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水銀 ― スペインの豊富な「液体の銀」目ざめよ! 1979 | 4月8日
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水銀 ― 有益それとも有害?
これは当を得た質問です。水銀の使用には非常な注意が必要なことを,人間は過去20年間に大きな犠牲を払って学んだからです。日本,スウェーデン,米国,カナダを含む多くの国ではある形態の水銀が人間と動物双方の生命をむしばむ毒物であるという事実を確証する証拠が急増しています。
調査の結果,ある種の魚や狩猟鳥には異常なほど多量の水銀化合物の含まれていることが明らかにされました。これら過剰の元は他の廃棄物と一緒に水銀を出している工場や,メチル水銀を使った殺菌剤であることがつきとめられています。この化合物は食物連鎖に入り込んで悲惨な結果を生み出します。
メチル水銀は妊娠中の婦人に特に危険です。それは胎児に蓄積される傾向があり,まだ生まれていない赤ん坊の脳に損傷を与えるからです。1969年に米国ニューメキシコ州で起きた中毒事件は,メチル水銀で処理された穀物を飼料にしていた豚の肉を食べて一家族が中毒したものです。三人の子供が重い不具になり,胎内で中毒したもう一人は生まれつき盲目で知恵おくれになりました。日本でも水俣市近辺では医師たちが遂に原因をつきとめるまでに,水銀中毒は大惨事と言える規模に達していました。近くの工場の廃液パイプから流れ出たメチル水銀が,土地の人々の主要な食糧源である魚を汚染していたのです。
アルマーデン鉱山を訪れる
アルマーデンは人口1万1,000人ほどの町で,白い一戸建ちの二階家の列が続く清潔なところです。鉱山に向かって歩みを進めるにつれて目につくのは,往来で立ち話をしたり,コピタつまりブランデーやアニゼット酒の小さなグラスからちびりちびり飲んでいる男たちが多いことです。この人々はどうして往来でぶらぶらしているのですか。水銀鉱山の鉱夫たちは,水銀蒸気が有害であるのと,珪肺症にかかる危険に絶えずさらされるのとで月に八日しか坑内に入れないのです。水銀蒸気はハイドラジリズムつまり水銀中毒と呼ばれる病気の原因になります。水銀中毒になると脳細胞を冒され,手足が絶えず震えるようになります。珪肺症は肺を硬化させ,目立った徴候として息切れを伴います。このような影響を避け,あるいは最小限に食い止めるために鉱夫たちは一日働くと次の二日間(日曜日を含む場合は三日間)休むのです。さらにいっそうの安全対策として,彼らは三か月間坑内で働いた後,一か月間は地上に出て戸外の空気を吸って働きます。
町と鉱山は,ほとんど垂直な辰砂の薄層の真上に建てられています。鉱山には「サン・ミグエル」,「サン・ホアキン」および「サン・テオドロ」と呼ばれる三本の縦坑があります。わたしたちはサン・ホアキン縦坑での作業を見学することにしました。この縦坑は488メートルの深さがあります。
岩に穴をあけて鉱石を掘り取るのは最も困難で危険な仕事です。しかしわたしたちにとってより興味深かったのは地上で進められている作業でした。第一段階は辰砂の岩石を積んだタブつまり鉱車の到着です。一度に二台が上ってきて,それぞれに約15ハンドレッドウェイト(760㌔)の岩石を積んでいます。
坑道入口から岩石は二台の巨大な砕石機に移し入れられ,砂利の大きさになるまで砕かれます。砕かれた岩石はそこから集積場に移されると,ベルトコンベヤーで運ばれて行き,四基の炉にくべられます。これら新式の炉は四階建てのビルほどの高さがあり,多床式つまり何段もの火床を有する炉で,アルマーデンのものは八層から成っています。砕かれた鉱石はいちばん上の層から出発し,回転する腕によって絶えず動かされながら開口部へと押しやられ,下の層へ自然に移って行きます。水銀蒸気を得るには摂氏800度の温度が必要です。蒸気は水冷式の管で成る装置を通り,そこで凝縮され,液体の水銀になります。
しかし貴重な水銀の多くは焙焼と凝縮の過程で産出される灰色の鉱滓にも含まれています。この鉱滓は,鍬を入れるため戸外に設けられた台の上で石灰と混ぜられます。そこでは防毒面をした労働者たちが鍬で混合物を絶えず打ちたたき,鍬を入れた塊から数秒おきに水銀がしたたり落ちるようにしています。石灰と混ぜ,鍬を入れることによって水銀の小さな玉がくっつき合い,へびのような形になって小さなポゾつまりくぼみの中に流れ落ちます。工場のこの部門から水銀はアルマセンつまり倉庫に運ばれ,鉄製容器に量り入れる時まで大おけの中で保管されます。これらの容器の容量は34.5キロで,これがロンドンおよびニューヨークの市場で相場の付く標準の量になっています。
倉庫にいる間に目に留まったのは,水銀の持つ面白い性質です。その一例を示すために,従業員の一人が水銀の大おけに上ってその中に入りました。その人は液体の中に沈み込むどころか完全にその上に浮かんでいるのです。これはたいへん奇妙に見えます。しかし水銀の比重が水の13.5倍(鉛の重さの約1.2倍)であることを考えれば,それが固体とほとんど同じように人ひとりの体重を支えるのは不思議ではありません。そのうえ,水銀は常温において液体である唯一の金属です。それは摂氏−39度で固体から液体の状態に移行し,摂氏357度で沸とうします。水銀に関するもうひとつの奇妙な事実は,触ってもぬれない液体であるということです。それは凝集性つまり表面張力が強いためです。
わたしたちが次に訪れた場所は分析試験所でした。そこで聞いた所長の説明によると,鉱山から掘り出された鉱石の純度や水銀の品質を調査する厳重な管理が毎日続けられています。試験所では蒸留工程において使われた原料すべての精度を照合分析しており,また固体,液体,気体を問わず,生成物である製品すべてについても同様な分析を行なっています。アルマーデンで生産された水銀の純度は99.997パーセントであり,これより純度の高い水銀は鉱内の鉱穴で時おり発見される自然水銀つまり天然のままの水銀しかないということです。
アルマーデン鉱山では,掘り出した辰砂から7パーセントないし11パーセントの水銀を生産していますが,これはこの鉱山の辰砂の鉱床が世界で最も純度の高いものであることを証明しています。ユーゴスラビアとイタリアにも非常に優良な鉱山があります。しかし何世紀も経た今日においてさえ,アルマーデンはなお第一位を占めています。縦坑はどんどん深くなって行きますが,それでも辰砂の鉱石はひきつづき掘り出されています。事実,この地域は辰砂を非常に多く産出するので,アルマーデンから25キロの範囲内にあるすべての鉱床の採掘権は国家が保有しています。
今度,体温計を見る時,あるいは新式のフラッシュカメラを使う時,あるいは鏡をのぞき込む時,あなたは用途の広い水銀という金属の採掘と精錬の方法を何世紀にもわたって開発し,またその様々な用途を考案した人々の努力と発明の才に思いをはせることができます。
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しろめ製食器具はいかがですか目ざめよ! 1979 | 4月8日
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しろめ製食器具はいかがですか
銀の食器が高価なところへ,古い時代を懐かしむ風潮も手伝って,しろめ製の食卓用食器具に対する関心が一部の地域でとみに高まっています。しかし,しろめ製の食器具とは一体どんなものか,あなたはいぶかるかもしれません。
基本的に言ってそれはスズを主要な成分とする金属合金です。歴史の示すところによれば,それは西暦前1,000年以上もの昔に使われていた可能性があります。しかし西暦1300年代から1800年代にかけて,それはヨーロッパと英国で非常に広く使われました。それは銀または金の食器具の安価な代用品であったからです。これを鋳たり,槌で打ち延ばして,すてきなジョッキや皿,スプーンやフォークを作ることができました。これらのものは“さびる”ことなく,光沢を保ちました。その当時,しろめの組成はスズ90パーセント,鉛10パーセントでした。しかし硬さを増すために銅が少し加えられたこともあります。質の劣ったしろめは鉛を40パーセントも含んでいた可能性があり,そのためずっと柔らかくて,すぐにへこみました。
近年において,しろめに鉛を入れることはしなくなりました。鉛は変色の原因になりやすく,またある種の食物と化合して有毒な成分を作り,鉛中毒を起こすおそれさえあります。今では鉛の代わりにアンチモニーおよび銅をスズと化合させています。それで近年に作られたしろめ製器物を買うなら,おそらくそれはスズ,アンチモニーおよび銅の合金でしょう。しかししろめ製器物を買うつもりならば,それが正真正銘のしろめであり,アルミから作られた模造品でないことを確かめてください。
本物のしろめ製器物をお持ちならば,それは銀にやや似た鈍い光沢を持っているかもしれません。しかししろめ製器物の中にはよくみがきがかかり光沢を保つものも確かにあります。しろめの皿や食卓用食器具は使用後なるべく早く洗わなければなりません。熱い石けん水(食器を洗った汚水は決して使わないこと)を使い,よくすすいでください。しろめ製器物を空気中に放置して乾かしてはいけません。なぜならば水滴の跡がついて,なかなか取れないこともあるからです。むしろ柔らかい布で水気をふき取ります。そのようにすれば,しろめの魅力のひとつである暖かくて見た目に快い特色を保つ助けになります。
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