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鉱物のもつ美しさ目ざめよ! 1970 | 2月22日
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鉱物のもつ美しさ
一見なんの変哲もないような鉱物に宿る,目を見張るほどのみごとな美の世界を眺めたいと思いませんか。では,わたしの家の地下室にいらしてください。多くの人があまり知らない美の世界をわずかですがご紹介しましょう。わたしは趣味で鉱物標本の収集をしています。
しかしひとこと前置きしておきますが,庭石を収集しているのではありません。庭石の収集は全く別の世界です。わたしが関心をもっているのは,いわば隠れた美の世界です。それは,神が人間の目を楽しませるため形造られたに違いない,鉱物の内部に見られる,息をのむほどの美の世界です。あなたは鉱物の顕微鏡標本をご存じですか。初めてのかたのために少しご説明しましょう。
プラスチックの箱を収めたこれらのケースには,世界の各地で採集された鉱物標本がはいっています。それぞれの標本はそのプラスチック製の箱の内側にのり着けされた,バルサ材の板の上に固定されています。これらの微小な鉱物結晶の集合体が鉱物の顕微鏡標本と言われています。というのは,顕微鏡を用いてはじめてその美しさを知ることができるからです。こうして小さな標本を収集すれば,多種多様な標本をごく狭いところに全部収めることができるのでたいへん便利です。そして顕微鏡の助けを借りて,その小さな標本をのぞく時,心を奪われるほど美しい世界が開かれるのです。
ここにある箱にはそれぞれ標示が付されています。その標示には鉱物の名称,結晶の形状,鉱物の種類,採集地その他の事柄がしるされています。
思いがけない美しさ
銅とその多種多様な用途についてはたいていの人が知っています。しかし銅の結晶体がどんなに美しいものであるかはご存じないでしょう。では,銅の世界をご紹介しましょう。そのさまざまな結晶と強烈な色彩のゆえに,銅の標本は収集家に大きな喜びを与えます。まずこの小箱を見てください。標示には「銅,ビスビー,アリゾナ」としるされています。中を見てごらんなさい。それはごく細くて短い銅線としか思えないでしょう。
ではこの標本を偏光顕微鏡にあてて,光線のぐあいを調節し,焦点を合わせてみます。さあ,のぞいてごらんなさい。その「銅線」はどうなりましたか。赤味を帯びて金色に輝く美しい結晶の重なり合ったさまが見えるではありませんか。それがすべてではありません。今度は結晶の一つに焦点を合わせてみましょう。六面体,八面体その他の銅の結晶体が見えるでしょう。また,ある結晶体からは鮮紅色の美しい針のようなものが何本か突き出ているのが見えるでしょう。これは銅針鉱と呼ばれています。
ではこの針のような結晶を拡大して観察しましょう。ごらんなさい,鮮紅色の細長い角柱の結晶が見えるでしょう。今度はこの細い角柱の先端を拡大してみましょう。それは赤色に輝く二つの小さなピラミットが底辺で合わさり,一方の頂点が角柱の先端と結合しているかのように見えるではありませんか。つまり先端部は八面体の結晶をなしているのです。この鉱物結晶には驚くほど多様な幾何学模様が見られるではありませんか。
鉱物の結晶系のいろいろ
ところで鉱物の結晶は,結晶体の結晶軸(理論上の軸)の交わり方に基づいて分類された六晶系のいずれかに属しています。どの結晶系に属するかを決めるには,結晶軸の数,各軸の長さの比,またその交わり方を調べねばなりません。銅や銅針鉱は等軸晶系に属しています。この晶系に属する結晶体では同じ長さの3本の結晶軸がそれぞれ直角に交わってできています。
ここにある別の興味深い鉱物標本は,すぐれた鉱物標本の採集地として知られる,西南アフリカの産銅地ツーメブで採掘されたアズライトつまり藍銅鉱です。ここからは長さ約18センチものアズライトの結晶が採掘されました。さて,もう準備が整いました。では顕微鏡をのぞいてごらんなさい。それはなんとあざやかな美しい青さでしょう。この標本は輝かしい色彩と,変化に富んだ形態のゆえに,収集家にとっては貴重な品とされています。
次はアフリカ,コンゴのカタンガで採集されたこのクジャク石をみることにしましょう。鮮緑色で光沢のある結晶面のしま模様はクジャクの羽を思わせます。アズライトもクジャク石もともに銅の炭酸塩鉱物で,いずれも単斜晶系に属しています。つまりこの結晶体では結晶軸の一本が斜めに交わっています。話が少し専門的になりましたね。ところで,宝石としても価値のあるクジャク石の大きな結晶が,17世紀当時のシベリアで発見されましたが,それは幅2.7メートル,長さ5.4メートルもの巨大なものでした。それはやがて多数の石板に切断され,美術品その他に加工されました。それで各地の博物館や収集家の陳列棚でそのクジャク石の一部分を観賞できるでしょう。
次の標本は緑藍銅鉱です。注意深く焦点を合わせると,先端があざかな緑色をした細い角柱状の結晶の集まりが見えます。そして顕微鏡の倍率を上げると,それぞれの結晶の色は深く澄んだ緑色に見えてきます。この標本はチリの出土品です。この緑藍銅鉱は斜方晶系に属しています。この結晶は結晶軸の長さが3本ともみな異なっています。
さて次は,わたしが採集した標本を少しお見せしましょう。この顕鏡板には,黄銅鉱,輝沸石,剥沸石,濁沸石,斜方沸石など,石英に属する幾つかの結晶標本が収められています。特に黄銅鉱を見ることにしましょう。その先端に金色の三角形をした結晶が突き出ていませんか。これが,鉄と銅の硫化物である黄銅鉱の結晶で,初心者はよくこれを金鉱とまちがえます。しかしこれは軟質の鉱物なので,ナイフでけずることができます。この結晶は正方晶系に属しています。つまり3本の結晶軸は直角に交わっており,横の2本の結晶軸は同じ長さです。
英国,コーンウォール州ゲナップのティング・タング鉱山で採掘されたこの胆ばんをごらんにいれましょう。これは硫酸銅鉱で,三斜晶系に属しています。つまりこの結晶体ではそれぞれ長さの違う3本の結晶軸が斜めに交差しています。このケースの斜方晶系の結晶はごく短身ですが,紺から空色までさまざまの色彩のあることにお気づきでしょう。また水分があるように見えませんか。空気にさらされると,結晶に水分が付着するためです。事実,この結晶は,湿気のひどい場所,もしくは乾燥しすぎたところに放置しておくと自然に崩壊して青緑色の泥土,または緑がかった白い粉末に化してしまうのです。ちなみに胆ばんの英語名は「銅の花」ということばに由来しています。
こうした鉱物の結晶標本を自分で収集するのは案外簡単です。このことを知って収集に興味を持つ人がおられるかもしれません。鉱石を取り扱う店に行って,硫酸銅鉱あるいは胆ばんを買ってくればよいのです。そして鉱石を堅い台の上で小さく砕き,その粉末を幾らかの水に入れて水溶液を作ります。そしてそれを小皿か他の容器に移して,温度の割合一定した所に置き,毎日調べます。やがて,水分の蒸発したあとに,ここでごらんになったような美しい結晶が姿を現わすでしょう。
では最後に,すばらしい秘蔵品,翠銅鉱をお見せしましょう。これは珪酸銅鉱の一種です。アフリカのコンゴ領で採掘されたこの結晶標本を見てください。このほかにも幾つかの標本をごらんにいれましょう。いろいろな土地から採集されたこれらさまざまな鉱物標本が青味を帯びた緑色のいかにみごとな結晶であるかに気づかれたことでしょう。これらの結晶は六面を有する六方晶系に属しています。この結晶の特徴は,長さの等しい横の3本の結晶軸がそれぞれ60度の角度をなして交差していることです。そして長短いろいろの縦の結晶軸がそれら横軸と直角に交わっています。それにしてもアリゾナ産のこの標本はどうでしょう。明るい黄色の黄鉛鉱の結晶から青味がかった緑色の斜方晶型の長い結晶が突き出ているではありませんか。
美しい鉱物結晶を求めて
これらわたしの多数の標本をどこから入手したかとお尋ねになるのですか。お気づきのとおり,なかには遠い外国で採掘された標本もありますが,そのほとんどは収集家のあいだで交換し合って入手した品です。しかしすばらしい結晶の標本を自分の家の近所で見つけることもあるのです。鉱山や採石場の近くに住んでいるなら,そうした場所は絶好の採集地です。もとより標本採集を行なう際には,その土地の所有者の許可を受け,また,所定の安全規則を守らねばなりません。また最近,噴火のあった火山地区も採集地となります。そのほか,砂利の採掘あと,最近掘り出された岩石類,また古い石造りの壁さえ標本採集の場所となります。
標本採集のための用具としては,採鉱者用のハンマー,削岩用ののみ,鉱石を入れる袋,作業衣,がんじょうな靴もしくは長靴などでまにあわせています。しかし標本の採集旅行にはめったに出かけません。事実,一度採集旅行に出かけると,選鉱し顕鏡板に取りつけるのに何時間もかかるほどの多量の標本が採集できるのです。そうした採集旅行は家族そろって行なう楽しみとなり,標本採集以外にもいろいろな事柄を見たり,調べたりする機会にもなります。
鉱物に関する良い研究書を参考にすれば,採集した標本がどんな種類の結晶体かを明らかにするのに役だちます。顕鏡板に取り付ける標本を磨くのに古い歯ブラシや洗浄剤を利用できます。また,標本を選定し,顕鏡板にのりづけする作業には倍率10ないし20倍のレンズが役だちます。標本の保管や展示はなんら問題ではありません。わたしのように多年収集を行なってきた者でも,縦横1メートル,奥行き60センチほどの小型の棚で十分まに合うのです。机の引出しを利用することさえできます。
鉱物の顕微鏡標本の収集は楽しい趣味の一つといえます。美しい色彩に富む鉱物の結晶を観察してみると,人間の目をかくも豊かに楽しませてくれる鉱物結晶は,最高の技量を備えた最大の名匠で,かつ美を愛する知性的な創造者の造り出されたものにほかならないという確信をいよいよ深くします。そうです,鉱物にも美の世界を見いだせるのです。―寄稿。
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寒暑の差目ざめよ! 1970 | 2月22日
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寒暑の差
● 世界で最も冷たい海は北極海と南氷洋です。そこではセ氏零下2度になることもさほど珍しくありません。一方,最も暖かい海は紅海とペルシア湾で,時に30度になることがあります。しかし,この温度の開きも,陸地の温度差ほど大きくありません。陸地の気温は南極の零下77度からアフリカ,サハラの57度まであるのです。
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