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    目ざめよ! 1995 | 5月22日
    • 煙とともに消える無数の命

      それは世界中で特によく売れている商品の一つです。定期的に買い求める顧客が大勢おり,市場は急速な拡大を見ています。製造会社は気をよくしており,うなるほどの利益や政治的影響力や威信を誇っています。ただ一つ問題なのは,上得意が次々に死んでいることです!

      エコノミスト誌(英文)はこう述べます。「たばこは世界有数の儲かる商品である。また,意図どおりに使えば,使用者の大半が依存症になり,死に至る場合の多い唯一の(合法的な)商品でもある」。要するに,たばこ会社にとっては大きな利益になるが,消費者にとっては莫大な損害になるということです。米国の疾病・予防対策センターによると,米国の愛煙家たちの寿命は年に約500万年縮まっており,1分間喫煙するごとに約1分間短くなっています。「喫煙のせいで年間42万人のアメリカ人が死ぬ。これは,非合法の麻薬による死亡者の約50倍にあたる」と,ニューズウィーク誌は報じています。

      英国の「帝国癌研究基金」とWHO(世界保健機関)とアメリカ・ガン協会が発行した,「1950-2000年の先進国における喫煙による死亡率」と題する本によると,全世界で年間300万人 ― 毎分6人 ― が喫煙のせいで死んでいます。喫煙の世界的な傾向に関するこの分析は,これまでに行なわれた中で最も包括的なもので,45か国を対象にしています。「帝国癌研究基金」のリチャード・ピートーは,「ほとんどの国で,やがて最悪の事態が起きる。もし現在のような喫煙のパターンが続くなら,今日たばこを吸っている若者たちが中年か老年に達するころには,年に約1,000万人 ― 3秒に1人 ― がたばこのせいで死ぬことになる」と警告しています。

      「喫煙は他のどんな有害な要因とも異なる。やがて愛煙家の2人に1人が死ぬことになるだろう」と,WHOのアラン・ロペス博士は言います。オックスフォード大学公衆衛生学科のマーティン・ベシーも同様に,「40年に及ぶこの研究の結果,すべての愛煙家の2分の1がその習慣がもとでやがて死ぬことになるという恐ろしい結論に達した。全く,考えるだけでもぞっとする」と述べています。1950年代以来,喫煙がもとで死亡した人の数は6,000万人に上っています。

      それはたばこ会社にとっても全くぞっとするような予想です。もし今,毎年世界中の300万の人が喫煙に関係した理由で死んでおり,そのほかにも多くの人が禁煙しているのであれば,新たに喫煙する人を毎年300万人以上見つけなければなりません。

      その活路となる人々の階層が,たばこ会社により女性解放として讃えられているもののゆえに出現しています。女性の喫煙は西欧諸国では既成事実となってある程度の年月を経てきましたが,今では,それが恥辱とみなされていた国々にも広まりつつあります。たばこ会社はそうした見方を徹底的に変えようとしています。女性に,新たに見いだした豊かさと解放を謳歌させたいと思っています。タールとニコチンの含有量が少ないというキャッチフレーズの特別銘柄のものが,たばこを吸っている女性や,その種のたばこなら危険が少ないだろうと考える女性を引き付けています。また,香料を加えたたばこや,長くてスリムなデザイン ― 女性が喫煙すればなれると思うような外見 ― のたばこもあります。アジアでのたばこの広告には,特に,エレガントな洋服で魅力的に装った,若くてシックなアジア人モデルが起用されています。

      しかし,喫煙関係の死亡率は,女性の“解放”と足並みをそろえています。英国,スウェーデン,日本,ノルウェー,ポーランドでは,過去20年間に肺ガンで死ぬ女性の数が倍増しました。米国とカナダでは300%の増加です。「君もずいぶん進歩したね」と,あるたばこの広告は言います。

      中には,独自の戦略を繰り広げているたばこ会社もあります。カトリックの優勢なフィリピンのある会社は,聖母マリアの肖像入りのカレンダーを無料配布しましたが,その聖画の下にはちゃっかりと自社のたばこの宣伝文句を入れておきました。WHOのアジア保健顧問であるローズマリー・エルバン博士は,「こんなものを見たのは初めて。聖画のモチーフとたばこを結びつけて,フィリピンの女性に喫煙というものを気楽に受け入れさせようとしている」と述べました。

      中国では,成人男性の61%が喫煙者と見られていますが,たばこを吸う女性は7%しかいません。西欧のたばこ会社は,この高潔な東洋の女性たちを“解放”しようともくろんでいます。彼女たちの多くにとって,魅力的な西欧のご婦人たちの得ている「楽しみ」は非常に長い間お預けになっていたのです。しかし,たばこ会社にとって目の上の大きな瘤となっているのは,政府所有のたばこ会社がたばこ供給の大半を一手に行なっていることです。

      しかし,西欧の会社はその扉を徐々にこじ開けています。宣伝に利用できるわずかな機会をとらえて,将来の顧客獲得のための下準備をひそかに進めているたばこ会社もあります。中国が香港<ホンコン>から映画を輸入していることに目を付け,そうした映画の中で,金を払って俳優にたばこを吸わせているのです。なんという巧妙な売り込みでしょう。

      金回りのいい米国のたばこ会社は,国内で嫌煙ムードが高まっているため,新たな餌食を求めて触手を伸ばしています。事実は,それらの会社が発展途上国にしっかり狙いを定めていることを示しています。

      世界中の保健担当官が警告を発しています。新聞などには次のような見出しが載せられています。「アフリカが闘う新たな疫病 ― 喫煙」。「アジアの煙は火に変わる ― たばこ市場の急成長」。「アジアに広まる喫煙 ― このまま行けばガンが大流行」。「たばこと闘う新第三世界」。

      アフリカ大陸は,干ばつ,内戦,エイズの流行などに見舞われてきました。それでも,英国の心臓学者キース・ボール博士はこう言います。「核戦争や飢きんを別にすれば,喫煙はアフリカの将来の健康に対する唯一最大の脅威である」。

      多国籍の巨大企業は地元の農家に賃金を払ってタバコを栽培させます。農家は調理や暖房や家の建設に大いに必要とされている木を切り倒し,それを燃料にしてタバコの葉を乾燥させます。また,それほど収益の上がらない食用作物を作るのをやめて,金になるタバコを栽培します。アフリカ人は貧困にあえぎながらも,一般に,乏しい収入の大部分をたばこに費やします。ですから,西欧のたばこ会社の金箱がその利益によって膨らむ一方で,アフリカの家族は栄養不良で衰えているのです。

      アフリカ,東ヨーロッパ,中南米はいずれも西欧のたばこ会社のターゲットになっています。たばこ会社は発展途上世界を,またとない金儲けの機会とみなしているのです。しかし,中でも人口の多いアジアは,何と言っても最大のドル箱です。現在は中国だけでも米国の全人口を上回る数の愛煙家 ― 3億人 ― がいます。年間で実に1兆6,000億本のたばこが消費されています。これは何と世界の総消費量の3分の1に相当します。

      「医師たちは,アジアにおけるブームが健康に及ぼす影響を思うと空恐ろしいと言う」と,ニューヨーク・タイムズ紙は報じています。リチャード・ピートーは,今後二,三十年の間に喫煙が原因で1年間に死ぬと考えられる1,000万人のうち,中国だけで200万人の死者が出るものと見ています。今日生きている中国の子供たちのうち5,000万人は喫煙に起因する病気で死ぬだろう,とピートーは言います。

      ナイジェル・グレー博士は次のように要約しています。「中国と東ヨーロッパにおける過去50年間の喫煙の歴史からして,これらの国々でたばこに関係した病気が大流行するのは必至である」。

      「米国で毎年40万人の早死にを出すもとになっている製品,米国政府がやっきになって国民にやめさせようとしている製品が,どうして米国の国境を越えるだけで無害なものになるのだろうか。同じ製品を他の国へ輸出する時には,健康のことはどうでもよくなるのか」。タイで嫌煙運動を行なうプラキット・バテサトキット博士はそう問いかけています。

      発展するたばこ業界には米国政府内部に強い味方がいます。彼らは協同して海外,特にアジアの市場における足がかりを得ようと奮闘してきました。長い間,米国製たばこはタイ,台湾省,日本,その他の国々から締め出されていました。その中には,たばこ製品の専売権を持っていた政府もあります。嫌煙団体は輸入に反対しましたが,米国側は説得力のある対抗手段をちらつかせました。それは報復関税です。

      1985年以来,米国政府の強い圧力を受けたアジアの多くの国が門戸を開き,米国製たばこがどっと流れ込みました。1988年には,アジアへの米国のたばこの輸出は75%もはね上がりました。

      たばこ戦争の犠牲者の中でもとりわけ痛ましいのは子供たちかもしれません。「アメリカ医師会ジャーナル」誌に発表されたある調査結果によると,「新たな喫煙者全体の90%は子供たちとティーンエージャー」なのです。

      US・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌の一記事は,米国の十代の喫煙者の数を310万人と見ています。毎日新たに3,000人 ― 年間100万人 ― が誘われて喫煙を始めます。

      あるたばこの広告には,楽しいことが好きで遊び好きな漫画のラクダが登場します。このラクダは大抵たばこをくわえています。このたばこの広告の役目は,若者たちを誘惑して,彼らが健康上の危険を理解しないうちにニコチンの奴隷になるようにすることです。この広告を出してから3年もしないうちに,このたばこ会社の青少年に対する売り上げは64%増加しました。ジョージア医科大学(米国)の研究によると,調査の対象になった6歳児の91%が,このたばこをくわえた漫画のキャラクターを知っていました。

      もう一つ,たばこの広告のアイドルで人気があるのは,自由奔放に生きるたくましいカウボーイです。このカウボーイが言わんとしているのは,あるティーンの言葉を借りれば,「たばこを吸っている時には,行く手を阻むものなんて何もない」ということです。世界一の売り上げを誇っているあるたばこは,十代の若者の市場で69%のシェアを占め,最もよく宣伝されている銘柄だと言われています。購買意欲をさらにそそるものとして,各箱にはクーポン券がついていて,それを若者に人気のジーンズや帽子やスポーツウエアと引き換えられるようになっています。

      広告の威力が絶大であることに気づいた嫌煙団体は,多くの国でテレビやラジオからたばこの広告を締め出すことに成功してきました。しかし,抜け目のないたばこの広告主たちはこの制度の裏をかく一つの方法として,様々なスポーツの試合が行なわれる場所の要所要所に広告板を設置しています。ですから,非常に大勢の若者たちが見守るテレビ中継の試合では,前方に好きな選手が身構えていて,その背景にそびえ立つたばこの広告板が映し出される場合があるのです。

      繁華街や学校の前では,ミニスカートをはいた,あるいはカウボーイやサファリ風のいでたちをしたかっこいい女性たちが,たばこを欲しがるティーンやたばこに好奇心を持っているティーンに無料のたばこを配ります。ゲームセンターやディスコやロックコンサートでは,たばこの試供品が惜しげなく手渡されます。新聞にすっぱ抜かれたある会社の販売促進計画によると,カナダのある特定の銘柄のたばこはフランス語を話す12歳から17歳の男性をターゲットにしています。

      広告がしきりに言わんとしているのは,喫煙は楽しく,健康的で,男らしく,人気を博せるということです。ある広告コンサルタントは,「わたしが働いていた会社では,14歳の子供たちに喫煙を始めるよう働きかけることにかなり力を入れていました」と言いました。アジアでの広告は,西欧の健康的でスポーツマンタイプの若者たちが浜辺やグラウンドで ― もちろん,たばこを吸いながら ― はしゃいでいる様子を描いています。「西欧のモデルたちと生活様式は模倣すべき魅力的な規準を創り出す。そして,アジアの愛煙家はそれらを渇望している」と,あるマーケティング業界誌は述べています。

      宣伝に何十億ドルも費やした結果,たばこのマーケティング担当者は途方もない成功を収めてきました。リーダーズ・ダイジェスト誌の特報は,たばこを吸う若者たちの数が驚くべき勢いで増加していることを示しています。その報告は次のように述べています。「フィリピンでは,今や18歳未満の人の22.7%がたばこを吸う。中南米の幾つかの都市では,ティーンエージャーの割合がなんと50%を占めている。香港<ホンコン>では,わずか7歳の子供たちがたばこを吸っている」。

      しかし,たばこが海外で凱歌をあげているとはいえ,たばこ会社は国内での雲行きが怪しくなっていることで大いに気をもんでいます。たばこが嵐を切り抜ける見込みはあるでしょうか。

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      上得意が次々に死んでいる

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      アジア,たばこの最新の「殺害原野」

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      新たな喫煙者全体の90%は子供たちとティーンエージャー

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      死を招く成分 ― たばこには何が含まれているか

      たばこ製造業者は700種類もの添加物を使っている可能性がありますが,会社側が成分表を秘密にしておくことは法律で認められています。とはいえ,その成分表には重金属や病虫害防除剤や殺虫剤が挙げられています。中には,毒性が非常に強いため,埋め立て地への投棄を法律で禁じられている成分もあります。優雅に渦巻く紫煙には,アセトン,ヒ素,ブタン,一酸化炭素,シアン化物をはじめとする,約4,000の物質が含まれています。たばこを吸う人やそのそばにいる人の肺は,少なくとも43の周知の発ガン性物質にさらされます。

      [5ページの囲み記事]

      危険にさらされる非喫煙者

      あなたはヘビースモーカーと生活したり,働いたり,旅行したりしておられますか。もしそうなら,あなたが肺ガンや心臓病にかかる危険性は高くなっているかもしれません。米国環境保護局(EPA)が1993年に行なった調査では,間接吸煙(ETS)は最も危険なAクラスの発ガン原因であるという結論がでました。膨大な量のこの報告は,たばこの先から立ち上る煙や吐き出された煙に関する30の研究の結果を分析した報告です。

      EPAは,米国では間接喫煙に起因する肺ガンで年間3,000人が死んでいるとしています。1994年6月,アメリカ医師会はある調査結果を発表して,その結論を裏づけました。その調査から,非喫煙者であってもETSにさらされている女性は,たばこを吸ったことのない他の人々よりも肺ガンにかかる危険性が30%も高いことが分かります。

      幼い子供たちに関して言えば,たばこの煙にさらされる結果,年間15万件から30万件の気管支炎や肺炎が発生しています。米国では,たばこの煙によって年間20万人から100万人の子供がぜん息を起こします。

      アメリカ心臓協会の推定によれば,ETSの引き起こす心臓や血管の病気で1年間に4万人もの人が死亡します。

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      魅力的なアジア人モデルとそのターゲット

  • たばこ擁護派は嘘で膨らませた気球を揚げる
    目ざめよ! 1995 | 5月22日
    • たばこ擁護派は嘘で膨らませた気球を揚げる

      ロンドン市は1940年代に包囲攻撃を受けました。ドイツの戦闘機が大挙来襲し,飛行爆弾が雨あられと降り注ぎ,恐怖と破壊をもたらしました。しかし,状況がそれほど恐ろしいものでなかったなら,住民は異様な光景を見て面白がったかもしれません。

      頭上には長いケーブルでつながれた,何千という大きな気球が浮かんでいたのです。その目的は,低空爆撃を阻止し,できれば飛行爆弾を幾つかでも空中で爆破させることでした。この防御用気球は名案でしたが,ほとんど成果を上げませんでした。

      同様に,たばこ会社も包囲攻撃を受けてきました。不規則に広がるたばこ帝国は,かつては政治力と経済力を誇る難攻不落の要塞でしたが,今や至る所で攻撃を受けています。

      医学界は有害性を証明する研究論文を次から次へと発表しています。たばこ撲滅運動を推し進める保健担当官たちは優位に立とうと策をめぐらしています。親たちは憤慨して,子供たちが餌食にされていると訴えます。議員たちは断固としてオフィスやレストランや軍事施設や飛行機からたばこの煙を追放してきました。多くの国では,テレビやラジオでのたばこの広告が禁じられています。米国では,幾つもの州が州を挙げて何百万ドルもの医療費の賠償を求める訴訟を起こしています。弁護士たちさえ,この闘いに参加しています。

      そこで,たばこ会社は攻撃者たちを撃退しようと,独自の防御用気球を揚げてきました。とはいえ,その気球は嘘で膨らんでいるようです。

      米国民は過去1年間,義憤に燃える議員や政府の保健担当官がたばこ産業に対する猛攻撃をしかけるのを目の当たりにしてきました。1994年4月に米国連邦議会の委員会の前で行なわれた公聴会において,米国の大手たばこ会社7社の首脳は有害性を証明する統計を突き付けられました。その統計によると,毎年40万人以上のアメリカ人が死に,ほかに何百万人もの人々が病気になったり,死にそうになったり,依存症になったりしているというのです。

      彼らはどのように弁明したでしょうか。攻撃の矢面に立たされた首脳陣は弁明の中で以下のような面白い陳述を行ないました。「喫煙が……発病の原因となっているかどうかはまだ証明されていない」と,たばこ研究所のスポークスマンは主張しました。それだけでなく,喫煙の習慣はお菓子を食べたりコーヒーを飲んだりといった他の楽しみと同じく無害だと説明しました。あるたばこ会社の最高責任者は,「ニコチンが含まれているからといって,たばこが麻薬になるわけではないし,喫煙が依存症を引き起こすわけでもない」と述べました。たばこ会社側の科学者は,「たばこに含まれているニコチンは量にかかわりなく依存症を引き起こす,という前提は事実に反する」と断言しました。

      それに対して委員会側は,たばこが依存症を引き起こさないのなら,たばこ会社が自社製品のニコチンの量を調整しようとしてきたのはなぜか,と反論しました。「味を良くするため」と,別のたばこ会社の重役が説明しました。まずいたばこほどつまらないものはないと言うのです。この人は,自社のファイルからニコチンが依存症を引き起こすことを示唆する多数の調査結果を示されても,頑として譲りませんでした。

      この重役や他の人たちは,たばこの犠牲者が墓地のどれほど多くの部分を占めようとも,その意見にかじりついていることでしょう。1993年初頭に,アメリカ医師会評議員会会長のロニー・ブリストー博士は興味深い挑戦状を突き付けました。「アメリカ医師会ジャーナル」誌は次のように報じています。「博士は,一緒に病室を回って喫煙の結果の一つ ― 肺ガン患者や他の肺疾患の患者 ― を見るよう,アメリカの大手たばこ会社の重役たちに勧めた。その招待に応じた人は一人もいなかった」。

      たばこ産業は,失業が急増する世界経済の中で良い働き口を提供していると自慢します。例えば,アルゼンチンでは,たばこ産業によって100万の働き口が生み出されており,関連した働き口は400万に上ります。多くの政府はたばこ会社から大きな税収が得られるため,たばこ会社を優遇してきました。

      あるたばこ会社は,特に少数派のグループに対して寛大な寄付をしてきました。それは一見,社会の福祉に対する関心の表われのように思えます。しかし,会社の内部書類は,この“顧客層開発予算”の真意を明らかにしています。それは,支持者になる可能性のある人々の好意を集めることにあるのです。

      同たばこ会社は美術館,学校,ダンス・アカデミー,音楽協会などに多額の寄付を行なうことによって,芸術の分野でも味方を作ってきました。芸術団体の役員たちは資金繰りに苦しんでいるため,たばこ会社からの金であっても受け入れるのです。最近,ニューヨーク市のある芸術団体のメンバーは厄介なジレンマに陥りました。というのは,このたばこ会社からたばこ規制法に反対するロビー活動を支援してほしいとの要請を受けたからです。

      また,もちろん,大たばこ会社は富に飽かせて臆面もなく政治家たちに金をばらまいています。それら政治家たちは自分の影響力を生かして,たばこ業界にとって不利な法案に反対することができるからです。政府の高官たちも,たばこ会社の主義主張を擁護してきました。中には,たばこ産業と財政面でつながりを持っている人や,選挙運動の際に,たばこ会社から資金面で相当支援を受けたため,借りを返さなければならないと感じている人もいます。

      ある米国下院議員はたばこ会社から2万1,000㌦(約210万円)以上の金を受け取り,その後たばこ規制問題では反対票を投じるようになった,と報じられています。

      米国上院議員を務めたことがあり,ヘビースモーカーで,多額の報酬を受けてたばこのロビー活動を行なっていたある男性は,最近になって咽喉と肺と肝臓がガンに冒されていることを知りました。今では痛恨の思いで,「こうして病床に伏しているのも身から出たさびだ」とはばかげた話だと嘆いています。

      大たばこ会社は広告に大金を費やし,金で買える限りの力をすべて使って,反対派に対する猛攻撃を行なっています。ある広告では,自由の旗を振りかざし,もったいぶってこう警告します。「今日はたばこ。明日は……?」 この広告は,この次に彼らの言う狂信的禁止論者たちの槍玉に上げられるのはカフェインやアルコールやハンバーガーだ,と暗に言っているのです。

      新聞広告は,広く引用されている米国環境保護庁の研究論文の信用を落とそうとしてきました。この論文は,間接喫煙をも発ガン原因の範ちゅうに入れています。たばこ産業は,法廷で争うつもりであると発表しました。あるテレビ番組は,依存症をいっそう引き起こしやすくするためにニコチンの量を操作しているとしてある会社を非難しました。その番組を放映した放送局は,即刻,100億㌦(約1兆円)の賠償を求める訴訟を起こされました。

      たばこ会社は懸命に闘ってきましたが,非難を浴びるばかりで旗色はますます悪くなっています。過去40年間に行なわれてきた約5万件の研究の結果,たばこの使用の危険に関する証拠は山をなし,増える一方なのです。

      たばこ会社は浴びせられる非難をどのようにかわそうとしてきたでしょうか。彼らは,一つの事実と思われる事柄に固執してきました。すなわち,現にたばこをやめる人もいるという点です。それで,ニコチンは依存症を引き起こさないと言うのです。しかし,統計はその逆の事実を示しています。確かに,4,000万人の米国人がたばこをやめました。しかし,ほかの5,000万人は喫煙を続けており,このうちの70%はやめたいと述べています。年に1,700万人が禁煙を試みますが,そのうちの90%は1年もたたずに挫折します。

      米国の喫煙者で肺ガンの手術を受けた人のほぼ50%は,喫煙の習慣に逆戻りします。心臓発作を起こした喫煙者の38%は,退院もしないうちからたばこを吸い始めます。喉頭部のガンを切除した喫煙者の40%は,またたばこを吸おうとするでしょう。

      米国の数知れない十代の喫煙者の4分の3は,少なくとも一度は真剣にたばこをやめようとしたが失敗した,と述べています。また統計によると,たばこは多くの若者にとってより強い麻薬への踏み石ともなっています。たばこを吸う青少年がコカインを使用する確率は,吸わない若者たちに比べて50倍余り高くなっています。たばこを吸う13歳の少女はそのことを認め,こう書いています。「私には,たばこは麻薬への誘因となる薬物だと思えてなりません。……私の知っているほとんどの人は,3人の人は別として,たばこを吸い始めてから麻薬を使うようになりました」。

      タールの含有量が少ないたばこはどうでしょうか。研究によると,そういうたばこは実際には次の二つの理由で一層危険かもしれません。第一に,それを吸う人は多くの場合,自分の体が渇望する量のニコチンを得るために煙を一層深く吸い込むので,肺のより多くの組織がたばこの有毒な影響にさらされます。第二に,“比較的安全な”たばこを吸っているのだと誤解して,完全にやめようとはしなくなるかもしれません。

      ニコチンに関してだけでも2,000を上回る研究が行なわれてきました。そうした研究は,ニコチンが既知の物質の中で依存症を最も引き起こしやすく,最も有害なものの一つであることを明らかにしています。ニコチンは心拍数を高め,血管を収縮させます。7秒で血流中に吸収されるので,血管に直接注射するよりも速いくらいです。脳はニコチンのとりこになります。欲しくてたまらなくなる気持ちはヘロインの倍も強いと言う人もいます。

      たばこ会社は否定してはいても,ニコチンが依存症を引き起こすことを知っているのでしょうか。ずっと前から知っていた形跡があります。これはその一例ですが,1983年のある報告によると,あるたばこ会社の一研究者は実験中のネズミが典型的な依存症状を示し,レバーを押しては定期的にニコチンを摂取していることに気づきました。その調査結果はたばこ産業によって直ちに隠ぺいされ,最近になってやっと明るみに出たと報じられています。

      大たばこ会社はあらゆる方面からの一斉砲火を浴びるまま手をこまぬいていたわけではありません。ニューヨーク市のたばこ調査審議会は,ウォールストリート・ジャーナル紙の言う「米国のビジネス史上で最も長期にわたる誤報キャンペーン」を指揮しています。

      独自に調査を行なうという旗じるしのもとに,この審議会は論敵との闘いに何百万ドルも投資してきました。このすべては,1953年,スローン・ケッターリング記念ガンセンターのエルンスト・ウィンダー博士が,ネズミの背中にたばこのタールを塗って腫瘍の生じることを発見した時に始まりました。たばこ産業はこの審議会を設けて,独自の調査で得る科学的証拠で対抗することにより,たばこ製品に不利な,増大する明白な証拠を相殺しようとしたのです。

      それにしても,審議会の科学者たちはどうして他の研究団体の調査結果と全く違った結果を出せるのでしょうか。最近公開された書類は,手の込んだ陰謀が張り巡らされていたことを明らかにしています。審議会の研究者たちの多くは,契約書に縛られ,目ざとい弁護士団の監視のもとにありましたが,健康に対する懸念の高まりには十分な根拠があることに気づきました。しかし,ウォールストリート・ジャーナル紙によれば,審議会は事実に直面すると,「喫煙が健康に有害であることを示す自分たちの研究結果を無視する場合があり,時には研究を打ち切る場合さえあった」のです。

      秘密のうちに,より安全なたばこを作る研究が幾年も続けられました。その研究を表立って行なうなら,喫煙が確かに健康に有害であることを暗黙のうちに認めていることになるからです。1970年代も終わりに近づいたころ,あるたばこ会社の首席弁護士は,“安全な”たばこを作る試みは無駄だから打ち切るよう,またすべての関係書類をしまい込むよう勧めました。

      長年にわたって行なわれた実験の結果,二つのことが明らかになりました。ニコチンは確かに依存症を引き起こし,喫煙は人の命を縮めるということです。たばこ会社は表向きはこれらの事実を絶対に認めようとはしませんが,その行動を見ると事実を知りすぎるほど知っていることが分かります。

      米国食品医薬品局(FDA)のデービッド・ケスラー局長は,故意の操作が行なわれていると非難し,「実際,今日のたばこのあるものは,ハイテク・ニコチン配達システムと言えるかもしれない。つまり,ニコチンを厳密に計算された,……人を依存症にさせ,かつその状態を持続させるのに十分な量だけ配達するのである」と述べました。

      ケスラーが明らかにしたところによると,たばこ会社は数多くの特許を持っており,それらは彼らの意図がどこにあるかを証明しています。その一つは,遺伝子操作により既知の種の中でニコチン含有量最高のタバコを作るというものです。もう一つの工程は,効き目を強くするためにフィルターと巻き紙をニコチンで処理するものです。さらに,吸う人が最後の何服かよりも最初の何服かで多くのニコチンを取り入れるようなたばこにする製法もあります。そのうえ,たばこ産業の書類によると,たばこにはより多くのニコチンを引き出せるようアンモニア化合物が加えられています。「吸い込まれる通常の量の2倍近くが喫煙者の血流に入った」と,ニューヨーク・タイムズ紙は報じています。FDAはニコチンを依存症を引き起こす薬物と宣言し,たばこに対する規制強化をねらっています。

      各国政府も,また違った意味でたばこに依存しています。例えば,米国政府はたばこ製品に対する州税および国税という形で年間120億㌦(約1兆2,000億円)を徴収しています。とはいえ,連邦政府の技術評価局は,医療費と生産性低下から試算して,喫煙に年間680億㌦(約6兆8,000億円)という値札を付けています。

      経済上の見返りや多くの働き口をもたらすという主張,芸術に対する助成,健康上の危険を絶対に認めないこと ― 確かに,たばこ産業は自衛策として変わった形の気球を揚げてきました。それらがロンドンの上空に揚げられた防御用気球よりも効果的かどうかは,後になってみないと分かりません。

      しかし,それらの大会社がもはや本性を隠せないことは明らかです。彼らはすでに莫大な利益を上げ,無数の命を奪ってきましたが,結果としておびただしい人命が犠牲になっているということには一向にお構いなしの様子です。

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      その気球は嘘で膨らんでいるようだ

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      政府の論文は間接喫煙が発ガン原因になることを示している

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      ニコチンは既知の物質の中で最も依存症を引き起こしやすい

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      彼らはすでに莫大な利益を上げ,無数の命を奪ってきた

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      5万件の調査 ― 何が分かったか

      以下は,たばこの使用に関連して研究者たちが挙げている健康上の問題の抜粋です。

      肺ガン: 肺ガンによる死者の87%は喫煙者です。

      心臓病: 喫煙者は心臓血管の病気にかかる危険性が70%高くなります。

      乳ガン: 1日に40本以上のたばこを吸う女性は,乳ガンで死ぬ確率が74%高くなります。

      聴覚障害: たばこを吸う母親を持つ乳幼児は,音を聞き分けるのがより困難になります。

      糖尿病に起因する危険: たばこを吸ったり,噛みたばこを噛んだりする糖尿病患者は,腎臓を悪くする危険性が高く,網膜症(網膜の障害)の進行が速くなります。

      結腸ガン: 15万余りの人々を対象とした二つの調査によると,喫煙と結腸ガンとの間には明らかな関連があります。

      ぜん息: 副流煙は子供のぜん息を悪化させる場合があります。

      喫煙者になる素地: 妊娠中にたばこを吸っていた女性の娘は,喫煙者になる確率が4倍になります。

      白血病: 喫煙は骨髄性白血病を引き起こすようです。

      運動中のけが: 米国陸軍の調査によると,喫煙者は演習中にけがをする確率が高くなります。

      記憶: 複雑な作業をしている時に多量のニコチンを摂取すると,頭の冴えが著しく損なわれる場合があります。

      うつ病: 精神科医は喫煙と重症うつ病や精神分裂病との関連性を示す証拠を調べています。

      自殺: 看護婦に関する研究によると,たばこを吸う看護婦の間での自殺率は2倍になります。

      このリストに加えるべき他の危険: 口腔ガン,喉頭ガン,咽喉ガン,食道ガン,膵臓ガン,胃ガン,小腸ガン,膀胱ガン,腎臓ガン,子宮頸ガン,脳卒中,心臓発作,肺の慢性疾患,循環器系統の病気,消化性潰瘍,糖尿病,不妊,産児の体重が少ないこと,骨粗鬆症,耳の感染症。火事になる危険も加えることができるかもしれません。家やホテルや病院の火事の主な原因はたばこだからです。

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      無煙たばこ ― 危険な代用品

      11億㌦(約1,100億円)の嗅ぎたばこ産業のトップを行くたばこ会社は,香味を付けた餌を使って子供たちを抜け目なくたぐり寄せています。この会社は,人気のある香味を付けた銘柄を出しています。それらがもたらす“たばこを吸った時のような感覚”は人を満足させますが,長続きしません。このたばこ会社の元副会長は,「多くの人は香味の効いたたばこから始めるかもしれないが,結局は[最もニコチン量の多い銘柄]に行き着く」と述べました。この嗅ぎたばこは,「強い男の強い噛みたばこ」,「満足させてくれる」と宣伝されています。

      ウォールストリート・ジャーナル紙はこの会社の戦略を報じ,「ニコチンの量に手を加えている」ことを否定する同社の言葉を引き合いに出しました。同紙はさらに,以前にこの会社の化学者だった二人の人物が,初めてこの問題に触れ,「会社はニコチンの量を操作しているわけではないが,使用者の吸い込むニコチンの量は確かに操作している」と言ったと述べました。この二人によると,この会社は自社の嗅ぎたばこのアルカリ度を増強するために幾つかの化学物質を添加しています。嗅ぎたばこはアルカリ度が高くなればなるほど,「多くのニコチンを放出する」のです。同紙は嗅ぎたばこと噛みたばこに関し,さらに次のような説明を加えています。「嗅ぎたばこは噛みたばこと混同されることがあるが,嗅ぎたばこは細かく刻んだたばこであり,使用者はそれをしゃぶるが噛みはしない。使用者は一つまみ,あるいは一“すくい”をほおと歯肉の間に含んで舌で転がし,時々吐き出す」。

      香味を付けた銘柄は初心者向きに作られたものであり,放出されて血流に吸収されるニコチンの量は7%ないし22%にすぎません。最もニコチン量の多い銘柄を使い始めた人は吐き気を催すことがあります。このたばこは“真の”男のために細かく刻んだ形のものになっています。そのニコチンの79%が“放出され”,血流中に即座に吸収されます。米国では,使用者は平均9歳でディッピング(かぎたばこ)を始めます。ニコチンがより多く含まれている銘柄に進んで“真の”男の一人になろうという気を起こさない9歳の子供がいるでしょうか。

      結果として服用することになるニコチンは,実際にはたばこを吸うときのニコチンよりも強力です。使用者は非使用者に比べて,口腔ガンになる率が4倍で,咽喉ガンになる危険性は50倍も高くなる,と報じられています。

      米国では,ハイスクールの陸上競技の花形選手が口腔ガンで死に,その母親がたばこ会社を相手取って訴訟を起こした時,一時的に世間の激しい抗議の声が高まりました。この若者は12歳の時にロデオで嗅ぎたばこを1缶無料でもらったばかりに,1週間に4缶を使用するようになりました。彼は痛みを伴う手術を何度も受け,舌やあごや首を切り刻まれた挙げ句に,医師に見放され,19歳で亡くなりました。

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      どうしたらやめられるか

      ニコチン依存症を断ち切るのに成功した人は非常に大勢います。あなたがもし喫煙者なら,長年たばこを吸ってこられたとしても,この有害な習慣から脱却することは可能です。役立つかもしれない提案を幾つか紹介しましょう。

      • どんなことが起きるかをあらかじめ知っておきましょう。禁断症状には,不安,いらいら,めまい,頭痛,不眠,胃痛,空腹感,たばこが吸いたくてたまらなくなる,集中力の低下,震えなどがあります。確かに先が思いやられますが,症状が最もひどいのは数日間だけで,体からニコチンがなくなるにつれて,症状は徐々に消えます。

      • 次に,精神的な葛藤が本格的になってきます。体がニコチンを欲しがるだけでなく,思いも喫煙に関係した行動によって条件反射を起こすようになっています。日課を分析して,どういう時に何気なくたばこに手を伸ばしていたかを調べ,そのパターンを変えましょう。例えば,いつも食事のすぐ後にたばこを吸っていたのであれば,思い切ってすぐに席を立ち,散歩や皿洗いをします。

      • ストレスを感じた時などに,たばこを吸いたいという強い欲求にかられる場合,そうした衝動は普通,5分もせずに収まる,ということを思い出してください。すぐに手紙を書くとか,運動をするとか,健康的な軽食を食べるとかして,そのことだけを考えるようにしましょう。祈りは自制するための強力な助けとなります。

      • 禁煙に失敗してがっかりしておられるなら,気を取り直してください。大切なのは努力しつづけることです。

      • 太るのが怖くてやめられない場合は,たばこをやめることには数キロ太った場合の危険をはるかにしのぐ益があることを覚えておきましょう。果物や野菜を手近なところに置いておくとよいかもしれません。また,水をたくさん飲みましょう。

      • たばこをやめることと控えることとは別問題です。1日,1週間,3か月,そして永遠というように,禁煙する時間的な目標を定めましょう。

      イエスは,「あなたは隣人を自分自身のように愛さねばならない」と言われました。(マルコ 12:31)隣人を愛するために,禁煙しましょう。自分自身を愛するためにも,禁煙しましょう。―「目ざめよ!」誌,1989年7月8日号,13-15ページの,「喫煙 ― クリスチャンの見方」もご覧ください。

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