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人気を呼ぶジョギング目ざめよ! 1981 | 3月22日
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人気を呼ぶジョギング
統計によると,ソ連人の3分の1はジョギングを日課にしています。最近の推定では,米国で2,500万人が走っている,と言われています。ランニング熱の第一波は1960年代に押し寄せました。それにはどんな益がありますか。またどんな危険があるでしょうか。
「体をよく動かすネズミは運動をしないネズミよりも25%長生きする」。この結果はすでに実験によって証明されているとのことです。人間の場合もそうだとはまだ言い切れませんが,種々の証拠は運動が長生きに役立つことを示しています。
一病理学者は,自分の執刀した解剖の結果を根拠に,3人の死者のうち二人は早死にで,無精な人の心臓,喫煙家の肺,飲酒家の肝臓などが死因と関係している,と語りました。米国高齢者援護局はこう述べています。「体を使わないことは人体にとって不倶戴天の敵である。高齢には付き物とされる身体的な問題の多くは,当人がどれほど長く生きるかではなく,どのように生きるかに原因がある,ということが今日では分かっている」。同様に,一人の医師は,「大抵の人は疲れはててしまうのではなく,さび切ってしまうのである」と評しています。
どんな人でも何らかの運動を信奉しているものですが,汗をかくことになると二の足を踏む人が少なくありません。見かけ倒しの楽な解決策,1週間に30分間の,汗をかかない運動,それに酒飲み用の規定食 ― これらが今日の“労せずして手に入れる”症候群です。米国医師会の運動・体育委員会は,骨の折れない運動をする人たちの誤りを指摘し,「そうした運動にはいかなる隠れた益も価値もない。その最大の欠点は,そうした運動の大半が心臓と肺の健康の増進にほとんど役立たないことにある。今日最も運動を必要としているのは心臓と肺である」と述べています。その委員会によると,激しい運動を長時間行なうことが必要です。
走ると体重が減ります。これは心臓にとってよいことです。脂肪を完全にエネルギーに換えてしまうだけでなく,空腹感をも抑えます。血糖値が低くなると空腹感を覚えますが,運動をすると,血液の流れの中に脂肪分が出されエネルギー源となるので,血糖値が著しく減少することはないのです。興味深いことに,ブタを使った研究によってこのことが確かめられました。45匹は足踏み車を使ってジョギングをさせられましたが,別のグループは何もせずに暮らしました。どちらのグループの前にもいつもえさが置かれていました。運動をしなかったブタの方がジョギングをしたブタよりもよく食べ,検査が終わった時には,走っていたブタの体重の方が何もしなかったブタの体重より9㌔少なくなっていました。
激しい運動や労働をする人には肉が必要だ,と一般に考えられています。激しい運動に必要とされているのはエネルギーであり,肉を食べてもそうしたエネルギーにはなりません。メキシコの有名なタラウマーラ・インディアンは遊びで険しい山地を240㌔も走りますが,事実上肉も牛乳も卵も全く摂りません。その主食は豆やカボチャやトウモロコシです。このインディアンにはそうした驚くべき耐久力があるだけでなく,平均して非常に長生きします。菜食のメニューもよく計画すれば,体の必要を満たせます。
興味深いことに,ある大学教授の調査では,座業に就いている人に対する4年余りの医療費の請求額は平均400㌦(約9万6,000円)でしたが,日ごろから運動している人への請求額は200㌦(約4万8,000円)にすぎませんでした。心臓と肺を激しく動かす運動を週に3回20分ずつする人には,保険の掛け金を20%まで割り引くという保険会社もあります。
行き過ぎた主張
マラソンをする病理学者,T・J・バスラー博士は,「42㌔の距離[マラソンで走る距離]を歩くだけでもアテローム性動脈硬化症にかかる可能性は生物学的に皆無である」と,熱弁を振るっています。同博士はさらにこう述べています。「マラソン走者がアテローム性動脈硬化症で死んだという検死結果でも出ない限り,この種の病気の予防にこうした生き方を勧めるのは分別のあることであろう」。
ニューイングランド医学ジャーナル誌は,一人の走者の死因がこの病気にあることを示す検死結果とアテローム性動脈硬化症が進行していたことを示す別の検死の事例を挙げて,やり返しました。また,マラソン走者を含む長距離走者が心臓発作で死んだ例も幾つか知られています。運動が有益であるという事実に異論はありませんが,運動の計画はその人に合ったものでなければなりません。
心臓移植をする外科医,クリス・バーナード博士は幾らかジョギングを行ないます。しかし,それが熱狂的な流行になったことには顔をしかめています。同博士は特に,一番よくランニングが行なわれている場所,つまり都会について憂慮しています。「数年前にケープタウン市に提出された一調査によると,同市のハトの骨の中には,田舎のハトの7倍もの量の鉛が含まれていた」と博士は語っています。そして,「目抜通りはどれを取っても,車の排出する有毒ガスの掃きだめになっている」と付け加えています。
幾千幾万ものマラソン愛好家
週に二,三回,数㌔走る人は無数にいますが,幾千幾万もの人々はそれに飽き足らず,42.195㌔を走るマラソンを始めます。例えば,昨年のニューヨーク・マラソンには1万4,012人が参加しました。全員ではありませんが,1万2,622人が完走しました。初めてニューヨーク・マラソンに参加したという人が4,000人いました。参加者の中には44か国から来た幾百人もの外国人も含まれていました。200万人ほどの観客が沿道に並んで声援を送りました。
アルベルト・サラザールが2時間9分41秒のタイムで優勝しました。74位に入ったグレーテ・ワイツマンが女性完走者の中では第一位で,女性の世界記録を破りました。その新記録は2時間25分41秒でした。完走者の中で最年長の人は77歳,最年少は10歳でした。5歳から84歳までの走者がマラソンに参加しました。また,車イスに乗った人,盲目の人,義足を付けた人もいました。
古代の長距離走者
今から2,500年ほど昔,ギリシャの伝令フェイディピデスがマラトンの戦場からアテネまでの22マイル(約35㌔)を走って,ギリシャ軍がペルシャ軍を撃ち破ったとの勝利の知らせをもたらしました。伝説によると,フェイディピデスは息を切らせてこの吉報を伝えた後,卒倒絶命しました。マラソン競走はこの出来事を記念したものです。
しかし,そのような長い距離を走ったのはフェイディピデスが最初ではありません。このギリシャの伝令に先立つこと400年,預言者エリヤはマラソンで走る距離とほぼ同じ距離を走破しました。地中海にほど近いカルメル山からエズレルまでの距離は40㌔ほどあります。エリヤはエホバの力によってこの距離を走破しました。「また,エホバの手がエリヤの上にあったので,彼は腰をからげて,エズレルまでずっと[兵車に乗った]アハブの前を走って行った」― 列王上 18:46,新。
走るのは良いことです。それには数々の益があります。またそこには危険もあります。よく注意して,度を過ごさないようにするのは賢明なことです。また,ある人々のように,それを宗教にしてしまってはなりません。この点について続く三つの記事は,さらに説明を加えています。
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走るのはいやですか目ざめよ! 1981 | 3月22日
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走るのはいやですか
激し過ぎますか。あまりにも単調ですか。おもしろくありませんか。時間を取り過ぎますか。ジョギングの場所がありませんか。では別の有酸素運動をすることにしましょう。
有酸素運動(エアロビクス)ですって? 走ることに精を出している人々であればこの言葉をご存じでしょうが,そうでない人々にはなじみの薄い言葉かもしれません。ブリタニカ百科事典(英文)はこう説明しています。
「エアロビクス,体が酸素を取り入れる効率を上げるために開発された健康法。代表的な有酸素運動(例えば,歩行,ランニング,水泳,サイクリングなど)は,体に有益な変化(トレーニング効果)を生じさせるに足るほどの時間,心臓と肺の活動を刺激する。ある運動で消耗されるエネルギーの量を示すために,点数表が用いられている」― 1976年版,小項目事典第1巻,113ページ。
有酸素運動の表は個々の人の進歩の度合を測るためのもので,年齢層や運動の種類別の異なった表が作られています。上記の定義の中の「体に有益な変化を生じさせるに足るほどの時間」という一節は,ある運動が有酸素運動であるかどうかを定める際の鍵になります。年齢によって定められている一定の時間以上,休むことなく,十分の速さで心臓を拍動させなければなりません。さもなければ有益な変化は生じないのです。どんな変化がもたらされるかは,この次の2ページにわたる記事の中で説明されています。
ある運動を有酸素運動と呼ぶには,心臓はどれほどの速さで拍動しなければならないのでしょうか。提唱されている公式の一つは次のようなものです。紙にまず220という数字を書きます。そこから自分の年齢を引きます。この数があなたの毎分の心拍数の推定最高値となります。この数を0.7倍すれば,有酸素トレーニングのために心臓が毎分拍動しなければならない数が出ます。
さて,人々が走ることに難色を示す理由について考えてみましょう。激し過ぎますか。では歩いてみるとよいでしょう。これは大勢の人にとって,一番楽で,最も安全な有酸素運動になるでしょう。一生の間,老齢になっても安全に行なってゆける運動です。走ってみようと考えている人々でも,まず歩くことから始め,それから歩くことと走ることを織り交ぜ,最後に走るようにするのは賢明なことかもしれません。しかし,歩くことが有酸素運動になるには,きびきびした歩調で歩かなければならないことを忘れてはなりません。悠長な散歩はもちろん,普通のスピードで歩いたとしても,心拍数は十分に上がりません。ある調査で,40歳から57歳までの男子が週に四日間,40分ずつ早足で歩いたところ,週に三日間30分ずつジョギングした同年齢の人々と同じほどの良い結果が見られました。歩くと余計に時間はかかりますが,同じ成果が得られる上,多くの人にとってその方が安全です。
ジョギングをする場所がないとか,ジョギングには時間がかかり過ぎると思われますか。なわ跳びをしてみるとよいでしょう。なわ跳びなら屋内でも屋外でも行なえます。天候には左右されませんし,短い時間で同じほどの成果を上げられます。ノルウェーのオスロ市にある労働生理学研究所のカーレ・ロダール博士は,「最小限の時間で,最大限の健康を生み出すには,簡単ななわ跳びに勝るものはない」と語っています。アリゾナ州立大学では,体調を崩した学生92人の半数に,1日30分ずつのジョギング計画を課し,残りの半分には毎日10分間のなわ跳び計画を課しました。後で検査したところ,心臓や血管の働きはどちらのグループの場合にもほぼ同じであることが分かりました。
走るのではあまりにも単調ですか。ではサイクリングをしてみるとよいでしょう。しかし,車にはねられないように注意し,また歩行者をはね飛ばさないように注意しましょう。裏道があれば,そうした道を選ぶようにします。しかし,道端に自転車を止めてバラのにおいをかいでいたりしてはなりません。そのトレーニングを有酸素運動にするため必要とされる程度に心臓が拍動するよう,着実なペースを保ってください。
おもしろくありませんか。では,水泳を試してみるとよいでしょう。汗をかかずにすみますし,水に入ると身が引き締まる思いがします。力強く,規則的な泳法で水をかいていけば,一定のリズムができ上がります。水泳は全身の筋肉を動かす楽しい運動です。また,トレーニング期間中それを続ければ,心臓と肺が十分動き,有益な結果をもたらすことになります。
ほかにもまだできることがあります。現在,テニスが流行していますが,動きの早いシングルスをするとよいでしょう。ダブルスだと休んでいる時間が多くなります。フリースローが多過ぎて動きが中断されることがなければ,バスケットボールも有酸素運動になります。どんな形の運動をするにしても,有酸素運動としての成果を上げるためには,当人が絶えず動き,いつもハーハー息をしていなければなりません。心臓や肺に対する負荷は重くなければならず,ある一定の期間続くものでなければなりません。
また,言うまでもなく,医師の検査で定められた自分の体力の安全な限界内に,いつもとどまっていなければなりません。では,ページをめくって,有酸素運動の効能について考えてみましょう。
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走るのは心臓によいことですか目ざめよ! 1981 | 3月22日
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走るのは心臓によいことですか
よいことのように思われます。走ると,心臓の働きが活発になるからです。走ることは体の他の部分にも望ましいことです。
走ることが心臓に及ぼす影響
少ない動きでより多くのことが成し遂げられるようになります。運動をすると,心筋の線維が長く,強くなり,心臓の房室は大きくなって,収縮するたびにより多くの血液を押し出すことができるようになります。トレーニングを始める前には心臓の1回の拍動で送り出される血液の量は半カップ足らずですが,トレーニングの後には1度の拍動ごとにほぼ1カップ分の血液が送り出されるようになるでしょう。1度の拍動ごとにより多くの血液が送り出されて,心臓の拍動がゆっくりになり,収縮と収縮の間にもっと休めるようになります。このトレーニングを一定期間続けることにより,休んでいる時に測定した心臓の拍動数は1分間当たり10ないし20回減少することがあります。トレーニングを重ねるにつれて,心臓に血液を送る細い動脈は太くなり,酸素に富んだ血液をより多く心臓に供給できるようになります。また,トレーニングの結果,血圧も徐々に低下します。
走ることが肺に及ぼす影響
激しい運動をすると,筋肉の線維が多くの酸素を求めるようになります。筋肉線維は酸素を血液から得ますが,血液は二つの肺から酸素を取り入れます。肺には肺胞として知られる湿ったあわのような組織が無数にあり,肺の中を通る血液に効率よく酸素を供給しています。それらは非常に適応力に富んでおり,運動に応じてすぐに変化します。肺の血管は拡張し,酸素が血液の流れの中に入り込む部分が広がります。呼吸に使う腹腔,横隔膜,胸郭などの筋肉は強くなり,その効率が上がります。走るトレーニングを積んだ人の肺が取り入れる空気の量は著しく増大します。1分間当たりに取り入れる量が3倍になることもあります。
走ることが血液に及ぼす影響
有酸素運動をすると,フィブリノリジン(線維素溶解素)という酵素の生産量が多くなります。この酵素は凝固した血液を溶解させます。また,心臓発作を起こしかねない,冠状動脈内に長い間こびりついている血液の塊をも溶かすとの説も出されています。ある検査の結果によると,10週間にわたる運動計画に参加した人々の血液の凝血溶解能力は,始める前のほぼ4倍になりました。走るトレーニングを積んだ人の血液中では,リボ蛋白質(HDL)の濃度が高くなります。HDLは動脈壁から余分のコレステロールを運び去るので,血管を詰まらせて心臓発作を引き起こしかねない脂肪の沈着を減少させます。トレーニングで筋肉が強くなると,近くの動脈が枝分かれしてきて,毛細血管が一層密になり,筋肉の線維により多くの酸素を供給できるようになります。また運動をすると,酸素を運ぶ赤血球の数も増加します。
走ることが神経に及ぼす影響
電気化学的な衝撃<インパルス>を伝える神経の効率は毛先ほどの細かい神経に至るまで向上し,その結果より効率よく筋肉線維を活動させるので,耐久力が増し,ひいては力が増すことになります。トレーニングを重ね筋肉をよく使えば,意識的に行なっていた行動が反射的に行なえるようになり,動きは一層効率よくなります。使われていない筋肉の緊張は解け,エネルギーは節約されます。運動生理学の権威者であるルシエン・ブルーハ博士はこう語っています。「最終的には,ある行為を行なう際のエネルギー消費量が減少する。それは,トレーニングをする前に必要とされたエネルギー総量の4分の1にも達する場合がある」。もちろん人間はネズミではありませんが,運動した若いネズミの運動ノイロン(神経細胞の一種)は,運動しなかったネズミのものよりも大きくなった,ということは注目に値します。
走ることが精神に及ぼす影響
いつも走っている人は,走ることの喜びや“自然に味わえる最高の気分”について語ります。もっと具体的な例を挙げると,米国テネシー州ノックスビル市の一精神病院で,患者を走らせると患者の不安が少なくなることが明らかになりました。米国ジョージア州アトランタ市の聖ジョセフ病院のアラン・クラーク博士はこう語っています。「運動こそ最良の精神安定剤だということはよく知られている。ちょっとしたノイローゼの患者には,有酸素運動を十分試してみてからでなければ薬は与えない」。医学界ニューズ誌には,「ジョギングでうつ病患者が治療専門家に別れを告げられる可能性」という見出しの記事が載りました。そこには,ウイスコンシン大学とバージニア大学から寄せられた二つの研究結果が載せられており,それらはいずれもこの見解を裏付けるものでした。一つの研究結果によると,運動は神経細胞間に刺激を伝達する化学物質ノルエピネフリンの脳における生産を刺激し,そのノルエピネフリンが抑うつ感を解消するのです。
走ることが筋肉に及ぼす影響
筋肉にとって運動が必要なことは,だれの目にも明らかなはずです。運動をしないと筋肉は衰えてしまいます。しかし,筋肉の機能の詳細は実に驚くべきものです。その点は続く記事の中で詳しく説明することにしましょう。また,次の記事の中では,はるかに重大な意義のある訓練<トレーニング>についても検討します。
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