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世界政府 ― なぜそれが必要か目ざめよ! 1985 | 3月22日
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世界政府 ― なぜそれが必要か
世界を治める一つの政府という考えは,大抵の場合,希望かさもなくば恐怖感を生じさせます。希望を抱くのは,世界政府がふさわしい人の手にゆだねられた場合,人類を平和裏に結び合わせることになるからです。恐怖感を抱くのは,世界政府が不適当な人物の手に落ちれば,全人類が奴隷にされることになるからです。多くのことが関係していることからして,世界政府という考えは真剣に検討してみる価値があるのではないでしょうか。確かにあります。わたしたちは世界政府を必要としているのです。以下に挙げる事柄はその理由を如実に物語っています。
● きゃしゃで,腰の曲がった老婦人が暗い夜道を足を引きずりながら歩いて行きます。これまで70年間,この婦人はしばしば夜間に独り歩きをしてきましたが,出歩くのも今晩が最後になります。輸入された麻薬を買う金に困った十代のヘロイン中毒者が,この老婦人のわずかの持ち物ばかりか,命までも奪ってしまうのです。しかし,ふさわしい世界政府は,麻薬の国際的な密輸をやめさせることができるので,犯罪を抑えることができます。
● フリッツは窓辺に立ってはいますが,窓の外に降りしきる雪を見てはいません。フリッツは物思いにふけっています。クリスマスというと,かつてはフリッツと妹にとってとても楽しい時でした。もはやそうではありません。総延長1,344㌔に及ぶ死の植え込み地帯が,ドイツ民主共和国とドイツ連邦共和国の境界線となっているのです。地雷が仕掛けられ,鉄条網のさくが作られ,機関銃を装備した監視塔のあるその地帯をひそかに横切ろうとする人は,必ず自分の身を滅ぼす目に遭うことになります。しかし,ふさわしい世界政府は国境を消し去り,世界のあらゆる民族を結び合わせることができます。
● 気力のないやせ衰えた体をした男の子は,飢えでほおのこけた顔を向け,うらめしそうな目であなたを見つめます。一方,ジェット機でほんの数時間離れたところにある穀倉は食糧であふれています。しかし,ふさわしい世界政府は食糧をプールしておいて,飢えを除くことができます。
● 40歳になる父親はエスカレートする一方の核軍備競争について読み,自分の家族の将来を考えて震え上がります。12歳になる息子は核戦争の結果について読み,自分に将来があるのだろうかと考えます。しかし,ふさわしい世界政府はエスカレートする一方の武器の備蓄を除き去り,人々に平和を教えることができます。
● 女の子はまだ赤ちゃんでした。わずか二,三十円の薬がありさえすれば,その子の下痢は治っていたことでしょう。ところが,その薬が手に入らなかったのです。安く簡単な方法で,こうした下痢や他のさまざまな疾患を予防できるのに,一昨年,この女の子をはじめ1,500万人もの他の子供たちが死ななければならなかったのはなぜでしょうか。しかし,ふさわしい世界政府は,感染や病気や無知に起因する死をぬぐい去るだけの効果のある保健計画を実施させることができます。
● 子供たちの遊び場になっている場所のすぐそばで,未処理の下水が毎日川に流れ込んでいます。この子供たちの体にうみをもった不気味な吹き出物ができます。世界の別の場所では,一つの国の工場から大気中に大量の亜硫酸ガスが吐き出され,森林を破壊する酸性雨という形で別の国に降ります。しかし,ふさわしい世界政府は有害な汚染を規制する世界的な基準を定め,それを施行することができます。
別の国に住む人々の命に影響を及ぼすものを含め,各国の国内にある由々しい問題を挙げてゆけば際限がありません。しかし,人類が一つの政府のもとで一致協力するなら,それらの問題はいずれも消滅し得るものです。しかし,公正な解決策を是非とも必要とするこれらの重なり合うジレンマに立ち向かって首尾よく対処した政治体制があるでしょうか。
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世界政府 ― それを阻んでいるものは何か目ざめよ! 1985 | 3月22日
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世界政府 ― それを阻んでいるものは何か
歴史には,孔子の唱えた“礼”から,米国の首都ワシントンで開かれ,国際連合が誕生するきっかけとなるダンバートンオークス会議で提唱されたさまざまな概念にいたるまで,良い政府とはどうあるべきかについての無数の概念が織り込まれています。しかし,政府に関するだれの思想が全地球的な規模でうまくゆくようになるでしょうか。
世界には150以上の国々があり,各々の国には独自の統治形態があります。その中には,世界の覇権を争う二つの主要な政治イデオロギーのいずれかと提携している政府が少なくありません。しかし,大多数の人々は,そのいずれのイデオロギーに対しても信頼感を失っています。どちらも世界の主要な問題を解決してはいません。むしろ両者の対立により,世界はより不安定でより恐ろしい所になりました。宇宙時代の科学技術はその憂慮を大いに増し加えるものとなっています。
相互に依存する社会
宇宙時代の科学技術がこの惑星である地球について教えてくれたことがほかに何もなかったとしても,次の点は教えてくれました。すなわち,生命は最も小さい単細胞生物から最も複雑な生物にいたるまで相互に結びつきがあり,事実上すべてのものはほかのすべてのものと関係がある,ということです。英国の有名な詩人アレグザンダー・ポープは,「人間論」(1733-34)の中で,すべてのものの間のこの関係を,「存在の壮大な連鎖よ! それは神より来たる」と描写しました。
この原則は国家にも同様に当てはまります。諸国家は相互に依存しています。いよいよ小さくなる今日の世界にあって,どの国にも依存せずにやってゆける国は存在せず,島でさえ他に依存せずに存在するものはないでしょう。例えば,ある国が石油を必要としている場合に,それが満たされるかどうかは輸出用に石油を生産する別の国の能力に依存しています。そして,いわば連鎖反応のように,ある国が石油を手に入れられるかどうかによって,化粧品・プラスチック・製薬など一見関連がなさそうに思える数多くの業界が,人を雇ったり一時帰休にしたりするようになるのは珍しいことではありません。
あるいは,“北”の先進工業諸国を,“南”の発展途上諸国と比較してみてください。ここで言う“北”は世界人口の4分の1を占めていますが,製造業の10分の9を所有し,その収入の5分の4を受け取っています。しかし,世界の経済は相互に結びついています。例えば,一つの国,米国だけを取ってみても,20に一つの職は“南”の国々に製品を供給することと関係しています。“北”は,コンピューターやラジオ,テレビ,軍備などに用いられる原料を手に入れる点で,“南”に依存しています。ところが,食糧・水・住居・勤め口・保健・教育・衛生などの基本的な必要物は,“南”の大多数の国々よりも“北”の国々でのほうがはるかに多く満たされています。
世界政府がうまくゆくには,貧困・失業・汚染・核のジレンマなどが互いにはまり合うはめ絵パズルの一片のようなものであることをその政府が理解していなければなりません。それらの問題を個別に解決することはできません。一挙に解決してしまうか,全く解決しないかのどちらかです。歴史家のウィリアム・マクニールはこう述べています。「人類の直面している最も重大な問題は,諸国家からなる体制から全地に及ぶ一つの帝国への変化が起きるかどうか,起きるとしたらそれはいつかということである」。
しかし,大抵の国々は自国が酋長によって支配される部族であるかのように行動し,経済および社会的な発展に対する世界的な責任という真にうまくゆくような概念を抱いてはいません。ドイツ連邦共和国のブラント元首相は,ワールド・プレス・レビュー誌の中で次のように述べました。「現代の世界においては,大飢きん,経済の停滞,環境面の大惨事,政治の不安定,テロリズムなどを国境の内側に隔離しておくことはできない」。一国の抱えるさまざまな問題は,実際のところ,全世界の安定に影響しかねません。
必要とされているもの
世界政府がうまくゆくには,世界で最も貧しい者たちの必要を満たすためにその政府が世界の物的また人的資源を動員できなければなりません。さしあたってその日のための食糧や水,それに雨露をしのぐ場所を探すのが,人にとって何にも勝る関心事になっている国は少なくありません。人の基本的に必要なものが満たされなければ,身心は束縛され,自尊心は失われます。
世界政府がうまくゆくとすれば,富んだ国と貧しい国の間にある生活水準の差を縮める能力を備えていなければなりません。フランスの著名な編集者であるアンドレ・フォンテーヌは,「我々が人類の益のために富を用いさえすれば,すべての人々にとって十分の富がある」と述べています。貧しい国々は,繁栄している国々の富のおこぼれにさえあずかっていません。貧しい国々はさらに貧しくなっています。付表を見れば,地球の全人口のうちどれほどの人が基本的な必要物に事欠いているかが分かるでしょう。
世界政府がうまくゆくには,その政府は公正であらねばならず,世界のある地域に住む人々を他の地域に住む人々よりも優遇するようなことがあってはなりません。全人類の益のために仕える能力を備え,かつそれを実行する世界支配を求めるとしたら,だれに頼ることができるでしょうか。人間ですか。
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