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ユダヤ教 ― 経典や伝承による神の探求神を探求する人類の歩み
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しかし信心深いユダヤ人は,神ご自身のみ名を発音するのは不敬なことだと考えています。j
40 神の名の使用に関して,あるユダヤ人の権威者は何と述べていますか。
40 ラビ,A・マルモルスタインは,み名を発音することを禁じた古代のラビ的な(聖書に基づいていない)命令に関して自著,「神に関する古代のラビ的教理」の中で次のように書いています。「[神の名の使用に関する]この禁令がユダヤ人の間で全く知られていない時代があった。……エジプトでもバビロニアでも,ユダヤ人は日常の会話やあいさつの中で神のみ名,つまり四文字語<テトラグラマトン>を使うことを禁じた律法を知らなかったし,守ってもいなかった。ところが,西暦前3世紀から西暦3世紀まで,そのような禁令があり,部分的に守られていた」。初期のころ,そのみ名を使うことは許されていただけでなく,コーヘン博士が述べているように,「俗人さえみ名を自由に,また公に使うことが推奨された時代があった。……イスラエル人を[非ユダヤ人]から区別したいという願いに基づいてそのように勧められたのだとされて」いるのです。
41 あるラビによれば,どんな影響のために神のみ名の使用が禁じられるようになりましたか。
41 では,どんな事柄のために,神の名の使用が禁じられるようになりましたか。マルモルスタイン博士は,「ユダヤ人の宗教に対するヘレニズム[ギリシャの影響]による反対,および祭司や貴族らの背教のために,聖所[エルサレムの神殿]における四文字語<テトラグラマトン>の発音を禁ずる規則が導入され,確立された」と答えています。ユダヤ人は神の名をみだりに口にすることを極力避けようとするあまり,話の中でその名を使うことを完全に禁止し,まことの神を見分ける手だてとなるものをなくさせ,その効果を弱めました。宗教的な反対や背教の圧力が一緒に加えられたため,ユダヤ人の間で神の名は使われなくなってしまいました。
42 聖書の記録は神の名の使用に関してどんなことを示していますか。
42 しかし,コーヘン博士が述べているように,「聖書時代には,日常の話の際,[神の名]の使用にためらいを感ずることはなかった」ようです。族長アブラハムは「名指しで主に呼びかけ」ました。(創世記 12:8)ヘブライ語聖書の筆者のほとんどは,マラキが執筆に携わった西暦前5世紀に至るまで,自由に,しかし敬意を込めて,み名を使いました。―ルツ 1:8,9,17。
43 (イ)ユダヤ人が神の名を使用したかどうかに関しては,どんなことがあまりにも明白ですか。(ロ)ユダヤ人が神の名の使用をやめたことが直接もたらした影響の一つは何ですか。
43 古代ヘブライ人が確かに神の名を使ったり発音したりしたことは,あまりにも明白です。マルモルスタインは後代に生じた変化に関して次の点を認めています。「この当時,つまり[西暦前]3世紀の前半に神のみ名の使用に関して起きた重大な変化に注目しなければならないのである。その変化はユダヤ教の神学的,哲学的教えに多大の変化をもたらし,その影響はまさしく今日に至るまで感じられている」。神の名が見失われたために生じた影響の一つは,キリスト教世界の三位一体の教理が容易に発展できる神学的真空状態を作り出すことが無名の神という概念により助長されたことです。k ―出エジプト記 15:1-3。
44 神のみ名が隠されたために生じた他の影響の幾つかを挙げてください。
44 神の名を使用しないなら,まことの神の崇拝の重要性は減少します。ある注解者が次のように述べたとおりです。「不幸なことに,神のことが『主』と述べられる時,その句は正確ではあっても,生彩のない,冷ややかなものである。……YHWH,もしくはアドーナーイを『主』と訳出されると,元の本文にとって全く異質的で,抽象的,形式的,かつ疎遠な響きが旧約聖書の多くの章節に加えられる結果になるということを覚えておく必要がある」。(「古代イスラエルにおける神に関する知識」)ヤハウェ,もしくはエホバという荘厳で重要なみ名が,元のヘブライ語本文には明らかに何千回も出ているのに,多くの聖書翻訳から除かれたことを知るのは何と残念なことでしょう。―イザヤ 43:10-12。
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ユダヤ教 ― 経典や伝承による神の探求神を探求する人類の歩み
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j 「ユダヤ百科事典」はこう述べています。「み名,YHWHを発音しないようにする考え方は……『なんじの神,YHWHのみ名をみだりに口にすべからず』という意味の第三の戒め(出エジプト 20:7; 申命 5:11)を誤解したために生じたが,この句は実際には,『あなたはあなたの神,YHWHの名にかけて偽って誓ってはならない』という意味なのである」。
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