研究記事 37
35番の歌 神の辛抱に対する感謝
不公正な世の中で私たちにできること
「神は公正さを期待したが,不公正が見られた」。イザヤ 5:7
ポイント
不公正を目の当たりにした時どうしたらいいか,イエスの手本から学べます。
1-2. 多くの人は社会の不公正を見てどう反応しますか。どんな疑問が湧いてくるかもしれませんか。
世の中には不正や不公正がはびこっています。経済状態,性別,民族,人種など,いろいろな理由で差別されている人たちがたくさんいます。ビジネスや政治の世界の有力者たちが欲深くて腐敗しているせいで,苦しい生活を強いられている人たちもいます。そういう不公正な社会で生きている私たちはみんな,何らかの形で影響を受けています。
2 そのために怒りを感じるとしても,無理はありません。私たちはみんな,誰もが公平に扱われ,安心して暮らせる世界を望んでいます。そういう気持ちから社会運動に加わる人もいます。例えば,署名活動や抗議運動に参加したり,不正を正すとうたう政治家を支援したりします。でも,私たちクリスチャンは「世の人々のようでは」ありません。(ヨハ 17:16)世界の不公正を完全に終わらせる神の王国に希望を託しています。そうはいっても,誰かが不当な扱いを受けるのを目の当たりにすると,心穏やかではいられなくなり,怒りを感じるかもしれません。「そんな時どうしたらいいんだろうか。今,自分にできることが何かあるだろうか」と思うかもしれません。その答えを探っていきましょう。まず,エホバとイエスが不公正をどう見ているかを考えます。
エホバとイエスは不公正を嫌っている
3. 私たちが世の中の不公正に心を痛めるのがもっともなのはどうしてですか。(イザヤ 5:7)
3 聖書によると,私たちが不公正に心を痛めるのにはもっともな理由があります。エホバは「正しさと公正を愛する」方で,私たちはそのエホバに似た者として造られています。(詩 33:5。創 1:26)エホバは絶対に不正なことをしませんし,私たちにもそんなことをしてほしくないと思っています。(申 32:3,4。ミカ 6:8。ゼカ 7:9)預言者イザヤの時代にエホバは,仲間のイスラエル人からひどい扱いを受けていた人たちの「苦悩の叫び」を聞きました。(イザヤ 5:7を読む。)でも,聞いていただけではありません。エホバは,律法を繰り返し破り,仲間に理不尽な仕打ちをしていた人たちを処罰しました。(イザ 5:5,13)
4. イエスは,宗教指導者たちの弱い人への接し方を見てどう感じましたか。(挿絵も参照。)
4 エホバと同じように,イエスも公正を愛し,不公正を嫌っています。ある時イエスは片手がまひした男性に会い,ぜひ治してあげたいと思いました。でも,心が冷たい宗教指導者たちはイエスとは全く違いました。かわいそうなその人を助けることではなく,安息日の律法を事細かに守ることだけを考えていました。イエスはそういう人たちを見てどう思ったでしょうか。「人々の心が無感覚なのを深く悲し」みました。(マル 3:1-6)
イエスは苦しんでいる人を思いやったが,ユダヤ人の宗教指導者たちは違った。(4節を参照。)
5. 不公正を見て怒りを感じる時,どんなことを忘れてはいけませんか。
5 エホバとイエスが不公正を見て怒りを感じるのであれば,私たちが怒りを感じるのも無理のないことです。(エフェ 4:26)だからといって,怒りのままに何かをしても,不公正を正せるわけではありません。いつまでも怒っていたり,怒りを抑えないでいたりすると心身共にダメージを受けます。(詩 37:1,8。ヤコ 1:20)では,不公正を目にする時何ができるか,イエスの手本から学びましょう。
不公正を目の当たりにした時,イエスはどうしたか
6. イエスはどんな不公正を目にしましたか。(挿絵も参照。)
6 イエスは地球にいた時,ひどい不公正を目の当たりにしました。宗教指導者たちが一般の人を苦しめている様子を見ました。(マタ 23:2-4)ローマの支配者たちが人々を抑圧していることも見ていました。多くのユダヤ人がローマからの独立を望んでいて,熱心党のように武力行使でそれを実現させようとする人たちもいました。でもイエスは,世の中を良くしようとして社会運動を始めたり支持したりはしませんでした。みんなが自分を王にしようとしていることを知った時はその場を離れました。(ヨハ 6:15)
イエスは政治運動に関わらせようとする人たちとは距離を置いた。(6節を参照。)
7-8. イエスが地球にいた時に不公正をなくそうとしなかったのはどうしてですか。(ヨハネ 18:36)
7 イエスは不公正をなくすために政治運動に関わったりはしませんでした。どうしてでしょうか。人間には自分たちを治める権利も能力もないことを知っていました。(詩 146:3。エレ 10:23)不公正の根本原因をなくすことは人間にはできないことも分かっていました。この世界は,残酷で不正をあおるサタンに支配されているからです。(ヨハ 8:44。エフェ 2:2)どんなに志の高い人でも完璧ではないので,いつも公正で正しいことができるわけではありません。(伝 7:20)
8 イエスは,不公正の根本原因をなくせるのは神の王国だけだと知っていました。それで,「神の王国の良い知らせを広め」ることに打ち込みました。(ルカ 8:1)腐敗と不公正がなくなる時が来ることを「正しいことを切望している人たち」に知らせました。(マタ 5:6。ルカ 18:7,8)そういう世の中は,社会運動ではなく天にある神の王国の統治によって実現します。そしてその神の王国は「この世界のものではありません」。(ヨハネ 18:36を読む。)
不公正を目の当たりにする時,イエスに倣う
9. 世の中の不公正を正せるのが神の王国だけだといえるのはどうしてですか。
9 今はイエスが地球にいた時よりも,世の中に不正や不平等がはびこっています。「終わりの時代」の今も,その原因は当時と変わっていません。サタンが世界を支配していて,サタンの影響を受けている人たちが力を振るっているからです。(テモ二 3:1-5,13。啓 12:12)イエスと同じように,私たちも不公正の根本原因をなくせるのは神の王国だけだと分かっています。神の王国だけを支持しているので,抗議運動やデモに参加して世の中の不公正と闘おうとしたりはしません。ステーシー姉妹はエホバの証人になる前,よくデモ活動に参加していました。a でも,自分のしていることに疑問を感じるようになりました。こう言っています。「抗議活動に参加している時,自分は本当に正しい側に付いているんだろうかと思うことがありました。でも,今は神の王国を支持しているので,正しいことをしていると胸を張って言えます。私が声を上げたところで世の中が変わるわけではありません。でもエホバなら,ひどい目に遭っている人をみんな救えるんです」。(詩 72:1,4)
10. マタイ 5章43-48節のイエスの言葉からすると,私たちが抗議活動に参加しないのはどうしてですか。(写真も参照。)
10 社会改革運動に参加する人たちは,怒りや反抗心に突き動かされている場合が少なくありません。ジェフリー兄弟はこう言っています。「穏やかそうに見える抗議活動でも,あっという間に暴動や略奪行為に発展することがあります」。イエスはそういう態度を避けるようにと教えましたし,その教えの通りに生きました。(エフェ 4:31)イエスは,全ての人を愛するように,自分と意見が違う人や迫害してくる人のことも愛しなさいと教えました。(マタイ 5:43-48を読む。)私たちはベストを尽くしてイエスに倣いたいと思います。
政治や社会問題に関して中立でいるには固い決意が要る。(10節を参照。)
11. 世の中を良くしようとする活動に関わりたくなるどんな場面がありますか。
11 神の王国が不公正をなくすと頭では分かっていても,いざ自分が不当な扱いを受けると,イエスのようにはできないと感じるかもしれません。差別を受けたジャニア姉妹がそうでした。こう言っています。「すごく頭にきました。とても傷ついて,こういう不正は正されるべきだと感じました。それで,人種差別に抗議する活動に参加してみようかと思いました。少しは気持ちが収まると思ったんです」。でも姉妹はわれに返りました。「周りの人たちの影響を受けていたことに気付きました。エホバに頼るのではなく,人間の力でなんとかできると思うようになっていたんです。それで,抗議運動に参加している人たちと関わるのを一切やめました」。怒りを感じて当然と思えるような時も,政治や社会問題に関して中立の立場がぐらつかないようにしましょう。(ヨハ 15:19)
12. 取り入れる情報に注意が必要なのはどうしてですか。
12 では,怒りをコントロールするために何ができるでしょうか。読むもの,聞くもの,見るものに注意することです。SNSには,世の中の不正や不平等をセンセーショナルに取り上げている投稿や,行動を起こすよう呼び掛ける投稿があふれています。ニュースでも偏った情報が報道されることがよくあります。たとえ正しい情報でも,そういうものをしょっちゅう見ていると,どうなってしまうでしょうか。いらいらや不満が募っていくだけです。(格 24:10)そして,神の王国が不公正を完全になくすという希望がかすんでしまうかもしれません。
13. 世の中の不公正に心を乱されないために,聖書を毎日読むことはどのように役立ちますか。
13 聖書を毎日読んで,じっくり考えることも大切です。アリア姉妹は周りの人たちが理不尽な扱いを受けるのを見て,いら立ちを感じていました。そういうひどい行為が黙認されているように見えました。姉妹はこう言っています。「立ち止まってこう考えました。『こういう問題をエホバが解決してくれることを,私は本当に信じているんだろうか』。そんな時,ヨブ 34章22-29節を読んで,誰もエホバの目からは逃れられないということを思い出しました。エホバだけが完璧な正義感を持っていて,問題を完全に正せるんです」。では,神の王国が公正な世界を実現させる時まで,私たちには何ができるでしょうか。
今できること
14. 世の中の不公正な風潮に流されないために,どんなことができますか。(コロサイ 3:10,11)
14 人の行動はコントロールできなくても,自分の行動はコントロールできます。すでに学んだように,イエスに倣って全ての人を愛することが大切です。そのような愛があれば,どんな人にも敬意を込めて接したいと思えるようになります。理不尽な態度を取る人にもです。(マタ 7:12。ロマ 12:17)私たちがみんなに公平で親切な接し方をするのを見て,エホバは喜んでくれます。(コロサイ 3:10,11を読む。)
15. 私たちが伝える聖書の真理にはどんな力がありますか。
15 今私たちにできる一番のことは,聖書の真理を伝えることです。どうしてでしょうか。「エホバについての知識」は,攻撃的で乱暴な人を親切で穏やかな人に変える力があるからです。(イザ 11:6,7,9)ジェマル兄弟は聖書を学ぶ前,抑圧的な政治体制と闘うグループに入っていました。こう言っています。「力ずくで人を変えることはできません。私の場合もそうでした。私が変われたのは聖書の真理のおかげです」。ジェマルは学んだことに心を動かされて,闘うのをやめました。聖書の真理で生き方を変える人が増えれば,不公平や不平等をあおる人が減ることになります。
16. 神の王国についてぜひ知らせたいと思うのはどうしてですか。
16 私たちもイエスのように,神の王国だけが世の中の不公正を完璧に正せることを人に伝えたいと思っています。その希望は,理不尽な目に遭っている人たちにとって力になります。(エレ 29:11)先ほど出てきたステーシー姉妹はこう言っています。「聖書を学んでからは,不当な目に遭ったり世の中の不正を見たりしても,心が乱されることはなくなりました。エホバが教えてくれたことのおかげで,安心感を持てました」。不公正がなくなる時について,いつでも聖書から語れるようにしておきましょう。この記事で学んだ聖書の教えをしっかり確信していれば,学校や職場で不意にそういう話題になっても自信を持って語ることができます。b
17. 今でも私たちが前向きでいられるよう,エホバは何をしてくれていますか。
17 サタンが「この世の支配者」である限り,不公正はなくなりません。私たちは,サタンが「追い出され[る]」時を待たなければいけませんが,その間も前向きでいられます。(ヨハ 12:31)エホバは聖書を通して大切なことを教えています。世の中に不正が多いのはどうしてか,不正に苦しむ人たちを見てエホバはどう感じているかということです。(詩 34:17-19)また,イエスを通しても教えてくれています。不公正を目の当たりにした時にどうしたらいいか,神の王国がどのように不公正をなくすかということです。(ペテ二 3:13)それで,これからも王国の良い知らせを一生懸命伝えていきましょう。「公正と正義」が行き渡る社会を実現できるのは,神の王国だけだからです。(イザ 9:7)
158番の歌 「遅くなることはない!」
a 一部の名前は変えてあります。
b 「愛を込めて弟子を育てる」付録Aのポイント24-27も参照。