この種のインフレの原因となっているのは何ですか。権威者たちはこの問題に関してすべての面で意見の一致を見ているわけではありません。しかし大抵の権威者は,収入より支出が多くなり,その支出を埋め合わせるために負債を抱えるということが主な原因の一つである,という点では意見の一致を見ています。ロンドンのタイムズ紙が次のように伝えるとおりです。「結局のところ,インフレとは一体何であろうか。……それは,過剰消費を,収入以上の生活をすることを,貯金箱に入れる以上のお金を取り出すことを意味する,経済学者の用語である」。
政府が税金による収入を上回る支出をする場合,政府はその赤字を埋め合わせるために貨幣を“造り出さ”なければなりません。ハーパーズ誌はそれをこう表現しています。「税金ではまかない切れない政府の歳出の生み出す負債は,真新しいドル紙幣を造り出すことによって埋め合わされる」。ウォール・ストリート・ジャーナル紙もこう述べています。
「物価を突き上げる圧力の中でも断然大きな部分を占めているのは……文字通りの意味でのインフレである。すなわち,政府の度を過ごした赤字が年々続き,その資金を調達しようと貨幣や債券を造り出すために通貨供給が大きく膨張することによって引き起こされるインフレである。それは現代において……印刷機を動かすことによって行なわれる」。
インフレのこうした源の一例は,米国の内国債です。同国政府は過去18年間のうち17年間に赤字を出しました。国債の額が初めて1,000億㌦(約24兆円)に達するまでに167年間かかったのに対し,現在では毎年それと同じ額で債務が増えています。その累計は間もなく1兆㌦(約240兆円)を超すものと思われます。そして,この債務に対する利息は今や年間600億㌦(約14兆4,000億円)に達し,政府歳出の第三位を占めています。このすべては品物やサービスを得るためのものとして金銭が多く出回り,競売のときのように価格をつり上げていることを意味しています。
事態をさらに悪化させているのは石油問題です。自国の需要を上回る石油を生産するのは,ほんの一握りの国々に過ぎません。これらの国々は,OPEC,つまり石油輸出国機構の下に団結しています。これらの国々は石油価格を十年前の10倍以上に引き上げました。ガソリン・灯油・プラスチック・化学製品など多くの物品は石油を原料としているので,それらの物品の価格は石油に対応して上がります。
こうしたことが原因となって多大の債務を抱え込むようになり,さらに膨大な額の債券を導入することにしか経済的な活路を見いだせない国もあります。そうした国の中には,債務そのものはおろか,自国の財源ではその債務に対する利息さえも払い切れない国があります。
どうしたらインフレを正すことができるでしょうか。数多くの経済学者たちは,事態が矯正不能なところまで行ってしまったのではないかといぶかっています。そうした学者たちは,その事態を,症状を和らげようとしてさらに多くのヘロインを要求する,手のつけられなくなったヘロイン中毒患者になぞらえています。当人がそれを続ければ,麻薬のために命を失うことになります。たとえそれから抜けだしたとしても,麻薬を使用した結果,やはり寿命は縮まるでしょう。
インフレに歯止めを掛けるには,政府,企業,個人による,収入以上の支出を厳しく削減しなければなりません。ところがそれは人々の購入する物が減ることを意味し,ひいては企業の生産が減少することになります。そうすると多くの人は職を失い,その結果,深刻な景気後退や不景気が起こります。世界の経済体制は現在,収入以上に支出する生活様式が原因で,生産状態が余りにも高められています。そのため,生産を思い切って削減するには時すでに遅く,もしそうするなら,インフレそのものの害と同程度の害が生じることは必定だ,と断言する評論家もいます。
[7ページの拡大文]
自分の賃金がインフレにかろうじて追いついているような労働者は二つの面で損害を被っています
[8ページの拡大文]
人々の抱える負債の荷はいよいよ重くなっています
[8ページの拡大文]
今日,これほどのインフレが見られるのはなぜでしょうか。
[9ページの拡大文]
事態が矯正不能なところまで行ってしまったのではないかといぶかる経済学者もいます
[7ページの図]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
1898 1979
1ドル = 12㌣
米ドルの価値の下落
-
-
インフレにどう対処したらよいか目ざめよ! 1980 | 4月22日
-
-
インフレにどう対処したらよいか
世界的なインフレをとどめるため一個人にできることはまずありません。政府の予算や増大する借金,国の経済政策などを左右することはできません。しかし,インフレの重圧に対処するのに役立ち,あなたにできる事柄があります。
一つの点として,先進国に住んでいる人々なら,一段低い生活水準で満足することがそれに相当するかもしれません。そうなると,自分にとっては当たり前のものになってはいても,貧しい国々ではほとんどの人がまず持っていないような物はなしですごすことになるでしょう。そのような見込みは極めて望ましくないように思えますが,増し加わる失意を未然に防ぐにはあえてそうすることも必要です。
また,金繰りが厳しくなるにつれて,夫婦は自分たちの収入をどのように使うかについて率直かつ冷静に話し合わなければなりません。共働きの場合,家族の収入をどう使うかについて話し合う必要はさらに大きくなります。夫,あるいは妻が,配偶者に相談せずに金を使うなら,問題は大きくなりかねません。
食料品の価格はどんどん上がる傾向にあります。比較的高価な食品を控えるという当たり前の方法は別にしても,この面でどのように節約している家族があるでしょうか。日本の「目ざめよ!」通信員は次のように伝えています。
「日本の家族の生活費の中で,一番大きな出費は食費です。ですから,買い物をする時はバーゲンすべてをうまく利用できるように,新聞の広告欄を注意深く調べます。
「また,多くのスーパーマーケットでは,閉店間際になると,その日のうちに売り払ってしまうためにある品物は値引きされます。あるいは,翌朝一番に,腐る前に売ってしまうため,その同じ品物が値引きした価格で陳列されることもあります。そのような時に買い物をして,まずまずの費用で家族に適切な食事をさせている主婦もいます」。
米国の新聞の食品欄担当部長であるジョセフ・コイルによると,食品の一番安い特売の日に広告を調べて買い物リストを作成することにより,支出を20%ないし40%節約できます。“余計なサービス抜き”の店では経費が安くて済むので,割引価格で品物を売っているところもあります。
近年,米国の食料品製造業者は割引クーポンを620億枚発行しました。そのクーポンには平均して一枚15㌣(約36円)の価値があります。このクーポンは雑誌,新聞,セールス用パンフレットなどに入っています。ここでかぎとなるのは,割引価格で広告されているというだけの理由で品物を買うのではなく,自分の必要とする品物をそのような割引価格で買うということです。
ニューズウィーク誌は次のように述べています。「子供が食料品の買い物へ行くことを許されないなら,― そして余計な買い物をするよう親をまるめ込むことができなくなれば ― ……家族の食費を20%切り詰めることができる」。また,(単に欲しい物ではなく)本当に必要な物の買い物リストは,店頭での“衝動買い”を避けるのに大切です。そして買い物をしているときには,広告されているブランドの品物と同じだけの栄養価がありながら価格の安い,ノーブランド製品を見つけるようにします。
インフレのために自分の家族が圧力を受けている,ブラジルの一主人はこう述べています。「私たちはぜいたく品を減らさねばなりませんでした。家内はあらゆる仕方で協力してくれます。食事の際の残り物を捨てるようなことは決してありません」。主人が外食するのではなく,職場に弁当を持ってゆくことによって節約している人もいます。
金繰りの厳しいときには,不必要な品の購入を減らしたり,やめたりして倹約するのは道理にかなったことです。その一つは喫煙の習慣です。それは高くつくだけでなく,命にかかわります。肺ガン総数の約九割,そしてその他の病気の多くは喫煙が原因となっているからです。それはまさに,『肉の汚れ』となる習慣です。(コリント第二 7:1)自制を働かせることにより禁煙した人は,一年に幾万円ものお金を節約できることを知りました。
同様に,アルコール飲料は高価で,飲み過ぎは健康を損なうだけでなく,家族生活をも損ないかねません。聖書は,アルコール飲料をほどほどにたしなむことは非としていませんが,飲み過ぎは非としています。(箴 23:29-35。コリント第一 6:9,10)ここでも,一年に幾万円ものお金を節約できます。
節約できる別の面はレクリエーションと関係があります。仕事の気分転換を図るため,幾万あるいは幾十万ものお金を使うことは実際には必要でありません。商業広告を出す側は,遠くの土地へ旅をし,デラックスなホテルに泊るのが必要不可欠なことのように思わせるかもしれませんが,決してそのようなことはありません。家の近くの興味深い所へ旅をしたり,家族でピクニックへ行ったり,友人を訪れたりすることなど,お金の余りかからないレクリエーションも,とても楽しいものになり得ます。ふさわしいテレビ番組は,高くつく映画や観劇を減らしたために生じる穴を埋めるのに役立つことがあります。
過ぎし日には,どの家族にもラジオ,ステレオ,テレビ,映画など現代的な娯楽の手段はありませんでした。また,その当時の普通の家族は,レストランで“外食する”ことなどめったにありませんでした。それでも当時の人々には,健全な形のレクリエーションやある程度の生活の楽しみがありました。それはわたしたちが今日の複雑な世界で得ている楽しみをしのぐものだったかもしれません。確かに時代は変わっていますが,人間はそれほど変わっていません。人間は今でも,より単純で,お金のかからない種類のレクリエーションを楽しめます。
今では,自分の服を自分で作ることによってかなりのお金を節約している女性は少なくありません。この場合,独創力と練習は本当に報われます。例えば,ある主婦は割に簡素なドレスをデパートで見て,気に入りましたが,それには50㌦(約1万2,000円)以上の正札が付いていました。そのドレスを買う代わりに,この主婦は似たような材料を買って,5㌦(約1,200円)足らずでドレスを仕上げました。
店によっては,とても良い状態の古着を売っている所もあるので,かなりの節約ができます。また,洗濯物をクリーニング屋に出さず,自分で洗うことによって出費を減らしている人もいます。セーターのような物をドライクリーニングに出さず,ぬるま湯につけて手洗いし,自分では洗えない物だけをクリーニング屋へ出すのです。
被服費を切り詰める重要な要素は,ファッションを余り気にしないことです。流行が変わったというだけの理由で,まだまだ着られる服を捨ててしまう人は少なくありません。しかし,一人の男性は,今では紳士服の流行も以前より早く変わっていることに注目し,こう語りました。「もう引っかからないぞ。お金を吸い上げようとするファッション・デザイナーの奴隷にはもう二度とならない。人々がファッションについて何と言おうと,着ている物がきちんとしていて,清潔で,上品な物であれば,それを着ることにした」。
ある人にとって多額の節約をもたらすことになった別の分野は,簡単な修理を家庭で行なう方法を学ぶことです。そうすれば,修理代を節約できるだけでなく,電気器具や家具などの耐用年数を伸ばすことにもなります。
ある主人は年に約200㌦(約4万8,000円)の散髪代を節約したと語っています。その人の奥さんは髪の刈り方を覚えることに同意し,経験を積むことにより上達しています。様々なヘアースタイルが見られる昨今,散髪をなんとしても完全なものにしようとする必要はありません。
医者にかかるときの費用や治療代,薬代を比較してみれば,医療費を減らすこともできます。あるテレビのニュース班は,互いに数ブロックしか離れていない別々の薬局を幾つか訪れました。その結果,同じ処方の薬の値段が,薬局によって二倍ないし五倍も異なることが分かりました。
もちろん,節約できる事柄を挙げようと思えばまだまだ挙げられます。しかし,これらの例から,ちょっと考えて計画すれば,インフレの圧力の強いこの時代には助けになることが分かります。
今日,問題の一番大きな源になっているのは,物質欲が強すぎることです。それは,非常に多くの家族にとって,財政破綻や家庭の崩壊の原因になってきました。
“隣人に負けまいと見えを張る”ために,より多くの物質を欲しがる人もいます。しかし,愚かな誇りは非常に高くつくことがあります。適切にも,機知に富んだある言葉は,『自分の持ってもいない金を使って,必要でもない物を,好きでもない人に感銘を与えるだけのために買う』のは全く愚かなことだ,と述べています。
物質欲を制する必要について,一家族はUS・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌に次のような投書を寄せました。
「私たち家族は,共働きの親の多くが託児所に支払うほどの額の収入で幸せに暮らしています。物質に対する欲望をふくらませすぎないよう用心することによりインフレと戦っています。
「私たちは自分で子供を育てることに安らぎを得,“伝統的な家族”であることに安心感を覚えています。全時間家事にいそしむことがすたれるはずはありません。それは,女性が深い満足感を得るように神から与えられた道だからです。“結婚のあるべき姿に関する期待”は収入と少しも関係がありません。結婚を作り上げるのは共働きの収入ではなく,人間です。家族を形成しているのは,物質ではなく,人間です」。
物質欲を抑えることは,不幸の主要な原因,つまり借金のし過ぎを避けるのに特に役立ちます。お金を借り過ぎ,それを返済しようといらいらしながら生活すれば,問題に陥ることは必定です。聖書はいみじくも,「借りる者は貸す人の奴隷となる」と述べています。―箴 22:7,口。
借金の泥沼にはまり込んだ家族にインタビューしたところ,その人たちの買った物の多くは必要な物ではなかったことが分かりました。結婚してまだ二年しかたっていないある若夫婦は,すでに多額の借金を抱えていました。この夫婦はその借金をまず返済するのではなく,さらに借金をして浪費を続けました。物質に対する自制心の欠如は,やがて二人を破産へと追い込みました。それでもこの夫婦は借金カウンセラーに,自分たちは“必需品”にしかお金を使っていない,と話しました。質問がされた結果,その“必需品”には非常に高くつくバカンスや高価な服など,その夫婦の全く必要としていないものの含まれていることが明らかになりました。
負債相談員の提案では,自分の手取り収入を分析し,そのうち借金の返済に充てる額がどれほどの割合になるかを調べてみるようにとのことです。住宅の返済金を除いてその額が10%をかなり上回るようなら,危険が迫っています。これら借金対策相談員の中には,依頼人がクレジット・カードの使用を抑制できない場合に,そのカードを提出するよう求め,その人の目の前でそれを破ることにしていると語る人もいます。興味深いことにそれらの相談員は次の点に注目しています。すなわち,クレジット・カードは賢明に使わないと身を滅ぼすものになるとは考えず,それを友とみなす人々にとって,そのような措置は“感情的な痛手”となる場合が多い,ということです。
聖書は,『金銭に対する愛はあらゆる有害な事がらの根です』と述べています。そして,多くの人々は,「この愛を追い求めて……多くの苦痛で自分の全身を刺したのです」と続けています。(テモテ第一 6:10)この真理は,時たつうちにいよいよ明らかになってきています。
物質的な見方を自分の生活の中心にしている人にはどんなことが起きますか。本誌の日本の通信員は次のような点に言及しています。
「日本の普通の家族は,専ら仕事をより多く引き受けます。夫婦そろって全日働き,その上残業をします。当人たちはインフレに対処しているつもりかもしれませんが,家庭にそのしわ寄せが行きます。相互の,励みになる交わりがなくなるからです。
「その骨折りは全体として極めて近視眼的です。それはただ,目先の事,今日の事だけに目を向けるものです。将来の事は視野になく,希望は日常生活とは無縁です」。
しかし,励みになる交わりや将来に対する真の希望がないまま,妻が,あるいは夫が,あるいはその双方が収入を失ったらどうなるのでしょうか。この世の経済体制が荒廃に帰すとき,物質を得ることを人生の主要な目標にしている人々はどうなるでしょうか。
そんなことが本当に起きるのでしょうか。必ず起きます。それゆえにこそ,インフレや金銭や物質に対するあなたの見方は,単にひとときの経済的困難に対処するための手段以上のものになっているのです。必要とされているのは,今日の経済体制全体の来たるべき壊滅に対する備えです。
[10ページの拡大文]
子供が食糧品の買い物へ行くことを許されないなら,家族の食費を20%切り詰めることができます
[10ページの拡大文]
不必要な品の購入をやめて倹約するのは道理にかなったことです
[11ページの拡大文]
物質欲の強すぎることが多くの家庭を破綻させました
[12ページの図版]
物質を過度に追い求めることを拒めば,重大な問題を回避するのに役立つ
-
-
今日の経済体制の終わり目ざめよ! 1980 | 4月22日
-
-
今日の経済体制の終わり
機械を設計したところ,それがうまく作動しなかったならどうしますか。次々に改良を加え,もっとうまく作動するかどうか試してみるでしょう。しかし,手を加えるたびに調子が悪くなるようならどうですか。機械そのものが意に満たないため,別の種類の機械を必要としているのではないかということを検討してみる時期に来ているのではありませんか。
今日の経済体制は全人類を益するような仕方で働いてはいません。その内部には途方もない不公平があります。勤勉に働く人々は自分の所持金がインフレで徐々に目減りしてゆくのを見ています。幾億もの人は貧困生活に甘んじています。さらに別の幾億もの人々は,生活必需品にさえ事欠いています。ニューヨーク・タイムズ紙はある国々について,「貧しい人々の多くにとって,今では,一食分の費用が日当をしのぐようになっている」と述べています。これは,「一日分の賃金でパン一斤」という聖書預言の著しい成就です。―啓示 6:6,ウェイマス訳,第五版。
実際,今日の経済および通貨体制は,人類の希求する平和や安全や繁栄をもたらすものにはなりません。それらには,利己心,貪欲,誇り,冷酷なまでの他の人々に対する関心の欠如などが染み付いています。
このすべては何を意味していますか。世界的なインフレ,食糧不足,戦争,および1914年以来の,前例を見ないような諸問題が起きているのはなぜでしょうか。
これらの事柄はいずれも時代のしるしです。それらの状況は,現在の事物の体制の「終わりの日」を成すものとして予告されていました。また,予告されていた状況の中には,人々が「自分を愛する者,金を愛する者……自制心のない者……神を愛するより快楽を愛する者」になるということも含まれていました。このすべては,今日の政治,および経済,社会,宗教体制の一部になっています。―テモテ第二 3:1-5。
ですから,今日の不安定な通貨や多くの人にとって厳しいものになっている経済的な時勢は,イエスご自身が予告されたとおり,この事物の体制が一路その終わりへと向かっていることの証拠です。(マタイ 24:3-14)今日の経済体制をこのまま存続させようとする,一時しのぎの改良は決して長続きはしません。いかに手を加えようと,そこに染み付いた利己心や貪欲や不公平をぬぐい去ることはできないのです。
ですから,このすべては次のことを意味しています。すなわち,現在のこの意に満たない体制はこれまでにない最大の崩壊へと向かっている,ということです。しかし,それは人間の失敗の結果としての崩壊ではなく,神の処置による崩壊です。イエスはそれをこう言い表わしておられます。「その時,世のはじめから今に至るまで起きたことがなく,いいえ,二度と起きないような大患難があるからです」― マタイ 24:21。
とはいえ,来たるべきこの苦難の時期に続いて「新しい地」が到来し,そこには「義が宿」る,という神の預言的な言葉の約束は慰めになります。(ペテロ第二 3:13)「新しい地」とは新しい人間社会のことを意味しており,それにはすべての人に益となるような仕方で働く新しい経済体制も含まれています。このように約束されています。「全能の主は世界の諸国民すべてのために宴を備えられる ― 最も濃厚な食物と最上のぶどう酒の宴である。ここで彼は,諸国民すべてを覆っていた悲嘆の雲を,突然除き去られる」― イザヤ 25:6-8,「福音聖書」。
それで,間もなく起きようとしている事柄は,今日の経済的混乱の解決策について意見を求められた日本の一ビジネスマンの答えに似ています。その人は,「現在の経済問題を解決するには,すべてを白紙に戻さなければならない」と語りました。この人は,今の体制に手を加えて良くしてゆける希望のないことを正しく見て取っていました。そして神の言葉も,この点,すなわちもう行き過ぎである,という点に同意しています。ですから,この体制は手を加えられて良くなるのではなく,完全に破壊されます。
今日の経済体制が崩壊する可能性は,最近になって経済学者の間でこれまで以上によく取り上げられるようになっています。例えば,米国の財政評論家,シルビア・ポーターは,「この国および世界中でインフレが爆発する」現実の可能性について語り,それが「“紙”[幣]への投資に対する信頼感を破壊し,国際通貨体制を弱体化させる余り,各国間の貿易が凍結状態にまですり減ることになりかねない」と述べました。このコラムニストはさらにこう言葉を続けています。
「その爆発の結果,企業の倒産が相次いで起こり,危険なまでに膨れ上がった負債は泡のように破裂し,失業は急増し,大幅に広げすぎた抵当負債の請け戻し権は失われ,負債者に月賦の返済ができなくなるためにその品物が取り返されるということが一斉に起きる。
「こうして書いているうちにも,そのシナリオはいよいよ恐ろしいものになっている」。
政治評論家ジャック・アンダーソンも,不安定な金融情勢について,同様にこう論評しています。
「諸国家は生活水準を向上させるために借金をし続けることはできない。その金が消費ではなく生産に投入されない限り,その借金は返済できない。多くの国にとって,その負債額は財政破綻をきたさずに吸収できる限度をすでにはるかに超えている。……
「急騰する諸物価は不良債権をどんどん増やしてゆき,しまいには銀行制度全体が崩壊の瀬戸際に立たされる」。
米国経済学研究所は次のように観察しています。
「ここ数年以内に,経済面で次のような事態の進展が見られる可能性が極めて強い。
「深刻で長期化する世界的な不況……
「長期化する不況の期間中,社会の混乱は極端なものになることが十分考えられる。……
「極めて不利な影響を受けた人々よりも実質的に暮らし向きが良いと見られる人や家族は,暴徒による攻撃の的になるであろう」。
比較的平和で繁栄している時代である現在,盗み,強姦,追いはぎ,殺人などの件数がこれほどの勢いで増加しているのであれば,挫折に至ったときにはもっとひどいことになるでしょう。そのことを明白に示しているのは,1977年のニューヨーク市大停電の際に起きた出来事です。ある地区には無政府状態が行き渡りました。略奪,蛮行,盗みなどは流行病のように広まりました。警察当局は,自分たちには手も足も出なかったことを認めました。
同様に,アフリカのある国では,米価が三分の一引き上げられたことが発端となって,首都で暴動や略奪が起きました。街路は戦いが行なわれたかのような観を呈しました。戒厳令が布かれ,厳重な夜間外出禁止令が課されました。
全世界の前途にある事柄に関して,聖書は,「世のはじめから今に至るまで起きたことがなく,いいえ,二度と起きないような大患難」のことについて語っています。その時,紙幣は無価値なものになります。聖書預言はさらに次のようにも述べています。「彼らは自分の銀を通りに捨て,その金も憎悪すべき物となろう。その銀も金もエホバの激高の日には彼らを救い出すことはできない」― エゼキエル 7:19,新。
いかなる人間の指導者も,いかなる人間の政府も,事前に手を打って,来たるべき「大患難」を阻止するようなことはできません。それは,現在のこの邪悪な体制に対する神の裁きになるからです。それだからこそ,神のみ言葉は,「高貴な者たちに信頼を置いてはならない。また,地に住む人の子にも。その者に救いはない」と,警告しているのです。(詩 146:3,新)では,取るべき正しい道は何ですか。聖書はこう答えています。「心を尽くしてエホバに依り頼みなさい。自分の理解に頼ってはならない」― 箴 3:5,新。
現在エホバに依り頼む人々に対して,エホバは経済面でも助けを与えると約束しておられます。とはいっても,神がご自分の僕たちにぜいたく品を備えてくださるというのではありません。しかし,生活必需品を備えることは約束しておられます。(マタイ 6:24-34。詩 37:25)また,この約束は神に依り頼む人が楽に生活できるということを意味しているのでもありません。世界の不利な情勢の影響をそうした人たちもやはり受けるからです。それでも,今日の困難な時勢に他の人々よりも首尾よく対処してゆけることに間違いはありません。
それに加えて,そのような人たちは,来たるべき破滅に際し,神から保護され,生き残って義の新体制に入ることが保証されています。(ヨハネ第一 2:15-17。詩 37:27,34,37)それゆえ,エホバに依り頼むことを学んだブラジルの一家族は次のように語っているのです。「経済問題に悩まされてはいますが,幸福な神であられるエホバを知り,その方のお目的を知っているので,私たちの家族は幸福です」。
ですから,インフレの重圧がどれほど厳しくなろうと,眼前に迫った神の新秩序でのより良い時代という確かな希望があります。ですから,正確な知識に基づく健全な希望を抱く人,そして物質の富ではなく神に依り頼む人は,『身をまっすぐ起こし,頭を上げる』ことができます。『彼らの救出が近づいたからです』― ルカ 21:28。
-