-
ヨーロッパの統一 ― なぜ重視されるか目ざめよ! 2000 | 4月22日
-
-
• 1993年 EC加盟国の経済的・政治的団結を強めるための努力が実を結び,欧州連合,つまりEU創設の運びとなる。
• 2000年 EUの加盟15か国は,アイルランド,イギリス,イタリア,オーストリア,オランダ,ギリシャ,スウェーデン,スペイン,デンマーク,ドイツ,フィンランド,フランス,ベルギー,ポルトガル,ルクセンブルク。
-
-
ヨーロッパは本当に一つになるか目ざめよ! 2000 | 4月22日
-
-
ヨーロッパが統合に本腰を入れているなどというのは信じ難いという人は,欧州連合内の国境を幾つか越えてみるとよいでしょう。欧州連合(EU)内は今や自由に行き来ができます。国境を越える際の待ち時間はほとんどなくなりました。旅行者が喜んでいるのはもちろんのことですが,恩恵にあずかっているのは旅行者だけではありません。今や,EU諸国の人々はEU内であればどこででも,容易に学んだり働いたり事業を始めたりすることができます。このことは,同連合内の比較的貧しい地域における経済発展につながっています。
国境を簡単に越えられるということは確かに大きな変化です。では,ヨーロッパはすでに一つになっており,統合を阻むものは何もないと結論すべきでしょうか。事実はその逆です。数々の障害が立ちはだかっており,気力をくじくような問題も幾つかあります。しかし,それらを取り上げる前に,統一に向けてこれまでどのように著しい進歩が見られたかを調べましょう。そうすれば,人々がなぜそれほど統一を望んでいるかが理解しやすくなるかもしれません。
通貨統合への歩み
国境の管理には多額の費用がかかります。EU加盟15か国の間では,通関手続きに年間約120億ユーロかかったこともあります。ヨーロッパの国境における新たな状況が経済成長に拍車をかけているのも不思議ではありません。EUの3億7,000万人が単一の共同市場内で国から国へと自由に行き来できるのですから,経済面で計り知れない可能性があることは明らかです。何がそうした進歩を可能にしたのでしょうか。
1992年2月当時,各国首脳は欧州連合条約,つまりマーストリヒト条約に調印し,統合への道に大きな一歩を踏み出しました。同条約は,ヨーロッパ内の市場統合,中央銀行,および単一通貨を確立する基礎となりました。しかし,さらに別の重要なステップが必要でした。それは,為替レートの変動をなくすことです。その日の取り引きが翌日の為替レート次第で全く新しい様相を呈することもあるのです。
統合への道におけるこの障害物は,経済通貨同盟(EMU)が設立され,ユーロが共通の通貨として導入されることにより,取り除かれました。両替のコストはかからなくなり,企業は為替レートによるリスクに対して防衛措置を取る必要がなくなりました。結果として,経費は減り,国際貿易は増加しました。このことは雇用と購買力の増加につながるかもしれません。そうなれば,だれもがその恩恵にあずかれるのです。
1998年に欧州中央銀行が設立されたことも,単一通貨採用への重要なステップとなりました。この独立した銀行は,ドイツのフランクフルト市にあり,加盟国の政府に対する金融面での主権を有しています。11の参加加盟国aから成る,いわゆるユーロ・ゾーンにおけるインフレを抑え,ユーロとドルと円の為替レートの変動を安定させるよう努めます。
ですから,通貨に関しては統合に向けて著しい進歩が見られました。しかし,金銭的な問題は,ヨーロッパ諸国間にいまだに根深い不一致が存在することも明らかにしています。
金銭的な問題の増加
EUに加盟している貧しい国々は不満を抱いています。豊かな加盟国がその富の分け前に十分あずからせてくれないと感じています。加盟国のうち,ヨーロッパの貧しいパートナーたちに付加的な財政援助を行なう必要を否定している国は一つもありません。しかし,豊かな国々はそれを差し控えても当然だと考えています。
ドイツを例に取ってみましょう。同国は欧州統合の会計係であろうとする熱意に燃えていましたが,自国の財政的負担が増し加わり,今ではその熱意も目に見えて衰えています。東西ドイツの統一にかかる費用だけでも,年にほぼ1,000億㌦という莫大な額になります。それは国家予算の4分の1に相当します。こうした事態の進展によってドイツの国家債務はうなぎ登りに増加し,ドイツはEMUが定めた加盟の基準を満たすのに多大の努力を払わなければなりませんでした。
EUの扉をたたいている新顔
短期的な目標として,通貨統合の推進派は,まだEMUに参加していないEU加盟国が西暦2002年までに国内の障害を克服することを希望しています。その年にはユーロの硬貨と紙幣が現在のヨーロッパの諸通貨に取って代わることになっているからです。もし,イギリス,デンマーク,スウェーデンが参加へのためらいを捨てるなら,それらの国の人々もユーロがポンドやクローネやクローナに取って代わるのを目にすることでしょう。
一方,ヨーロッパのさらに六つの国がEUの扉をたたいています。エストニア,キプロス,スロベニア,チェコ共和国,ハンガリー,ポーランドなどの国々です。さらに5か国,スロバキア,ブルガリア,ラトビア,リトアニア,ルーマニアが自分の番を待っています。それらの国が加盟すると,出費はさらにかさむことでしょう。2000年から2006年の間に,EUは東ヨーロッパから新たに加盟する10か国を援助するために800億ユーロを提供しなければならなくなるものと見られています。
しかし,新しい加盟国がEU加盟条件を満たすために調達しなければならない資金は,EUの援助で受け取る金額の何倍にもなります。例えば,ハンガリーは道路網と鉄道網を整備するのに120億ユーロを費やさなければなりません。チェコ共和国は水処理だけでも34億ユーロ以上を使う必要があり,ポーランドは硫黄の排出を減らすのに30億ユーロを費やさなければなりません。それでも,加盟希望国は利益が必要経費を上回ると考えています。まず第一に,EU諸国との取り引きは増加します。それでも,加盟希望国はしばらくの間待たなければならないかもしれません。現在では,新たな加盟国の受け入れは,EUが自らの財政問題を解決してからにすべきだとの世論もあります。
恨み,国家主義,失業
このように,さらに緊密な統合に向けて努力が払われてきたにもかかわらず,ヨーロッパの内部でも外部でも,ヨーロッパ大陸の情勢は懸念されています。また,分裂の続くバルカン地域で生じたボスニアでの戦争やその後に生じたコソボ紛争などのような,民族紛争にどう対応するかについても多くの不安があります。ヨーロッパ内外のそうした紛争への対応の仕方に関しては,EU加盟国の間でもしばしば意見が分かれます。EUは連邦ではなく,共通の外交政策を持っているわけでもないので,大抵はそれぞれの国益が優先されます。各国の国益が“ヨーロッパ合衆国”への大きな障害となっていることは明らかです。
ヨーロッパはほかにも差し迫った問題を抱えています。それは高い失業率です。平均すると,労働力人口の10%は失業しています。つまり,1,600万人余りが失業しているということです。多くの国では,EU人口のほぼ4分の1を占める若者たちが必死に就職口を探していますが,みつけることができません。大規模な失業との闘いがヨーロッパ最大の課題であると考えている人が多いのももっともなことです。現在までのところ,労働市場を改革しようとする努力は実を結んでいません。
とはいえ,統合を阻むさらに大きな障害物があります。
だれの責任か
主権の問題は今も,ヨーロッパの統一を実現する上で最大のハードルとなっています。加盟国はどの程度まで国家主権の行使を進んで控えるかについて合意に達しなければなりません。EUのねらいは,超国家的な支配形態を確立することにあります。もしそれが実現しないなら,ユーロの導入は単なる「一時的な勝利」にすぎなくなるだろうと,ル・モンド紙は述べています。しかし,加盟国の中には,主権を放棄するという考えに難色を示す国もあります。例えば,あるEU加盟国の指導者は,自分の国は「諸国の追随者ではなく,指導者になる定めにある」と述べています。
無理もないことですが,加盟国の中でも小さい国々は,結局は大きい国々が決定権を握り,自らの国益を損ないかねない決定は頑として受け入れなくなるのではないかと恐れています。例えば,EUの関係諸機関の本部を置く国はどのように決まるのか疑問に思います。これは重大な決定です。本部の置かれる国々では,そのことにより,求人市場が活況を呈するようになるからです。
-