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将来の見込みとプラスミド目ざめよ! 1981 | 11月22日
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将来の見込みとプラスミド
細胞というものは非常に小さく,この文の終わりにある読点の中に普通の大きさの細胞が優に500個以上も入ります。ところが普通,これらの細胞の一つ一つに,人間などの生物を造り上げるのに必要なDNAがすべて収められています。
細胞が小さければ,DNA分子も極めて微小なものでなければなりません。このDNA分子はよじれた長い糸のような形をしています。DNAは非常に長く,人間の体内にあるDNAをすべて伸ばしてその端と端をつなぐと,地球と太陽の間を幾度も往復するほどの長さになります。一方,糸は非常に細く,その直径はわずか40万分の1㍉しかありません。
この細長いDNAの糸を何とか細胞の中に収めなければならないため,問題は一層複雑になってきます。これを細胞の中に収めるには,よじって堅く絞った束にするしか方法がないのです。そのため,科学者にとって,自分たちが関心を持つ,特定のDNA分子の領域つまり遺伝子の正確な位置をつきとめるのは容易なことではありません。細胞を顕微鏡で見ながら,目当ての遺伝子を見付けてそれをピンセットで取り出し,空いた所に別の遺伝子を入れるわけにはいかないのです。
プラスミドの助けを借りる
しかしながら,バクテリアにはしばしば,比較的扱いやすいDNA分子の含まれていることが知られています。これらDNAのより糸のようなものはバクテリア内の残りのDNAとはある程度独立しています。これらはいずれも環状になっており,一つのバクテリアから別のバクテリアに簡単に移ることができます。これがプラスミドと呼ばれるものです。現在のところ,遺伝子組み替えの鍵となっているのはプラスミドです。
動植物の細胞にはプラスミドがなく,その遺伝子調節機構もはるかに複雑であるため,動植物の遺伝子組み替えはかなり難しいものとされています。しかし,科学者はそうした組み替えが間もなく可能になるものと期待しています。これに成功すれば,土壌の中で窒素を固定するバクテリアの遺伝子を植物に組み込むことが可能になり,土壌に窒素肥料を施す必要がなくなるでしょう。また,いつの日か,人体の欠陥遺伝子を入れ替えて,鎌状赤血球性貧血のような遺伝病を治療できるようになるという期待も抱いています。
ナショナル酒造化学会社の会長ドラモンド・C・ベルはリーダーズ誌の中で次のように書いています。「石油の再生能力を持つ微生物の開発が進められている。地下から金属を抽出するための生体プログラムの組み込みもなされている。最先端を行く次のような新製品が,すでに製造されているか,その一歩手前にある。糖尿病の治療に用いるヒト・インシュリン,人間の細胞から造った抗ガン物質インターフェロン,肝炎やマラリアなどの病気を予防するワクチン,小人症や血友病の治療薬に用いるワクチン,牛やブタの成長促進剤。目下のところ次のようなものが発見されている。低カロリーで糖値の高い果糖,空気から必要な肥料を造り出すことのできる植物,現在の品種より蛋白質の量が2倍も多い新種の小麦,水分が今日栽培されている品種の10分の1ですむ新種の小麦」。
また,遺伝子組み替えによって家畜の口蹄病に効く安全なワクチンが製造されるようになったと言われています。―タイム誌1981年6月29日号。
遺伝子組み替えが一大産業に急成長したのも不思議ではありません。しかし,研究所の実験台から実際の生産ラインへのこうした変化が進むにつれ,一部の人々の間から警戒の声が上がるようになりました。一体なぜでしょうか。
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どのようにして遺伝子の組み替えを行なうのですか目ざめよ! 1981 | 11月22日
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どのようにして遺伝子の組み替えを行なうのですか
ある遺伝子の組み替えをしたい場合,どうしたらよいでしょうか。
まず,目当ての遺伝子,つまり特定の蛋白質のための“暗号”すなわち“設計原図”を含むDNAの位置区分が必要になります。今では,種々の“遺伝子装置”を使って,不活性の化学物質から単純な遺伝子を合成できます。もっと複雑な遺伝子の場合は,生体細胞のDNAを調べてその位置を定め,必要な遺伝子を取り出すことが必要です。
次にプラスミドと,制限酵素と呼ばれる特別な化学物質が必要になります。後者はプラスミドの的確な場所を破壊して開口部,つまり遺伝子を付着させるための“粘着性の先端”を造ります。
また,組み替えようとしている遺伝子の言わば「スイッチを入れる」特別な遺伝子にその新しい遺伝子を正しくつなぐことも忘れてはなりません。そうしないと,新しい遺伝子はいつまでも仕事を開始しないでしょう。遺伝子を組み込もうとしているプラスミドやバクテリアには,その新しい遺伝子は必要ではないのです。それは宿主にとって益となることを何もしてくれません。その遺伝暗号が指示するものを造って時間やエネルギーを浪費することなど,どうしてできるでしょうか。
「スイッチを入れる」というのは,バクテリアをだまして,自分に必要なものを生産していると思い込ませることです。もっとも実際には,それらのバクテリアは人間が必要としているものを造っているのです。このスイッチの役を果たすものは“調節遺伝子”と呼ばれています。
次に化合調節遺伝子と新しい遺伝子を組み合わせて一緒にし,それを粘着力のある沢山のプラスミドと一緒にします。すると一部のプラスミドが新しい遺伝子とつながり,再び環状になります。次に,“組み替えの終わった”プラスミドを皿の中に入れ,沢山のバクテリアと混ぜます。すると一部のバクテリアがプラスミドを吸収します。バクテリアはしょっちゅうプラスミドを交換しています。例えば,抗生物質に対する免疫性を与えてくれる新しい遺伝子の得られる所には普通,プラスミドが存在しています。
もしこのすべてが順調にいけば,バクテリアの少なくとも一部は目当ての新しい遺伝子を持つプラスミドを吸収することになります。そして,プラスミドの少なくとも一部はバクテリアの体内で活動を開始し,バクテリアの中のリボゾームや他の“働き手”を使って人間の望んでいるものを造ってくれます。バクテリアは人間の思い通りに働く小さな“工場”となったのです。しかもこれには自ら増殖するという特別の利点があります。バクテリアは分裂して殖えますが,そのすべてに先の特別の遺伝子が含まれており,すべてのバクテリアが望み通りの蛋白質を造ってくれるのです。
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