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最も貴重な液体は何か目ざめよ! 2006 | 8月
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最も貴重な液体は何か
「医療における血液は,輸送機関における石油に匹敵する」。―アーサー・カプラン,ペンシルバニア大学生命倫理センター所長。
最も貴重な液体,それは石油でしょうか。ガソリンの値段が高騰する今日,多くの人はそう思うかもしれません。しかし実際のところ,わたしたち一人一人の体には,石油よりもはるかに重要な液体が何リットルか流れています。考えてもみてください。毎年,幾百億バレルもの石油が,燃料に対する人間の需要を満たすために地中から取り出されていますが,血液も,病気の人を助ける目的で2億単位が人間の体から抜き取られているのです。a この膨大な数は,800万人の血液量に相当します。
とはいえ,血液も石油と同じく,供給不足に陥っているようです。世界中の医療関係者は,血液の不足に危機感を募らせています。(「苦肉の策」という囲み記事をご覧ください。)では,血液がそれほど重要なものとみなされているのはなぜでしょうか。
特異な臓器
血液は極めて複雑な役割を果たすため,体の臓器になぞらえられることがあります。「血液は,たくさんある生体組織ないし臓器の一つであり,非常にすばらしい特異な性質を持っている」と,ブルース・レネス博士は「目ざめよ!」誌に語っています。血液は確かに特異な存在です。ある教本は血液のことを「体で唯一の液体の臓器」と説明しており,「生ける輸送機関」とも呼んでいます。これはどういう意味でしょうか。
「循環系はベネチアの運河に似ている」と科学者のN・リー・アンダーソンは述べています。「いろいろな良い物を運ぶが,ごみやくずも運ぶ」からです。血液は,10万㌔におよぶ循環系を行き巡る過程で,体のほとんどすべての組織と接触します。心臓,腎臓,肝臓,肺など,血液を処理し,またその働きに依存している重要な臓器も例外ではありません。
血液は,酸素,栄養分,防御因子など,体の細胞に「良い物」をもたらします。同時に,有害な二酸化炭素,傷んだり死んだりした細胞の内容物,他の老廃物など「ごみやくず」を運び去ります。このように,血液は老廃物を取り除く役割も担っているため,体外に出た血液に触れるのが危険な場合もあることを理解できます。しかも,血液が別の人に与えられる際に,すべての「ごみやくず」が特定されて取り除かれていることを保証できる人はだれもいません。
血液が,生命を維持するのに不可欠な役割を果たしていることに疑問の余地はありません。そのため,医療関係者たちは血液を失った患者に輸血を施してきたわけです。この医療上の用途もあるため,血液は極めて貴重なものだと考える医師が少なくないようです。しかし医療の分野では変化が生じています。いわば静かな革命が起きているのです。以前に比べて,輸血を施すことに慎重になっている医師や外科医が増えています。なぜでしょうか。
[脚注]
a 日本では,200㍉㍑が1単位とされています。
[4ページの囲み記事/図版]
苦肉の策
世界中で,毎年推定4億5,000万単位の血液が不足していると医療専門家たちは指摘しています。地球人口の82%は発展途上国に住んでいますが,そこで得られる供給血液の量は世界全体の40%未満です。そうした国では,輸血なしで治療せざるを得ない病院が少なくありません。ケニアのネーション紙(英語)は,『毎日,輸血の必要な手術の半数近くが,血液不足で中止か延期になっている』と報じています。
豊かな国でも血液不足が生じています。高齢化が進むと同時に,医療技術が進歩したため,外科手術の数が増加したからです。さらに最近では,供血しようとしても断わられる人が増えています。危険度の高いライフスタイルの人や,旅先で病気になったり寄生虫にさらされたりする人が多いからです。
血液の保存と供給に携わる人たちは,せっぱ詰まった状況に置かれているようです。安全な血液の供給源を確保するため,若者たちが選ばれることもあります。若者のライフスタイルは一般に危険度が低いからです。一例として,ジンバブエでは現在,血液の70%が学校の生徒たちから集められています。多くの血液採取センターは窓口の時間を延長しており,国によっては献血者を呼び寄せて何度も足を運んでもらうために報奨を与えることを許可されているところもあります。チェコ共和国では,献血者のために大量のビールを準備するという一般向けのキャンペーンが行なわれました。インドのある地域では最近,減少の一途をたどる供給血液を補充するため,当局者たちが家々を回って供血者を募ることさえしました。
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輸血医学 ― その先行きはどうか目ざめよ! 2006 | 8月
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輸血医学 ― その先行きはどうか
「輸血医学は今後も,ある意味で熱帯雨林の中を歩くようなものだ。道筋が付いていても,注意深く進んで行く必要がある。カーブを曲がった所に予期せぬ見えない危険がまだ潜んでいるかもしれず,油断していると痛い目に遭う」。―イアン・M・フランクリン,輸血医学の教授。
エイズが世界中に広がって,血液の安全性に注意が向けられた1980年代以来,「見えない危険」を取り除くための懸命な努力が払われてきました。それでも大きな問題が幾つも残っています。2005年6月に世界保健機関は,「安全な輸血を受けられる確率は……国によって大いに異なる」と述べました。なぜでしょうか。
国によっては,血液および血液製剤に関連した採血,検査,輸送の安全基準を,国家レベルで統括するシステムがありません。供給血液の貯蔵方法が危険なまでにお粗末な場合もあります。例えば,今にも壊れそうな家庭用の冷蔵庫やクーラー・ボックスに保存されることさえあるのです。統一された安全基準がなければ,患者は何百キロ,いえ何千キロも離れた所で採取された血液によって,取り返しのつかない害を被ることになりかねません。
クリーンな血液 ― とらえがたい目標
国によっては,供給血液はこれまでになく安全だとしているところもあるでしょう。とはいえ,警戒すべき理由がなくなったわけではありません。米国の血液関連の三つの機関が作成した“血液情報”(英語)の最初のページにはこうあります。「警告: 全血および血液成分は人間の血液から採られるため,ウイルスなどの病原体をうつす恐れがあります。……供血者を注意深く選び,実行可能な検査をしても,その危険がなくなることはありません」。
国際赤十字・赤新月社連盟の担当責任者ピーター・カロランが次のように述べるのも納得できます。「供給血液に関して,絶対的な保証をすることはできない。どの時点でも既存の検査にはひっかからない新たな感染症が必ず出てくる」。
では,新たな病原体が出現するならどうでしょうか。エイズのように長期にわたって体内に潜伏し,血液を介して容易に感染するような病原体です。2005年4月,チェコ共和国のプラハで開かれた医学会で,米国立衛生研究所のハービー・G・クライン博士は,これは身の引き締まる問題であると述べ,こう指摘しています。「血液成分を集めて管理する人たちは,輸血による伝染病を防ぐ面で,エイズが登場した初期のころと同じぐらい無防備である」。
輸血ミスと輸血反応
先進国に住む人たちが輸血によって直面する最も大きな危険は何でしょうか。人為的なミスと免疫反応です。2001年にカナダで行なわれた研究によると,輸血の際,「別の患者の血液サンプルを採取したり,間違ったラベルを貼ったり,別の患者用の血液を準備してしまったり」するなど,命取りになりかねない事例が幾千件も生じていると,グローブ・アンド・メール紙(英語)は報じました。そのような手違いが原因で,米国では1995年から2001年にかけて,少なくとも441人が命を落としました。
さらに,他の人の血液を取り入れるなら,基本的に臓器移植と同じリスクを負うことになります。免疫は一般に異質の細胞組織を退けようと反応します。しかし逆に,輸血が免疫の自然な反応を妨げる場合もあります。このような免疫抑制が生じると,手術後に感染症にかかりやすくなり,それまで活動していなかったウイルスに対して無防備となります。記事の冒頭で言及したイアン・M・フランクリン教授が,「輸血を施す前には,1度ならず,2度,3度と考慮する」よう臨床医に勧めているのもうなずけます。
専門家たちが発言する
このような事情を踏まえて,輸血医学に対してより厳しい目を向ける医療従事者が増えています。「デイリーの輸血に関する覚え書き」(英語)という資料はこう述べています。「同種血[他の人の血液]は危険な薬剤であり,一般の薬剤と同じ基準で評価するなら使用禁止になるであろうと指摘する医師たちもいる」。
2004年の終わりごろ,ブルース・スピース教授は,心臓手術の際に血液の主要成分を輸血することについて,「術後の経過が輸血によって良くなることを裏付ける[医学]文献はなきに等しい」と述べました。しかも,そのような輸血の多くが,「深刻な外傷以外のほとんどすべての場合において,益よりも害を及ぼすようだ」と書いており,「肺炎,感染症,心臓発作,脳卒中の危険」が増大するとも指摘しています。
さらに,輸血を施す際の基準がそれほど一貫していないことに驚く人は少なくありません。ガブリエル・ペドラサ博士は最近,チリの同僚たちに,「輸血は厳密に定義されていない医療行為」であり,それゆえに「普遍的なガイドラインを導入するのが難しい」と述べました。エディンバラ・スコットランド輸血サービスの代表者ブライアン・マクレランドが,「輸血は生体組織の移植であり,軽々しく決定するものではない」と述べているのもうなずけます。同氏はさらに,「もしこれが自分や自分の子どもであったなら,輸血に同意するだろうか」と自問するよう医師たちに勧めています。
実際,少なからぬ医療従事者は,ある血液学者が「目ざめよ!」誌に語った次の言葉と同じ意見です。「われわれ輸血医療に携わる者は,輸血を受けるのも施すのも,できたら避けたいと思っている」。医学界の中でそのように感じる専門家たちがいるのであれば,患者の立場にある人はどう受け止めるべきでしょうか。
医療は変わるか
ある人は次のように考えるかもしれません。『輸血医療に多くの危険が潜んでいるのであれば,代替療法が存在するにもかかわらず,なぜ輸血は今でも幅広く行なわれているのだろうか』。その理由としてまず,多くの医師が治療の方法を変えるのを単にためらっている,もしくは現在用いられている代替療法を知らないという点が挙げられます。「輸血」誌(英語)のある記事によると,「医師たちは,輸血するか否かの決定を,自分が過去に受けた教育,文化的価値観,そして“臨床判断”に基づいて下している」とのことです。
外科医の技術も関係してきます。英国ロンドンのビバリー・ハント博士は,「失血量は外科医によって大きく異なるため,止血を適切に行なう方法について外科医を訓練する気運が高まっている」と書いています。また,輸血の代替療法は費用がかかりすぎると主張する人もいますが,最近ではそうでないことを示す研究報告が見られるようになっています。いずれにせよ,多くの医師は,メディカル・ディレクターのマイケル・ローズ博士の次の言葉に賛同するでしょう。「無輸血治療を受ける患者は,実質的に,現時点で最も質の高い外科処置を受けることになる」。a
最も質の高い医療。あなたもそれを望まれるのではないでしょうか。もしそうであるなら,あなたはこの雑誌を携えてきた人と共通の認識を持っておられることになります。続く記事をお読みになれば,それらの人たちが輸血に関して持っている注目に値する見方を知ることができます。
[脚注]
a 8ページにある「輸血の代替療法」という囲み記事をご覧ください。
[6ページの拡大文]
「輸血を施す前には,1度ならず,2度,3度と考慮する」。―イアン・M・フランクリン教授
[6ページの拡大文]
「もしこれが自分や自分の子どもであったなら,輸血に同意するだろうか」。―ブライアン・マクレランド
[7ページの囲み記事/図版]
輸血関連急性肺障害による死
1990年代初頭に初めて報告された輸血関連急性肺障害(TRALI)は,輸血後に生じる危険な免疫反応です。この障害によって毎年幾百人もの人が亡くなっていることが確認されています。しかし症状に気づかない医療関係者が少なくないため,実際の数はさらに多いと考える専門家もいます。このような免疫反応が生じる理由は分かっていません。とはいえ,ニュー・サイエンティスト誌(英語)によると,この障害を引き起こす血液は,「主に,輸血を何度も受けたことのある人など,過去に様々なタイプの血液にさらされた人から取られたもののようだ」とのことです。米国および英国では,輸血関連急性肺障害が輸血による死因の上位に入っており,「血液銀行にとって,エイズなど知名度の高い病気よりも深刻な問題となっている」と,ある報告は述べています。
[8,9ページの囲み記事/図]
血液の構成成分
普通,供血者は全血を提供します。しかし,血漿だけを提供する場合もよくあります。国によっては全血を輸血するところもありますが,大抵は,血液の主要成分を分離した後,検査して輸血のために用います。ここに,血液の四つの主要成分,その機能,そして全体量におけるそれぞれの割合を示します。
血漿は全血の52ないし62%を占める黄色みを帯びた液体で,血球やタンパク質など浮遊している物質を運びます。
血漿の91.5%は水です。血漿分画の元となるタンパク質は,血漿の7%を占めています(その内訳は,アルブミンが約4%,グロブリンが約3%,フィブリノーゲンが1%未満です)。血漿の残りの1.5%は栄養素,ホルモン,呼吸ガス,電解質,ビタミン,窒素を含む老廃物などの物質で構成されます。
白血球 全血に占める割合は1%未満です。白血球は,害になり得る異物を攻撃し破壊します。
血小板 全血に占める割合は1%未満です。血小板は,血液が傷口から流れ出ないように血を凝固させます。
赤血球 全血の38ないし48%を占めます。赤血球が酸素を運び込み,二酸化炭素を持ち帰るので,体の組織は生き続けることができます。
血漿から様々な種類の分画が得られるように,他の主要成分を精製することによっても,さらに細かな部分つまり分画を取り出すことができます。一例として,ヘモグロビンは赤血球の分画です。
[図]
血漿
水 91.5%
タンパク質 7%
アルブミン
グロブリン
フィブリノーゲン
他の物質 1.5%
栄養素
ホルモン
呼吸ガス
電解質
ビタミン
窒素を含む老廃物
[クレジット]
Page 9: Blood components in circles: This project has been funded in whole or in part with federal funds from the National Cancer Institute, National Institutes of Health, under contract N01-CO-12400. The content of this publication does not necessarily reflect the views or policies of the Department of Health and Human Services, nor does mention of trade names, commercial products, or organizations imply endorsement by the U.S. Government
[8,9ページの囲み記事/図版]
輸血の代替療法
世界各地にあるエホバの証人の医療機関連絡委員会は,「輸血の代替療法 ― 簡便,安全,効果的」と題するビデオを医療関係者に提供してきました。過去6年間に配布された数は,約25の言語で幾万本にも上ります。b このビデオ・プログラムに登場する世界的に著名な医師たちは,輸血を施さずに患者を効果的に治療する最新医療について語っています。ビデオに対する反応は好意的です。一例として,2001年後半にこのビデオを検討した英国の国立血液サービス(NBS)は,同国におけるすべての血液銀行の責任者および相談役の血液学者にこのビデオと1通の手紙を送りました。手紙はこのビデオを見るよう勧めるもので,「優れた臨床治療の目標の一つとして,可能なかぎり輸血を避けるという認識が高まっている」というのがその理由です。さらに,「[ビデオが]全体で伝えようとしているメッセージは称賛に値し,国立血液サービスが強く支持するものでもある」と述べています。
[脚注]
b 「輸血の代替療法 ― ドキュメンタリー・シリーズ」(発行: エホバの証人)というDVDをご覧になりたい方は,エホバの証人と連絡をお取りになってください。
[9ページの囲み記事/図版]
分画法 ― 医療における血液の微量成分の使用
科学技術の進歩のおかげで,分画法という処理法を使って血液中の成分を識別し,抽出することができます。これは海水の分離精製法に似ています。海水の96.5%は水ですが,分離精製法を用いることによって,マグネシウム,臭素,そしてもちろん塩といった成分を取り出すことができます。同様に,全血の半分余りを占める血漿は90%以上が水ですが,精製の過程を通して,アルブミン,フィブリノーゲン,種々のグロブリンといった分画を集めることができます。
医師は治療の一環として,濃縮した血漿分画を用いることを勧めるかもしれません。タンパク質の豊富なクリオプレシピテートがその一例で,これは血漿を凍らせた後に解かすことによって得られるものです。血漿のこの不溶成分は,凝固因子を多く含んでおり,通常は患者の出血を止めるために用いられます。さらに他の治療法においても,血液の分画物をほんの少量含む,もしくはそれを主成分とする製剤を用いる場合があるでしょう。c 血漿に含まれるある種のタンパク質は,病原体にさらされた患者の免疫を高めるために定期的に投与されます。医療で用いられる血液分画は,そのほとんどすべてが血漿内のタンパク質によって構成されます。
サイエンス・ニューズ誌(英語)によると,「科学者たちは,人体の血流を循環している推定幾千種類もの通常のタンパク質のうち,まだ数百種類しか特定していない」とのことです。今後,血液に対する理解が深まるにつれて,それらのタンパク質を使った新しい製剤がいろいろ開発される可能性があります。
[脚注]
c 製剤によっては動物の血液から取られた分画を用いているものもあります。
[6,7ページの図版]
血液に触れることに関して,非常に慎重な医療関係者もいる
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血液が重要である真の理由目ざめよ! 2006 | 8月
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血液が重要である真の理由
「地上の人間社会は,生命の源となっている一つのものを共有している。それは血液である。血液は,皮膚の色,人種,宗教にかかわりなく,すべての人間に備わる生命力である」。―国連総会議長。
確かに,この国連総会議長の言葉はある意味で真実であると言えます。血液はすべての人間の命に不可欠です。それは貴重なものです。とはいえ,あなたは,この液体を医療目的で他の人と分かち合うのは安全かつ賢明であるという見方に,心から賛同できるでしょうか。
すでに見てきたように,安全基準は世界各地で大きく異なり,血液を用いる治療法は多くの人が考える以上にリスクをはらんでいます。また血液の用い方は,医師の受けた教育,技術,考え方によっても大きく異なります。しかし以前に比べると,多くの医師は輸血を行なうことに慎重になっています。輸血を避ける治療法を選ぶ医師は相当数いて,その数は増えています。
そこで,このシリーズの冒頭で提起した質問について再び考えてみることにしましょう。つまり,血液を重要なものとしているのは実際には何でしょうか。血液の医療上の使用に対して多くの疑問が呈されていますが,血液には別の役割があるのでしょうか。
人間の創造者と血液
人類共通の祖先であるノアの時代,神は注目すべき律法をお与えになりました。動物の肉を食べることを人間に許した際,その血を食してはならないとお命じになったのです。(創世記 9:4)神はその理由として,血を動物の魂つまり命と結び付けられました。そして後に,こう言われました。「魂[つまり命]は血にある」。創造者は血を神聖なものとみなしておられます。血は生きた魂がそれぞれに持つ貴重な命の賜物を象徴しているからです。神はこの原則を繰り返し述べられました。―レビ記 3:17; 17:10,11,14。申命記 12:16,23。
キリスト教が約2,000年前に設立されてすぐ後,信者たちは,「血を避けるよう」にという命令を神からのものとして受けました。それは健康上の理由ではなく,血の神聖さに基づくものでした。(使徒 15:19,20,29)ある人は,神が与えたこの制限は血を食べることにしか当てはまらないと主張するかもしれませんが,「避ける」という言葉から,その意味するところははっきりしています。医師からアルコールを避けるようにと勧められた場合,静脈注射によって体内に取り入れるなら問題ないと考える人はまずいないでしょう。
聖書はさらに,血がなぜそれほど神聖なのかを説明しています。イエス・キリストの流された血は,人類のためにご自分が差し出した命を象徴しており,クリスチャンの希望を実現させるかぎとなります。それは罪の許し,またとこしえの命の希望を意味しています。クリスチャンが血を避けるとき,その人は,ただイエス・キリストの流された血によってのみ,自分は窮状から助け出されて命が救われる,との信仰を表わしていることになります。―エフェソス 1:7。
エホバの証人は,このような聖書の命令を真摯に受けとめることで知られています。証人たちは,全血およびその四つの主要成分である赤血球,血漿,白血球,血小板の輸血をすべて避けます。ただし聖書は,それらの成分から取られる分画および分画を含む製剤については何も述べていません。ですから,その点に関しては,それぞれの証人が各自で決定を下します。聖書に基づくこうした立場は,エホバの証人が医療行為を退けている,もしくは健康や命を軽視していることを意味するのでしょうか。いいえ,むしろその逆です。―「エホバの証人と医療」と題する囲み記事をご覧ください。
最近では,少なからぬ医師が,エホバの証人は聖書の規準に従っているため医療面で益を受けているということを認めています。一例として,脊椎が専門の外科医は,輸血の伴わない代替療法を選ぶことについて好意的にこう述べました。「これこそ最も安全な方法です。エホバの証人だけでなく,だれにとってもそうです」。
医療上の重要な決定を下す際には大きなストレスが伴い,賢明な判断をするのが難しいものです。一般的に行なわれている輸血に関して,呼吸器系の専門医でメディカル・ディレクターのデイブ・ウィリアムズ博士が述べた次の言葉に注目してください。「人々の願いを尊重することは大切である。……そして,自分の体に何を取り入れるか十分に気を付ける必要がある」。この言葉は,いまだかつてなく真実です。
[11ページの囲み記事/図版]
ヘモグロビン由来の酸素運搬体とは何でしょうか
一つの赤血球の中には3億個ものヘモグロビン分子があり,成熟赤血球の3分の1を占めています。それぞれのヘモグロビン分子にはタンパク質のグロビン,およびヘムと呼ばれる色素があり,このヘムには鉄の原子が含まれています。赤血球が肺を通過する際,酸素分子は赤血球の中に入り,ヘモグロビン分子と結合しますが,その数秒後には生体組織内で放出されます。こうして,各細胞の生命が維持されます。
現在,製薬会社の中には,人間やウシの赤血球からヘモグロビンを取り出しているところもあります。抽出されたヘモグロビンは,不純物を取り除くためにフィルターにかけ,化学的に調整して純化した後,溶液と混ぜて血液バッグに入れます。この製剤は,ヘモグロビン由来の酸素運搬体(HBOC)と呼ばれていますが,多くの国ではまだ認可が得られていません。血液の鮮やかな赤色はヘムから来ているので,血液バッグに入ったヘモグロビン由来の酸素運搬体は,見た目が赤血球とほとんど変わりません。
赤血球は冷蔵保存が必要で,数週間後には廃棄されますが,それとは対照的に,ヘモグロビン由来の酸素運搬体は常温で保存でき,何か月ももちます。また,特異な抗原を持つ細胞膜がないので,血液型の違いによる深刻な反応が起こる危険もありません。とはいえ,血に関する神の律法を守ろうとする良心的なクリスチャンは,ヘモグロビン由来の酸素運搬体に関して,他の血液分画よりも慎重にならざるを得ません。なぜでしょうか。血液から取られているため,二つの面で問題となる可能性があるからです。一つは,それが血液の主要成分である赤血球の重要な機能をそのまま担っていること,そしてもう一つは,その元となるヘモグロビンが赤血球のかなりの部分を占めていることです。ですからクリスチャンは,この製剤や他の類似した製剤に関して重要な決定を下すことになります。血の神聖さに関連した聖書の諸原則を祈りのうちに注意深く黙想し,エホバとの良い関係を保ちたいとの強い願いを抱きつつ,聖書に訓練された良心に導かれる必要があります。―ガラテア 6:5。
[図版]
ヘモグロビン分子
[12ページの囲み記事/図版]
魅力的な選択肢
「代替となる“無輸血”手術を提供する病院が増えている」と,ウォールストリート・ジャーナル誌(英語)は報じています。「元々はエホバの証人に対応するために開発されたものだが,今ではそれが主流となりつつあり,多くの病院が無輸血手術プログラムを一般の人たちにも推奨している」。世界各地の病院は,輸血を避ける治療法を導入するなら,数々の益,とりわけ患者に益がもたらされることを理解するようになっています。現在,数万人の医師たちが,無輸血で患者を治療しています。
[12ページの囲み記事/図版]
エホバの証人と医療
エホバの証人の中には医師や看護師もいますが,証人たちは皆,全血および血液の主要成分の輸血を受けないことで世界中に知られています。このように一貫して輸血を避ける立場は,人間の考え出した主義主張,また病気は信仰で治せるといった信条に基づいているのでしょうか。決してそうではありません。
エホバの証人は,命を神からの贈り物とみなして大切にしており,聖書に基づく最善の生き方をするように努めています。証人たちは聖書が「神の霊感を受けた」書物であると信じています。(テモテ第二 3:16,17。啓示 4:11)聖書は神を崇拝する人たちに対して,健康を害する,もしくは命を危険にさらすような行為や習慣を避けるようにと勧めています。それには,食べ過ぎ,喫煙,かみたばこの使用,アルコールの乱用,薬物の誤用などが含まれます。―箴言 23:20。コリント第二 7:1。
エホバの証人は,自分の体や身の回りを清潔に保ち,健康のために適度の運動をすることによって,聖書の諸原則に調和した生活を送るようにしています。(マタイ 7:12。テモテ第一 4:8)病気になったときには,医学的な処置を求め,治療法の選択肢のほとんどを受け入れることによって,道理をわきまえていることを示します。(フィリピ 4:5)エホバの証人は『血を避けていなさい』という聖書の命令に従って無輸血の治療を求めます。(使徒 15:29)しかもそうすることは,多くの場合,より質の高い治療を受けることにつながるのです。
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