喫煙がもたらす大きな損失
経済面で
自分はたばこを吸わなくても,喫煙のために多額のお金を払っていると聞かされると,驚く人もあるでしょう。アメリカに関する統計はほかの国に比べて手に入りやすいのでそれを挙げますが,多くの国の状態はアメリカの場合とよく似ています。アメリカ全体で費やされる健康管理費のうち毎年130億㌦(3兆2,500億円)が喫煙に関係した病気に費やされます。そのうちの約3分の1は老齢者医療保障制度や国民医療保障制度を通して政府が負担しています。また毎年約58万4,000人の賃金労働者とその家族が,同じ理由により社会保障廃疾者名簿に載せられていると推測されています。これらの制度は言うまでもなく納税者の税金で維持されています。ですからあなたはその人たちのためにお金を払っているわけです。
米議会は最近,たばこ産業を活発な,利益のあるものに保つよう,たばこの価格を支えるために納税者のお金のうちから年間8,000万㌦(200億円)を引き続き用いることを決めました。一方,喫煙が原因の欠勤,病気,死などですべての産業および企業が被る所得損失額は年間250億㌦(約6兆2,500億円)に上ります。したがって所得税による政府の税収もそれに比例して減少します。
このすべてにまして喫煙の犠牲になっているのは人間です。毎年約30万人が,喫煙に起因する病気のために死にます。この点で特に残念なのは,ほとんどが避けようと思えば避けられる死であるということです。「我が国における,防ぎ得る死因の主なものが紙巻きたばこにあることははっきりしている」と米国の公衆衛生局局長は最近報告しています。
そういうわけで,たばこを吸っても吸わなくても,何らかの面で喫煙のためにたくさんの代価を支払っているのです。
健康面で
気管の粘膜にある微小な毛は「揺れ動く繊毛」と呼ばれています。繊毛には,異物や粘液を口まで運び出して気管内をきれいに保つ役目があります。その働きはどれほど能率的でしょうか。ドイツのジュッセルドルフで開かれた世界会議で繊毛の活動を測定する様々な方法に関する報告が行なわれました。ドイツの科学誌シュペクトルム・デル・ビッセンシャフトによると,健康な人の繊毛は異物を1分間に1.5ないし2㌢運び出すことができます。その雑誌はさらに,『慢性気管支炎を患っている人々の揺れ動く繊毛の排出能力は標準の4分の1ないし5分の1になる』と述べています。しかしこのほかにも,せわしく働くそれらの毛にとってもっと重荷になるものがあります。同誌はそれを次のように説明しています。『たばこの煙を含んだ息を一息深く吸いこむと,繊毛の働きはまる60分停止してしまう!』
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喫煙に関する米国公衆衛生局局長の1982年度の報告
● この年だけで13万人が喫煙に起因するガンで死亡するだろう
● このうちの85%は,もしたばこを吸っていなかったなら死を免れることができただろう
● 1日に二箱たばこを吸う人が肺ガンで死ぬ可能性は,たばこを吸わない人の場合の15倍から20倍大きい
● この10年間に,乳ガンで死ぬ女性よりも肺ガンで死ぬ女性のほうが多くなるであろう
● 喫煙はまた喉頭ガン,口腔ガン,食道ガンなどの「主因」となっており,また膀胱ガン,腎臓ガン,膵臓ガンなどの「要因」となっている