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健康の増進 ― 新たな動き?目ざめよ! 2000 | 10月22日
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健康の増進 ― 新たな動き?
健康ほど人々が気にかけている問題は,ほとんどありません。主張される意見の数は,医療従事者の数ほどあるように思えることもあります。「目ざめよ!」誌は,この特集記事でどちらかの側を支持することはせず,むしろ,一般に代替医療と呼ばれる治療法がますます利用されていることを伝えるよう努めます。本誌は,これから取り上げる健康療法であれ他の方法であれ,特定の方法を推奨することはしません。この記事では言及されていない治療法も多くあります。その中には,人気の高い治療法も,論議を呼ぶ治療法もあります。わたしたちは,健康問題に関連した教育は概して有益であり,その種の問題に関する決定は全く個人的なものであると考えています。
だれもが健康でありたいと願っています。しかし,多くの人が健康上の悩みを抱えていることから分かるように,健康は損なわれやすいものです。今日,かつてなく多くの人が病気になっていると感じる人もいます。
病気と闘うために多くの医師は,製薬会社が開発し積極的に売り込んでいる処方薬にかなり頼っています。驚くべきことに,そうした薬の世界市場は最近の数十年間で飛躍的に拡大し,年間わずか数十億ドル規模だったものが,今では幾千億ドルにまで成長しています。では,どんな結果になったでしょうか。
処方薬に助けられた人は少なくありません。しかし,薬を飲んでも健康が回復しない人,あるいは悪化する人さえいます。そのため最近では,ほかの治療法に頼る人が出てきました。
多くの人は何に頼るようになっているか
現代の通常医療が治療の標準となってきた場所において,多くの人が,代替療法または補完療法と呼ばれるものに頼るようになっています。「消費者リポート」誌(英語),2000年5月号は,「代替療法と,主流を成す医療とを長く隔ててきたベルリンの壁は,崩れ始めているかに見える」と述べました。
「アメリカ医師会ジャーナル」(JAMA)誌(英語),1998年11月11日号は,こう注解しています。「代替医学療法は,その働きから言って,医学部で広く教えられることも米国内の病院で一般の利用に供されることもない医学的介入と定義される。この療法に対する国民的関心は,メディアや医学界,政府機関,一般大衆の間で高まっている」。
しかし,「管理医療薬学ジャーナル」誌(英語)は1997年に,最近の傾向に注目してこう述べています。「過去において,伝統的な医療従事者は,代替的医療処置に懐疑的だったが,現在では,米国内の27の医学部が[もっと新しい情報では75と言われている]代替医療を学ぶ選択科目を開設している。その中には,ハーバード大学,スタンフォード大学,アリゾナ大学,エール大学が含まれている」。
JAMA誌は,多くの患者が健康回復のために何をしているかに注目し,こう伝えています。「1990年には,主だった病気のために医師の診察を受ける人のうち,5人に一人(19.9%)が代替療法も利用していると見られていた。この割合は,1997年に,ほぼ3人に一人(31.8%)にまで上昇した」。その記事は,次のようにも述べています。「米国以外の国で行なわれた全国調査は,代替医療が工業国全体に普及していることを示唆している」。
JAMA誌によると,最近の12か月間に代替治療を利用した人の人口比は,カナダで15%,フィンランドで33%,オーストラリアで49%でした。「代替療法の需要の大きさは注目に値する」ことをJAMA誌は認めています。代替療法にはほとんど保険が適用されないという事実からすると特にそう言えます。そのためJAMA誌の記事は,「今後,代替療法にもっと保険が適用されるようになれば,利用状況は現在のそれを上回ることになろう」と結論しています。
多くの国ではかなり前から,代替療法と通常療法を組み合わせようとする動きが一般に具体化しています。王立ロンドン・ホメオパシー病院のピーター・フィッシャー医師は,おもな形態の補完医療が「多くの場所で事実上,通常医療」になっていることに注目し,「医療にはもはや,伝統的と補完的という二つのタイプがあるのではない。良い医療と悪い医療があるだけである」と主張しています。
このように,多くの医療専門家は今日,伝統的な医療と代替療法のいずれをも価値あるものとして認めつつあります。そして,こちらの医療かあちらの医療をと,患者に二者択一を迫るのではなく,様々な治療法全体から患者にとって益となるものを活用するよう勧めます。
代替医療または補完医療と呼ばれる治療方法にはどんなものがあるのでしょうか。そのうちのあるものは,いつ,どこで考案されたのでしょうか。なぜこれほど多くの人が利用しているのでしょうか。
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代替療法 ― 多くの人が利用するのはなぜか目ざめよ! 2000 | 10月22日
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代替療法 ― 多くの人が利用するのはなぜか
代替医療または補完医療には,広範囲に及ぶ治療の技術や処置が包含されています。その多くは自然療法<ナチュロパシー>という大きなカテゴリーに属します。それは,天然の物質や物理的手段を利用して体調を整えさせ,自然治癒を促すことに重点を置いた治療体系です。そうした療法のかなり多くは,何世紀も前から広く利用されていましたが,現代医学からは多年にわたり関心を向けられず,無視されていました。
例えば,「アメリカ医師会ジャーナル」誌(英語),1960年8月27日号は,やけどを冷やすことについて,それは「昔の人々にも知られていたが,医師も,一般大衆もこれを無視してきたようである。医学書に散見する幾つかの報告例は,そろってこの治療法を称賛しているが,今日これはあまり使われていない。事実,過半の医師は,『それは実行されていない』と言うが,なぜ実行されていないのかを知る者はいない」と述べています。
ところが,この数十年間,通常医療において,やけどに冷水や冷湿布を使うのは正しいと再び主張されるようになりました。「ジャーナル・オブ・トラウマ」誌(英語),1963年9月号はこう伝えています。「やけどの初期段階の治療に冷水を使うことに対する関心は,オフェイグソンとシュールマンによる1959年および1960年の報告以来,高まってきた。われわれは過去1年間この方法で患者を治療してきたが,励みになる臨床結果が出た」。
冷水を使った治療法は比較的安全であり,痛みも確かに和らぎます。慢性的な病気の治療に様々な仕方で水を用いる水治療法は,代替医療として利用されており,様々な形態の水治療法が現代医学によっても認められるようになりました。a
同じような方法として,代替療法士は病気の治療によく植物を用います。世界には,そうした治療が何百年,いや何千年も前から行なわれている場所もあります。例えばインドでは,ハーブ(薬草)を使うことが昔から医療の主流でした。今では,事実上どこにおいても,多くの医療専門家が特定の植物に薬効があることを認めています。
注目に値する体験
今から百年ほど昔,後に植物の生化学を研究するようになったリヒャルト・ウィルシュテッターは,当時10歳の幼い親友ゼップ・シュワッブの経験から影響を受けました。ゼップは脚の感染症がかなり進んでいたので,脚を切断しないと助からない,と医師に告げられました。しかし,ゼップの両親は翌朝まで手術を延ばしてもらい,その間に,ハーブ療法を行なうことで有名な羊飼いを捜し出しました。その羊飼いは一組の植物を集め,それらをきれいに刻んで,ゆでたホウレンソウの塊のようにし,傷口に当てました。
朝には傷がよくなっていました。それで,手術はまた延期されました。その治療は続けられ,やがて,傷は完全に治りました。ウィルシュテッターは化学を学ぶためにドイツのミュンヘン大学へ進み,後に植物色素,特にクロロフィルの研究に関連した発見でノーベル賞を受賞しました。意味深いことに,現在使われている医薬品のおよそ25%は,植物中に自然にできる化学物質を含むか,全体がそうした化学物質でできているものです。
平衡を取ることが必要
しかし,医療については,ある人には驚くほど効果があっても,別の人にはほとんど効果がない場合もあることを認める必要があります。どんな療法にせよ,効果を上げるかどうかは,病気の種類や重症度,また患者の全般的な健康状態など,多くの要素に依存しています。タイミングでさえ一つの要素になることがあります。
通常,代替的な方法は伝統的な方法より効きが遅く,早期診断,早期治療をしていれば防げたような病気でも,強い薬や,もしかしたら手術に頼らないと助からないところまで進行することがあります。ですから,ある健康上の問題に対処する方法は一つしかないかのように,一つの療法に固執するのは賢明ではないでしょう。
代替医療と通常療法とでは,健康へのアプローチに違いがあります。代替医療の治療方法は,多くの場合,予防にいっそう重きを置き,人の生活様式や環境,さらにはそれらの要素が健康にどう影響するかに焦点を当てています。つまり,一般に代替療法を施す人は,病んでいる臓器や病状だけではなく,その人全体に目を向けるのです。
人々が代替医療に強く引かれるのは,天然の製品が使用され,治療法も通常医療の方法より優しくて危険が少ないと理解されているからに違いありません。このように,どの医療が安全で効果的なのかという問題に対する関心は高まりを見せています。それで,続く記事では,代替療法の例を幾つか取り上げます。
[脚注]
a 「目ざめよ!」誌,1988年6月22日号,25,26ページをご覧ください。
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代替療法に目を向ける目ざめよ! 2000 | 10月22日
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代替療法に目を向ける
「代替療法を選ぶ患者に,よりよい医療を施すには,医師と代替医療の施術者との間で専門的な意見交換を始めることが肝要だ」。
これは,「アメリカ医師会ジャーナル」(JAMA)誌(英語),1998年11月11日号に掲載された見解です。その記事はこう述べています。「代替療法の利用に伴い,この[意見交換の]必要性は増大することが予想される。そうした療法にも健康保険が適用される場合は,特にそうである」。
より通常的な形の治療を受けながら,代替療法も利用するという患者はますます増えています。しかし,中には,自分がしていることを医師に知らせておかない人もいます。そのため,「タフツ大学健康栄養通信」(英語),2000年4月号は,「最大の益をもたらすことを考え,自分一人ではなく,医師の協力を得るべきである」と強く勧め,「自分の取り組み方に医師が賛成してもしなくても,知っておいてもらえば,やはり有利になる」と付け加えています。
そう言われているのは,ある種のハーブ(薬草)と通常療法を組み合わせると健康上の危険が生じ得るからです。多くの医療専門家たちは,一部の患者が代替療法を選択していることを認めており,医療に関する自分の意見が原因で,代替療法を施す人との協力のもとに患者の益を図る活動が妨げられることがないよう努めます。
現在多くの国々で利用者が増えている代替療法について読者の皆さんに理解していただくために,数例を簡単に紹介しましょう。しかし,「目ざめよ!」誌は,ここで取り上げる代替療法や他の医療を推奨しているわけではないことを思いに留めてください。
ハーブ療法
この療法は恐らく最も一般的な代替医療でしょう。医療にハーブを利用することは何世紀も前から行なわれていましたが,科学者が注意深く研究してきた植物の種類は比較的少数にすぎません。徹底的に研究され,安全性や効能に関する情報が得られる植物やその抽出物となると,さらに限られます。ハーブに関する情報の大半は,それが過去どのように使われてきたかに基づいています。
しかし近年,多くの科学的研究が行なわれ,ある種のハーブが,軽いうつ病や老化による記憶喪失,良性の前立腺肥大といった症状の治療に役立つことが明らかになりました。研究されてきたハーブの一つは,ブラック・コホッシュです。これは,カロライナショウマ,サラシナショウマ,あるいはフクオウソウと呼ばれることもあります。アメリカ・インディアンは,このハーブの根をゆでて,月経障害や出産に関連して用いました。「ハーバード・ウィメンズ・ヘルス・ウォッチ」誌(英語),2000年4月号によると,最近の研究で,ドイツの規格化された市販のブラック・コホッシュの抽出物には「更年期の症状を軽減する」効果があるかもしれない,という点が示唆されました。
そのような天然の治療薬に対する需要の多くは,人工的な薬より安全だという考えに基づいているようです。確かに安全な場合も多いでしょうが,とりわけ他の医薬品と組み合わせたときに,副作用を生じさせるハーブもあります。例えば,充血を緩和し,体重を減らす自然物として奨励されているある人気の高いハーブは,血圧や心拍数を上げることがあります。
患者の出血を促進するハーブもあります。そのようなハーブと“血液を薄める”医薬品を組み合わせて使うと,深刻な問題が生じ得ます。糖尿病や高血圧といった持病のある人,あるいは他の薬を飲んでいる人は,ハーブ療法について特に注意する必要があります。―囲み記事をご覧ください。
ハーブ療法でもう一つ心配なのは,製品の品質が常に保証されているとは限らないことです。近年,それらの製品が重金属などの汚染物質によって汚されていたという報告が聞かれます。さらに,ハーブ製品の中には,ラベルに書かれた成分がほとんど,あるいは全く含まれていないものもあります。これらの例は,ハーブ製品も他のどんな薬も,評判の良い信頼できる所から買う必要があることを物語っています。
栄養補助食品
ビタミンやミネラルなどの栄養補助食品は,貧血症や骨粗鬆症など,健康上の多くの問題の予防と治療に役立つと言われてきました。ある種の先天的欠陥さえ予防できると言われています。政府が推奨する量のビタミンとミネラルを毎日服用することは,比較的安全かつ有益であるとされています。
その一方で,病気を早く治そうとして大量に服用することは,健康に害を及ぼす場合があります。他の栄養素の吸収や活動を妨げる恐れがありますし,深刻な副作用も引き起こしかねません。こうした可能性や,ビタミンの大量使用を支持する実質的な証拠はないという事実を無視すべきではありません。
ホメオパシー
ホメオパシーは,1700年代に,当時の一般的な治療法より優しく,穏やかな療法として開発されました。ホメオパシーは,「同類が同類を治す」という原則と,最小量の薬で治すという理論に基づいています。ホメオパシーの薬は,治癒物質を何度も希釈して作られます。時には,元の物質の分子が一つも残らないほど希釈することがあります。
それでも,ホメオパシーの薬には,偽薬を使用する場合と比べると,ぜんそくやアレルギー,子どもの下痢などの治療に幾らか効果のあることが分かっています。ホメオパシーに用いる物は,とても薄められているので,かなり安全であるとされています。JAMA誌,1998年3月4日号のある記事は,こう注解しています。「明確な診断が下されていない慢性病を抱える多くの患者にとって,ホメオパシーは重要かつ有用な治療法の候補となるかもしれない。ホメオパシーは,その限界をわきまえて用いるなら,『利用可能な別の手段』として現代医学を補完し得る」。しかし,生死にかかわる緊急事態の場合は,通常の医療を利用するほうが賢明かもしれません。
カイロプラクティック
整体による代替療法は幾つかあります。カイロプラクティックは,その中で最も広く利用されている代替治療で,特に米国で盛んに行なわれています。この療法は,背骨のゆがみを矯正すれば治癒を促進できる,という考えに基づいています。そのため,カイロプラクターは,患者の背骨を手で押して,脊椎骨を正しい位置に戻すことを専門に行ないます。
通常医療では必ずしも腰痛を和らげることができませんが,カイロプラクティックの施術を受けた一部の患者たちは,かなり満足できたと報告しています。痛み以外の症状にカイロプラクティックが効くことを裏付ける証拠は,あまりありません。
意味深いことに,熟練した施術者がカイロプラクティックを行なうとき,有害な結果が伴う確率は高くありません。それでも,首の整体は,脳卒中や麻痺を含め,重大な合併症の危険と結びつけられていることを知っておく必要があります。合併症の危険を減らすために,精密検査を受けて,特定の整体が自分にとって安全かどうかを知るよう勧める専門家もいます。
マッサージ
マッサージの益は,ほとんどどの文化においても昔から認められてきました。聖書にも,マッサージを行なったという記録があります。(エステル 2:12)ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)誌(英語),1999年11月6日号は,「マッサージ技術は,伝統的な中国医学やインド医学において重要な役割を果たしている。ヨーロッパ式のマッサージは,いわゆるスウェーデン式マッサージを開発したペール・ヘンリック・リングによって,19世紀初頭に体系化された」と述べています。
マッサージには,筋肉をほぐし,血液の循環を改善し,体組織内にたまった毒素を除く効果があると言われています。現在医師たちは,腰痛や頭痛,消化器系の不調など,軽い病気の人に,マッサージを受けるよう指示しています。マッサージを受ける人の大半は,とても気持ちが良くなると言います。医師のサンドラ・マクラナハンによると,「病気の8割はストレスと関係があるが,マッサージはそのストレスを軽減する」ということです。
BMJ誌は次のように伝えています。「ほとんどのマッサージ技術について言えば,有害な結果の生じる危険性は少ない。マッサージの際に避けるべきことは,かなり常識に基づいている(やけどした部分をこすることや,深部静脈血栓症になった四肢のマッサージを避けることなど)。……がん患者をマッサージすることでがんの転移が広がることを示す証拠はない」。
「マッサージがますます主流になるにつれ,利用者はマッサージ士の資格に関心を持つようになっている。実際,関心を持つべきである」と,アメリカ・マッサージ療法協会の元会長,E・ヒューストン・ルブランは述べています。BMJ誌は,しろうとによる治療行為を避けるために,「患者は施術者が適切な管理機関に登録されているかどうかを確認すべきである」とアドバイスしています。昨年のある調査報告によると,米国内の28の州で療法士が認可を受けました。
鍼治療
鍼治療は治療技術として世界中でかなりの人気を博すようになりました。「鍼治療」は幾つかの異なる技術を指す語ですが,最も一般的には,体の特定の部位に細い針を挿入して,治療効果を得る技術を指します。過去数十年間の調査が示すところによると,鍼治療は,痛みや炎症の緩和に役立つエンドルフィンなどの神経化学物質を放出させることにより,ある症状に効果を発揮するようです。
ある調査結果は,鍼治療がかなり多くの慢性病を治療できそうなことや,麻酔薬に代わる安全な手段であることを示唆しています。世界保健機関は,104の病気について鍼治療を認めています。また,米国立衛生研究所によって選ばれたある委員会は,鍼治療が手術後の痛み,筋肉痛,生理痛,化学療法や妊娠の結果生じる吐き気やおう吐の治療法として許容し得るという証拠を挙げています。
鍼治療が非常に有害な結果をもたらすことはまれですが,ひりひりした痛みやしびれ,または刺すような痛みを感じることがあるかもしれません。針をきちんと滅菌するか,使い捨ての針を使えば,感染の危険を最小限に抑えることができます。鍼治療師には,適切な診断を下したり,よりふさわしい他の療法を勧めたりするのに必要な医療技術が不足している場合もあります。そのような診断技術の不足を無視するのは賢明ではないでしょう。慢性病の症状を軽減するために鍼治療を選ぶ場合には特にそう言えます。
おびただしい選択肢
これまでに取り上げたものは,現在幾つかの場所で一般に代替療法と呼ばれている数ある療法の数例にすぎません。将来的には,その療法の一部やここで取り上げなかった他の療法が,通常の医療とみなされるようになるかもしれません。実際,世界のある地域ではすでにそのようにみなされています。しかしもちろん,廃れたり,悪評が立ったりするものもあります。
残念なことに,痛みや病気を人間の経験から切り離すことはできません。聖書の次の言葉はまさに正確です。「わたしたちが知るとおり,創造物すべては今に至るまで共にうめき,共に苦痛を抱いているのです」。(ローマ 8:22)人が助けを求めるのは,ごく当然なことです。しかし,どこに求めることができるでしょうか。医療を選択する上で役立つ幾つかの情報について考えてみましょう。
[8ページの囲み記事/図版]
ハーブと薬の組み合わせ ― どんな危険があるか
世間ではよく,特定の処方薬を組み合わせて飲んだり,アルコールと一緒に飲んだりするのは危険だと言われます。では,ある種のハーブ(薬草)と処方薬を一緒に使うのも危険でしょうか。それはどれほど一般に行なわれているでしょうか。
「アメリカ医師会ジャーナル」誌(英語)のある記事は,「処方薬とハーブの同時使用」について述べています。その記事によると,「定期的に処方薬を飲んでいると述べた大人44%のうち,ほぼ5人に一人(18.4%)は,少なくとも1種類のハーブ製品か大量のビタミン剤,あるいはその両方を同時に使っていると述べた」ということです。そうした習慣に潜む危険について知っておくのは大切なことです。
特定のハーブ製品を飲んでいる人は,麻酔が必要な医療処置を受ける場合にも気を付けなければなりません。アメリカ麻酔科医協会の会長,ジョン・ニールド医師は,「朝鮮人参やセントジョーンズワート(オトギリソウ)など,人気の高いハーブのあるものは,血圧の大きな変動を引き起こす場合があるとの事例が報告されている。麻酔中には大きな危険の伴うことがある」と説明しています。
同医師はこう付け加えています。「ほかに,イチョウやショウガ,ナツシロギクなども,血液の凝固を妨げることがあり,硬膜外麻酔の際には特に危険である。もし脊髄付近で出血があれば,麻痺の原因になりかねない。セントジョーンズワートも,ある麻酔薬の効果を強める可能性がある」。
明らかに,特定のハーブと薬を組み合わせて飲むことに潜む危険について知っておくのは肝要な事柄です。妊婦や授乳中の女性は特に,特定のハーブと薬を組み合わせるなら,子どもに害を及ぼす可能性があることを意識すべきです。ですから,患者は,代替的な薬であれ何であれ,どんな薬を飲むかに関して,医療を施す立場の人と話し合うよう勧められています。
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ある種のハーブは健康上の問題の治療に役立ってきた
ブラック・コホッシュ
セントジョーンズワート
[クレジット]
© Bill Johnson/Visuals Unlimited
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最善の結果を得るために,患者と医療専門家は協力する必要がある
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治療に関するあなたの選択目ざめよ! 2000 | 10月22日
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治療に関するあなたの選択
医師のイザドール・ローゼンフェルドは,代替医療をテーマにした自著の中で,次の点を強調しています。「健康に関するどんな処置や介入であっても,“効く”と確信している一群の人たちを無作為に選んでそれを施すと,半数は快復することがある」。
これをプラシーボ効果と言います。たとえ砂糖の錠剤でも,効くと信じれば本当に効くということです。このプラシーボ効果によって,痛み,吐き気,疲労,めまい,思い煩い,憂うつな気分などの自覚症状を緩和できます。この事実は何を明らかにしているでしょうか。
一つには,どんな治療を受けているとしても,その治療法に確信を抱いていることが,多くの場合,快復の重要な要素になるということです。同時に,ある治療法が,症状のみにとどまらず問題の根本原因と取り組んでいるかどうかを調べるのも賢明なことかもしれません。これは,実験室でのテストやX線など,客観的な方法で治療効果を評価することによって行なえます。
とはいえ,何らかの医療を選択する際にできることがまだあります。
大切な手順
決定を下す前に調べるのは賢明なことです。次のような質問をしてください。どんな結果を期待できますか。どんな長所や短所がありますか。治療にかかる費用や時間はどうですか。自分が考慮している治療を受けたことのある人に聞いてみてください。それが役立ったかどうかを尋ねてください。しかし,過去の事例だけでは惑わされる場合があることも忘れないでください。
通常療法ではないものの中には,賢明とは言えない療法もあります。それは,限界があるとはいえ成功した実績のある通常療法を先延ばしにさせるような方法です。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌(英語)のある報告には,有害な結果になり得ることを示す証拠が載せられています。同誌は,代替療法を行なっている間,通常療法を拒んだ二人の若い患者のがんが進行したと記述しています。一方の患者は亡くなりました。
慢性病の人や生死にかかわる病気にかかっている人が,いかさま療法を推し進める詐欺師の格好の標的になり得るという事実にいつも注意を払うのは賢明なことです。幅広い種類の病気に効能あり,とうたっている製品にはぜひ用心してください。最近では,「呼吸疾患や体力不足,果ては生死にかかわる病気まで,あらゆるものを一掃する助けとなってきた」とされる新しいビタミン剤の事例があります。分析した結果,その“ビタミン”は単なる食塩水にすぎませんでした。
代替療法の中には,健康の増進に役立つものも確かにあります。しかし,現実離れした期待を抱いてはなりません。栄養のあるものを食べ,よく眠り,十分な運動を行ない,用心深く医療を選択することなどに注意を集中するのは賢明な方法です。
追い求めていたものが実現する
言うまでもなく,人間の施す治療によって,あらゆる病気が,またその結果としての死がなくなるわけではありません。わたしたちは,先祖である最初の人間アダムからそれらを受け継いでいるからです。(ヨブ 14:4。詩編 51:5。ローマ 5:12)どんな種類の医療であれ,実際に役立つ方法はたくさんあることでしょう。とはいえ,それらは限られた期間だけ寿命を延ばし,生活を楽しくさせる当座しのぎの手段にすぎません。しかし,健康の問題には確実な解決策があり,何百万という人がすでにそれを見いだしています。
その解決策は,わたしたちの創造者であり,偉大な医師でもあられるエホバ神によって備えられています。わたしたちは,エホバに信仰を働かせ,罪を贖うみ子イエス・キリストの贖いの犠牲の益を十分に受けることにより,病気のない世界で完全な健康と永遠の命を享受することができます。(マタイ 20:28)その新しい世では,「『わたしは病気だ』と言う居住者はいない」と,聖書は約束しています。―イザヤ 33:24。
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何百万という人が,完全な健康が得られるという,唯一の確実な希望を見いだしてきた
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