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“ぼくは,トリフ狩りの名人”目ざめよ! 1987 | 6月8日
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“ぼくは,トリフ狩りの名人”
みじめな生活を「犬のような生活」と言いますが,ぼくのはまさにそれで,庭の片隅の一番汚い所に一日中つながれたままでした。犬はほえるものと相場が決まっているので,知らない人を見かけるとほえたてていました。しかし,いくらほえてみたところで,ニワトリを脅すことさえできませんでした。
主人が忘れさえしなければ,日に一度は何らかの食物にありつけました。お粗末な骨が一,二本器にほうり込まれる日もありました。犬の生活がこれ以上によくなるとは想像もつかないことでした。
ところが,一大変化が訪れたのです。それはぼくがあの秘宝,つまりトリフを発見した時のことでした!
『しかしトリフとは何か』,『どうしてそれが一匹の犬の生き方を変え得たのか』とお尋ねかもしれません。トリフというのは,土の中にできる食用キノコのことで,ある国では珍味として高く評価されています。大きさはさまざまで,豆つぶぐらいのものからオレンジ大のものまであります。しかし最大の問題はそれを見つけることです。ここでぼくの出番となります。
トリフのにおいをかぎ分ける訓練を受ける
ぼくを訓練してトリフ狩り用の犬にすることを最初に思いついたのは,実は主人の末息子ギオバニです。ほかにこれという犬がいなかったので,ここイタリアのランゲ村で生まれ育った,しょぼくれた番犬でもかまわないということになったのでしょう。幸いなことに,ピエモンテのこの地域はたまたま,イタリアでも上物のトリフの産地になっています。おまけに,人間にはトリフのある場所を探し当てることがなかなかできません。
当時ぼくは生後7か月の子犬でしたから,訓練を受けるには最適の年齢でした。そこで主人は手始めに,土の中に隠したものを掘り出させる訓練をしました。ぼくは主人が隠した何本かの骨をすぐに見つけることができました。何日も前から空腹だったせいかもしれません。次に主人は骨をゴルゴンゾラチーズに切り換えました。ゴルゴンゾラチーズの強烈なにおいを利用したのは,色の黒いトリフをにおいで見つけることができるようにするためでした。
ぼくはかなりうまかったようです。隠されたチーズを見つけるたびに,余分のほうびがもらえ,頭もなでてもらえたので,ぼくは全力を挙げてこの仕事に取り組みました。やがて,犬としてのぼくの地位は急速に向上しました。今では野菜畑にぼく専用の犬小屋があるので,もう堆肥のそばにつながれて,鶏やうさぎにばかにされなくてすみます。
ぼくが見つけた最初のトリフ
秋までには,トリフ狩りの準備は整いました。トリフの上物が採れるのは10月から1月にかけてです。ぼくは,ひもをしっかり握っている主人と一緒に小道を歩き出し,オークの森がある近くの山腹へと向かいました。森に近づくにつれて,間違えようのないあのにおいがしてきました。にんにくに似ていますが少し違ういいにおいです。ぼくは足を止めてくんくん空気をかぎ,においの強くなる方向へひもをぐいぐい引っ張りました。ぼくばかりでなく,主人も興奮していました。トリフを見つけるのは正真正銘これが初めてだからです。主人は,「さあ,フリック……見つけるんだよ!」とぼくを促しました。
ぼくは自信満々,一本の若いオークの木の下で立ち止まりました。足の下にはトリフがあるはずです! ぼくが地面を掘り始めると,主人はすぐにぼくをわきへ下がらせて,短い柄のシャベルで掘り始めました。ぼくを疲れさせたくなかったのです。主人が穴を掘っていく間,ぼくの目はその穴に釘付けになっていました。ところが,トリフは一向に現われません。
しばらくすると主人は立ち上がり,とがめるような目つきでぼくを見ました。「フリック,おまえには一杯食わされたよ!」と言わんばかりでした。けれども,鼻には自信があったので,その穴に飛び込んでさらにもう少し掘ってみました。すると,黒っぽいものが見えてきました。シャベルでもう二掘り三掘りしたところ,ぼくの初めて見つけたトリフが姿を現わしました! 重さは約500㌘,形は楕円形で,じゃが芋のようです。そのトリフは地面から10㌢余りも下にあったのですが,なんとかかぎ出すことができました。
こうして,トリフ狩り犬としての輝かしい生涯が始まりました。4年後の今では,じゃが芋の形をした,このおいしいキノコの専門家になったつもりでいます。そのおかげで,これまで以上に良い食事と世話にあずかっています。犬の生活をしてみたい方はいませんか。
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“ぼくは,トリフ狩りの名人”目ざめよ! 1987 | 6月8日
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[15ページの図版のクレジット]
Agnelli photo, Alba, Italy
Agnelli photo, Alba, Italy
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