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ドル問題の背後にあるのは何か目ざめよ! 1971 | 11月22日
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したがって,長い目で見れば,多くの国が費やす戦費は,彼らの富をふやすものではなく,取り去るものである。アメリカの場合,海外における莫大な軍事費は,国際決済で破産状態に向かっている主因をなしている。
不気味な進展
アメリカの立場から見れば,最近,もうひとつ不気味な事態が進展している。アメリカがかつて他国との商取引において有していた莫大な余剰は姿を消しつつある。
最近は輸入のほうが輸出よりも急速にふえている。二,三十年前,アメリカしか能率的に生産できなかった商品の多くを,今では他の国々が生産できるようになっている。しかもそれらの国々の多くは,安い費用で生産する。
アメリカ製品の価格はインフレが原因で急騰している。そのために世界貿易におけるアメリカ製品はいっそう高くなる。外国人は,同質の商品をそれより安く生産する国から買うことを好む。
アメリカの消費者も問題を大きくしている。アメリカ製の品物が高いために,外国製品を買うことが多くなっている。今年,アメリカで売られている靴5足のうち2足は輸入品である。テレビは10台のうち6台,ラジオは10台のうち9台が輸入品である。また,ドイツのフォルクスワーゲンとか,日本のトヨタ・ダットサンなどの外車が殺到して,国産車の中に割り込んでいる。
このように外国商品はアメリカのいたるところで市場をさらっている。国外のみならず国内においても,それらの商品はアメリカ製品の売れ行きを阻害している。もしこの情勢がつづけば,アメリカは,海外における軍事費を全部削除してもやがて赤字を出すことになるだろう。
不均衡は危機を招く
アメリカの国際収支の赤字は何年かにわたって蓄積されてきた。しかし,アメリカの政府当局者は,政治的圧力その他により,他国に金交換をひかえるよう説得することができた。もし金交換に『かけつける』なら,国際通貨基金は互いに密接な関係にあるために,国際通貨基金加盟国全部が危機に見舞われるだろうと警告した。
しかし,親切な銀行家でさえ,選択の余地がほとんど,あるいはまったくなくなる時がくる。彼はお金を借りようとする人々に,『もう貸せない』と言わねばならない。1971年の春そういうことが起こった。この思いきった処置は,1970年中,および1971年のはじめに生じた事態のためであった。
1970年,アメリカは景気後退に悩まされた。この景気後退からの脱出策として種々の試みがなされたが,そのひとつが金利引き下げであった。これは企業を刺激するのが常である。お金を安く借り出せるからだ。自動車を買いたい人,家を建てたい人,あるいは事業を拡張した人はおそらく,金利の低いときに金を借りて使うだろう。
しかしながら投資家は,金利が低ければ利益が少なくなる。そこで多くの投資家は,アメリカでの投資をやめ,金利の高いヨーロッパでの投資に切り換えてしまった。
1971年の春,ドルがヨーロッパに殺到した。投資家たちが高利を求めたばかりではない。ドルが弱いために投機家たちはドルを手離して,もっと強いヨーロッパの通貨,とくに西独マルクを手に入れることを望んでいた。これらの強い通貨はやがて価値が上がり,自分たちは利益が得られると考えたのである。
しかしそういう通貨が一国内に流入すると,その国には使ったり貸したりするお金がふえ,インフレが激化する。何年かにわたるアメリカの赤字はすでに相当なものであるのに,ドルのこのヨーロッパ,特に西独への流入は,まったく重荷に小付けというところであった。ヨーロッパ各国の中央銀行は突如「受け入れを断わる」と言った。一時的にこれ以上のドルの受け入れを拒否したのである。そして自国の通貨を金融市場で上に『浮動』させた。
それは,自国の通貨の変動を1%だけ許すという,国際通貨基金の協定に固執しないことを意味した。そして,自国の通貨が,需要と供給にしたがってそれ自身のレベルをさぐることを許した。ドルの需要が弱く,ヨーロッパの通貨の需要が強かったので,それらの通貨の価値は数%上昇した。
それは実際上,ドルの価値を減ずることであった。アメリカがみずからそれをしないので,他国が自国の通貨を高く再評価することによって,それをしたのである。結果は同じことであった。今や同じ外国製品やサービスを買うのに,より多くのドルを支払わねばならない。
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問題は是正できるか目ざめよ! 1971 | 11月22日
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問題は是正できるか
アメリカの国際収支の赤字は調整できるだろうか。世界の金融体制は今後どうなるのであろうか。
この赤字を調整するには,アメリカはそのやり方を根本的に変化させねばならないだろう。それには軍事費の大幅な削減を含まねばならないだろう。それは,全世界の軍事基地を減らすか,または少なくとも,他国にその費用を支払わせることを意味するだろう。しかしどちらも困難なことである。
1971年5月,ヨーロッパ駐在の30万を越える軍隊とその扶養家族20万人を減らして費用を節約する提案が出されたとき,政府は強く反対した。政治的考慮が勝利を収めたのである。ドルが大量に流出するにもかかわらず,軍隊とその家族は現在のところ駐留地にとどまるだろう。
削減が行なわれた一地域は,アジアと太平洋で,軍隊はベトナムも含めて同地域内の多くの場所から徹退している。
ジレンマ
軍隊の大幅な削減に加えて,アメリカはインフレを押え,物価の上昇を阻止しなければならない。物価が下がれば,アメリカ製品は世界貿易においてより競争力を増すであろう。
しかし,それをしようとすれば,往々にして事業が停滞し,失業率が高くなる。悪性インフレの減少が試みられた1970年に起こったのはまさにそれであった。お金の入手をむずかしくするために金利が引き上げられた。政府や企業の消費額が削減された。このすべては景気の後退,失業率の上昇を助長した。政府与党でそうした事態を望むものはひとつもない。
したがって,アメリカはジレンマに陥っている。ドルの流出をへらして赤字を少なくするには国内のインフレを是正しなければならない。しかしそれは経済を沈滞させて何百万人ものアメリカ人を憤慨させる。だから,政治的にみて,景気後退は,他国を怒らすよりももっと悪いと考えられている。それらの国々は,アメリカの選挙のときに投票するわけではない。
他方,景気後退を避ける,もしくは是正するためにアメリカの企業を刺激することは,通常インフレをひき起こす。金利は引き下げられて借款と消費がふえる。政府や企業の消費も増加する。お金の入手が容易なために人々はさらに多くを費やす。そのために商品の需要は大きくなり,生産の増加が要求され,それに伴って仕事もふえる。しかしそうなると,物価は上がってアメリカ製品は高くなり,世界貿易における競争力が弱くなる。
繁栄してくると,人々は外国製品をも含めてすべての物にたくさんお金を費やすのがふつうである。また外国で休暇をすごす可能性も大きくなる。こうしたことはみな国際収支を悪化させる。連邦準備制度理事会の理事長アーサー・バーンズが,アメリカの財政状態は非常にくずれやすいので,現在の事業ブームを乗り越えられるかどうかは疑わしいと言った理由は,このジレンマにある。
見込み
赤字の防止対策にはどんな見込みがあるだろうか。政府当局者の一部には楽観的な傾向が見られる。
しかし民間の経済学者の多くは楽観的ではない。バンカーズ・トラストの主任経済学者ロイ・レイヤーソン博士は,「外国の民間および政府の債権者のドル要求にほぼつり合うドルが供給できるように,アメリカは国際収支の赤字を減らさねばならない。アメリカはこれをしてこなかった。また将来それをする見込みもないようである」と述べている。
一経済学者の指摘するところによると,代々の財務長官は,二,三年のうちに赤字を解消すると約束してきたが,約束を果たしてはいない。かえって赤字は急増した。したがって,西欧諸国およびアメリカとの間の効果的な均衡を得るという基本的な問題が未解決のまま,現在まで残っているわけである。
このために,カナダのマイヤーズ・ファイナンス・レビュー誌は,「世界は,存在するあらゆる通貨を巻き込む通貨危機に近づいている」と警告している。またヨーロッパのある銀行家は,「われわれは最後に,30年代以来最悪の通貨混乱を迎えることになるかもしれない」と言っている。
尊敬されているフランスの経済学者ジャック・ルッフは,アメリカのドル問題に同情を示しながらも,「問題は手の施しようのないところまできているかもしれない。そして国際収支の復元は,1931年の場合のように,強制的な整理 ― すなわち破産 ― による以外にないかもしれない」と述べている。
かりに一時的な改善が行なわれたとしても,長期の見通しはどうだろうか。1930年代の大不況のときのような通貨混乱がふたたび世界を襲うだろうか。
実際にはそれよりもはるかに大きな混乱がのぞむことは確実である。どんな制度にせよ,利己的な利害関係の上にたてられた制度は,みずからの滅びの種をまくのである。もし十分の時間が与えられるならば,利己的な国家や個人の利害関係の上にたてられた現在の世界経済体制は崩壊するであろう。歴史は他のさまざまな体制がそうなったことを示しているとおりである。
しかし,現在の経済諸体制の終わりは,それが貪欲であるという理由だけで到来するのではない。神の介入によって,それらの体制の終わりがもたらされる。わたしたちの時代について,聖書はこう預言している。「この王等の日に天の神一の〔王国〕を建たまはんこれは何時までも滅ぶることなからん 此〔王国〕は他の民に帰せず却てこの諸の〔王国〕を打破りてこれを滅せん 是は立て永遠にいたらん」― ダニエル 2:44。
現行のすべての政府はその経済体制もろとも,こうして神の力によりまもなく打ち砕かれて消滅してしまうのである。したがって,人間の問題はもはや,利己的な政治および経済上の利害関係によって支配されなくなる。人間の問題は義の政府,経済面をも含めすべての分野において人類の永続的益をはかる神の天の政府によって支配される。神はすべての正義愛好者の永続的祝福のために,そのような政府を立てることを約束された。―エペソ 1:8-10。
あなたはその政府から益を受けるであろうか。それはあなたが今その政府について学び,自分の生活を,その政府の創造者である神の要求に合わせるために何を行なうかに大きく依存している。
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