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ショック療法,薬剤または精神外科療法は問題を解決しますか目ざめよ! 1975 | 7月22日
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ショック療法,薬剤または精神外科療法は問題を解決しますか
精神を病む人々の治療は,ほとんどの国において長足の進歩を遂げました。過去において,精神病の人が受けたのはどんな扱いでしたか。ある権威者によれば,「飢えさせ,こごえさせ,締め付け,脅かすことは常套手段であった。殴るだけ,つまり棒やむち,針金,鎖,こぶしで打つのは,まだましなほうであった」ということです。
とくに悪名高いのはベドラムとして知られるようになったロンドンのベツレヘム・ロイヤル病院でした。そこでは特定の日になると,1ペニーの料金をとって見物人の前で精神病患者を虐げました。今に至るまで「ベドラム」は「気違いじみた騒々しい騒ぎの場所または光景」を意味することばとして使われています。王室の者でさえ精神病になると容赦されず,英国王ジョージ三世もこのような不幸な犠牲者の一人でした。
精神病の人に対する残酷な仕打ちは,害虫のいる,不潔きわまりない牢の中に放置するという扱い方に変わりました。しかし19世紀の初めに一部の人道主義者たちによって始められたのは,悪霊に付かれた人としてではなく病人として精神病の人を扱い,教育,レクリエーション,人間的な親切心によって精神病を治療する方法でした。19世紀末以来,精神病の治療に関する新しい理論また治療法が数多く発表されています。
一方には,フロイト,ユングなどの人にちなんで名付けられた精神療法があり,他方には薬剤とショック療法を主とする“身体的”すなわち“器質的”な方法があります。かつて広く用いられ,その後,悪評が高くなった精神外科療法は,昔とは非常に違った形で復活しつつあります。特定の患者の治療には,これらさまざまの治療法を幾つか組み合わせて用いるのが普通です。
ショック療法
精神病患者のショック療法は三段階を経て今日に至ったと見ることができます。その最初のものは,マンフレッド・ザーケルによって始められたインシュリン・ショック療法でした。しかしこれには欠点もありました。インシュリンの注射によるショックは,最大の効果をあげるには30時間から50時間,持続しなければならず,またショックを与えられた患者が時に蘇生しないことがありました。また看護婦や付き添いの十分な看護を必要とするために多額の費用が必要でした。それでおよそ10年後の1940年代になってそれはほとんど用いられなくなり,他のショック療法に取って代わられたのです。
メトラゾールという薬を使う2番目の方法は精神病医メドゥナによって始められました。メトラゾールによって,てんかんに似たけいれんの起こることが発見され,これが精神病を治すと考えられました。しかしこの方法にも多くの短所があり,なかでも,けいれんによって時に骨折するという難点がありました。
これらのショック療法はおおかた電撃療法によって取って代わられ,今日ではこれが一般に用いられています。これは脳に電流を流して体をけいれんさせるものです。普通は薬が与えられるので,患者は苦痛を感じません。これをおよそ50秒間続けると,思考の混乱状態が起きて,その状態は1時間ぐらい続きます。あるいは何週間も記憶を失った状態が続くこともあります。この療法が良い結果をもたらすことを認めている精神科医や患者は少なくありません。
しかしECTとして知られている電撃療法に対しても,批判がないわけではありません。それは今ほどひんぱんに用いられてよいでしょうか。アメリカ精神病学会の会長ペリー・C・トーキントン博士(1972年)によれば,そうではありません。「電撃療法は,他の療法 ― 化学療法(薬剤),精神療法あるいはこれら二つの併用 ― が効果を収めない時,深い抑うつ状態を治療するために用いるべきである」と同博士は語っています。
電撃療法を初めて使った,ほかならぬチェルレッティ教授も,それを評して「およそ美的でない ― 醜い……いやなもの」と述べており,代わりになるものを見つけることに努めていると語りました。F・G・アレキサンダー,S・T・セレスニック両博士共著「精神病治療法の歴史」にも次のように出ています。「ショック療法は症状を軽くする効果があるに過ぎない。それは病気の根底にある心理的不安に対処するものではない。病気の根源に達するのは精神療法であって,これなしに電撃療法を受けても病気の再発を招きやすい」。
広く読まれている一精神科医の伝記には,電撃療法が好まれる理由として,保険の効くことが挙げられています。精神科医は(1972年当時)“ボタンを押すたびに”35ドル(約1万円)になるということです。
薬剤の使用
20世紀の初め,奇跡的とも言えるほどによく効く,強い薬が試みられました。しかしその効果はほんの数分あるいは数時間しか続かないのです。次いでブロマイドが広く使われるようになりました。しかしこれも思ったほどの効果は得られずに終わっています。この面での努力全般について次のことが言われています。「薬の夢は何度となく破られたにもかかわらず,人間の内面の悩みがいつかは化学的な方法で軽くされることを,医師たちはなお望んでいる」。
とくに1950年代以降,西欧諸国では精神神経安定剤が用いられています。そのあるものは精神分裂病の治療に非常な効果があるとされており,そのほか抑うつ状態を無くすのに効く薬や,不安を和らげるための薬があります。
これらの薬を使うことによって患者の取扱いは容易になり,また患者の苦痛も和らげられました。しかしこれらの薬は濫用される気味があり,とくに精神薄弱者の施設においてその傾向があります。1975年1月11日付ナショナル・オブザーバー紙に引用された多くの精神科医のことばは,「患者をこん棒で打って半ば無意識にさせるのと変わらないような方法で」自分の仕事を楽にする看護人を非難しています。
ブランディスのディブワド教授は述べています。「我々のしたことは,機械的な拘束[拘束服,個室監禁]を化学的な拘束に変えたに過ぎない。これは見えないだけにいっそう残酷である」。別の権威者の次のことばも引用されています。「人々を施設に隔離し,薬を与えておとなしくさせることは認められた常套手段となっているが,我々はこれを打破しなければならない」。
薬は多くの場合,支えに過ぎません。薬は回復を早めるどころか,病気を長引かせることがあり,神経組織に害となることさえあります。暴れる患者を押さえるために使われる薬について,一精神科医の調べたところでは,このような患者の20から30%は筋肉の働きに異常を来していることが分かりました。
精神病の治療に薬を使うことについて,1970年の一教科書はその現状を次のように要約しています。「かなりの進歩にもかかわらず……なお相当の努力が必要である。我々の治療する病気のほとんどについて言えば,その原因は情けないほど分かっていない。薬が病状の改善にどうして役だつのか,またなぜ効かないことがあるのかは,今なおほとんど理解されていない。快方に向かう患者も大勢いるが,全快する患者はなお非常に少ない」。
神経外科?
神経外科すなわち脳の手術によって精神病をいやす試みは,とりわけ1936年にさかのぼります。大脳前葉の一部を切除することによって不安を軽くできることが,ポルトガルの研究者イーガス・モーニスによって観察されたのはその年でした,しかし彼がこの種の前頭葉切開術を20回行なったのち,ポルトガル政府は法律によってこれを禁止しました。にもかかわらず,この手術は米国で盛んに行なわれるようになり,主唱者であるウォルター・フリーマンは4,000回に及ぶ前頭葉切開術を行なっています。
この手術は「眼球の後ろに氷割り用のきりを振り回わして大脳前葉の一部を破壊する」と形容されました。サイエンス・ニューズ誌はこう報じています。「前頭葉切開術は米国でおよそ5万回,英国で1万5,000回行なわれたあと,1950年代に至って,恐らく電撃療法と薬剤療法の進歩のためにその流行は下火となった」。
前頭葉切開術ははるかに重大な人格の不調を招くことが少なくありません。事実,アメリカにおける先駆者フリーマンでさえ,前頭葉切開術を施された人は「士気」を失い,また想像し,予見し,利他的である能力を失うと証言しています。患者は「洞察力,同情心,感性,自意識,判断力,情緒的な反応力を次第に失った」と,ワシントンの著名な一精神科医は語っています。
しかし近年において,大脳の一部を破壊する,さらに精巧な方法が使われるようになり,神経外科の問題は再び脚光をあびるようになりました。米国では毎年,400から600件に上る,このような手術が行なわれていると報告されています。しかも「神経外科の治療法が今後ますます広く用いられるようになるという点で,すべての神経外科医の意見は一致している」ということです。しかしこの手術がソ連邦の全域にわたって禁止されているという注目すべき事実は,この手術に好ましくない面のあることを示しています。
1973年の春,米国では,自発的な同意を条件に精神病の犯罪者に精神外科の手術をする案が多くの論議を引き起こしました。多くの人は,これが脳の手術によって人間を改造する道に通ずるようになることを恐れています。脳外科医のA・K・オマヤ博士も,これに強く反対する一人です。同博士の意見では,精神病患者はこれによって益を受けるどころか害を受けます。「脳のどの部分も他の部分の機能に必要な役目を果たしている」からです。―1973年4月2日付ニューヨーク・タイムズ。
精神病の治療における電撃療法,薬剤,精神外科のいずれも,まだ不満足な点が多く残されていることは明らかです。事実,これらの方法のあるものについては,その使用の是非さえ論議の的となっています。ではこれに代わるどんなものがありますか。
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ホルモン,ビタミンそしてミネラルはどのように助けとなりますか目ざめよ! 1975 | 7月22日
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ホルモン,ビタミンそしてミネラルはどのように助けとなりますか
精神および情緒面での病気と人の食餌との間には何らかの関係があるでしょうか。栄養やホルモンなどの要素によって精神病を治すことができるでしょうか。
“医学の父”と呼ばれるヒポクラテスは,すでに西暦前5世紀の昔から,栄養不良と精神病との間には何らかの関連性があり得ると考えていました。また,晩年になって次のように書き記したのは,“精神分析学の父”ジークムント・フロイトにほかなりません。「我々が理解しようと努めているこれら精神障害すべてが,ホルモンあるいはそれと似た物質によって治療されるようになる日が来ることをわたしは確信している」。
ホルモンの使用
近年,数多くの精神病患者は,ホルモン療法の恩恵に浴してきました。ゆえに,ニューヨーク医科大学の一精神科医は,合成の性ホルモンが「電気ショックの場合のように外傷性がなく,従来の薬剤よりも早く効き」,一層効果があることを発見しました。同医師は,ホルモンを使うことによって数人の男性のうつ病を治し,他の人々をも快方に向かわせました。―1974年5月9日付,ワシントン・スター・ニューズ紙。
米国のマサチューセッツ州ウースターの生化学者と精神科医の一チームは同様の性ホルモンを用いてより一層目覚ましい結果をさえ得ています。同チームは女性患者の8割を快方に向かわせました。しかも,「ショック療法,抗抑うつ剤,精神療法など“各種”の従来の治療法では治らなかった」女性の入院患者だけを選んだにもかかわらず,そのような結果が得られたのです。―1974年9月30日付,ボストン・グローブ紙。
栄養
精神病における栄養の果たす役割は,ペラグラの例に見られるとおり昔から認められていました。ペラグラはビタミンB3(ニコチン酸)の不足によって起こる病気で,精神異常はその病気の症状の一つです。
今は精神に作用する化学薬品の研究に全時間専念している元大学教授ジョージ・ワトソンは,栄養面から精神衛生に取り組む手法を強調している人の一人です。同氏は,自著「栄養とあなたの精神」の中で,人間の体の酸化速度は早いか遅いかのいずれかであるので,それに応じて食餌を調節しなければならない,と論じています。「食べ物は精神状態や,ある意味ではひととなりを決定するものとなる」というのが同氏の見解です。ワトソンはさらに次のような見解をも述べています。「風変わりな行動の大半は,脳の栄養不良,疲労した神経系統その他,新陳代謝の機能不全と直接関係のある身体上の障害などに起因する」。同氏は,必要とされている,つまり欠乏している栄養素を投与することによって,ひどい精神分裂症に悩まされていた患者を治したと述べています。
同様の仕方で精神病に取り組んでいるのは,低血糖症財団に属する500人の内科医および精神科医です。それらの医師たちは,血糖の量が少ない場合にうつ病,不安,健忘症,震え,悪夢,神経衰弱などが起こり得るとの見解を述べています。
栄養面から精神病に取り組むその手法は,精神病を治療するに際して微量元素の果たす重要な役割にも重点を置いています。例えば,リチウムの価値は広く認められています。米国テキサス州の一生化学者は,同州内で飲料水中のリチウム含有量の高い幾つかの都市では精神病の少ないことを発見しました。ゆえに,ハーバード大学医学部の精神医学教授リオン・アイゼンバーグ博士はこう述べています。「そううつ病患者の病気の症状が治まった後,リチウムと呼ばれる物質を予防薬として服用させるなら,患者の健康状態を保たせるのに役立つ」― ワールド・ヘルス誌,1974年10月号。a
リチウムに加えて,ある特定の食物に含まれている他の微量元素も,精神病と関連して大切な役割を果たしているかもしれません。そのような微量元素には,亜鉛,カルシウム,マンガン,マグネシウム,鉄,銅,コバルト,クロム,セレン,モリブデンなどがあります。事実,これら微量元素の重要性を認める精神科医はますます増えています。
“オーソモレキュラー精神医学”
“オーソモレキュラー精神医学”という用語は,「正しい場所に正しい物質を正しく集中することの重要性」を強調する治療法を指すために,ノーベル賞受賞者ライナス・ポーリング博士が作り出したことばです。この用語は二つの語を語源としており,まっすぐな,正しい,正確な物事を意味するオーソ(“オーソドックス”と言う語に見られる)と,“モレキュル(分子)”という語から派生したモレキュラーから成っています。
ポーリングはこう説明しています。「脳が正常に働くには,脳中に多くの異なった物質の分子が存在しなければならないことが知られている」。それらの物質は血液によって脳まで運ばれます。同博士は,ある種の精神病の場合,食物中に含まれているビタミン類や微量元素などを十分に利用するだけの機能が体に欠けていると考えています。この遺伝上の欠陥を補うため,同博士は患者に大量のビタミンを投与したり,患者の食餌を別の方法で調整したりするよう勧めています。特に強調されているのは,ビタミンB1,B3,B6,B12,CそしてHなどの使用です。
しかしながら,“オーソモレキュラー精神医学”のもたらす相対的な益に関しては,意見の非常に大きな食い違いがみられます。例えば,エクアドルのカルロス・A・リオン博士は,「[オーソモレキュラー精神医学の]効き目に関して決定的な証拠はまだ提出されていない」と述べています。同様の意見として,アメリカ精神医学会には次のような記録が残されています。「ビタミン大量投与療法の提唱者たちは,その療法の効能に関して際立った主張をしているが,その主張にはたいてい根拠がない」。また,ハーバード大学医学部の精神医学教授S・ケティ博士は,その取り組み方を「不完全な知識の未熟な適用」と呼んでいます。
他方,米国ニューヨーク州マンハセットのデービッド・ホーキンズ博士は精神分裂症患者5,000人を対象にしてビタミン大量投与療法を用いて治療した結果,4,000人余が快方に向かったと述べています。事実,同博士は普通の精神療法や化学療法にビタミン療法を加えることによって,回復率を2倍近くにし,入院患者数を半減させ,精神分裂症患者の間で発生率の高い自殺を全く無くすことができるのに気づきました。
カナダおよびアメリカの両精神分裂症財団の理事長であるアブラム・ホッファー博士はこう述べています。「精神的な問題を持ってやって来るのに,規定食を処方して家に帰すので,わたしの病院の患者はわたしのことを少しおかしい精神科医だと考えている。しかし,規定食が大切なことをやがて患者自身が確信するようになる」。
目下,この“オーソモレキュラー”法を自分の治療法に取り入れている精神科医はアメリカに300人余おり,その数は増加しています。そのような医師たちは,3万人余の患者がその療法から益を受けたと主張しています。また,この種の治療法が患者とその家族にかける金銭的負担は,他の種の治療法と比べればごくわずかであるという点も見過ごしてはなりません。
何をすべきか
もしかして,ご自分やご自分の愛する人が精神病に悩まされてきたというような場合もあるかもしれません。もしそうであれば,お分かりのように,回復を促すために行なえる事柄があります。
過度のストレスは多くの場合精神病の要因となるので,問題の原因となっているかもしれないストレスの根源となるものを取り除くか減らすかするために,できるだけのことをしてください。結婚生活に影響を及ぼす事態や対人関係それに雇用問題や生活上の類似の諸問題に関連して何らかの決定を下すことで思い煩っているのかもしれません。では,決定を下すか,さもなければその問題を考えないようにしてください。
極度の精神変調がある場合には,事態を抑制するために薬剤や電気ショックをさえ用いることもできます。とはいえ,そうした治療法は専門医の監督の下でのみ,しかもたいてい最後の手段として勧められる治療法です。近年,ビタミンやホルモンを使うことによって優れた成果が得られたという例が幾つか報告されています。それらの治療法の見込みを調べてみるのが有益なことにお気づきになるかもしれません。
しかし,基本的に言って,精神病患者は自分の思考を制御する面で助けを必要としています。その助けを得るために多くの人は,最もよく知られている治療法,つまり精神療法に頼ります。精神療法とは何ですか。その治療法は精神の平衡を取り戻すよう人を助けることができますか。
[脚注]
a 1975年1月3日付,ザ・メディカル・レター誌(英文)によると,有害な副作用が起こり得るので,リチウムの服用は注意深い監督の下で行なわれねばなりません。
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解決は精神科医の治療にかかっているか目ざめよ! 1975 | 7月22日
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解決は精神科医の治療にかかっているか
精神療法とは,精神面や情緒面で乱れた状態にある人からその問題点を聞き出し,それに対処する方法を自覚するよう助ける治療法のことです。アメリカでは,この種の治療を施す人々,つまり精神科医の数は過去25年間で7倍に増えました。
たいていの精神科医が用いているのは,ジークムント・フロイトの始めた“寝いす”を利用して行なう精神分析論による療法です。といってもこれは,主にアメリカを中心に行なわれている療法です。例えば,1,100万の人口を擁する東京には精神分析医はわずか3名しかいませんが,人口900万のニューヨーク市にはなんと1,000名を数える精神分析医がいます。
精神医学療法の価値は,決してすべての人から認められているわけではありません。事実,全米精神療法学会の理事でさえ,最近,「精神療法の分野を今日特色付けている論争や絶えまない幻滅感」について語りました。また精神科医カール・メニンガーも,「いわゆる精神分裂症患者の9割までが医療機関の助けを受けずに回復する」と語っています。
ロンドン大学付属精神医学研究所のH・J・アイセンク教授は,1973年4月4日号のメディカル・トリビューン誌上で厳しい語調でこう書きました。「精神療法および精神分析の種々の方法がもたらしたとされる[成果]は,自然回復の場合とほとんど変わらない」。言い換えるなら,アイセンク教授によると,精神医学の助けを借りた人々の回復率は,精神医学療法を全く受けなかった人の場合とほとんど同じだったのです!
与えられた助け
しかしながら,精神科医によって本当に助けられた人のいることも否定できません。アメリカ,カリフォルニア州に住むある男の人は,「親切なその人から受けた援助は非常に有益で,病状は急速に快方に向かいました」と書いています。そして,「あの精神科医はわたしのために何を行なったのだろうか」と自問し,こう答えました。「彼はわたしの話に耳を傾けてくれました。本当に話を聞いてくれました。……自制心を培う能力がわたし自身のうちにあることを悟るよう助けてくれました」。
神経症の徴候が現われていたこの男の人は,深刻な性的異常を示す行動上の問題を持っていました。しかし精神科医は,親切に励ましを与えることにより,その弱さを正すよう患者を助けることができました。こうした精神科医の治療のおかげで快方に向かった人の中には,非常に重い精神病患者さえいました。カール・メニンガーを中心とする一医師団が著わした,「極めて重要な情緒の安定」と題する本に挙げられているある病歴は,この点を説明する証拠となっています。
そこに挙げられているのは,63歳の時に州立病院に収容された“メアリー・スミス”の例です。どうしたことか彼女は,親切で優しい典型的な農業経営者である自分の夫が酒の密売に関係するようになり,繰り返し自分に毒を盛ろうとしていると考えるようになりました。そのため,寝ている夫を金づちで襲ったのです。
彼女は,「神経症の徴候があり,落ち着きがなく,錯乱状態にある」と診断されました。そして入院後6年目には,回復の見込みのない精神異常者と断定されました。それから7年の歳月がたったころ,ある新しい医師が着任し,その患者に関心を持ちました。医師は甲高い声で話す彼女の不平に辛抱強く耳を傾け,同情を示し,できるときはいつも話にうなずきました。また一緒に散歩しては,妄想を取り除くよう巧みに助けました。彼女の眼鏡の度を直し,看護婦を付けて読み物を与え,一緒に雑談させました。
その婦人の声の調子は徐々に変化し,ベッドを整える手助けができるようになり,やがて院内の敷地を独りで歩くことが許されました。ほどなくして,数日外泊することも許されました。そしてついに76歳という高齢で,老婦人を世話する付き添い看護婦の職に就いたのです。何年か後のこと,その婦人の娘から次のような知らせが寄せられました。「母は協力的で非常によく働き,みんなの役に立っています。……年齢を問わずわたしの知っている女性の中で,最も計画的に仕事をする人の一人だと思います」。
精神障害者を助ける点で成功を収めたこうした例は,それらの患者がどんなタイプの治療を特に必要としているかを示唆しています。何年か前のこと,精神衛生研究財団の会長ジェフリ・ビッカース卿はこう説明しました。「精神科学における最も意義のある発見は,精神を守り,かつ健全な状態に戻す愛の力である」。
そうです,今では,精神病患者を効果的に治療する上で,愛,親切,辛抱,そして理解が肝要なものとして一般に認められるようになりました。しかし先に触れたように,多くの場合,精神科医は患者の回復になんら助けとなっていません。それには,何か根本的な理由があるのでしょうか。
治療にあたる姿勢に見られる基本的な誤り
周知のとおり,悲惨な事態に面して耐える力を得るためには,人は自分が存在する理由,つまり人生にはどんな目的があるかを知ることが必要です。しかし精神科医は,こうした知識を与える上で最も優れた立場にあると言えますか。「自分はなぜここにいるのだろう」。「生命とは一体何だろう」。「前途にはどんな運命が待ち受けているのだろうか」。こうした基本的な疑問に人々が答えを見いだすよう,精神科医は助けを与えることができるでしょうか。
実際のところ,人間にはだれもこうした疑問に満足のゆく確かな答えを与えることはできません。それができるのは人類の創造者である全能の神だけです。そして神は,わたしたちが希望と慰めを得られるように,みことば聖書の中にそうした答えを備えてくださいました。しかし,精神科医は一般に神についてどう考えていますか。
1970年に行なわれたある調査は,その点を明らかにしています。インタビューを受けた精神科医のうちその55%の人が,神に対する信仰は“幼稚”で,“現実にそぐわない”と考えている,と語りました。
なんという理性に欠けた非論理的な結論なのでしょう。考えてみてください。至高の神の存在を認めないとすれば,生命の起源をどのように説明できますか。また,愛についてはどうですか。健全な精神を保つ上で極めて肝要なこの驚くべき特質はどこから生じましたか。この点について論理的で道理にかなった説明を与えているのは聖書だけです。そして聖書の説明によれば,愛に富む至高の創造者がまさにそれらの根源であられるのです。(詩 36:9。ヨハネ第一 4:8-11)どうみても“幼稚”とは思えない,科学の分野で傑出した人々の中にも,そのような神に対する信仰を表明した人がいます。
サイエンス・ダイジェスト誌はそうした人々の一人についてこう報じています。「かつては,科学史家のほとんどが,アイザック・ニュートンこそ世界の生み出した最も偉大な科学者であると断言したものである」。そして,そのニュートンは主著「プリンキピア」の中でこう述べました。「その方の真の支配領域からすれば,真の神はまさしく生きておられ,知性に富み,力あふれる実在者であられることがわかる。また,他の卓越した面を考慮すると,神は至高者,つまり最も完全な方であられる。神は永遠無窮,全知全能であられる」。
世の精神科医が犯している基本的な誤りは,精神または情緒の乱れている人を治療するに際し,一般にこの真の神に知恵や導きを求めていないという点にあります。あらゆる専門医の間で精神科医の自殺率が最も高いことは,確かに精神科医の取るこうした態度の必然の結果と言えます。精神科医の一人は,その点に触れて,『精神科医の[自殺]率が他と比べて最も低くなるまで,その教えのすべてには疑問が残る』と語っています。―アメリカ医学学会誌。
基本的な誤りがさらにもたらす影響
神のみことば聖書の健全な教えの価値を無視する精神科医が,平衡の取れた仕方で愛を示すのはまれなことです。例として,麻薬を断ち切らせるために,10代の息子を精神科医のもとにあずけたある父親の場合を挙げることができます。どんな結果になったでしょうか。父親は2,000㌦(約60万円)を支払いましたが,息子は少しも快方に向かいませんでした。
父親は息子を助けたいと思いました。しかしその父親も,また精神科医も,愛を表わす上で肝要な事がらは親切のうちにもき然とした態度で懲らしめを施すことであるという神のことばの教えの真価を認めてはいませんでした。(ヘブライ 12:6-9。箴 23:13,14)ついに健全な助言に耳を傾けたその父親は,麻薬中毒者更生施設に進んで入りたいと思うようになるまでは家に戻ってはならない,と息子に命じました。後日,息子は父親にこう言いました。「わたしはお父さんとお母さんに家を追い出されて初めて,お二人がわたしを本当に助けたいと願っておられることが分かりました」。その息子は今では麻薬中毒から立ち直っています。
神を認めず,道徳に関する神の教えを無視する精神科医の一般的傾向は,非常に有害な結果をもたらしてきました。例えば,「同性愛グループ,青少年に対するわいせつ行為で告訴さる」という見出しが,ロングアイランド・プレス紙の第一面に掲げられたことがあります。同誌はこう報じました。「国際的にも知られている幼児精神科医を含む4人の男が……昨日,青少年に対する男色,強制わいせつ行為および不法共謀のかどで起訴された」。
こうした事件は例外かもしれませんが,男性の精神科医が女性の患者と性関係を持つといった事件はそう珍しくありません。例えば,結婚生活がうまくゆかず欲求不満に陥っていたクリスチャンのある婦人は助けを求めて精神科医のもとに行きました。ところがその精神科医は,精神科医に見てもらうよう夫に勧めるか,離婚するか,あるいは“ボーイフレンド”と情事を行なうか,三つのうちのどれかを選ぶように,そして必要なら自分が喜んで“ボーイフレンド”になって上げる,と言いました。
また,ニューヨーク・デーリー・ニューズ紙に報じられた次のような理由で訴えられた精神科医もいます。同紙によると,「[その精神科医は,]治療と称して自分と性関係を持たせ,その上“治療費”を請求」しました。別の精神科医は,精神病の治療と偽って患者に自分と性関係を持つよう強要したため,125万㌦(約3億7,500万円)の賠償金を支払うようニューヨーク州最高裁判所に訴えられました。事実ある精神科医は,自分の著わした本の中で,「『強要』してはならないが,患者の性的必要を満たすために自分を役立てる」よう,精神科医に勧めています。著者は,その本に“愛の治療”という表題を付けました。
アメリカ有数のセックスクリニックを開業している二人の臨床医は,自分たちが治療した800名の患者のうち相当数の人が同診療所内の精神科医やカウンセラーと性関係を持つことに同意した,と語りました。こうした報告の中には,単なる空想や願望的思考や誇張した自慢話などもあることでしょう。しかしながら,医師の一人はこう述べました。「こうした特殊な報告のわずか25%が正しいものであるとしても,この分野における専門家にとって,これはやはり深刻な問題である」。
世の精神科医に対しては,明らかに十分注意を払う必要があります。というのは,助けの得られることがある反面,神の義の原則に反することを行なうよう促される場合も実際にあるからです。しかしたとえそこまではいかないにしても,一般に精神科医は精神病の特効薬ともいうべき神から与えられた愛の特質の正しい適用の仕方を知らないのですから,そのような治療にあまり期待することはできないでしょう。
ということは,精神に関係した問題を徹底的に究明し,解決するための助けの得られる信頼の置ける精神療法はどこに行っても受けられないという意味でしょうか。幸いなことに,そのような助けを得ることができます。この混乱した世界の中にいても,そうした助けにより健全な精神を取り戻した人は少なくありません。
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精神の健康を回復させる最善の方法目ざめよ! 1975 | 7月22日
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精神の健康を回復させる最善の方法
精神病にかかるなら,それは関係者にとって大きな悲しみをもたらすものとなります。しかし,そのようなことが起きたとしても,家族が恥ずかしく思う必要は少しもありません。精神病にかかるのは,ちょうど流感や心臓病などの身体的病気にかかるのと同じ様な場合が少なくないのです。また,身体的な原因が主要な要素ではない場合でも,なお希望を持って積極的な態度を取るべき理由があります。それでなし得る最善の策は何かという疑問が生じてきます。
多くの場合,幾つかの治療法を併用するのが一番良いとされています。しかし,最も肝要なのは,精神病で苦しんでいる人が,真の希望や励ましを与えることのできる理解ある家族の者や友人からの助けを受けることです。助けを与える側の人々は,精神病も他の病気の場合と同様,時がたつにつれて体そのものが順応して治癒するので,たいてい自然に治ってゆくということを考えれば,慰めを得ることができます。また,自然に治らないとしても,苦しんでいる人を助けるためにできることは少なくありません。
精神病を患っている人々が最も必要としているのは愛されることです。その重要性は今や医学関係の文献の中で幾度となく強調されています。このことは,精神病を患っている人が風変わりで無責任な行動を取ったり,道理にかなっていなかったり,さもなければ気むずかしかったりする場合でも,家族や友人たちはその人に対して忍耐を示し,辛抱強く接すべきであることを意味しています。
精神病を患っている人のために,この必要な助けを与え得る最善の場所はどこでしょうか。どこかの精神病院や施設ですか。まずそうではないようです。事実,4人の医師が著わしたある書物はこう述べています。「主要なねらいは,できるかぎり患者を入院させないことである。ある場合には,それだけでも勝利と言える。というのは,現在の精神病院の中には,自宅にいたほうが患者にとってまだましであると言えそうな病院が少なくないからである」。
患者にとって自宅は住みなれた環境です。患者は,本当に関心を持ってくれる人々に見守られていますし,回復あるいは快方へ向かわせることを目的とした世話をも受けられます。では,そうした助けを与えるには,精神医学を教える世俗の学校で教育を受けることが必要でしょうか。
精神医学の教育は必要か
興味深いことに,精神病医自身が精神医学教育の欠点を認めています。例えばデービッド・S・ビスコットは次のように述べています。精神医学会が与える認可は,「優れた治療専門家になるため
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